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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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154/161

154:昔の話は

「はぁ、ようやくここまで来たか」
「明らかに待ってくれながら旅してたよな。俺達の尾行って・・・」
「ああ、こんなに対象に気を使われたら失敗だな。戻ったら訓練するぞ」
「じゃあ私はこの街のギルドに報告するね。ラース村には冒険者ギルドはないって聞いてるから」
「分かった、村に入ったのを確認したら戻って合流する」

 3人で尾行していた学園生達は、早々に尾行に気が付かれている事を気付かされた。
それでも、時折緩急をつけた道中の行程に、最大限の危機管理を図りながら努力した姿を王子達に認められたようだった。
それからは急がず焦らずのような進行に変わり、ようやく引継ぎが出来そうな場所まで辿り着いたのだ。
一言で言うならば、「感無量」そう思わずにいられなかった。

「なあ、ここはラース村だよな」
「あ、ああ。最果ての流刑地ラース・・・そう聞いている」
「なんでこの距離から実りが見えてるんだ?それともあれは盗賊でも呼び寄せてるのか?」
「おい、それに何の意味がある?流刑地に盗賊呼んでも使えないだろ?」
「ああ・・・、そうだな」
「王子達が入っていくぞ」
「門番がこちらを見てるな・・・。ここから頭下げとくか」

 二人は馬から降りると、揃って門番に頭を下げる。
王子達がラース村へ入ると、門番はこちらに向かって大きく腕を振った。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 王子が門番に挨拶すると、門番はすぐに村長と代官に連絡しようと人を出そうとした。
それを引き止めた王子は、「連絡するのはいいが、明日までは自由にさせてくれ」と伝言を頼む事にした。

「それにしても随分変わったな」
「ローランドさまは、こちらに来た事があるんですか?」
「ああ、あの時は軍事訓練の一環だったな。実際中での滞在期間は短かったがな」
「その時は収穫期ではなかったのですか?」
「今思えばその記憶もないな、石に砂利と開墾に向かない土地だとは一目でわかったくらいか」
「それがこんなにもですか?」

 最近は王都からも荷馬が来るようで、いつまでも動かない馬車を人々は興味深そうに見ていた。
近くで農作業をしていた女性が一人近付いて、代官屋敷への道を教えてくれた。
王子はその女性を呼び止めると、協会の場所を質問する。
すると「マザーのファンの方ですね」と、質問が帰ってきたのでダイアナが大きく頷いていた。

 協会と孤児院が併設された敷地の外に馬車をとめると、近衛の一人が残り4人で協会へ向かった。
王子とセレーネが前に出て、協会の扉をノックする。すると、明るい声の女性がやってきた。

「こんにちは、皆様。旅の方でしょうか?」
「ああ、旅の成功を祈念したいと思ってな。マザーに取り次いで貰いたいのだが」
「少しお待ちください、今呼んで参ります」

 後ろの近衛は含み笑いをして、ダイアナは憧れのアイドルに会えると喜んでいるファンになっていた。
少ししてアンジェラと一緒に来たマザーは、「ローランド、いたずら癖はまだ抜けないのね」とため息をついた。
深々と頭を下げる3名に、アンジェラも合わせてお辞儀をする。
マザーと見つめ合ったローランドは、同じタイミングで微笑みから声を上げて笑うのだった。

 協会に知らない人がいっぱいいる、それだけで孤児院の子供達には興味の対象だった。
今日はたまたま孤児院の家庭菜園で相談をしていた所にいっぱいのお客が来たのだった。

 最近のサラとルーシーは何かと忙しい。
出来る事も増えて村長と代官だけに限らず、多くの大人からお願いをされていた。
その報酬が家庭菜園用の種や備品に化けているのだ、本来はもっと報酬があるのだが本人達の知らない場所で密かに貯金されていた。
キレイな花が咲いたら誰かに見て貰いたい、農業に携わる者が多いこの土地ではみんなキレイな花への興味は薄かった。

 アンジェラが先に孤児院の部屋を片付けに行くと、マザーが王子達を案内することにした。
セレーネがサラとルーシーを見つけると小さく手を振る、すると二人は『パァァ』と笑顔になり、「きれいなお姉さん、後で花壇を見に来てください」と揃って頭を下げた。

「王都で人気のダイアナも形無しだな」
「それを言うなら王子の影として人気のあなただって、声を掛けてもらえてないですね」
「影がでしゃばっちゃまずいだろう」
「私も女神さまに仕える身です」
「お互い報われないな」

 孤児院の食堂へ入ると、マザーにセレーネを紹介する。
セレーネの自己紹介が終わると、「その、彼女がOKしてくれた」と少し照れながらマザーへ報告した。
「こら、ローランド。きちんと説明しなさい。OKって何がですか?」、噴出しそうなマザーが質問する。
「だーかーら、もー。調子狂うなぁ、見てくれよ。もう周りは噴出す寸前だぞ」

 セレーネは珍しい者を見るようにローランドを見ていた。そして、「可愛い」と思ってしまった。
近衛は少しむせていて、ダイアナは伝聞でのマザーと現実のマザーの差異に驚いていた。
そんなタイミングでアンジェラがお茶を持ってくると、やっとみんなの顔が真面目な感じで統一された。

