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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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080:ぷれいぼぉい

寮に戻り寮母へ帰宅の挨拶をすると泥のように眠った。
食事も大丈夫と伝え皆にそっとしておいて欲しいと伝言をお願いして、翌日起きたのは昼近くになってからだ。
料理長からスープを貰うと収納からふわふわパンを取り出して食べる事にする。

「調子はどうだリュージ」
「あ、おふぁよーごふぁいまふ」
「食ってからでいいぞ」
「んぐっ、おはようございます。今日の料理も美味しいです」
「ありがとな、今日は彼らが作ったんだ」

まもなくローラが入居するに当たって専用の侍女が入れないので、せめて調理場の修行という名目で2名の増員があったようだ。
ふと自分が食べているパンを料理長がじっと見つめる。
「ひとつ食べますか?ああ、彼らにも一個ずつ出しますね」
料理長は調理中の二人に一個ずつ渡すと一斉に一口食べる。

「はぁ・・・またやっちまったか」
「料理長、これは何ですか?」
「私こんなの食べたことがないです」
「いや、やっちまったって・・・。これパンですよ、自分が知っているパンはこっちの方が馴染みあるんですが」
「リュージ、お前はいいとこの坊ちゃんだったのか?俺も色々な所で修行したけど見たことも聞いた事もないぞ」
「今の言葉は忘れてください、とりあえずお土産で特産品を持ってきたので寮で使ってくださいね。パンの作り方はレシピを貰ったので後で渡します」
「分かったよ、二人とも覚えとけ。彼がリュージだ、びっくり箱みたいな男だからいちいち驚いたら身が持たねぇぞ。そのうち色々教えてくれるはずだから一回で覚えられるように日頃から研鑽を積んどくように」
「「はい、料理長」」

小分けにした少量の粉とレシピを料理長に渡すと早速作業に取り掛かっていた。
新しく入った男女の料理人にも寮で覚えた物は、完成品以外レシピや材料など外に出さないようにお願いをする。
「多分色々な所から問い合わせが来ると思いますので後で調理場を貸してください」
「おう、任せとけ。決まったら早めに教えてくれな」
ブランチ的な食事を終えると、まずはガレリア邸にて報告をすることにした。

「おつかれさまでした、リュージ君」
「いえいえ、元々様子を見たいとは思っていたので。思ったより王国が力を入れていて驚きました」
「これで一安心だね、態々学園を休ませてまで行って貰ってすまないね」
「サリアル教授にも報告してるので大丈夫ですよ、これも実習に含めてくれるようなので」
「そうか、それは良かった。編入したとは言え実質一年目だからね、学園生活も楽しんで欲しいんだよ」
「ありがとうございます、暇をしているよりこの過密スケジュールが何だか心地いいですね」
「働きすぎているところを悪いが、お互いに摺り合わせをしておくかい?」
「はい、お願いします」

まずは今進めている事業の建物は完成したようだ、商業ギルド立会いのもと確認作業をして引渡しを行えば完了だ。
中の設備も商業ギルドが一括で受注したので同じタイミングで確認が出来る。
間もなく冬越しの施設の解体に入るので近日中に引越しをするようだ。
詳しくは多分今日も現場にいるルオンに確認して欲しいとのこと。

ワインバーも建物と設備が出来たようだ、何処かで一度集まって実地訓練とプレオープンの打ち合わせを行いたいらしい。
商品開発部とはギルドで試作品を結構作ったし、新しい備品も発注するとすぐにギルドに届くようになっていた。
調理については問題ないので、後は接客とお金の管理について徹底したいようだ。

ローランド王子からの【秘匿依頼】についてはレンとザクスにお願いしてある。
これは間もなく公表出来るのでそれまではトップシークレット扱いになっている。
その他にはガレリアに夜会の招待が増え、頻繁にこの家に来る自分の素性が公然の秘密になっていた。
若干だけど自分へのお見合い依頼も来ているようだ。
ガレリアの「会ってみるかい?」の言葉に「別に・・・」と言ってしまったのは良くない返事だったと思う。

最後は雇用者についてだった。
冬越しの施設に来るような人は、故郷を追われた人も少なからず存在する。
一度ヴァイスから冒険者になる人について説明を受けたのだけど、この王国では大半の人が農民であり田舎に行くに従ってその傾向は顕著に現れている。

領地への税は勿論、様々な要因で大抵の農民は貧しい暮らしを送っている。
するとどういうことが起きるだろうか?働き手を増やす為に子供を沢山作る、すると子供の食費が回らなくて口減らしをする。
豊作の年と凶作の年により大きく働き手事情が変わってくるのだ。
都会へ出稼ぎに出られる土地はまだ良い、どうにもならない場合はその家に役に立たない者から出て行くようになるのだ。
場合により奉公という形や、一芸に秀でた場合養子という選択肢も出るが極わずかである。

