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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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153:ぽかーん2

「セルヴィスよ、少し時間いいか?」
「おお、ダールスか。少しはずすので後を頼む」
「おやっさん、分かりました。これワインです」
「ああ、ありがとう」

 ワインバーを尋ねたダールスは適当につまみを数品頼むと、セルヴィスを呼び出す事に成功した。
今日ベリアに会って剣を交えた事、出来れば娘の恋を成就させてやりたい事を話すとセルヴィスはとても驚いた。

 昔から目に入れても痛くないと言っていたダールスが、娘の婚期が近づくと随分変わった事をするもんだなとセルヴィスは思った。
貴族家の出身だが長子でなかった為、剣でのし上がった立身出世を絵に描いたような男だった彼は、常々自分の一番弟子もしくは一番可愛がっている部下と結婚させたいと言っていた。
それがわざわざベリアに会いに来て、成就するかどうか分からない娘の為に損な役回りを演じたのだ。

「それでどうだった?」
「娘か?その先は見ることは・・・」
「そうではない、ベリアの剣だ。お主はどう思った?」
「ああ、彼も男爵家の者だったな。まあまあ、だったさ」
「そうか、では騎士団には薦められないな」
「まぁ、待て。本人の自主性というものもだな・・・」
「正直に言ったらどうなんだ?」
「俺も手加減をしたが、奴はマーリンの父親ということで手加減したそうだ。騎士団を率いるこの俺にだぞ」
「そうかそうか。それで、きちんと受けてやったのだろうな」
「あ、ああ。いや、正直に言おう。お前に教わった技を使った。真正面からやっても、負ける気はしなかったがな」
「お互いに手加減したなら勝者はどちらでも良い。でもな、あれは使うなと言っただろう」

 ダールスのグラスを持つ手がプルプル震えていた。
手加減しても負けたくなかったダールスは、与えるダメージを最小限に抑えても客観的に見て勝ったという証拠が欲しかった。
そこに集中するあまり、ベリアが仕掛けた技に気がつけなかったのだ。
グラスを使い位置関係を表して、お互いに仕掛けた技を確認していく。
最後のベリアの構えをなんとか思い出すと、セルヴィスに説明した。

「そうか、ベリアはダールスの拳を砕こうと、技を途中まで発動させたのだな」
「あのスピードで間合いを詰めて、手首から拳を狙っただと?それが本当なら俺が剣を落として終わりではないか」
「お主も手加減したのだろう?成否は半々だよ」
「マイクロにヘルツ、お前の息子は別格として、それでもそのレベルの者を育てているのか・・・」
「マイクロとヘルツは勝手に強くなったんだよ。後は本人の努力次第だ」

 二人は自分の弟子につて愚痴を言い合い、お互いの弟子について誉めていた。
農場で警護をしているセルヴィスの弟子にも優秀な者がいて、ベリアを含め騎士団で面倒を見たいとダールスが頭を下げた。
名前が出た者はセルヴィスからの紹介ということで、騎士団の推薦状を書く事を約束した。
そしてもう一つ、農場のトップであるガレリアとリュージに、ダールスが謝っていたと伝えて欲しいとまたまた頭を下げたのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 8月はあっという間に過ぎて行き、ヴァイスとキアラの修行が一息つくとラース村へ旅立った。
入れ替わるように戻ってきたヘルツとローラとティーナは、やりきった顔をしていた。
アーノルド男爵家のワインは、9月から10月にある縮小される予定の本来の収穫祭で本格復帰するそうだ。
これには商業ギルドもとても喜び、また商業ギルドを通して流通が再開するのだった。
ナディアの父親の商会とも継続して付き合うそうで、その分増産を頑張るらしい。

 ローラとティーナは、赤子をとても可愛がって日々を過ごしていた。
男の子の名前はウォルフと名付けられ、「パパよりも強そうな名前でちゅねー」とローラにからかわれていた。
そんなローラをレイシアは笑い、スチュアートは苦笑する。

 ローラもレイシアも昔のような悲壮感はもうない。
それはこの子が健やかに育ち、明るい明日を見せてあげなければならないという使命感からだった。
迷っている暇はないのだ、立ち止まっている暇はないのだ。
だからローラはこの目に焼き付ける為、ウォルフの面倒を見る。だからティーナは友達の健康状態を確認する。

 ヘルツの用件はマイクロに相談し、二人で進言すると驚くほど簡単に認められた。
スチュアートは正直困っていたが、それを他領や王都に悟らせる訳にはいかない。
現状でも、無理を言って来る貴族家はいる。父親が言っていた「対等に話が出来ないなら、自分で切り開く」という事はとても難しい事だと痛感していた。

