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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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138:蟲毒

「ふざけるな、お前達。なんて相手を捕まえてるんだ」
「おう、司祭さんよ。俺達ゃ、あんたの指示通りにやってるだけだぞ」
「そうさ、文句を言うなら、そこの二人に言いな」

 男達は酩酊しながらワインをグラスに入れ、ギラギラした眼で司祭を睨む。
馬車の近くにいた女性は相変わらず具合が悪そうで、ソファーでぐったりしており、女性に寄り添う御者の男は心配そうに額の汗を拭っていた。司祭は「間もなく救出部隊が来るだろう」と告げると、酒を飲んでいた男達が一人ずつ得物を持って玄関へと向かっていく。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「さてと、最低限の保険を送り込んだところで行きますか」
「マイクロさん、程ほどにお願いしますよ。この屋敷も接収する予定なんで」
「お前も随分、お貴族さまな考え方になったな」
「二人とも、王子の事も心配してくださいよ」
「「お前が言うな」」
「そんなに騒ぐと気付かれますよ」
「ティーナ、良い事言った。じゃあ、作戦は・・・、よし早いもの勝ちでいいな」
「クラック司祭は、なるべく生きたまま確保してくださいね」
「ああ、お貴族さま。善処するぜ」

 三種類の近衛達が片手剣を構える、ティーナは弓矢を取り出し矢筒を腰に装着する。
「ティーナ、今回の出番はないと思うが、足止めと自分の身を守る事に集中してくれ」
「はい、では行きましょう」

 スチュアートがドアをドンドンドンと叩くと、「アーノルド男爵家のスチュアートだ。少し屋敷を検めたい、家主は出てきてくれ」と大声で宣言する。ドンドンドン、ドンドンドンと繰り返すと、ギィィィィと音がしてドアが開く。
一歩下がったスチュアートは、短剣を繰り出しながら出てくる男に向かって、ドアを蹴り再び閉める。
すかさずドアを開いたスチュアートは大きくドアを開くと、ティーナがドアの前に不用意に立っている男に向かって射た。

「あー・・・、思ったより手応えないな。スチュアート、お前一人でやるか?」
「マイクロさん、あからさまにやる気無くさないでくださいよ。これでも大事な妻とお腹の子供が待っているんです」
「二人とも、真剣にやってください。人質がいるんですよ」
「「じゃあ、お前が急げ」」
二人が倒れているが、最初に10名前後いると予想をしていたので、余裕とは思っていても油断はしていない。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「王子、マイクロさん達が突入したみたいですね」
「リュージ、手間をかけるな。そろそろこっちを人質にする為に人がやってくるぞ」
御者と司祭風の男、それに2名の片手剣を持った男が鍵を開け室内に入ってきた。

「あ?てめーら何で武器を持ってるんだ?おい、きちんと身体検査しなかったのか?」
「勿論しましたよ、こっちは確かに丸腰でした」
「これは王子、このような所で何をしているんですか?」
「ほう、お前は王都にいたクラックだな。何故安定した協会の司祭がこんな屑と・・・、そうかお前の方が依頼主なんだな」
「死んでいくあなたには関係ありません。武器を放って投降するならば、王族らしい死をお届けしましょう」

 次第に広がって囲もうとする4名、レンとセレーネは王子の真後ろに隠れるように下がる。
一歩前に出ると木製の両手鎌に魔力を込め、大きく振りかぶって御者の男目掛けて振り下ろした。
距離を取っているにも関わらず、刃の先から魔力が袈裟斬りに飛ぶと、御者の男は弾かれたように吹っ飛び、何かの重さで床に貼り付けになった。

「てめぇ、何しやがった」
「恫喝してないで、さっさと取り押さえなさい」
「うるせーよ、指図ばかりしてないでお前も動け」

 王子は救援が来た時点で、この屋敷での行動は諦めたようだ。
あまりに程度が低い盗賊に、まもなく捕まるであろう司祭を興味なさそうに眺めていた。
下の階の喧騒も段々小さくなってきている、制圧も間近かなと仲間割れを見ていると、司祭が懐から何か取り出した。

「では、頼りないお前達に少しは力を与えるか・・・」
クラック司祭は倒れている御者の男の近くに立つと、闇色の小さな塊を男に降り注ぐように親指・人差し指・中指で潰す。
下からこちらの部屋に向かって走ってくる音が聞こえると、既に下は制圧されたようだった。
サラサラ降り注ぐ闇の粒子は、スローモーションのように男に落ちていく。

「リュージ、気をつけろ。三名は残りを捕縛せよ」
マイクロ・スチュアート・近衛が剣を構えると、司祭と二名の盗賊に接敵する。
すると、それぞれ武器が届く直前の距離で、思わず耳を塞ぎたくなるような共鳴音がした。
全員が頭を抱え蹲る、御者の男は目に見えない鎖の拘束が解けないようで、胸辺りから激しく不思議な動きでバウンドしていた。