領主にとって領民とは財産だ、協会は冠婚葬祭も司っていて村を出た領民に対して領主からの査察が入る。
すると大抵の農民は「用事で出掛けたとき事故にあって死にました」と報告するのだ。
葬式をするにも死体がなければ出来ない、そもそも死体などないのは誰もが理解している。
領主は王国への報告義務もあり、こっそり領民の分母を削るのだ。

「そうなると今いる人達は幽霊扱いになるね」
「ああそうだな、王都へ来ても身元もわからないような人雇うと思うか?」
「難しいだろうね」
「そこでだ、何かの手違いで失踪扱いになっていたので証明して欲しいと言ってくるんだよ」

結婚するのも子供をもつにしてもきちんとした王国民なら胸を張って言える。
また、不当な言いがかりもある程度跳ね除ける事が出来るそうだ。

ふと、そういえば自分の立ち位置についてガレリアに相談したところ、ローランド王子が身元保証人になっていて既に多額の金額と相殺し王国民として生活できる様に便宜を図ってくれたらしい。
身元保証には多額の支払いも必要なようで、それを差し引いた給料でも良いか確認したらほぼ全員納得してくれたようだ。
そして支払いの他にも最低1年以上、王国で仕事をした実績も必要になる。
これはこれからの皆の頑張りにかかっていた。こちらからはラース村での話と魔法の粉について説明をした。

それからガレリアと事業場を見に行くことにする。
現地に行くと何時もの場所にレーディスおばあちゃんが居たので挨拶を忘れない。
最初にこのおばあちゃんを見た時は少し不審に思ったものだ、何故かというとこの場所は寂れた所で民家も少なく人が寄り付かない場所だった。その分大きく土地も取れて開墾を使い大幅な造成に役立っていた。
何処かの貴族のスパイかなとも思ったけど、身長150cmくらいの腰が90度近くも曲がり杖をつく手が震えるようなおばあちゃんにスパイは出来ないだろうと一瞬で否定し話しかける事にしたのだ。

「おばあちゃん、どこから来たんですか?まだ寒いからお茶でも飲んで温まりませんか?」
「おやおや、かわいい子が来たようだね。こんなババをお茶に誘うなんて、もしかしてぷれいぼぉいと言う奴かい?」
「そんなつもりはないですが、お茶でもどうぞ」
水筒に入れたお茶を小さな湯飲みに入れて渡す、するとただでさえ開いているかどうか分からない目じりが更に下がった。
「おいしいよ、あなたはいい子だねぇ」
「おばあさん、お名前を聞いてもいいですか?」
「ババの名前を聞いてくれる人も少なくなってね。レーディスという名前を覚えてくれると嬉しいよ」
「自分はリュージと言います、ここで何をしてるんですか?」

レーディスおばあさんの膝の上にはいつの間にか黒ネコが乗っていた。
何でも暖かい日差しに誘われてネコの案内についていくと、ここに連れられてきたようだ。まだこの時は工事の真っ最中で、危なくない場所にいるならゆっくりしていってくださいとルオンの許可を得たらしい。
こそこそ嗅ぎ回るから嫌なだけであって正々堂々と見学したいと言う人にはきちんと許可を出しているし、工事関係者や徐々に手伝ってくれている冬越しの皆にも当たり前のようにこの場所は知られている。
おばあちゃんの周りには自然とネコが集まり、ひなたぼっこをしているように何時もうとうとしてる。
後で聞いた話だけど、このおばあちゃん結構な有名人で居る所を見れたらラッキーで、その後その店は繁盛するというジンクスというか噂があったそうだ。

念の為おばあちゃんが一人暮らしで困っているようならと聞いてみたけど問題はないようだった。
そんなレーディスおばあちゃんは今日もにこにこと建物の方を見ている。
今度ワインバーをやる事を話したら「ババを酔わせてどうするつもりかい?やはりぷれいぼぉいは困るね」とにっこりしていた。

軽い挨拶が終わると現地にいたルオンと打ち合わせを始める。
丁度レイクもいて建物を一通り案内して問題なければ引渡しも出来るそうだ。
レイクの案内でガレリアとルオンと自分が一通り確認をする、設備面のチェックは事前にザクスがやってくれたようでルオンにOKの報告を出しているようだ。全てを確認した後、正式にOKを出すとレイクは胸を撫で下ろしたようだ。

今日はみんな慌しかったようで食事も取ってないと言うので収納からパンを取り出す。
三人に分けると三人とも絶句していた、レイクにはラース村からのお土産ですと伝えると急いでギルドに戻ると言い出した。
「これは先手を打って王宮へ向かうべきか」ガレリアがため息をつくと、ルオンが明日にでも一度全員を集めて相談したいと言ってくる。ついでにワインバーの打ち合わせも一緒にしようと、明日の午後この建物の食堂に集まることになった。

色々な用事が立て込んでいるけど一つずつ処理をしたいと思う。
そう言えばレイクさん【秘匿依頼】の報告忘れてますよー・・・。

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