 それぞれ3名は、ここで出来る事をやりきったのだ。
助けに来たつもりが力を貰っている、きっとこれが今を生きて明日の希望を感じるという事だと思った。
ローラは今度、協会にお祈りに行こうと心に誓うのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 冒険者ギルドで来年度の応募者の事を調べてもらうと、早速ギルマスが対応してくれた。
ヘルツから王妃や王女も通う重要拠点なので、冒険者ギルドとしても積極的に貸しを作った方が良いと言われていたらしい。

「はぁ、確かに調べはついたと言ったが、来るのが早かったな」
「あ、すいません」
「それで、レーディスも紹介しろと言うのか?」
「ええ、直接会って話した事はあるんですが・・・。こちらの所属ですよね」
「ああ、どちらかというとギルド職員に近い位置付けだな」
「諜報部門とかあるんですか?あんな年配の方にお願いして危険はないんですか?」
「色々と質問が多いな、それなら直接聞いてみろ。レーディス、いるんだろ?」
「はーい。ギルマス、このままでいいの?」

 やけに明るい返事が聞こえてくると、自分より年下っぽい小柄な女の子が部屋に入ってきた。
「えーっと、レーディスおばあちゃんのお孫さんですか?」、ギルマスに問いかける。
その女の子がのどを指3本で掴んで、少し横にずらしたかと思うと、しわがれた声で「過去に会った女性を次々と忘れるとは、さすがぷれいぼぉいじゃ」と言った。
「ええぇぇぇぇ」

「よし、冒険者ギルドの秘密を知ってしまったので、こうなったら職員になるしかないな、他言無用だぞ」
「え?は、はい。ええ?」
「よし、言質を取った事だし、後で担当は伝えよう」
「いや・・・その。本気じゃないですよね」
「心配するな、一応冒険者への依頼という形で処理をしておくからな。レーディスもいいな」
「うん、いいよー。私はね、変装は得意なんだけど、長時間やってるとバレちゃうから、なかなか表に出られないんだよ。だから、お友達のにゃんこにお願いしてるんだ」
「はぁ、それはなんとなく理解はしていましたけど・・・、あれも魔法なんですか?」
「うーん・・・、わかんない。でも、にゃんこが教えてくれるんだよ」

 今は情報の方が大切なのでこちらに集中する。二人による報告で、今回はさほど変な者は混ざっていなかったと言っていた。
それでも、貴族家として婚姻が目的だったり、新商品・新種の野菜が目当てだったり引き抜きを画策する者などはいた。
あくまで可能性と言っていたが、あからさまにガレリアと敵対する者が平然と入っていたと言う。
今回は貴族の学園からの採用は難しそうだった。

 逆に学園からは多くの応募者があった。
王国マナーグループとティーパーティーグループからも多くの応募があり、農業科からも結構な人数が手をあげた。
何気にローラまで手を上げたけど、面接するまでもなく却下だった。
その報告を確認すると、報酬は後でナナに処理をしてもらう事になった。
学園内の面接は希望者と担当教授が1組になり、こちらは自分とレンとザクスで対応することにした。

 この話を学園にすると、早速応募したいという魔法科の女の子がいて、サリアル教授が付き添うことになった。
農場に来たので、ガレリアとレンに一緒にいてもらい面接をすることになった。
やってきたサリアル教授はため息をついていた、一緒にいたのは魔法科1年生のミーアだった。

 応接室で待っているとノックが聞こえ、どうぞと言う前に「ガチャリ」と扉が開く。
3人で立って出迎えると、いきなり「リュージさーん、会えなくて辛かったですー」と飛びつこうとして、サリアル教授に首根っこを掴まれていた。ガレリアも少し諦めた感じで席を勧めると、面接を開始した。

「もうね、リュージさんの噂をいろんな人に聞いて、一緒に働くならここしかないって思ったんです」
「は、はぁ」
「この王国で新種の野菜を作っていて、魔法も出来て、かっこいいじゃないですか?それに冒険者を目指してるなんて、夢を追う男性って素敵ですよね」
「えーと、この農場入ったらミーアさんは何をやりたいんですか?」
「それはもちろん。リュージさんの肩をもんで、お茶を出したり、散歩したり、たまーに冒険っていう名前のデートをしたり・・・きゃっ」

「コホン、サリアル教授から何かありますかな?」
「はい、本人は至って真面目なのですが・・・。申し訳ございませんでした」
「サリアル先生?何で謝ってるんですか?」
「あなたね・・・」
「コホン、今日の面接はここまでにしましょう。結果はおってサリアル教授宛に連絡しますので」
「はい、死刑宣告なら早いほうがいいですが・・・」

 すっかり憔悴したサリアル教授が、少し気の毒に思えた。
この少女を教育するには、最低でも後2年は必要だろう。

 ふと、遠くのヴァイスとキアラの事を考える、王子が帰って来る頃にはこの暑い季節も終わっている事だろう。
間もなく8月も終わる、現実逃避しなければやってられない日だった。

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