 1階のティーナはロープで盗賊達を簡易的に縛り上げると、ソファーで苦しそうに喘いでいた女性を発見する。
万が一誘拐された可能性もあった為、彼女を連れて油断はしないように二階の部屋に合流しようとした。
かなり衰弱しているようで、あまり動かすのは得策ではないかもしれない。
ただ2階に行けば、レンが癒しの神聖魔法を使えるはずだった。

 リィィィィィィィィィィィィィィィィィ。
階段までゆっくり時間をかけて向かったティーナと女性は、縛って転がした盗賊達を何とはなしに見た。
小刻みに震える者・激しくバッタンバッタンしている者・咽を震わせて超音波のような音を出している者などがいた。
どの盗賊も致命傷には程遠い、それでも刃向かった分だけダメージは確実に積み重なっていた。
奇妙な光景を見ていると、一人の盗賊の片腕が霧状に消えた。

「緊急事態。1階で異常発生、撤退しましょう」
ティーナが大声で叫ぶと、玄関に女性を連れて行く。
ある盗賊は胸が裂け、心臓の位置から球形の霧が発生する。またある盗賊は片足が消失し細長い霧が発生した。
「みんな、急いで」

 マイクロが司祭にタックルをすると、スチュアートが倒れている御者の男を踏みつける。
近衛が2人の盗賊に続けて当身を食らわすと、王子が撤退命令を出す。
スチュアートが道を作り、全員で1階に行くと闇色の拳大から腕や足の長さのカエルや蛇・トカゲ・ムカデなどが戦っていた。
「刺激をしないように、隅を行こう」
王子の指示に、周囲を警戒しながら慎重に出口に向かうと、また2階から共鳴音が聞こえてきた。
すると、今度は窓やドアが振動を始める。

 アアァァァァァァァ。
どこからか別の呻き声まで聞こえ始める、ドアもバッタンバッタン開いたり閉まったりしていた。

「これはブラウニーか・・・」
「スチュアート、それは精霊か?」
「ああ、精霊とも妖精とも言われている。色々な事を手伝ってくれる心優しい精霊さまだよ」
「それがどうして?」
「ああ、これは家主に危害が加わって、狂う手前って感じか」
「王子、とりあえず外へ」

 近衛が玄関のドアをキャッチして、顔が真っ赤になるくらいの力で固定する。
王子・女性達・最後はマイクロの順で脱出すると、全てのドア・窓等の振動が止まった。
「助けられたのは、この女性だけか・・・」
「王子、このままで済むとは思えません。馬と馬車をすぐに確保しましょう」
「ああ、ここは任せた」

 王子と近衛が馬と馬車を取りに行くと、屋敷の中が驚く程の静けさに包まれていた。
「マイクロさん、さっきの闇って何でこっちを攻撃しなかったんですか?」
「リュージ、そりゃあ。まだ美味い餌があったからだよ」
「そうなると、これから出てくるのって・・・」
「ああ・・・」

 2階の石壁をドゴーンと突き抜けて、南米とかにいそうな巨大な蛇が目の前に登場した。
闇色のパイソンやアナコンダといったところだ、眼だけは真っ赤に光っていて、口からは何か危険そうな息を出している。
壊れた石壁は直ちに修復していた、ただ中に入るには嫌な雰囲気がプンプンしている。

 木製の鎌を仕舞い、購入してから初めて使う本気用の鎌を出す。
「スチュアートさん、大きく下がって女性達をお願いします。マイクロさん期待しています」
「ほう、今日はリュージが指揮取ってくれるんだな」
「ええ、偉い人を護衛するなら順番を考えないと」
「お手並み拝見だな」

 マイクロ・ティーナ・自分にホーリープロテクションを順番に唱えていく。
足元が渦になっているようで、鎌首を上げた仮称【シャドウ・ミスト・パイソン】の頭は3mくらいの位置にあった。
長い名前だから省略してSMPと呼ぼう。マイクロは全身淡く輝いていて、ゆらゆら揺れて何かを誘うSMPを警戒している。ティーナもまだ弓で狙いをつけているだけで、様子を伺っていた。

 王子が近衛と一緒に馬と馬車を連れてくると、少し迂回するように合流し、馬車に具合の悪い女性を乗せている。
「レン、余裕あったら彼女の事を診てあげて」
「わかった、リュージ」

 王子はこのSMPが倒れる姿を見ないことには移動しないと言い、スチュアートも王子が動かないなら撤退は出来ないようだ。前衛に近衛が加わってくれたので、彼にもホーリープロテクションをかける。
「毒を吐く可能性が高いです、後ろの方は大きく距離を取って、前は少し散会気味に行きましょう」
「良い指示だ」
4人が構えた武器に気合を込めると、SMPの赤い眼が光ったような気がした。
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