挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

148/161

148:夏祭り

「あー、・・・ふっざけんな」
「なんだ?急にどうした?」
「このクソ暑さ、やってられっかよ」
「ああ、ひどい暑さだよな。そういえばお前、去年も言ってたよな」
「ああ、仕方ねぇっちゃ仕方ねえ。まあ、今日は祭りで早上がりだから、水分がとれないのがきついよな」
「おい、親方に休憩と水分補給をするように言われなかったか?」
「タダ酒が出るんだぜ、朝からからっからにするに決まってるだろ。去年は秋にワインが出たけど、今年も飲めるよな」
「知らねぇよ。それよりきちんと仕事を片付けないと、午後の休みが飛ぶぞ」
「そうだな、酒が俺を待っているぜ」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 農場の朝は早い。今日は加工業務を早めに切り上げて、全員祭りに参加する勢いで早め早めに仕事を切り上げていく。
ベリアと調理場の責任者で完成させたサングリアは、果物とワインの比率が分かったので樽で大量に仕入れ・大量に加工し、ワイン置き場で寝かしてあった。ギリギリまで待ったフレッシュな葡萄を大量に送ってもらい、セルヴィスも交えて最後の仕上げていたようだ。今日使う食材も、出荷場所に山になって積んである。
設営班は先に現地に行っていて、最終チェックを行っているだろう。
今日使う食材・サングリア・植木鉢などを順次収納に詰めていく。

 特待生組が合流すると、昨日の深夜に動いていたチームも起きだしてきた。
事前に知らされていた話だけど、今日はヘルツともう1名がローラの護衛にあたるらしい。
他にもこっそり警護している者はいるけれど、さすがにこちらばかりに構ってはいられないようだ。
そして、あからさまに警護についていると分かれば、馬鹿な真似をする者も減るだろうという話だった。

 今の時間は神事として、女神さまへ捧げ物をしていると聞いている。
前回のパンコンテストの優勝者とアーノルド家のワインを捧げて、その後は個人・団体で持ってきた品物を捧げるらしい。因みに優勝者でなくても、品物を捧げる事は問題なかった。2位と3位の職人も一般枠として奉納したようで、パン教室組のパンコンテストで優勝した寮の料理長と姉コンビも奉納したそうだ。

 この農場からは野菜が定期的に届けられているはずなので、サングリアの樽を赤白一個ずつ女神さまへ、もう一組は協会宛に送っていた。協会に酒を送るのは問題がないけど、さすがに神事をベロンベロンでやる訳にはいかない。
「多めの水で割って飲んでください」と、きちんと伝えておいたそうだ。

 遅くに起きた人々は、遅めの朝食を食べている。
一般の祭りの時間は、お昼から陽が沈んで人が減るまでか食材が尽きるまでで、酒の配布は、お昼から屋台が終わるまでになっている。明日は朝10時位から酒が配られて、屋台が終わる時間になるか酒が尽きるまで続く。
王国と酒飲み達との戦いの場でもあった。

 そうは言っても、通常多くの男は土曜日に仕事をしている。ゆっくり屋台巡りや祭りを楽しむなら、この土曜日が最適だった。この時だけは、王家や貴族なども町を普通に歩くようで、余程高貴そうな人に変な事をしない限り無礼講になっているようだ。今日明日はケインとフリーシアが二台の馬車を使い、農場と会場を往復する予定だった。

「じゃあ、みんな早めに会場に行って見学でもしようか?」
「「「「「賛成」」」」」

 中央広場に行くと、噴水の周りに4名の警備と、まばらにだが普段見ない修道服を着た協会関係者が多くいた。
「ああ、なんか見ているだけで涼しそうだな」
「ヴァイス、エントさん達と協会の方が頑張ったんだよ」
「へぇぇ、・・・細かい飛沫で少し涼しいような気がするな」
「さすがザクス、目のつけどころが違うね」
「ふはは。リュージ、もっと誉めていいのだよ」
「その言葉を言わなきゃねぇ・・・」
「なんだよ、レン。何時もの俺だろ」
「いつも通りだから、がっかりなの」

 立て札の近くに警備の人がいるけれど、誰も近寄ろうとしない。
ここにいる一般人は近くで見たい。でも、少し威圧感があるから遠巻きに見ていようという人が多かった。
それからは全員で準備中の屋台を回る、農場とワインバーの屋台の場所は職員がいるのですぐ分かり、手を振って「もうちょっと後で来るので、頑張ってください」と労いの言葉をかける。

 ある店はスイカの販売をしていて、どうみてもうちの農場で作ったものだった。
やけにごっつい店番がいたけれど、商店街の人々の他に商会や有志による出店者もいた。
転売は推奨していないとは公言しているけれど、スイカを切って売るのはセーフだと思う。

 ある店には『マヨケチャ』と書いてあって、アジア風の新しい食べ物かな?と思ったら、フライドポテトにマヨネーズとケチャップを乗せただけの商品だった。
さすがにフライドポテトの味を誤魔化すのに、マヨネーズとケチャップはやりすぎだと思う。

 クロウベーカリーは、とある店との提携でパンにレタスを敷いて焼肉を挟んだバーガーらしきものを出していた
串焼きの店や竹細工・布細工の工芸品などを売っている店もあった。
挨拶に行った3件のナポリタン店も見つけ、「後で食べにきてください」と誘われてしまったり、実行委員会席にいたレイクとラザーに捕まったりした。
そろそろ本格的に始動しそうなので、最初に急遽もう1店出して欲しいと言われた場所へ向かった。

