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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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160/161

160:収穫のその後は

 人の姿を取り戻したソアラの顔色はかなり悪い。
背中には大きな鉤爪が深々と刺さっており、呼吸をするのも辛そうだった。
王子は残り僅かな命のソアラに、問いかけずにはいられなかった。

「なあ、ソアラ。何故残るという決断が出来なかったんだ」
「王子が選んでくれたなら残れたのです。それ以外の言葉はありません」
「お前なら上手く続ける事も出来たはずだ。俺も嘆願したんだから周りも認めざるを得ない」
「婚約者がいるのに、女性の気持ちが分からないのですね」

 呼吸を荒くしながらソアラが独白する。
仕事のステップアップは、ソアラにとってどうでも良い事だった。
あの頃の王子はみんなにとって希望だった。
多くの者が愛を注ぎ、同じ立場にいる者と比べられたら、当然自分が選ばれないと納得出来るものではない。
母として姉として注いだ愛を否定されたのだ。

「俺は全ての国民を愛している。あの時、お前から受け取った愛情も嘘偽りないものだと思っている」
「では、何故?」
「間違いを犯したなら正さなければならない。それは俺が王子だからではなく、人々が正しい道を歩むのに必要なことだからだ」
「人はそれほど強くはありません」
「ああ、だから俺には仲間がいる。もし仲間がその身をかけて進言したなら、俺は素直に受け止めよう」
「こんな事なら、傍にいて王子の成長を見守るんだった・・・」

 王子の背中の衣服を軽く攫むセレーネ。
「その方がセレーネさまですね」
「はい」
「優しそうなお顔ですね、王子のことをお願いします・・・」

 もう、呼吸をするのも苦しそうだった。
「ソアラ、苦しいだろう」
「はい、これが私の受けるべき罪です」
「俺がおくってやるよ。生まれ変わって王国に生まれたなら、今より住みやすい場所を用意しておく」
「はい・・・、その時をお待ちしております」

 ソアラはうつ伏せの状態から、気丈にも腕を使って起きようとする。
最後の灯火が燃え上がるような力だった。
王子が剣をスラリと抜くと、スローモーションではないかという速度で一振りした。
剣を近衛の一人に渡すと、その頭部を優しく抱きしめた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その日は収穫祭だった。農場からは野菜と癒しの水が入った瓶を奉納させてもらった。
すると、帰る間際にヴィンターに呼び止められた。何でも、夏の祭りの後にある物と神託が届いたようだった。
このような事は初めてであり、余程女神さまが気に入ったに違いないと噂をされていたようだ。
ただ異例の事態に協会内で話し合いが続き、最後は女神さまの意向に逆らうべきではないという事で今日になってしまったのだ。

「そういう訳で持っていってくれ。これを何に使うかは分からないがな」
「はい、そういうことでしたら大切にします」
それは柱時計だった。上部に時計の字刻板があって、下は振り子が規則正しく揺れている。そして下部にも時刻表があったが動いてはいなかった。多分だけど、この時刻がこの世界の正しい時間なのだろう。
「今度、是非農場へお邪魔させて貰うよ」
「ええ、いつでも歓迎しますよ」
出会った当初は気難しい人物だと思ったけど、ダイアナと一緒にいる姿は出来る教師と優等生のようだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 王子の『婚礼の儀』は無事に終わったそうだ。
この日をもって恩赦が行われ、軽微な罪を犯した者・反省の意識がある者は減刑された。
ただ、今年になって意図的に行われた犯罪については対象外だった。

一部の貴族から、アーノルド男爵家への減刑の嘆願が行われたが、これは認められなかった。
ただ、アーノルド男爵家への不当な強要が行われていると王子が宣言すると、一部の貴族が目を逸らすなど分かりやすい反応があった。連日のパーティーに忙しい王子とセレーネ、貴族全般は忙しい毎日を送っている。
レンをエスコートしてダンスパーティーに臨んだけれど、男なのに壁の花を演じることになったのは秘密だ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「それで、今日は何でこちらに皆さんが勢揃いなのでしょうか?」
「あらあら、私はパーティーと聞いたのですが・・・」
「私もお母さまにこちらで打ち合わせとパーティーがあると聞きました」
「確かにお二人には例の件で相談があるので良いのですが・・・、ガレリア先生が話したのですか?」
「リュージ君の言う通りの言葉は使ったが・・・。相談の件はポライト氏が飛び回ってるので、こちらである程度進めて良いようだよ。とても喜んでいて、金銭面と周囲への配慮も手伝うと・・・」

