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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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155/161

155:考えている時が楽しい

ヴァイス達が旅立ってからは、以前と変わらない日が続いた。
農場としてのイベントは概ね終わっていて、畑では秋の味覚に向けて季節の畑を調整していた。
トルテ達に出していた宿題のソースも、ある程度目処が立ったようだった。
ポン酢は簡単に出来た為、すぐに商品化することが出来た。

今まであまり酸っぱさというものに慣れていなかった王国では、一部の人々により少しずつ流行の兆しが見えている。
サングリアだったり、サラダのドレッシングだったり、夏の暑い時期には多く求められていた。
ただ、純粋な料理にどう使うか?という質問が出たので、トルテと調理場の皆で水炊きをすることにした。
水炊きと言っても白濁しているタイプではなく、土鍋に水を張り昆布を一枚敷いて野菜と肉を入れたものだった。
そういえば、継続してお願いをしている乾物屋はまだ営業しているようだ。

「リュージさん、料理っぽい感じはしませんが・・・」
「いや、これで完成ですよ。入れる野菜によってバリエーションを増やせますし、味噌味にしても美味しいですよ」
「お二人とも、折角ですから早く食べましょうよ」
「ですね、エールでも持ってきましょうか?」
「トルテさん、朝から飲むんですか?」
「料理との相性を見るために、たまーに試しますよ」
「なるほど、じゃあ小さいグラスに一杯だけ」

4人は鍋を囲んで水炊きの完成度を確認していく。
葉物野菜はクタクタに煮えて、ポン酢を大きく受け止めていた。
酸っぱさと醤油の割合が絶妙で、味見の時点で料理のバリエーションに幅が出るなと思っていた。

「これは・・・、美味しいですね」
「鳥からも良い味が出ていますが・・・、他からも良い味が出ています。ただ、今まで味わった事のないものが・・・」
「トルテさん、これが分かるんですか?多分、昆布からの出汁が利いているんだと思います」
「なるほど。それにしてもお互い邪魔しあってないというか、繊細な味というか・・・」
「味噌と醤油で出来る事が広がりましたからね、他のソースも期待していますよ」
「はい、必ずや期待に応えてみせましょう」
「もー、二人とも冷めちゃいますって」
「じゃあ、エールでもう一度乾杯しましょうか?」

にんじん・白菜・鳥肉・キノコ類、食べ進めていくとやっぱり足りない物が出てくる。
まずは土鍋を暖めるコンロやホットプレートのような物、そして食材としては豆腐の存在は大きかった。
こんにゃくや白滝もなければ、練り物やすり身などもこれから必要になってくるだろう。

食べ終わった時に、「シメでおじやにすると美味しいんですよね」と言うと、満足そうにしていた調理班の目が光った。
でも、現状では残っている米は少量しかない。数人で食べたらあっという間に終わってしまう量だった。
次年度は稲作を始めようかなと思ったけど、自分は冒険者として旅立つので進めるのは難しいと思った。

ところが今鍋を囲んでいるメンバーは食にこだわりがあるメンバーだ。
しかも、今美味しいと言って食べている物に、更に上の物があると聞いたら大人しくしているメンバーでもなかった。
仕方がないので、生米を少量だけ出すと鍋をいったん下げて残ったスープでコトコトと炊いてもらう。
最後に卵をぐるっとまわして半熟状態で再びやってくると、おじやはあっという間になくなってしまった。
量には納得できなかったようで、「農場が大きくなったら、シメのおじやが出来るように米を作りましょう」と無念そうな顔をしているのが印象的だった。

これで豆腐やこんにゃくの事を話したら、完成品が出来るまで続けるメンバーだ。
どちらも野菜から出来ているから、【野菜百選】を見れば作り方が書いてあるだろう。
でも、たしかこんにゃく芋からの加工は面倒そうで、豆腐作りにはニガリが必要なはずだった。
ニガリが海水関係だという知識はあったけど、どういうものかはさっぱり想像が出来ない。
そもそも、この世界に海はあるのだろうか?昆布があるなら大丈夫かもしれないけどね。
まずは今の宿題として出しているソース関係の完成を目指してもらうことにした。

ガレリアとの打ち合わせでは土地取得は順調に進み、今は建物の工事を商業ギルドにお願いしているようだ。
農場の区画を広げる事は出来るけど、計画的に何をどう増やすかを考えなければならない。
森エリアは選任のような形でドワーフのゴルバが頑張ってくれているが、新しい区画の場所は水田か豆を作れたら良いなと思う。
これから醤油や味噌は広がっていくだろうし、そうなると米も恋しくなる。いっそ売らずにこの農場で消費するのも良いと思う。

また、ノルド元子爵別邸跡地も早めに何か作った方が、記憶を上書きする面で有効だという話が出た。
ただでさえ化け物騒ぎ・猟奇殺人騒ぎと噂になっている土地だ。
更地になって除霊したと言っても、夜の闇には不気味なものを感じる場所になっていた。
貴族が多く住む土地なので、それようの使い方をする必要があった。

