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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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157:穏やかな日々

 ヴァイスとキアラがラース村に到着したのは、王子達が着いた2日後だった。
ここは冒険者ギルドがないので、代官と村長のもとへ挨拶に行くと、王子は孤児院に宿泊しているという話を聞いた。
まずは1軒しかない宿屋兼食堂で宿を2部屋取ると、孤児院へ挨拶しに行くことにした。

 案内された場所へ行くと協会と孤児院があり、どちらから挨拶に行こうかと考えていると男の子が駆け寄ってきた。
「お兄ちゃんたち、お客さんですか?」
「ああ、えーっと・・・、マザーにお話があるんだけどいるかな?」
「マザーはお仕事中なので、アンジェラお姉ちゃんを呼んでくるね」

 そんなに急ぐ事もないんだけど、駆け出したルーシーはアンジェラを連れてきた。
ローランドの護衛としてやって来たので、到着しているか確認すると二日前にやってきたようだった。
何点か質問をしていると、孤児院から近衛が出てきたのでカードを見せて事情を話した。
「お勤めご苦労さん、アンジェラさんはもう大丈夫ですよ」
「はい、ではお願いします」

 周囲を確認した近衛は、来る道で何か気になる箇所はあったか?と聞いてきたので首を横に振った。
「この旅は、ここが最終地点になりそうだ。王子は今、騎士達と訓練しているから安全だろう」
「そうですか、では一旦宿に戻りますね」
「まあ、待て。ここは何もない所だから話くらいしないか」
「ええ、時間はありますが・・・」
「お前達、結構な訓練を積んだだろう?帰還の際には一緒に行かないか?」
「私達は見守るのが仕事と聞いているんですが」
「それは俺から王子に進言しておこう。それにしてもおかしいと思わないか?」

 近衛の話しでは、今回の旅は貴族家による王子への介入が皆無といって良かった。
たとえ盗賊に遭遇したり、自分から攫われに行ったり、化け物に襲われそうにあったとしてもだ。
他国からの介入も皆無である事に近衛は違和感を覚えたそうだ。

「考えてもみろ、間もなく王子の『婚礼の儀』が行われる」
「ええ」
「他国からの賓客は次々と王国へやってきている」
「スパイも入り放題って事ですね」
「ああ、ただでさえ何処に潜んでいるかわからない者がだ」
「そう考えると、静か過ぎますね」
「だろ?」

 この旅の側面を近衛達は出発前に聞いていた。
世直し旅と冗談で言っていた王子は、真剣に標的として動く事を決めていたのだ。
だからセレーネを連れて行くのを渋っていた。
ルート的には分かりやすい方を選ぶしかなく、それでいて不確定要素を混ぜるように盗賊等の情報を仕入れて、討伐しながら隙を見せて移動をしていたのだった。

 王子達の動きは学園生から隊長とギルドへ報告が行き、王国に情報が届く頃には筒抜けになってしまう。
だから学園からは成果を問わないという条件まで出ていたのだった。
王子は学園生の優秀さを誉め、それならばと警戒を強めたのだが肩透かしに終わっていた。

「つまり、帰り道に集中するってことだな」
「それが分かっているなら、援軍を頼みませんか?」
「それも良いがな・・・、へたに動いて不特定多数を人質にされたら敵わないからな」
「悩ましいですね」
「じゃあ、私達がその人達の分まで頑張るしかないって事ですね」
「飲み込みが早くて助かる。じゃあ、王子達は山側で訓練しているから今後は付き合うように」
「私達もですか?」
「ああ、俺はこっちでゆっくり護衛でもしてるわ」

 いつの間にか花壇には、世話をするセレーネとサラとルーシーがいた。
二人はセレーネにべったりくっついていて、セレーネは小さい二人にメロメロだった。
ダイアナもこちらに気がついてお辞儀をして、またマザーの仕事を手伝っていた。

「なんか・・・、平和そうなんですけど」
「ああ、ここにいる限り事件はなさそうだな。『婚礼の儀』までに戻れないと問題だけどな」
「キアラもここで護衛する?」
「うーん、ヴァイスと一緒にいるよ」
「そうか」
「そこの仲良しカップル、ノロケなら他所でやってくれや」

 ここでフリーズされても困るので、真っ赤になっているキアラの手を引っ張って訓練をしている場所へ向かうことにした。
「キアラ、集中」
「・・・は、ハイ!」
「よく出来たな、この旅が終わるまでは集中しろよな」
「うん、わかってる。もう、大丈夫」

 あの時集まったメンバーで、夏休み後に動くメンバーは残念ながらいなかった。
そして、キアラと一緒に行動する条件として出したのが今回の集中だった。
ローラの護衛ではあれ程の優秀さを示したのに、自分と一緒だと何故ダメになるのだろうか?騎士として致命的な弱点になるならば、今回の旅は辞退してくれと話したら、きちんと修正してきたのだ。

