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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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066:パーティーの始まり

12月第3週土曜日、今日は普段の講義よりも早い時間に学園に行くことになっていた。
早くに朝食を取り寮の料理長と学食に直行すると、既にレイクさんコロニッドさん他、多くの関係者がつめていて準備に余念がなかった。サリアルも早朝準備組で忙しくしていて、納入業者が来たと連絡があったので自分とマイクロが受付に行く事にした。

「おう久しぶりだな、マイクロの坊主」
「お久しぶりですね、アーノルド男爵。相変わらずというか」
「お前も変わらんな。さあ、うちからの差し入れだ。どこに納入したらいいか教えてくれ」
どうやらこの馬車がヴァイスの言っていた元近衛騎士の先輩の家らしく、葡萄ジュースとワインを樽で持ってきたようだった。

当主自ら御者をしていて、隣に奥さんらしき人を乗せている。
顔立ちはなんと言うか古き良き時代にあった『ハリウッドの色男』と言えばいいのだろうか、金髪の細マッチョでワイン樽をマイクロさんと下ろす姿も堂に入っている。
下部を利用して大きくRを描いて移動させていく。マイクロも昔、息子さんとワインを盗み飲みした罰でよく手伝わされたそうだ。
この後、寮にも届けに行くようでワインとジュースのお礼を言うと「収穫時期やワイン祭にはこんなもんじゃねぇぞ、一度うちの領に遊びに来るといい」と言い、個人では買えないワインの購入の約束が出来た。後で精霊さまへのお供え物として買いに行きたいと思う。

お昼は大量に準備してあって、アーノルド夫妻は朝食がまだだったようなので、少し休憩がてら試食をお願いした。
その間マイクロさんが接客していて3人は話しに華が咲いていた。

お昼近くからの開催なのに10時過ぎ頃には既にほぼ全員が集まっていた。
そして最後にVIPである王家の皆様も11時前頃には馬車で到着したので、準備も整ってる事から少し早い時間に始めることとなった。王女の通う学校の視察という名目で来たようで、学園長とサリアルを中心に学園を案内し最後に温室に入る。
最後の準備があったのと少人数での視察だったので同行してないけど、関心と感嘆の言葉を口にしながら満足して見学したようだ。

途中、脇道をそれてズンズン進む王様がアーノルド男爵夫妻と接触したらしい。
後ろの面々に動くなと命じた後、にこやかな笑顔に張り詰めた空気を纏わせた王様とアーノルド男爵。
話す訳でもなく、時間にすればそれ程でもない。ただその空気に耐え切れず同行していたラザーと近衛騎士が止めに入った。
「間もなく冬の収穫祭が始まります、王様参りましょう」ラザーが移動を促した。
去り際にアーノルド男爵が一言何かを言うと、王様と一瞬だけ握手をして二人はすぐに別れた。

本当は屋外での食事会にしたかったんだけど、人数と量と調理の関係で学食での準備となった。
学食の皆さんとコロニッドさん以下王家で働く給仕の皆さんが、各ブースの取り分けと説明を担当してくれており準備は万端だった。座席は4~6人掛けのテーブルを中心に用意していて、大まかには王家の席に学園長とサリアル・講師陣・教会関係者と来賓・特待生席が最初の座り順だった。

「本日は来年から通われる王女様の学園生活が、恙無く過ごせるか視察がありました。講師を始め関係各所問題がないよう準備は整えておりますので、安心して学業に励み多くの友人と楽しい学園生活を送って頂きたいと思います。ささやかでは御座いますが粗餐を用意しておりますので時間が許す限り楽しんで頂きたいと思います」学園長が挨拶をする。
すると次は王家を代表してローランド王子が挨拶を返した、長々と話している訳でもないのに始まって早々王様が咳払いをする。
空気を読んだ王子はすぐに切り上げ、学園長に目で合図して早く料理を出すようにと催促をした。

「本日は趣向を凝らしましてビュッフェスタイルという方式となります、リュージ君説明をお願いします」サリアルから指名を受ける。
「はい、難しい事は抜きにして食べたいものを好きだけ食べましょう。まず、お盆を持ってすぐ隣にある所からスープを受け取ります。後は皿に好きな物を盛ってもらい席について頂きましょう。料理の説明は簡単なものならその場で聞けますが、詳細は食事が始まってから私がしますのでお願いします。では、お盆を持って参りましょう」

見本を示すように自分が最初に立ち、お盆を持って小さい湯飲みに入ったスープを貰う。
すぐ後ろに立ったのは王女で、その後に王様・王子と続く。
ワイワイガヤガヤしながら思い思いの料理を取ると、サリアルの頂きますの合図が始まる。
最初に小さい湯飲みに入ったスープを飲んだら給仕がワインとジュースを注ぎに来た。

【本日のメニュー:学園パーティー】
コンソメスープ:小さい湯飲みに少量だけ入ったもの
ポテトサラダ/タマゴ:給仕の女性に言えばパンに挟んでくれる。
トマトサラダ:スライスしたトマトに塩とオリーブオイルをかけたもの
フェットチーネ:ボロネーゼソース/トマトベースでひき肉とハーブで旨みを引き出している
ホワイトシチュー:ベシャメルソースを使った3料理人渾身の力作、ゴロゴロした野菜にもしっかり旨みが染み込んでいる。
トマトのチキン煮込み:なるべく大きな部位で何時間も煮込み繊維がほどける程の柔らかさがある。
グリーンサラダ:何の変哲もないサラダ、オリーブオイルとゆずと白ワインビネガーを使ったドレッシングで爽やかさを演出している。