「ほう、リュージ。面白そうな事をしてるな」
「王子、あまり責めては可哀想ですわ」
「おいおい、セレーネ。俺達はもう結婚したんだろ」
「・・・はい、旦那さま」
「私も妻や娘、息子や嫁まで世話になっているからな。一度この農場も見学をしたがったのだ」
「皆さん、公務は良いのでしょうか?」
「「「「「パーティーも公務だ(よ)」」」」」

 エントが長テーブルにホットプレートのような鉄の魔道具を持ってくる。
するとトルテ他数名が材料とソースを持ってきた。
「今日はお好み焼きパーティーなんですけど・・・」

 特待生達も積極的に動き、王家の護衛に来ている近衛達も誘われるまま席に座っている。
薄く広げられた生地にキャベツを山ほど乗せ肉を数枚並べる。
製麺所でお願いした麺を、ウスターソースで炒め焼きそばを作る。
別の場所では薄く広げられた卵が焼かれ、それらを一まとめにすると仕上げに中農ソースとマヨネーズが薄く細くかけられた。

 違うテーブルでは、一まとめにされた生地を大きく広げている。
大きさ的に崩れないかな?と思ったけど、ラース村からお土産で貰った自然薯を提供すると、しっとりさくっとしたお好み焼きが出来上がる。アーノルド産のワインとエールが並べられると、自然と乾杯をするこになった。
「あの断っておきますけど、お好み焼きパーティーはパーティーじゃないんですよ」
誰の耳にも届かない言葉が木霊しそうだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 冬がやってくると、ラース村から大量のラース芋と米が届いた。
ラース芋は全量王国へ納入されるはずだったけれど、ここで消費する分には認めるという話で余剰分が農場へ届いたそうだ。
精米は以前の約束通り、製粉所の担当者にお願いすると、すぐに対応してもらえた。
臼と杵の話や、瓶に入れた玄米を棒で突くなどやり方は伝えてあった。

 さっそくラース芋を大量に蒸す。
ふと小さいワイン樽があったので、そこに蒸した芋を置き生命の水の魔法を唱える。
発生した水が芋に触れると、徐々に芋を溶かしていく。芋の原型がなくなると、芳しい酒の香りがしてきた。

 周りのメンバーはこちらの魔法を興味深く見ている。
ワァダなんかは水魔法だと分かったらしく、解明しようと真剣に見ていた。
トルテがさりげなくコップを二個持ってきたので、普通にその二個に注いで・・・一個はトルテに戻した。
「これは・・・美味い」
「ああぁ、焼酎だこれは。入ってるのが芋だから芋焼酎だな」
「芋焼酎?」
「ええ、酒の種類の一つです。このままじゃ飲みにくいので梅酒にでもしましょう」

 今回は贈り物用で作るので試飲はなしにした。
この農場で働く人で試飲していったらすぐに無くなってしまう。

 瓶は以前作ってあるし梅もある。ホワイトリカーとはざっくり言うと焼酎だ。
後は氷砂糖を・・・、サトウキビをちょこっと育てれば良いかな?
勢いに任せてサトウキビを植えて、魔法で煮だしユキから教わった結晶化を行うとあっけないほど簡単に氷砂糖が出来てしまった。送り先はラース村に王家、セルヴィス・アーノルド領・ブルーローズ。
少量しか出来なかったのでと付け足す事は忘れない。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 今年の冬は、別の貴族が弱者救済に手を挙げた。
王子もポケットマネーを出して支援をすると、多くの貴族が賛同し王国内が豊作だったこともあり、今年も冬の死者は0という報告があった。
ラース村からは、アンジェラが王国へと旅に出て協会は受け入れ体制で大騒ぎになった。

 春になると学園では卒業式が行われた。
あまり学園にいた記憶はないけれど、お世話になった教授・講師の方々を見ると多くの事を学んだ気がする。
「リュージ先輩、卒業しちゃうんですね」
「私達、農園でも頑張ります」
振り向いた魔法科一年の顔を見てクスっと笑ってしまった。

 退寮の挨拶を寮母にすると、ザクスと一緒に引越し作業を行った。
ヴァイスは無事、騎士団に入る事が出来たようだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「リュージ君、いくのかい?」
「はい、ガレリア先生。拠点はここに置いているので、そんなに間を置かずに帰ってこれると思います」
「それでも、誰にも告げずに行くのだね」
「ええ、これは決めた事ですので」
「分かった、農場の事は私達に任せてくれ。リュージ君じゃなければ出来ない事もあるから気長に待ってるよ」
「そんなに引き出しはないですよ。そういう時は・・・うーん、なるべくザクスを使ってください」
「気をつけてな」
「はい、行ってきます」

 巻き込まれたとはいえ、ようやく冒険者としてのスタートラインに立てた。
正直、周りからは冒険に出る事を理解されていないかもしれない。
でも、ようやくこの世界を見る事が出来るのだ、そういう意味では自分の旅はこれからだった。
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