 王子達が訓練している場所へ行くと、全員に挨拶を行い王子とも無事合流出来た。
ここで休暇を満喫している騎士達は、娯楽がないのですぐに飽きてしまう為、積極的に訓練を行い村の用事も手伝っていた。
そして今回王子達が来たので、山の動物達が冬篭りの準備で村に来ないように山狩りを計画することにしたようだった。

 村の農作業を見て、クルックの飼育を確認する。
騎士達と開墾作業をすると、案の定石や岩に当たりルーシーがその岩を魔法で粉々に砕くと、「頑張って魔法を覚えたんだ」と胸を張って自慢をする。開墾の報酬はみんなで酒を飲んで盛り上がり、「何故ここにアーノルド男爵領のワインがあるんだ?」と王子が訝しいがり、山狩りでの戦利品として獲ってきた猪や熊は味噌と醤油で美味しく頂かれた。
背後に誰がいるか一目瞭然だったが、王子は野暮な事は言わなかった。

 マザーとセレーネが仲良くなり、アンジェラとダイアナが姉妹のように過ごしていた。
何故かセレーネの視線が日によって異なる事があったが、これはきっとマザーに小さい頃のローランドの所業を入れ知恵されたに違いない。王都では聖母のように敬われているが、お茶目で行動派の女性なのだ。
ふと、王都から来た者たちは、ここでこのまま暮らすのも良いかもしれないと考えるようになる。
だが、時は刻々と過ぎていった。

 王子達の旅立ちの日が近づき一通り挨拶を済ますと、王子は先に隣町のギルドに明日出立することを伝えるようにヴァイスとキアラに話した。マザーはアンジェラの事を王子に頼み、ダイアナにも口添えをお願いした。
春になったらアンジェラはこの村を出る事になっている。王都から来る商人と一緒に王都まで旅をするようだった。
サラとルーシーについても、色々環境を整えてもらえるように大人達で連絡を取り合う事を決めた。
小さい子なので秘密の厳守は難しく、ヘタな農民より多額のお小遣いを稼いでしまっている為、行く末が少々不安だった。

 最後の晩は孤児院で過ごす事になった。
協会の一角を借りて何とか睡眠をとると、明日は旅立ちの日となった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 冒険者ギルドには様々な人々が集まる、それは個人的な依頼もあれば国家間にわたる依頼もある。
ある日そこを訪れたのは、荒くれ者が集まるこの場所にふさわしくない女性だった。
真っ直ぐ依頼のカウンターへ行くと、「ギルドマスターはいるかしら?」とカードを提示する。
普通はここで別の上司がやってくるか、受付嬢が対応するのだが、この女性はすんなりと奥の部屋に通された。

「なあ、何か儲けの気配がしないか?」
「そうか?俺は関わり合いたくない感じがするぞ」
「ギルマスを呼ぶくらいだから下っ端には用はねぇぞ」
「んだと?喧嘩を売るなら買ってやるぞ」

 受付嬢から咳払いが聞こえ、そちらを見ると射殺すような目で冒険者を睨んでいる。
日頃可愛いとか言われている女性にこの視線で黙らされるのは、やはり力不足と言われても否めないだろう。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 9月も中頃になり、王子達の護衛をした者達には二つの選択肢が用意されていた。
それは、自分達の後の情報を聞くか聞かないかだ。
大体二週間から一ヶ月ちょっとの護衛をそれぞれ担当していたが、卒業見込み者も多くその期間は就職活動出来なかった者達が多かった。コネという部分で動いていた学園生は少なく、それぞれの終了時点での任務は成功とみなされている。
この後の話を聞けば、断りきれない依頼が出されるかもしれない。
そんな事を考えると、特待生以外の学園生はその後の情報を聞かない事にした。

 そんなある日、隊長から経過報告と新たな依頼がやってきたのだ。
冒険者ギルドのギルマスからの依頼で、今度は王子を迎えに行く旅で、ルートはほぼ直線コースを辿ることになる。
なるべく高位の冒険者が動いていない風を装いたいそうだ。

 農業科のレン・薬学科のザクス・冒険科のティーナに農場の経営者の自分。
周囲から見たら護衛になるのかどうなのか不安な人選だと思う。
このメンバーに隊長が同行してくれることになった。

 出発は明後日の早朝で、明日は準備として一日空けてくれるらしい。
それぞれの教授達にも話は通してあるので、都合が悪いとは言えなかった。
ローラについては引き続きヘルツが面倒を見てくれるらしい。

 何もなければ良いのだが、隊長の真剣さにそれは希望的観測だと思い知らされる。
せめて、準備だけはきちんとしようと気合を入れなおした。
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