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084:赤い宝石

「よいしょー、もういっちょよいしょー」

破壊槌で突進する騎士達に観衆から掛け声があがる、この掛け声餅つきじゃない?とは思ったけどそもそも米がない。

数度の突進でもびくともしない施設に外野から感嘆の声が聞こえてくる。

「さすが常春さまだ」とか「ダイアナさま素敵」とか、しばらく突進してる騎士達を見てるとガレリアが近付いてきた。


「リュージ君、このままではまずいです。どれだけ硬く作ったのですか?」

「あ・・・そうですね、というか硬さについて自分は干渉していないのですが・・・」

サリアル教授はまだ寒い季節なのに冷や汗をかいていた。


「なんだ、騎士達もだらしがないな」と群衆の一角から聞こえてくる。

瞬時に殺気立つ騎士達に王子がデモンストレーションはここまでだと宥める、すると今度は冒険者ギルドから何名かが武器を構える。剣や槍、果てはハルバードまで持つ冒険者がいたが結果はダメだった。

するとギルド長と王子から同時にヘルツの名前が挙がった。


「はぁ、俺が出ても変わらないでしょう」と一般の騎士が持つ剣を抜こうとすると待ったがかかる。

「こんなこともあろうかと用意しといて良かったぜ、いいか本気でやれよ」そう言うとギルド長が二振りの短剣を渡した。

「生き残る為の技術をこんな大勢の前で見せるなんてな・・・」

こっそりヘルツに近付いて「出来るか分からないけど半分解除しましょうか?」と聞くと、「俺がやった後にでも試してみてくれ」とお願いをされた。少し大きく場所を取ってみんなに下がるように言うヘルツ。

軽く短剣捌きを見せた後、動きを止めると集中しているように見えた。


デモンストレーションでは短剣からは魔力の流れが見えた、魔法で作った物なら魔法+技量がある武器が有利だろう。

右手の短剣が一箇所を貫いたかと思うとレ点のように跳ね上げ、その先を左手の短剣が水平に薙ぐ。右手の短剣が左から右下に振り下ろすと1回転して、更に上部から右下に鋭角に振り下ろし最後に五角形になっている中央に左手に持った短剣をずぶりと埋め込んだ。

【四肢噴塵】と呟いたヘルツは、「ばっか、硬く作りすぎだ」亀裂が入った施設に向けて小さく愚痴をこぼす。

すかさず王子が片手を挙げると破壊槌部隊が再度突進をかけ、こっそり施設に片手で触れクラックの魔法で皹を広げる。

パリーンと淡い光の結晶が降り注ぐようにゆっくり落ちていくと、地面に触れるかどうかの地点で霧散していった。

騎士とギルドの参加者はほっと一段落し、群衆からは拍手が聞こえてきた。


「お見事でした、ヘルツさん」

「はぁ、何で手の内を見せないといけないのかね?あんな技ずっと動かずに突っ立っている相手じゃないと使えないぞ」

「凄い技だと思いましたけど・・・」

「あぁ、勿論決まれば四肢から血が溢れ出て致命傷になるな。でも人型モンスターでないと通じないし、そもそも騎士で短剣持つ奴は馬鹿にされるな」

「強ければ良いと思いますけどね」

「そこが騎士さまの強みであり弱みでもあるんだな」


ゆっくり王子が歩いてきてヘルツに労いの言葉をかけると、ガレリアとダイアナにお礼の言葉を言う。

準備が出来ているので明日の予定の最終確認を王子にすると、若干照れが入ったように一言「頼む」とだけ呟いた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


1月に婚約発表があり学園の授業が始まった頃、基礎薬科グループと品種改良グループを交えてトマトパーティーを行う為全て収穫した。トマトの一部は生で齧り付き、ミートソースのパスタを大量に作り大量に消費した。

そんなイベントが終わると通常の学園生活をしばらくおくる事になる。

するとガレリアを介してラザーが相談をしたい事があると言ってきた、これはあくまでお願いであり強制力もなければ断ってくれても構わないと言っていた。

日時を決めガレリアと王宮へ行くと待っていたのは王子だった、ガレリアとラザーが席をはずすとお願いの内容が明らかにされる。


「忙しい所呼び立ててすまない。これは個人的なお願いなので断っても構わないので、とりあえず聞いて欲しい」

「はい、緊急の用事ですか?」

「いや、急ぎではない。ただ、最終日が限られているのは確かだ」

「はい」

「実はな・・・、公爵家のセレーネと婚約を発表したのだが公務が忙しくて逢えないのだ」

「え・・・あ、はい」

「気軽に連れ出せる相手ではないし、私が動くのは何かと目立つ」

「この国の王族ですから、それは仕方がないと思います」

「婚姻も公務も王族としての務めなのだ」

「はい、それで私は何をすれば良いでしょうか?」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


2月のとある日曜日にレンに来客があった。その日は比較的暖かく、寮の庭でお茶を飲むレンとゲスト。

「急に来てしまってごめんなさい、風の噂であなたが王家の皆様と親しくしてると聞いたので」

「それは誤解ですわセレーネさま。学園の特待生のリュージがたまたま王家の依頼を受けて解決したのが始まりで、私達は特待生として同列に扱って貰えただけです」

「あら、謙遜しなくていいのよ。ここに来たのはどんな細い縁でも縋りたかったからなの」


セレーネとレンは比較的年齢も近いこともあり、レンが絞っている数少ない社交の場でお互い自然と会う回数が多かった。

レンは権謀術数うずまく社交の場で、卑屈な態度を取ったり自慢が過ぎたり男性不振になるのではないかという思いを度々していた。そんな中、話しかけてくれたのがセレーネだった。

