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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
120/130

120:おねがい

「突然叫んでどうしたんですか?」
「リュージ君、水を使ったイベントで何か案はないかな?こう、オブジェクト的な物でもいい」
「うーん、場所と規模がわからないと何とも・・・」

 びしょ濡れで朦朧状態から戻ったナナが、恨めしそうな目でこちらを見つめてくる。
「ナナさん、ワァダさんは魔法で不安定な状態だから、不用意に近付かないでって言いましたよね」
「あ・・・、そうでした」
「まぁまぁ、リュージ君。人としては正しい行動だと思うよ」
「それが事前に注意されてなければなんですが・・・、ラザーさん秘密でお願いします」

 ワァダを抱き起こし、泥を払うとここでは邪魔になるので移動しましょうと連れて行く。
まだ時間があるのか、ラザーも農場の見学も出来ればしたいと言い、もしそちら方面に行くならついて来たいそうだ。
レンとザクスの進み具合を確認する為、ワァダとラザーを連れて移動した。

「ヴァイス君・ティーナ君、ちょっと良いかな?」
「「はい、ガレリアさま」」
「二人ともかしこまりすぎだよ、今はだたの下っ端男爵さ。少し付き合ってくれるかな」
「「はい」」

 ガレリアが二人をある一室に招くと席にかけるように言う。
すぐにナナがワゴンを押してきて、お茶を置き待機していた。
「特に問題は・・・、なさそうだね」
「「はい」」
「リュージ君の事は引き続き頼むよ。後、ローラさまの事もね」
そう言うとナナに目配せをして、テーブルの上に皮袋を二つ置いた。

「ガレリアさま、これは頂けません。リュージは既に学園で自衛の手段を学んでいますし、ローラさまも多くの人々に見守られています」
「私も同意見です、仲間に対して金銭の授受も後ろめたいというか・・・」
「ふむ、二人の意見はわかる。ただね、これは依頼に対する報酬なんだよ。表立ってランクには関わるように出来ないのは心苦しいけどね」
「でも・・・」
「ティーナ君なら分かるね、依頼を出す方も命がけなんだよ。中途半端な冒険者なら、そもそも依頼なんか出せないんだ」
「分かりました。ヴァイス、この分は働きで返せばいい。3人がこの農場に関わっているなら、私達は置いてかれるだけだよ」
「そうだな、ありがたく頂きます。リュージが鎌を持たなくてもいいぐらい頑張るか」
「それは正直微妙かな。一人でいても心配ないくらい鍛えよう」
「二人とも程ほどで頼むよ」

 丁度その頃レン達と合流すると、3精霊さまが見守る前でザクスが行った成長促進が形になっていた。
結構な広範囲だったので出力が足りなかったのか、野菜畑も花畑も芽が出るに留まっていた。
野菜畑の端っこにはお願いしていた、直売場の野菜を展示するような傾斜のついたカウンターが設置されていた。
そこから少し離れた場所に、百葉箱のような白い木箱が設置されていた。

「リュージ君、これはなんだい?」
「ラザーさん、精霊さまの希望で蜂などが来るようです」
「それは、ほっといても来るものだろう?」
「うーん、何かここって特殊らしいんですよね」

 多くの人が待っているのでラザーに少し待ってもらい、最後の仕上げに入ろうと思う。
「準備が出来たみたいですが」
「リュージ、ありがとう。蜂さんと蝶さんが来たいと言っていたので宜しくね」
「はい、仕上げは自分がやりますので、準備をお願いします」

 緑の精霊さまが、扉の開いた百葉箱の中へ何か集中しだす。
箱の中央に緑色の染みが発生したかと思うと、茨が球状の塊になり上部が少しずつ広がって空洞が生まれた。

「ザクス、続きやっていい?」
「ああ、魔力不足だし、これ以上は俺では力不足だ」
二つの畑に魔力で干渉する、土の魔力は十分足りているようなので、全体的に成長促進をかけていくと花畑に変化があった。

「畑の方は徐々に成長するでしょう。ユーシスさん、ここで収穫できた野菜は数本だけ、あのカウンターに置いてください」
「はい、こちらは精霊さま用に確保しておきます」
「では、花畑も満開のようですし。緑の精霊さま、大丈夫ですよ」
「ありがとう、リュージ。じゃあ、呼ぶよー」

 扉を閉めるように言われたので、近くにいたザクスが白い箱の扉を閉める。
魔法で召喚すると思っていたみんなは、「蜂さーん、蝶さーん出ておいでー」の言葉に変化を見守った。

