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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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013:熊退治

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2200PVを超えました。
 神経質っぽくのっそり姿を現したのは鋭い牙を携えた猪だった。
熊の行動範囲とかぶって食料を探し回っているということはここでの上位者の位置づけなのだろう。
こちらの人数を見ても退く気配は見せなかった。

「じゃあ、いっちょ前哨戦といくか。まずは俺が攻撃を受け止める」そう言うとマイクロさんが盾とメイスを構える。
「アランと坊主はさがってな」ゲイツさんが言い射線を確保しながら弓を構える。
マイクロさんは槍兵二人に周囲の警戒を促し弓兵が綺麗にフォーメーションを組んでいく。

 ゲイツさんが猪の足元に放った矢が猪を挑発する。
後ろ脚を何回か蹴り勢いをつけた猪がゲイツさん目掛けて突進してくる。
4名の弓兵から放たれる矢は狙いを違わず猪に突き刺さった。

 勢いを削げるかなと思ったが猪の突進は止まらずゲイツさんを目指す。
ゲイツさんは慌てずマイクロさんの後ろに歩き「後は宜しくな」と言った。
マイクロさんは盾の角度を調整し突進に備える。

 通常、騎士の戦いは剣と盾を用いての対人戦がメインである。
いくらスピードがあっても膂力が凄くても人間には限界がある。
なのでいかに相手の体格から考えられる動きで武器から繰り出される軌道を逸らし・受け止めることが出来るかが騎士の戦いなのだ。ただ、敵の攻撃を捌くにはそれなりの技術が必要になる。

 タワーシールドは屈めば全身を覆うくらいの大きさである。
主に大規模の戦で使う盾であり、冒険者だった経歴としては珍しい盾の使い手である。
マイクロさんに珍しい盾ですねと話すと「狭い場所などでは扱いにくい装備だしな」と言った。

 自慢の牙を信じ矢にも負けず突進してくる猪。
弓兵さんから2射目集中の掛け声が聞こえ、猪はマイクロさんに接敵する。
ぶつかると思った瞬間目を閉じたが、聞こえてきたのは鈍い音で猪が片膝をついたような姿勢でバランスを崩す。
突進のエネルギーの方向を逸らし、ついでに顔面をメイスで強打したらしい。
あまりの早業で状況を把握するのに時間がかかった。

 マイクロさんは全員に狙いつつ待機の指示を出した後、すぐに猪の上に人が乗っているのに気がついた。
いつの間にか意識の外にいた短剣使いの兵士が首を目掛けて斜め上からザシュっと両腕を振り下ろした。
「皆喜べ、久しぶりの肉だぞ」とゲイツさんが言うと周りから笑い声が聞こえる。
どうやら猪退治は一瞬で終わったようだった。

「坊主、ロープをくれや」とゲイツさんが言うと器用に猪の後ろ脚を縛り短剣使いの兵士が器用に何箇所か傷をつける。どうやら血抜きをしながら熊への挑発行為をすることに切り替えたようだ。

「しばらくここにいるぞ、一時間ずつの3交代で警戒をするように」マイクロさんが言うと早めの休憩になった。

 一場面さえ見なければ山の中は非常に平和だった。
見えるギリギリにはウサギの影もあり、樹の根元にはキノコが生えていて近くには茂みや蔓植物なんかもあった。

 血抜きが終わると猪は用済みになる。
「なあ、この猪とこれから狩る予定の熊なんだがいっぺんに運べねえよな」ゲイツさんが言う。
「今回は熊退治だけだから倒してほっといてもいいんだけどね。折角の肉をそのままにする事はないね」とマイクロさんが追随する。
この発言に槍兵2名が村までの輸送を申し出た。
「2名じゃ心もとないな」とゲイツさんがマイクロさんに何か合図を送る。
「よし、では2名追加の4名体制で輸送をしよう」と言うと弓兵1名と私兵を指名した。

 これに異論を挟んだのは私兵だった。
建前上は熊退治の報告だったが自分の監視がメインな以上、このグループから離れる事を嫌ったのだろう。
マイクロさんは戦うのは私達だし熊はきちんと退治して持ち帰るからと説得を始める。
それに子供にそんな大物を持たせる訳にもいかないだろうと。
戦力でもない大人を一人ずっと余らせたままにしてはもったいないとの事を遠まわしに言った。
休憩が終わると渋々了承した私兵と兵士3名は猪の移送を開始した。

 早めの食事も終わり警戒しつつも少し自由時間となった。
気になったのは蔓植物だった、もしかして食料になるかと思いじっくり見てみる。
これってムカゴかな?そうなるとこの蔓を辿っていけば自然薯が取れるかもしれない。
カゴの所に行きリュックをごそごそする振りをしてウエストポーチからシャベルを取り出す。
ゲイツさんとマイクロさんに断りを入れてから自然薯があるであろう場所を掘り始めた。