セレーネは女性が男性のハートを射止める為、忙しなく動く姿を悠然と見ていたが何かが違うと常々思っていた。

公爵家ともなるとはしたない真似も出来なく、求婚されるとしてもかなりの上位の家が当たり前だったからだ。


年頃の女性二人が集まればやはり恋の話が出るだろう、ところがこの二人が話した内容は領地の経営についてだった。

王国を支える貴族家に生まれ、もし当主になったとしたら一挙手一投足が領民の生活に直結する。

レンは「最先端の学問を学び、領民が飢えないようにするにはどうしたらいいか?」を真剣に語っていたと、懐かしい話をするように言った本人に返した。


「何か使命感というか焦りが取れたわね」

「ええ、兄が元気になったので。このまま頑張ってくれればいいのですが・・・」

「それは良かったわね、私達は使命が多いから」

「これは申し訳ございません。ご婚約おめでとうございます」

「ありがとう、でも気持ちは複雑なのよね」


セレーネによると王子の『実績を積み重ねるまで結婚しない宣言』で各候補は別の結婚候補を探していた。

公爵家も年齢的に近くても結婚する時期に適齢期に当てはまる方を押し込む予定で、セレーネの妹が王子の相手になるのではないかと考えていた。

多くの女性が憧れたように王子への想いはある。ただ一旦諦めて妹と結婚すると考えられた相手が、再び自分の相手になるのは正直複雑だった。

「公爵家としては問題なく、政略結婚としても申し分ないわ。ただ、ローランドさまの真意が知りたい。もしそこに愛がないなら心に秘めたまま王家に嫁ぐ覚悟をしたいのです」

「そんなセレーネさま、社交界でも仲良く話されている姿は羨望の的でしたわ」

「ねえ、お願いできないかしら?二人っきりで話せる機会を・・・」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


日曜の早朝にザクスとレンと一緒に学園に行くと学園長が出迎えてくれた。

学園長からは新生徒歓迎用に何か考えて欲しいとお願いされていた。

王子とセレーネにはそれぞれ個別に連絡をして、ようやく今日お互いの時間が取れることになったのだ。

今にも雨が降りそうな雲に成功を祈らずにはいられない、少しすると先に王子がやってきた。


王子を先に温室に案内すると、どういう物かを説明し数少ない機会なので頑張ってくださいと応援する。

次の馬車がやってくるとレンが案内し、セレーネは温室までやってきた。

レンと一緒に退出を告げると温室の扉を閉めた。


「セレーネ、今日は急に呼んでしまって済まない」

「いいえ、ローランドさま。私こそ我侭を言ってしまったようで」

「私の妻になるんだ、ちょっとぐらいの我侭くらいどうってことないよ」

「本当に私でいいのですか?たまたま貴族家に生まれただけで・・・」

「それを言ったら私も一緒だよ、君と一緒に過ごしたいが為に王家が自ら禁じた事を破ったんだからね」

「まぁ、それは・・・」

「今日の事はみんなに内緒にしてくれないかな?」

「私への口止め料は高いですわ」


王子が少し屈むとセレーネが数歩近づき覗き込む、すると1組の真っ赤に熟れた大粒のイチゴがあった。

いちごを優しくつまみ上に引き上げると、ヘタを取りセレーネの口元へもっていく。

「今日の口止め料はこれに決めてあるんだ」緊張を気取られないように、差し出したいちごをセレーネが口にする。

「え・・・甘い」

「リュージに無理を言った甲斐があるよ。ここにあるいちごは好きなだけ食べていいんだよ」

「あら、私一人では食べ切れませんわ。ローランドさまもご一緒に如何ですか?」

セレーネも一個摘んで王子の口に差し出した、二人とも照れているようで自然と同じ微笑を浮かべる。

「私もレンにお願いしてよかったわ」

「ん?それは聞いていないぞ。リュージの奴、俺に秘密を作るとは・・・」

「良いではないですか、こうして素敵な場所でデート出来たのですから」

「セレーネ、世間は政略結婚だと言うだろう。でも、俺は好きでもない奴とは結婚しない。政治的に受けざるを得ない事も出るだろうが君を幸せにしたいと思う。俺についてきてくれないか?」

「はい、こんな私で良ければ」

「君じゃなければダメなんだ」


誰も見ていないのにイチゴに隠れるように二人の影が重なる、甘酸っぱさを感じながら一生忘れない密会となった。

出入り口で体育座りをして待つ自分とレンは、二人が出たのを確認するとその笑顔だけで話しかけることを止める。

雲の切れ目から二人を祝福するように光が差し込み、晴れやかな二人はとても満足しているようだった。




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