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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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082:雇用問題

報告と罠を張る計画の後は本来の目的に入る事にした。
外で待っていたルオンがレン達にお願いをして人数がわかりやすく列を作ってもらう。
冬越しの施設にいた者ばかりではなく、孤児院からも応募があったので受け入れる事にした。
遠くの方にレーディスおばあちゃんが座っていて、うとうとしながらネコをなでているように見える。

「リュージ君、まずは君から挨拶をお願いするよ」
「はい、みなさんこんにちは。今日は皆さんと一緒に働くことになるので、顔合わせをしたいと考えていました。何度か一緒に作業をして頂いた方もいらっしゃいますが農場と食品加工の職場として運営したいと思います」
「おう、リュージ頑張れよ」
「ヘルツさん、そこ茶々入れない」笑いが起きる。

管理体制の説明と仕事の分配、誰が何を管理するかそれぞれ挨拶をしていく。
外部要員として警備はセルヴィスが担当をする。セルヴィスが管理している人員はワインで染めた布をどこかに巻いているので、不審者や何かおかしな事があったら伝えて欲しい事を徹底してもらう。

ガレリアは資金を管理しているけど、商業ギルドに勤めている教え子がこことワインバーを管理する事が伝えられた。
今日は予定が合わないようなので後日正式に挨拶に来るらしい。
ルオンが人材面の雇用管理について担当すると挨拶をするとヘルツが割り込んできた。

「あー、ルオンさん悪いな」
「いえ、ヘルツさん。何か問題でもありましたか?」
「いやなぁ・・・。リュージ、お前この人数全員雇うつもりか?」
「いけませんか?」
「困ってる奴はいくらでもいるんだ、俺もこんなこと言いたかないんだけどなぁ・・・」
「ヘルツさん、何が言いたいんですか?皆さんには私が働く意思も確認してるし彼らは報われるべきです」

ルオンの覇気にみんなが様子を見ている、レイクと冒険者ギルドの男は何かをせっせと運んでいた。
「一人みつけた」ヴァイスがティーナに伝えると「私は二人かな?」と返事をする。
「まだまだ若いな」誰に対して言ったかわからないヘルツの発言に誰も動けないでいた。

「まあまあ怒りなさんなって、少し試験をしてみても良いんじゃないか」
並んでいた人々に少しざわめきが起きると、老若男女喜んでいる人もいればあからさまに愕然としている人もいた。
「この中から脱落者をどうしても出したいんですか?どうやって決めるつもりです?」
「そうさなぁ、運試しといこうか。ここは御ネコさまに決めて貰おう」
「「「「「にゃー」」」」」何時の間に並んでいた5匹の猫が返事をした。

8列×6人位並んでる、その間をジグザグに歩くネコ達。
急な展開に文句を言うのも忘れ、どうすれば合格か不合格か分からないまま皆が様子を伺っていた。
一人の男性の前に立つと「にゃー」と鳴く、くるぶし辺りに頬をすりすりし二本足で無理やり立とうとして右手がポンと腿に当たる。
「はい、男爵家で働いているワンス君アウトー」ヘルツの発言に「えっ」と皆の視線が集中する。

「なっ・・・そんなのデタラメだ、しかもネコなんかに決めさせやがって」
「ほう、ワンス君は男爵家で働いていないと」
「あ、ああ。最近クビになったんだ」
「その言葉に依存はありませんね」いつの間にかダイアナが合流したようで思わず口に出してしまったようだ。
「勿論だ、協会に楯突こうなんて考えてない」
「はい、ではワンス君にチャンスを上げよう。2つのギルドにより用意して頂いたカードを作る機械だ。今回はいちいちカードを作らないからブランクカードを使うがこの水晶に手をかざして宣誓してもらおう」
「ああ、いいぞ。何て言えばいい?」
「私ワンスはリュージが興したこの仕事場で職務に邁進する事を誓います、今まで罪を犯したこともなければリュージに危害を加える意図はありません。どうか採用をお願い致します・・・ってな」
「わ、わかった」

ワンスが手を翳すと宣誓の言葉を話し出す、「職務に邁進」と言うと水晶が淡く光る。
「罪を犯す」のところでは光が消え「危害を加える」で再び光りだす、「採用をお願いします」でも光ったままだった。
「何か言いたい事はあるかい?」ワンスは目をつぶり静かに首を振った。

「ここでみんなに言っておく、この宣誓拒否してもいいぞ。働く為にはきちんと事情を話してくれればリュージなら寛大な対応をしてくれると思う。あぁ後な、王子の婚約に対する恩赦で過去に起きた小さな罪はだいたい赦されるようになっているはずだ。詳しい内容で質問があれば聞いてくれ」
ネコパトロールは続いていて二人の男を確保した、ヘルツは楽しそうに「アウトー」って言っている。
列は順調に進み、一人の男性が「過去に罪を犯して償ったけど俺でもここで働けるか?」と個別に質問があった。
違う文言で宣誓してもらうと、この男性に一緒に頑張りましょうとこちらからお願いをした。