 扉が閉まった白い箱の、正面上部から一匹の蜂が顔を出す。
習性なのだろうか?念入りにキョロキョロ辺りを確認すると、一直線に花畑へ飛び立った。
1匹2匹と蜂が飛んでいくと、今度は真っ黒なアゲハ蝶が姿を現した。
次第にどこからそんな出てくるのか?というような量の蜂や蝶が出てくる。

「普段はこちらで過ごしてもらって大丈夫です。もし、農場内を飛び回るようでしたら、お昼と午後の休憩がありますので、その時間にお願いします」
「うん、分かったよ。みんなにはちゃんと伝えるね」
花畑が一気に幻想的な楽園の姿に変える。
レンの「きれい・・・」という言葉に、お願いを聞いて良かったと思った。

 ラザーは感動していたが、この場所については秘密にしてもらった。
勿論、王家には隠すことが出来ないので、そこは了承したけど、ここは直接見た人だけの特権だ。
ユーシスに見学コースからは外して貰うようにお願いした。

「見事な精霊の園なのじゃ」
「ほんと、羨ましいわね」
「へへー、いいでしょー。蜂さんが後でお礼に蜂蜜を渡すんだ」
「坊や、それは蜂さんがするお礼でしょ。それじゃ釣り合ってないわ」
「うーん、リュージ。今、何か欲しいものある?」

 周りを見回しても緊急事態はない、・・・いや、フラフラし出したワァダが又、頭の上辺りに水の塊を無意識に生み出していた。
「リュージさん、グルグル回りますー。ちょっと横になっていいですか?」
「ワァダさん、ここは畑ですよ。部屋で水浸しも困りますが」
「リュージ、ここは私が手伝ってあげるわ」

 水の精霊さまがトンとワァダを叩くと、一瞬意識がはっきりする。
「なんて可愛らしい妖精さまだ・・・」
「あら、思いの他いい子ね。ただ、可愛いじゃなくて綺麗と言ってくれないかしら」
「き・・・れ・・・い・・・、だ・・・ぁ」
「一瞬だけ魔力を開放しなさい、いい?1・2・3」
上空に溜まった水の塊が一瞬のうちに広範囲に霧散した、周りの温度が数度下がったような気がした。

「リュージ君。今、何が起きたんだ?」
「ラザーさん、水の魔法が霧状に広がったんです」
「これはいいな、今のはリュージ君がやったのか?」
「いいえ、ワァダさんと水の精霊さまです。多分、今ので魔力切れ直前の暴走はなくなったかと」

 水の精霊さまがワァダの頭をトントンしていた。
幸せそうに眠るワァダには、後で少し仕事を増やしても大丈夫かなと思う。

「ねぇ、リュージ。おーねーがーいーは?」
「今ので十分ですよ」
「だめー、あの子は水の精霊が叶えたの。リュージのお願いを聞かないと蜂さんや蝶さんに怒られるー」
「えーっと、じゃあ夏場に向けて涼しくなる魔法を覚えたいです。氷とかあればカキ氷とかも作れるし」
「氷ならユキちゃんなのじゃ」

 ラザーがぶつぶつ喋りながら、事務所の方へ戻っていく。
ユーシス達も一通りここでの作業が終わったようなので、それぞれの仕事に戻りたいと言ってきたので了承した。
「ワァダさんも連れて行って」と慌てて職員に言うと、ユーシスが忘れてたと背負っていった。

「あら、ユキに用があるの?ちょっと起こすのに時間がかかるから待ってね」
「ユキちゃんは水の精霊の妹なのじゃ」
「へぇぇ、精霊さまにも兄弟姉妹がいるのですね」
「仲が良い者同士が勝手に名乗っているだけなのじゃ」
「もー、おじいちゃん。ちょっと静かにして、あの子寝起き悪いのよ」

 しばらく花畑を見ていると、レンが畑の土について感想を求めてくる。
土の精霊さまが「良い出来なのじゃ」と言っていたので、自信を持ってOKを出すと、とても喜んでいた。
ローラは自分より更に花畑に夢中だ、蜂や蝶に警戒されない位置まで近付くとうっとり眺めていた。

 色々見える者同士で自己紹介を進めていくと、ちょっとだけ周囲の温度が下がったような気がした。
「そろそろ来るのじゃ」
おじいちゃんの言葉に、百葉箱からこちらを覗き込む視線を感じた。


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