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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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150/161

150:夏祭り3

 唯一空いている屋台を人々は興味深そうに見ていた。
農場の看板がある店にハズレはない、その事は誰もが理解していた。
ジリジリ焼きつくような日差しに、並ぶことなく買えそうな店、そして評判が良い看板に評判が悪かったワイン。
高くはないけど、「騙されて食べてみて」と言われて、騙されたくはなかった。

「ねえ、ママ。ここあいてるよ」
「こーら、あれもこれも買えないのよ」
「美味しそうなのになぁ、・・・ママのけちー」、その言葉に周囲から笑いが漏れる。

「お嬢ちゃん、そう言ってくれたのは君だけだよ。一杯ご馳走させてくれないかな?」
「うん、いいよー」
「お母さんも良いですか?御代は結構です」
「ええ、まあ。そういうことなら」

 特注で作った透明感があるグラスに赤いサングリアをレードルで注ぐと、水の樽を開けて適量まで注ぎ混ぜる。
水の樽にはブロックの氷が大きく浮かんでいて、キンキンに冷えていた。
「飲み終わったグラスは戻してね」
女の子にそう話すと、サングリアが入ったグラスを渡した。

 コクコクコクとのどを潤す女の子は、結構大きめなグラスなのに半分まで一気に飲んでしまう。
「ぷっふぁー」
またまた、周囲から笑いがこぼれる。きっと父親がエールを飲んだ時にする仕草なのだろう。
「こーら、外ではやっちゃダメって言ったでしょ」
「ママ、だってこれ美味しいんだよ」
「へぇぇ、良かったね。ねえ、ママにも一口頂戴」
少女からグラスを受け取った女性は、まずグラスが冷えている事に驚いた。
「え・・・、冷たい」
周囲の視線が自分に向いている事もあり、子供じゃない大人の感想を周囲は求めてた。

 コクリと一口飲むと、ゴクリと一気に残りのサングリアを飲み干してしまう。
「あー、ママ全部飲んじゃだめー」
「あ・・・、ごめんね。もうひとつ買ってあげるから許して」
「あ、グラスの中の果物はこの串を使ってください」
そう、グラスにはまだ甘い果物が入っていたのだ。

「お兄さん、そっちの白も飲んでみたいわ。この子には同じものを頂戴」
「はい、ありがとうございます。あ・・・、ちょっと御代が多いですよ」
「さっきのグラスはご馳走になるわ、その上でご祝儀ね。このグラスを返せば返金なのね。でも、記念だから貰っていくわ」
「ありがとうございます。では、こちら赤と白です。白はサッパリしていて今の時期にお勧めですよ」
「じゃあ、グラスごと貰っていくわね。お兄さん頑張ってね」
「お兄ちゃん、頑張ってねー」

 一人購入した後は、一気にお客が列をなしていく。
暑さが最高潮に達したことも相まって、女性と子供に大変な人気となった。
スタートダッシュは逃したものの、巻き返すように売れに売れた。

「あなた、良かったですね」
「ああ、信用とか信頼っていうのは失うのは一瞬だ。だがな、たった一人でも味方がいるって分かれば人は立ち上がれるもんだよ」
「ベリアさんはいつも頑張っているけど、たまに悲壮感が垣間見える時がありましたから」
「そうだな。奴もこれで立ち直れるなら、嫁を探してやるのもいいな」
「あら、あなたは自分の息子の世話をしないのに、他所様の子供の世話をするのですね」
「おかしいか?」
「いえ、うちの子は自力で最高の嫁を捕まえましたからね」
「ああ、じゃあ奴にとって最高の・・・、ん?」

 ベリアの店は列の他にも、円形に遠巻きにみている客が相変わらずいた。
そこにチンピラのような3人の男が、いちゃもんをつけに行ったのだ。
アーノルド男爵家ではないワインはまがい物だとか、完成された芸術品であるワインを汚すのかと文句を言う。
次第に輪が大きくなり、巻き込まれてはかなわないと客が一人二人と離れていく。
警備の者はチラチラと店を見るようになり、ベリアは手伝いの者と一緒に淡々と接客に努めていた。

「本当の事を言われて、返す言葉もないか」
「みなさーん、この店はまがい物を売っていますよー」
「黙ってないで、なんとか言ったらどうなんだ?おい、みなさんに謝罪しろよ」
「しゃーざーい。ほら、しゃーざーい」
「「しゃーざーい。ほら、しゃーざーい」」

 その頃、馬車が入れるギリギリの場所で3台の馬車が到着していた。
「マイ殿、到着しました。お手を」
「ミィさま、到着しました。お手を」
「マインさま、到着しました。お手を」

 マイの手を取ったのは公爵家に連なる者だった、残り二名も有名な貴族の子弟である。
いつもの鮮やかな原色のドレスではなく、今日は三人とも白いワンピースに麦わら帽子という姿だった。
ただ、腰にそれぞれのカラーを現すように、浴衣の帯のような物を巻いて後ろをリボンにしていた。