 その出店には風輪が何個か飾られていた、そして段々になった棚が置いてあった。
店番の担当者に挨拶すると、棚に何個か植木鉢を置きスペースを埋めていく。

「リュージさん、この植木鉢って何が植えてあるんですか?」
「ローラ、この鉢は朝顔だよ。暑いから自由研究っぽい花にしてみたんだ」
「自由研究って・・・、個人で研究するんですか?」
「ああ、こっちはそういう風習なさそうだね。学生が誰でも出来るように日々記録をつけるんだよ。長期の休みなら出来るよね」
「それは、私でも出来ますか?どんな花が咲くんですか?」

「うん、ローラでも出来るよ。ザクス、ちょっと成長させてみてくれない?」
「任せとけ、あれから結構修行したんだぜ」
「いいね、じゃあお願い」

 植木鉢には添え木として一本中央に棒が刺してあった。
ザクスが一瞬で集中すると、繊細で安定した魔力を流し成長させていく。
二本の芽が競争するようにどんどん伸びて行き、花の正面が紫で根元が白い朝顔が夏の爽やかさを演出していた。
もう片方は紺というか藍色の花が夏の力強さを表しているように思えた。
遠巻きに見ていた観客も、「ほぉぉ、見事なものだ」と感心している。

「これが朝顔だよ、品種改良で種を取るのにも使えるかな?」
「え?リュージ。その辺もうちょっと詳しく」
「ああ、レンは品種改良グループだったよね」
「おい、リュージもだよ」
「ああ、忘れる所だった」
「忘れるなよ」

 いつの間にか、観客の客層が変わっていた。
早めに来た学園生もいたようで、講義を聴いているような感じになってる。
「その種を取るって、芋とか根菜類で使える感じ?」
「まさにそうだよ。じゃが芋なんかは、確かこれが使えるはず」
「ねえねえ、リュージ。相談なんだけど」
「うん、わかってるって。多分、色々用意出来るから祭りが終わるまで待っててね」
「ありがとう、楽しみにしてる」
「リュージさーん、私にもお願いします」
「いいよ、まずは新しい花の研究をしようか?」

 ザクスが何個かの植木鉢を、芽が出る状態まで持っていく間に、職員の為の暑さ対策をする。
店番の人の座る席の前に木のタライを置くと、水と少量の氷を入れる。
準備したよしずを立て掛けると、大量にタオルを置きでっかい麦藁帽子を渡した。
「水分補給をコマ目にしてください、今日明日は暑くなりそうです」
「リュージさん、ありがとうございます」
「それと、早め早めに交代して、きちんと休んでくださいね」
「はい、ユーシスさんにちゃんと聞いています」
「では、お願いしますね」

 祭りが始まるにはまだ時間がある、神事は順調に進んでいるようで、間もなくラザーかレイクから案内があるだろう。
焼きとうもろこし・カルツォーネ・サングリアの出店に食材を置いていくと、祭りを開始する宣言があった。
待機していた一部の人が酒を配る場所へ並ぶと、今回はエールが木のコップで配られていた。

 ジリジリと焼きつくような日差しを前に、衛生的に考えてなのか火を使う出店が多かった。
今回の自分の役割は荷物の中継だった。いくら周りが焼いたり揚げたりしていても、やはり暑さで少し心配になる。
そういう意味では、朝顔の鉢植え販売は鮮度に関係ないけれど、初日の昼間から重い植木鉢を持つ意味がない。
待機時間が長くなるけど、足元を冷やせるタライがあるだけ対策できているだろう。

 最初に目立った動きがあったのは、3軒のナポリタンと串焼き屋だった。
まずは腹を満たす為の食事と、エールのツマミに人々が集中した。
そして、少し良い生地の服を着ている人が並んだのは、農場の調理場の責任者が指導しながら揚げているカルツォーネだった。

 ナポリタンは昨年末に、食べたくても食べられない幻の料理として噂になったようで、エールを持つ男達はきちんと覚えてた。
3軒あるのでうまく分散されていて、今のところ問題は起きていない。
ただ、どこも他所とは違うよと言うもんだから、「3軒並ぶ必要があるのか?」と客が少し困惑していたようだ。

 徐々に警備の者と祭りを楽しむ者、教会関係者や冒険者など多くの者が祭り会場に増えていった。
「この大所帯で動くと結構大変そうじゃない?」
「ああ、そうだな。もうすぐキアラ達も来るしな」
「ヴァイス、待ち合わせしてたの?」
「あー・・・うん、まあな。ベリアさんやマーリンさんもだぞ」
「わかったわかった。なあ、リュージ。少し分かれて動こうぜ」
「そうだね、少し屋台の動き見て噴水の近くにいるから、みんなは少し楽しんでくるといいよ」

 ローラとヘルツと護衛で少し会場の各所を挨拶して回り、ザクスとレンは自分と一緒に動く予定だ。
ティーナとヴァイスがキアラ達を迎えるようで、セルヴィスの弟子達は警備と警護を兼ねて今日明日は動くと聞いている。

 今日は暑くなる、そして明日はもっと暑くなると言っていた。
豊穣と感謝の祭り、それぞれの思いが女神さまへきっと届く、そんな気がしていた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