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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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151/161

151:夏祭り4

 噴水に感動した観客は舞台の一幕が終了したように、次第に帰り支度をしていく。
出店者達も徐々に店を閉めると、飲みそびれた客達は居酒屋やワインバーに流れ込んだ。
飲みすぎてはいけない、明日もタダ酒があるのだ。
そう思いながらも翌日は休みなこともあり、それぞれの店で女神さまへの感謝を肴に酒が進んでいった。

 翌日も朝からジリジリという音が聞こえてきそうで、暑さに堪える一日になりそうだった。
噴水前の警備の者も、噴水の水を回りに柄杓で撒いていた。
地面に触れた水は熱を奪い蒸発していく、決して地面をぬかるみにさせたりはしない。
協会関係者は王都民の為になるならかなりの部分を見逃し、噴水の周りに座ったりしても文句を言うことはなかった。

「リュージさん、今日もお願いします」
「はい、皆さんもお願いします」
昨日はお昼から始まって、遅い人たちでさえ大体20時くらいには閉まっていた。
今日はこれから現地に行って準備だから、昨日より2~3時間長いことになる。
周りの出店の人達はかなり辛そうにしていたけれど、農場の関係店は人海戦術で対応していたので問題はなかった。
暑さ対策も他所よりしているので、次回以降は他所からの相談が多くなるだろう。
ただ、来年は何もなければ普通に秋祭りになる予定だった。

 10時頃にラザーとヴィンターによる挨拶が始まると、男達が待ちきれないようにエールに群がった。
やはり人気なのは串焼きとナポリタンのようで、次点でマヨケチャと焼きとうもろこしに列が出来る。
今日は農場の調理場の責任者であるトルテも、一緒に祭りを回ってくれるようだ。

 昨日デートをしたヴァイスはローラについていて、ヘルツともう1名も護衛を務めている。
ティーナとザクスは別行動をするようで、残りメンバーは休みながら出店を巡る事にした。
特にローラは昨日出店を楽しめなかったようで、今日の公務はしないと心に決めていたそうだ。

 昨日寮に帰った時、談話室でティーナから密告があったのだ。
どうやら別れ際にキアラが告白したようで、ヴァイスは『友達から』と『一年待ってくれ』と返事をしたようだ。
「勇気を出したのに、生殺しなんて信じられない」と、レンが憤ったけれど、その返事だけでキアラは大満足だったようだ。
ローラは微妙な顔をして、ティーナも若干納得はしなかったけれど、一歩だけ進展した二人を祝うことにした。

 だから、今日のヴァイスは仕事を頑張らないといけない。
あっちの出店で並び、こっちの出店で並ぶ。
自分が声を掛ければショートカット出来る店はなくはないけれど、そういう事は世間的には許されないと思う。
可哀想に思った護衛が手伝いで並ぶと、特設会場で待つローラの前には多くの料理が並んでいた。

 途中、各店の補充で荷物を出すと運営は現場にお任せする。
みんなには8月の予定を聞くことにした。
ローラは是非、アーノルド領に行きたいらしい。理由は外では言えないけれど、動けるのは今年か来年しかない。
ヴァイスは8月いっぱいまで訓練をして、ラース村に行くから動ける日はなかった。

 レンも戻って来たばかりだし、朝顔を使って品種改良の研究をしたいようで、自分も農場に一ヶ月時間を割けるなら馬の訓練と数年先の計画も立てたいと思った。後はザクスとティーナの予定を確認したいと思う。
ローラ一人でアーノルド領に行くのは勿論認められなかった。

 噴水は順調にお祈りする人が増えていて、何十人かに一度くらい女神像が姿を現していた。
協会関係者はそんな人々のサポートをして、普段神事以外顔を出さない面々が住民と会話するようになった。
ヴィンターが大きく頷くと、いつの間に横に立った協会のお偉いさんが「よくやった」と一言誉めた。

「今日はお忙しいのではなかったですか?」
「皆の笑顔を独り占めされては敵わんからな。・・・これが協会の本来あるべき姿かもしれん」
「どの仕事も大切です。でも、今日だけはここが一番かもしれませんね」
「ああ、多くの者にここを話そう。今日の日を忘れない為に」

 昼食の時間を過ぎると、酔っ払いは更に酔いを進めていく。
女性達がサングリアで暑さ対策をしていると、ベリアは辛そうにしてる少年少女に冷たい水を振舞っている。
この世界にこの季節で、直前まで氷が入っていた冷たい水は貴重だった。
これはガレリアとリュージにも許可を取っている。
商売より人々の健康が大切だし、何よりこのサングリアを待ってくれた人々である。
昨日とはうってかわった、ラフな格好をしているマインも隣で手伝っていた。

 本来ベリアはセルヴィス付で仕事を手伝っているけれど、ワインバーの運営に直接関与をしていない。
これはセルヴィスの想いに応える為に、自分が言い出した事だった。
農場からの手伝いもきちんと準備しているので、休憩なども問題なかった。