「うーん、うちが関わるとしたら農場の直売場か食堂ですかね?」
「リュージ君、貴族が多い場所での直売場は利権争いで面倒になると思うよ。食堂は貴族専用にするなら問題ないけど・・・」
「そうなると、夜だけの予約制って事になりそうですね」
「それも考え物だね。夜は出かけたがらないし、そんな優秀なシェフがいたら引き抜くのが貴族だろう」
「いっそ協会でも立てちゃえば良いんですけどね」
「土地の広さの問題に近隣住民への配慮ってやつだね。こうなったらポライト氏からのお願いを真剣に考えるべきかな」

ポライト男爵家は外交で名を馳せた家であった。
積極的に相手の良いところを見つけ、それを体験したり王国内に宣伝したりする。
また、他国の文化の中でマナーの部分は婦人が担当していて、お茶会やダンスパーティーなんかも開くらしい。
ここで問題になってくるのが、このダンスパーティーなどの場所だった。

王国として他国の賓客を招く場合は使える施設が多い、ただ個人的な繋がりを考えた場合、家格だけで判断するとポライト男爵は低く見られるのが常だった。実際は王家にも口を出せる数少ない家なのだが、本人達はそれを言ってしまったら貴族としての尊厳が失われると自らを戒めている。
そんなポライト家から、そこそこの場所でダンスの訓練もしくは、ダンスパーティーが出来る施設を熱望されていたのだ。
レンの家の侍女を養女にして貰った恩もあり、基本的に貴族間の貸し借りを良しとしないガレリアだったが、是非とも叶えたい施設の一つだった。

「作るのに問題はありますか?資金面だとか運用面で」
「場所は最高に良いんだよ、後は隣近所との交渉さえ出来ればね」
「ダンスフロアーに着替える場所、化粧室に・・・あぁ、汗を流す風呂かシャワーも必要ですね」
「またまた、リュージ君の力が必要になるね。後はパトロンがいると最高かな」
「利害関係を持ち出さない人がいいですね。後は軽食とお茶の場所があればパーティーっぽくなるかな?」
「貴族を相手にするなら、お付きの者も必要になるな。いっそポライト婦人を呼んでみるか」
「ダメで元々ならば、女性の最高地位の方に相談するのも良いかもしれませんね」
「というと?」
「うちの名誉職員です」

学園が始まると、どうしてもローラは領と学園の往復となる。
まだまだ初年度なので、受ける講義は多くグループ活動も夏の間出られなかったので積極的に参加をしていた。
レンとザクスは面接を手伝ってくれているし、卒業見込みで面接が通った者はアルバイトという形で実地研修をしている。
仕事なので合う合わないはあるし、自分の望んだ部署に就けるとは限らない。
そんな中、こっそり名誉職員と呼ばれていた王妃は今日もマイペースに収穫に勤しんでいた。

「ガレリアさん、リュージさん、呼んだかしら?」
「お呼び立てしてしまってすいません。今日は内々の相談なのですが」
「あら何かしら?」
「以前よりポライト男爵家夫妻よりお願いされていまして、ダンスパーティーが出来る施設をノルド元子爵家別邸跡地に建てたいのですが・・・」
「あら、素敵ね。うーん、資金的な相談かしら?それとも周りへの配慮かしら?」
「資金的な面ならうちでも何とか出来ると思います。近隣への挨拶も誠意をもって行います。その、何と言うか。その施設への後ろ盾となってもらう事は出来ますでしょうか?」

少し考える王妃、たっぷり間を取って出した答えが「ローラではダメかしら?」だった。
これから徐々にローランドへ実権を移していく上で、次世代がただレールに乗っているだけでは心許ない。
成功するにせよ失敗するにせよ、ローラが在学中に夢中になれる物と成果を出せる物を母心として用意したかった。

「お二人が関わるなら、失敗などしないでしょうけどね」
「そんなことはありませんが、成功するようには考えています」
「具体的には?」
「そうですね、まずはポライト婦人によるダンスレッスンを検討してもらいます。後は、定期的なお茶会も企画しましょう」
「そこでの料理は考えているのかしら?」
「そうですね、やっぱりこの農場に関わる料理を・・・」
「ほら、もう失敗する姿が思い浮かびません」

3人で計画を話し合っていくと、ほぼ完成図のような物が出来上がってしまった。
なるべく、ローラの周りの付き合いを増やしていき、職員として雇いいれること。
また、料理には力を入れてワインもアーノルド男爵領のものを扱えるようにすること。
ダンスが出来る護衛を雇い、一緒に踊れる機会を設けること。
後は設備面の充実を図り、最初は会員制で始めること。

ここまで話すと、王妃は「ローラだけではなく、私も関わりたいわ」と言ってきた。
まずは図面に起こし、ポライト婦人とローラを呼んで計画をしないといけない。
早速、ユーシスに連絡を取って貰うと、打ち合わせの日程から次々と決まることになった。

間もなく王子がラース村を出る頃だろう。
ゆっくり骨休め出来たかな?ラース村は大きく休暇が取れるならまた行ってみたいと思える場所だ。
王子がいない間に色々やっているので、後で報告が大変だなと思った。


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