 掘る掘る掘る掘る・・・確か自然薯って長いものだと1mにもなるらしいなと思いながらも掘り進める。
芋の上部が見えた所でこっそり地面に魔力を流してみる。
開墾できるなら土をほぐして軟化させることも出来るんじゃないかなと思い魔力を流してみたが上手くいったようだった。
シャベルの刺さり具合が柔らかい、このペースならゆっくりでも掘り出せると思う。
小さいシャベルなので演技をしないといけないのが辛いところだった。

 周りの皆はこちらに興味が薄れたようで猪がいた場所を中心に警戒している。
自然薯掘りの作業が終わり皆に見せた所、「おおぉ」と感嘆の声をあげた時またしてもアランが連れている犬が唸り声をあげる。
「どうやらお目当てのものが釣れたようだな」ゲイツさんが言うとマイクロさんが「ここからが本番だ、気を引き締めろ」と発破をかける。

 四足歩行で姿を現したのはブラウンベアーだった。
来る時グリズリーやツキノワグマを想像していたので凶悪というイメージはなかった。
穏やかな動作で口には狸らしきものを咥えのそのそとこちらの前に出て・・・、突如ボキィと音がしたかと思うと一瞬狸が弛緩し口から血が滴る。狸を草の上に投げこちらを標的として認めた。
前言撤回、メチャクチャ怖いです、そしてとても凶悪です。

「さっきと一緒で二人は下がるんだ、ゲイツさん今度はもうちょっと協力してくれ」とマイクロさんが言うと武器と盾を構える。
猪で怖かったのは突進からの牙攻撃だ、これは馬上で槍を持った騎士が行うチャージに近い。
ブラウンベアーでは脅威となるのは爪と噛み付きだ。
マイクロさんはどちらにも対応出来るように守りの体勢をとったようだった。

 弓兵が構えゲイツさんが威嚇射撃をする。
四足歩行のまま睨む熊は威嚇の為の矢には慌てる素振りを見せなかった。
ゆっくり近付く熊が中距離まで来ると急にダッシュで飛び掛るように跳ねた。
1射を放ったゲイツさんは先程の猪戦同様すぐにマイクロさんの背後に陣取るが、今回は熊の威圧感ある体躯に慌てて数歩余分に下がる。3名の弓兵が放った矢は熊の緩急をつけた動きに対応しきれずにはずした。

 飛び掛った熊は目標をマイクロさんに定め、首元を狙った噛み付きが決まるかと思われたがメイスを顎にヒットさせて盾を放り距離を取る。
「2射目集中」の声が弓兵から聞こえ、ゲイツさんが軽く意識をかられた熊の肩の辺りに矢を放ちヒットする。
すると続けて弓兵の矢も面積の大きい上半身部分に3本当たる。
「3射目集中」の声が聞こえ、この弓矢の攻撃の間に盾を拾い構え直したマイクロさんが熊に向かい挑発するかの如くメイスと盾で大きな音を立てた。

 アランは犬を抑えるのに集中していた。
その隣で念のため素手では怖いので杖代わりにディーワンを持っていたが持つ手に不思議と力がこもる。
目の前の熊が不意に標的を変えるかもしれないので何がおきても良いように動ける体勢を取る。

 何射目になるだろうか、矢衾になっている熊がいた。
魔法による補助も考えたけど兵士達の練度の高さに割り込んで劇的な効果が上がるものが正直見当たらなかった。
徐々に鈍くなる熊にトドメを刺したのはやはり短剣使いの兵士だった。
「もういいぞ」とゲイツさんが言い「案内ご苦労さん」とマイクロさんが微笑む。
熊の血抜きもしたかったようだが早めに村に戻り、これ以上不用な獣を呼ぶこともないだろうとマイクロさんが言う。

 帰りはアランと二人で兵士の荷物を持てるだけカゴに入れる。
タワーシールドに手足をロープでまとめられた熊を乗せ引き摺るように運ぶ。
帰り道はアランと短剣使いさんが先頭で大人5人が熊を運んだ。

 帰り道に聞いた話けどマイクロさんと短剣使いの兵士は冒険者として同じパーティーに在籍していたらしい。
メンバーの怪我を機に2人は兵士になったそうだ。

 まもなく夕方になる頃には村に着き、衛兵さんの姿が見えると村長と私兵も一緒に待っていて「よくやったの、大活躍じゃの」と村長が興奮していた。
これから獲物の処理をするので数日したら食堂で祝勝会を開くとのこと。
私兵さんが何人かの兵士に自分の様子を聞いていた。
兵士さんはおかしな行動はなかったと言っていて、熊退治の報告は二の次のような気がする。

 今回は守られていることが正しかった行動なのでこれで良かったらしい。
村への恩は違う形で返していこうと思う。
荷物を兵士に返し犬はゲイツさんにお願いすると今日の仕事は終わりだった。
これからアランと孤児院に戻るけど、話を聞かせてとせがむ年下の子達への説明が大変だなと思った。

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