こっそり列を抜けて行く者もいたけど素直に見逃すことにした。
一人の女性が近くを通り過ぎる黒ネコをひょいっと救いあげると、優しくなでながら「あら、捕まってしまったわ」と歩み出た。
「お嬢ちゃん。俺は、女は捕まえない主義なんだがな」ヘルツが苦笑していた。
ルオンは自分の不甲斐なさを感じながらも、しっかりとヘルツの手腕をしっかり目に焼き付けていた。
「リュージはどう思う?」
「そんな試すような目で見ないでください、ヘルツさんがそう言うくらいだから事情が違う人なんでしょ?」
「かなわねぇな、嬢ちゃん名前を聞いてもいいかい?」
「ええ、いいわ。ナディアよ、グレイヴの孫娘のナディアと言えばわかるかしら?」
ヘルツはヒューと口笛を吹くとセルヴィスを呼んだ。

「おやっさん、少し事情が変わったみたいだ」
「なんだヘルツ、知り合いなのか?」
「いや、直接は知らないな。リュージ、この王国で何かしたいと思ったらまず根回しが必要だ」
「ええ、ガレリア先生を通してですが、やっているつもりです」
「ナディア、ちょっと待ってくれな。王国では王族や貴族の他に色々な団体があり、その中には顔役と言われる人達がいる」
「はい」
「地回りって言ったら語弊があるな、ナディア今のグレイヴ氏のお仕事は?」
「一応商会の相談役よ。余所の商会と【先代会】という集まりがあって、そこの会長も兼任しているわ」
「そんなお嬢さんが何故ここに?」
「勿論興味があったからよ、私は働けなくても仕方ないかなって思っている。どうしますか?リュージくん」
「リュージ遊ばれているな」
「ヘルツさん・・・」
「なあ、ヘルツよ。それがワシと何の関係があるんだ」
「おおそうだおやっさん、折角お嬢さんが来たんだからこれは挨拶に行くべきでしょう」
ナディアの件は一時保留で残った約40名は無事入社となった。

ルオンは改めて社員名簿を作り部屋を割り当てて行く、独身者には4人部屋の2段ベッドが2つある寝るだけの場所だ。
家族は一緒の部屋になるようにして荷物を置くと、食堂に集まりビジョンを説明した。
自然な味がまだ多い中で食品加工業は珍しい業種であり、人を雇って事業をやるのは初めてであることを正直に話した。
ガレリア基金が母体としてはあるが基本的には独立採算で行い、もし儲かるようだったら雇用を増やして行きたい事を宣言する。
全てはオープニングメンバーの頑張り次第で、いくらでも発展出来る可能性があるし儲かったら還元することも約束する。

「なあ、リュージ。事業とか雇用とか難しい事言ってもな。もっと気軽に一言で言えないものか?」
ザクスの言葉に忘れていた重要な事を相談する。
「そうだ、会社名を決めたいんだった。あとセルヴィスさんのワインバーも店名を決めないと」
「そうして貰えるとありがたいです、商業ギルドとしても登録がありますので」
「皆さん、良い名前があったら教えてください。明日また来ますのでそれぞれの担当まで提出してもらえると嬉しいです」

この事業場では農業部門・加工部門・保全部門・管理部門に分かれる事になった。
農業部門は自分が担当し、加工部門はザクスが手を上げてくれた。
管理部門は後でガレリアの教え子が来てくれて、保全部門は宿舎や料理洗濯などその他の担当をしルオンが全体の管理をしてくれるようだ。

後はガレリアとルオンにお願いして、ナディアの件を解決しようとヘルツとセルヴィスとナディアで挨拶に行くことにした。
「お爺様、会ってくれるかしら?」ショートカットの栗色の髪にネコを思わすような印象を受ける。
ずっと抱いていた黒ネコを外に出ると放してあげる、そういえば腕の中に納まっていたネコは身じろぎ一つしていなかった。

馬車が何台も並び怒号が聞こえる中、端っこを通り相談役がいつもいるであろう小屋に行こうとすると柄の悪い男が立ち塞がる。
「おう兄ちゃん方、ここに何のようだい?」
「私の名はセルヴィスだ、お嬢さんと知り合う機会があったので一度相談役さんに挨拶できればと思ってな」
自分とヘルツも名乗ると男は最後尾にいるナディアを見た。
「あら、私は後をついてきているだけなのでお爺様にお任せしますわ」

男は後ろにいる者に合図を送ると、「帰ぇんな、グレイヴさまは忙しいんだ」とシッシッと手を振られてしまう。
「これは俺を倒していけって事か?」
「ヘルツさん、何喧嘩売ってるんですか?」
「兄ちゃん、血の気が多いな。こっちはそんなのとうに引退してるんだよ」
「はぁやだねー。牙が抜けたどころか爪まで丸くなったか」
「っんだと、やるか?」叫ぶやいなや、殴りかかる男の拳を避けるとリバーブローを放つヘルツ。

静かなうめき声を上げ、腰を丸める男を見てると後ろの方から、「やめんか、相手の実力も分からずに殴りかかるなんてもっての他だ。やるなら確実に勝てるよう考えんか」と声がした。
「グレイヴさま、こんな奴油断さえしなければ・・・」
「ヘルツの名前にピンとこない時点で失敗だ、お前も知ってるだろう」
「・・・もしかして、ヘル・・・」
「それ以上言ったら顎が砕けると思いな」
「派手な登場だな、とりあえず茶でも飲むか?」

3人を置いてけぼりにして話が進んでいく、今日のヘルツのやる気は凄かった。


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