 暑さがピークを迎えると、エールもぬるくなっていく。
かなり酔いが回った男達によるトラブルも各所で起き、その都度警備が収めにいく。
そして、昨日に引き続き、ベリアの場所でもトラブルが起きていた。

「おい、俺達にもそのまがい物飲ませろよ」
「はい、お求めならそちらに並んでください」
「いいから寄越せよ。どうせ大したことないんだろ。もったぶるな」
「ちょっと、酔いすぎよ。みんな並んでるんだから並びなさいよ」
「うるせぇなババア。俺様が飲んでやるって言ってるんだよ。誰のせいでワインが飲めなくなってるんだと思ってるんだ?」

 丁度並んでいたヘルツが一瞬ムッとなる。
「ほう、おっさん。いったい誰のせいだって言うんだ?俺にはわからねぇな」
「わからねぇって言うのか?こんなまがい物にぬるいエールなんか置いてるから、あのワインが飲めねぇんじゃねぇか」
「おいおいおい、タダ酒にまで文句言うのか?それだってギルド職員がこまめに運んでくれてるんだぞ」
「ぬるいもんはぬるいんだ。少なくとも俺のはぬるかった、それが全てだろう」
「まあ、この季節だもんな。金出して夜に設備が整ったところへ行けよ」

「ああ?俺様がこのまがい物を飲んでやるって言ってるんだよ。早く出しな」
「おっさん、周り見回してみろよ。そんな事言ってるのはお前だけだぞ」
「うるせぇよ。あのワインを愛する俺様が妥協してやるって言ってるんだよ」

「いいか、良く聞けよ。確かにあのワインが今飲めないのは事件に巻き込まれたからだ」
「ああ?」
「でもな、その後不買運動とか言って拒否したのは、お前を含めたこの王都の者達だ」
「俺はそんな事はしてねぇ」
「そう、そういう者もいた。だがな、徐々に出荷を絞られて、ギルドが手配してくれたワインにした仕打ちを俺は忘れねえ。そして飲み屋へ行く者も激減したと聞いてるぞ」
「そんなの俺一人のせいじゃねぇだろ」
「ああ、だからこれはこの王都の総意だって事だな。売れない物は仕入れられない、売れない先には出荷出来ない。そんなの分かりきった事じゃねーか」、ヘルツの勢いに男は黙り込む。

「それを踏まえて、さっきの言葉は見逃せねぇ。今度はエールか?お前、このエールを作るのにどれだけの人間が関わり、どんな手間でこの手に収まってるのか分かってるのか?」
「そんなつもりはねぇ」
「次はエールか?その次はなんだ?そりゃ、スチュアートに見限られる訳だな」
「見限られた・・・ってことは、これからもあのワインが飲めねえって言うのか?」
「普通に考えれば、今ある在庫は違う領へ流れるだろう。需要がある領はたくさんある、そして王都では拒否されている」
「俺は拒否してねぇ」
「だが、お前・・・いや、昨日の事件も聞いたから、お前達はすぐ否定する。一生酒とは無縁で真面目に働くといいさ」

「ちょいと、そこのあんた言いすぎだよ」
「ああ、俺は騎士をしているヘルツだ。スチュアートの事も知ってるし、この店主の事も知ってる」
「それにしてもだよ。せっかく、このお兄ちゃんが真面目に頑張ってるんだ。その酔っ払いへはその辺にしておいて、私達まで一緒にされたくないね」
「それは悪かったな。このまま酒離れが進むのに危機感を覚えたんでな」
「・・・みてーよ」
「なんだ?」
「俺だって、俺の周りだってあのワインが飲みてぇんだよ。エールだって必要だし、この兄ちゃんの飲み物だって美味いなら飲みてぇんだよ」
「じゃあ、飲んでごらんよ」
話に割り込んできた女性が、グラスを酔っ払いに渡す。

「美味ぇ・・・冷たいし、それでいてワインを感じる事も出来る」
「うちのワインが一味足りなかったのは認めます。これからは兄貴をサポートし、美味いワインを目指します。そして、アーノルド領のワインと何時でも選べるように、肩を並べられるように頑張りたいと思います」
「兄ちゃんいいぞー」
「がんばれー」

「みんな、そんなにアーノルド領のワインが飲みたいか?」
「当たり前じゃねーか」
「飲めるなら飲みたいわよ」
「エールも飲むがワインも飲むぞ」
「もし、その言葉を違えたなら二度と飲めなくなるぞ、それを踏まえてまだ飲みたいというのか?」
「「「「「飲みたーい」」」」」
会場からの総意として大きな声が返ってくる。
「そうか?じゃあ、動かないとだな。奴は俺の舎弟だ、お前達の言葉確かに届けるぜ」

 祭りは滞りなく終わった、人々の熱気は遅くまで続き、農場ではちょっとだけ豪勢な夕食をとった。
特設会場で涼みながら迷子対応と傷病者への対応をしていると、多くの関係者から御礼の言葉と挨拶をもらった。
翌日の王都では二日酔いの者が続出するのは恒例行事だ。
まだまだ暑い日々が続くけど、この元気がこの国を支えていると思うと嬉しくなるのだった。
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