以上が本日の料理だった、後一品デザートは最後に一人一個出すことになっている。
説明をしたけど誰も聞いちゃいなかった・・・、いや多分聞いてたとは思うけどみんな食に夢中だった。
ふと席の端っこにローラ王女がさりげなく座っているのを見つけた、王女に聞いてみると「お前はジュースだからあっちのテーブルに行くように」って王子に言われたそうだ。

「なあ、リュージ。説明してたから気がついていないと思うけど周り見てたか?」ザクスが聞いてくる。
「え?何かまずいことしちゃった?」
「いや、美味い事だけど・・・みんながお茶代わりに飲んだこのスープで、一瞬空気が凍りついたんだぞ」
「あ、あぁ。本当にこれはみんなに頑張って貰ったからね」
説明が終わったらすぐに王家のテーブルにコロニッドが召喚され説明を求められていた。

とりあえずこちらのテーブルは平和そうなので、先にお腹が落ち着くまで食事を取ることにする。
あちらのテーブルではスープの説明が終わったコロニッドが厨房に下がると、グリーンサラダとトマトサラダの説明でまた召喚されていた。そしてまた次の料理で召喚される、諦めたコロニッドはもうずっとそのテーブルにつくことになった。

各テーブルで感嘆の声があがっている、それはそうだろう今までと言えば良くて野菜のダシである。
それが鳥と牛?の基礎スープがあり、酢の酸味・トマトの旨み深みがプラスされる。
料理の基本を考えると『足し算・引き算』の表現がをよくするけど出汁は『掛け算』になる。一個の素材の旨みが強ければ強いほど味は天井知らずになる。隣ではローラ王女が絶賛していて、レンとザクスはサラダの組み合わせに夢中だった。
ヴァイスとティーナはフェットチーネのボロネーゼの大食い競争をしているかの様子。

自分がはまったのはベシャメルのホワイトシチューだった。
コロニッド・料理長・お姉さんの渾身の一作だけあってバランスは最上、しかもどうしてもトマトをメインにすると酸味の方に流れがちだったけどホワイトシチューの柔らかさと温かさは別格だ。多分食べている人はここにかかっている労力を知らない、ただ野菜を作っている人をはじめ、料理人に対する感謝を忘れずに「美味しい」の一言を言えば全てが報われるような気がした。

「ローラさま、美味しいですか?」
「リュージさん、ローラと呼んでください。これからあなた方の後輩になりますから、そう呼んで頂けるととても嬉しいです」
「はい、ローラ。何か取ってきましょうか?」
「私はこちらのホワイトシチューがとても気にりましたわ、リュージさん一緒に取りにいきましょう」二人しておかわりを貰いに行くことにした。

それからは純粋な飲み会となった、各テーブルにワインをデキャンタしたものを持ち注いでまわる。
貴族家の人も多いがここは治外法権であり、早くに王様が無礼講を発令した。
各上の家に話しかけるのもタブーなのにこの状況は異常な事だった。
サリアルとマイクロは顔が広く、交流がない人でも間に入って挨拶に回っていた。

サティス家のダイアンの所にレンと挨拶に行くとかなりの上機嫌だった。
貴族家なので貴族の学園に娘のソラを通わすつもりだった、あの事件の後レンと同じ学校に通いたいと言われ渋々了承したのだった。所が同じ時期に王女も学園に通うと聞き、その噂を聞きつけた多くの貴族の子息子女が応募をしたところ定員を超えてこれ以上は対応できないと断ったそうだった。

講師陣のテーブルに行くと隊長もフェットチーネに夢中で、ローレルと基礎薬科顧問もワインを嗜みながらサンドイッチを楽しんでいた。
「リュージ君、このかかっているソースは何かな?想像もつかないんだけど」ローレルはオリーブオイルとドレッシングを指して考えてた。
「これはザクスに油分の多い植物から絞って貰いました、このソースはゆずと酢で作っています」
「酢って何だい?」このペースだと質問攻めで王家がいるテーブルまで挨拶に行けない可能性があるので、レンをお供えして後で説明しますと言い逃げることにした。

王家のテーブルにたどり着くと、さりげなくローラ王女が隣にいてニコニコしていた。
「おお、リュージよくきたな。今日は妹の入学が良い口実いなったよ」
「本日はお越しいただいて・・・」
「ああぁ、そういう挨拶はいいさ。今日の昼食はかなり良いものいなったな。まあ、座れよ」
「お兄さま、私を蔑ろにしすぎです。後、ちゃんとお父さまにも紹介してあげてください」

学園長とサリアルは気がついたようで自分の紹介を王さまへしてくれた。
そしてグラスをこちらに差し出してきたのでテーブルに置いてワインを注ぐ、ワインを受け取った王さまは「ありがとう」と言うとグラスもう一個差し出し「飲めるんだろう?」と聞いてきた。
「事前に味見していますよ」とも言えずに、まごまごしていると王さま自らワインを注いでくる。
そしてこのテーブルは再度の乾杯へと入っていった。
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