「わぁぁ、きれい。お姫さまみたーい」
「おい、まさか。ブルーローズか」
「こういうイベントに出ないって有名だろ。なんで来てるんだ?」
「もう、そんなのどうでもいい。この美しさを見れたなら今日は死んでもいい」
「今日限定かよ」
「明日も見れるなら、明日死んでもいい」

「ねえ、マイちゃん。みんな、こっち見てるね」
「ええ、ミィさん。私は本来こういう場所は苦手なんですが」
「それより、マインちゃん。良かったの?パパにバレちやうよ」
「それは仕方がない。ここで引退になるかもしれないし、続けられるかもしれない」
「あまり無理しないでね、マインさん」
「ありがとう、マイ。それでは早速行きたい店があるのだが」
「お嬢さま方、それでは参りましょうか」

 マインは誰よりも恋愛に夢を見ていた。
幼い頃から父親の関係で、イケメンで強く人々を守る騎士達を見ていたのだ。
しかし、騎士で修行する者は大抵若い男子であるし、女性がいる店や酒が好きだった。
自分に擦り寄ってくる男はダールスに睨まれ距離を置き、世間からは箱入り娘のように思われていた。
そんなマーリンをマインに変えたのは、当主であり執事として働いているブルーローズの経営者だった。

 正統派ナンバー1に甘えん坊キャラ、他にも多くの好みに対応する女性がブルーローズで働いていた。
マインは話し下手な男装の麗人を演じる事で、この二人にはないファン層を着実に重ねていた。

 それぞれエスコートを受けてベリアの店に到着すると、警備の者が一人で3人を宥めるように説得をしていた。
「他のお客さまに迷惑です。ここは収めて頂けませんか?」
「ああ?お前はこいつの味方をするのか?まがい物をまがい物と言って何が悪い」
「「俺達もお客さまでーす。警備の方は差別するんですかー?」」

「何をしている、今日は神聖な祭りの日だぞ」
「こ、これは公爵家の皆様。騒ぎがありまして、今説得をしていたのです」
突然の介入に三人の男達は、人ごみに紛れるように姿を消していく。
「て、店主。私達にもそのサングリアというものを出して欲しい。赤白3つずつだ」
「はい、ありがとうございます」
「皆、騒ぎに間に合わなくて申し訳ない。せめてものお詫びに私から一杯ずつ驕らせて欲しい。引き続き祭りを楽しんでくれ」

 警備がもう1名人を呼ぶと、行列の整理をしていく。
ベリアは公爵家の人にお礼を言うと、「貴殿にも対処出来ただろうに、良い場面を譲って貰った」と多目の会計を済ませていった。
それからのサングリアはまた売れに売れ、途中リュージを呼び出して補充をすることになった。

 次第に陽が沈んでいき、仕事帰りの男達が繰り出してくると、人々は異変に気がついてきた。
「おい、あの噴水光ってないか?・・・」
「気がつかなかったけど、確かに光ってるな」
段々噴水を囲む輪が狭くなってくる。

 半日をかけて挨拶回りをしていたローラは、ようやく出店に顔を出せるようになった。
その前に王家の務めとして、女神さまへ感謝することを忘れてはならない。
事前にリュージから噴水と女神像の事は聞いていて、説明は立て札に書いてあると協会関係者より説明を受けていた。
王都民の誰が一番に祈っても問題はないのだが、警備と協会関係者が人々を遠ざけていた。

 ヘルツともう一人が見守る中、ローラは大理石に裸足で入り、ゆっくりと緑のアーチをくぐり歩を進めていく。
噴水を見ていた観客と協会関係者は、そんなローラの姿が自然と目に入っていった。

 厚手のマットに両膝をつき、胸の前で両手を組むと祈りを捧げる。
小さな石材に手を添えると、今まで消音として動いていた噴水が、急に音を立て始め次第にその勢いが衰えていく。
入れ替わるように姿を現した女神像に人々は呆然となった。

 変化に気がついた噴水のヘリに座っていた男女や、子供を立たせていたお母さんは呆気に取られていた。
ゆっくりゆっくり後ずさるように離れると、その場で膝をついてしまいそうになる。
ヴィンター他、協会関係者はそんな人々の行為を止め、「静かに見守りましょう」と一言だけ添えた。

『慈悲深き女神さま 豊穣を司る女神さま 今宵この場を皆と共に過ごせる事をとても嬉しく思います』
『この地で生きる全ての者を代表し この感謝をあなたに捧げ 明日を誠実に生きることを誓います』

 小さな黙祷を捧げると、ローラは再び小さな石材に手をやった。
徐々に競り上がる噴水が女神の姿を隠し、再び光り輝く水のオブジェクトとなる。
パチパチパチと誰かが手を叩くと、盛大な拍手が上がりローラコールが起きる。
大理石を降りると、ヘルツと護衛から「お疲れ様です、ご立派でした」と誉め言葉が用意されていた。

 人々から見えない場所で照れ隠しのように微笑んだローラは、「この後、食べ歩きが出来ないのではないか?」と少し心配になるのであった。
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