「マザー、俺はセレーネと結婚する事にしたんだ。彼女を幸せにしたい、そして共に歩んで行きたい」
「よく言えたわ。セレーネさんもよく決断してくれたわね」
「いえ、そんな・・・。私はずっとローランドさまに憧れていましたから」
「そうなのか?そんな大事な事、初めて聞いたぞ」

「ローランド、まだまだ若いわね。レイシアに先を越されたと聞いたし。ローラより後じゃなくて安心したわ」
「リュージか・・・。まあ、俺が頼んだんだから、当然ここに来るよな」
「あまり彼を困らせてはいけないわ。この村で迷惑をかけたのに、返しきれないものを残してくれたんだから」

 今年の異常とも言える豊作は、リュージが残した土を多くの者の管理用地に撒いたからだった。
畑に撒いた土を掘り起こしながら混ぜると土が馴染み、驚く程の成長を見せたのだ。
サラとルーシーがたまーに農作業の見学に行くと、「土さん元気がないね」とか「緑ちゃんが風邪気味だって言ってた」とか教えてくれるようになった。そんな二人の通訳としてアンジェラが一緒に行って対処法を伝えると、いつもは諦めて切り捨てる作物も持ち直すのだった。

 頑張れば頑張った分だけ豊かになる、それは農家にとっては理想だった。
作業が楽になって空いた時間は、リュージが残した畑の世話を交代ですることになっている。
これは現金収入と減税の側面を持っていて、仕事が少ないこの土地で1面だけでも数年かかるような開墾が一気に進み、この村が豊かになるきっかけのような畑だった。
新種の作物により王都からの荷が増え、他の領からも商人が来るようになったのも大きかった。

「なあ、俺達ってここに泊まれるかな?」
「ええ、でも少し準備に時間がかかるわ。そうだ、温泉でも入ってきたらどうかしら?」
「え?・・・温泉って?」
「あらあら、リュージ君は報告していないのかしら?屋外にあるお風呂ですよ。アンジェラ、あなたも一緒にいって案内して貰える?」
「はぁ・・・、色々やってくれと依頼はしたが、まさか貴族が普段使っている風呂を開放したか」
「サラとルーシーも行ってきなさい。あなた達もかっこいいお兄ちゃんとお姉ちゃんとお話したいでしょ」
「「はーい」」
「では、用意してきますね」

 騎士達が温泉の外で静かに待機していた。
この村に来たのなら、まず誰もがここに来る事は決まっていた。
村民には事情を話すと、「自慢の温泉を、お客さんにも是非堪能して欲しいな」と言い、素直に時間をずらして貰えたようだ。
馬車から人が降りてくると、数少ない騎士達が一斉に最敬礼をする。

「出迎えご苦労!少しの間だが世話になる」
「はっ、これはもったいないお言葉。一生の宝と致します」
「ここにいる間はただのローランドだ。そのつもりで過度な歓待はしないようにな」
「はっ、承知致しました」

 サラとルーシーが追いかけっこのように更衣室へ入っていくと、近衛とアンジェラがそれぞれの更衣室と温泉の場所を確認する。
安全を確認すると、ローランドはセレーネに「また後で」と声をかけ更衣室へ入って行った。
ルーシーはアンジェラに持たされた石鹸を配り、今にも走り出しそうな勢いで扉を開けると、まずは洗い場へ向かっていった。

「あのねー、まずはここに湯を持ってきて、ここに腰掛けて体を洗うんだよ」
「ほう、小さいのに元気に説明できたな。偉いぞ」
「あのお兄ちゃんは、何であそこから動かないの?」
「あまりの凄さに感動しているのだろう。ローランドさま、こちらへ」
「ああ、風呂くらい一人で入れるぞ。手伝いは無用だ」

 とめどなく流れて湯船に注ぐ湯は適温だった。
ルーシーの説明を素直に聞くと、石鹸も王都で使っていたラベンダーの物だった。
「この風呂だけでも価値があるな、だが最上質と開墾村というアンバランスさが・・・なぁ」
「ローランドさま、早くこちらへ。旅の疲れなどあっという間に取れますよ」

「ああ、ここは毎日通ってしまいそうだ。マザーも許可してくれたし、しばらくは骨休みだな」
「ローランドさま、私この村へこれて良かったです」
「ああ、俺もだ。セレーネと一緒で良かった」

 小さく「もー」と言いながら湯船に口をつけた仕草が見られたのは、アンジェラとダイアナとサラだけだった。
衝立をはさんで大声で喜びを伝え合う二人に、一緒にいた者達はおもわず微笑んでいた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「王子達、ラース村へ着いたかな?」
「ギルドの情報とそれからの時間を考えたら、もう着いている頃だと思う」

 8月に乗馬と御者のスキルを取得し、ダンスパーティー用の衣装を作るように指摘されたので、サイズを測り注文をお願いしておいた。9月は通常通り講義を受ける事にした。

 講義中ふと外を眺めて「今頃王子は、マザーとどんな話をしてるんだろう?」と思う、そんな事を考えながら残り少ない学園生活を送っていた。
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