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103:高級ジャンク

 みんながパンの製作をしている頃、ガレリアと打ち合わせを含めた世間話をしていた。

王子は打ち合わせの後にセレーネを出迎え、「農場を見学したい」と申し出たので、少し離れた位置に護衛を一人以上連れていく条件でOKを出した。農場はとても広いので見学は程ほどでお願いしますと伝えると、セレーネの体力に合わせて見学するようだった。パン教室の方はレンに総監督をお願いして、進行は調理場の責任者が進めてくれるので安心だ。


 少しするとルオンが最後の挨拶にやってきた。

本当はしばらくこの農場に関わっていたいと言っていたけど、自領の繁栄は領地持ちの貴族としては忘れてはならない事だし、本来なら生涯の伴侶を得て子孫も残さないといけない。

今もレンが助けてくれていることを話すと、「レンの事を末永くお願いします」とローレル教授みたいな事を言われてしまった。

ルオンはこの後、一人一人と挨拶する為に現場へ向かった。


 今回のパンの製作は結構時間がかかる、その間に先を見据えた作業をしようと思う。

森エリア近くに行くとドワーフのゴルバを見つけた、外部顧問なので毎日いる必要はないのにほぼ毎日いるそうだ。

声を掛けると「お、とうとうやるのか?」と、近くの道具置き場から鍬を持ってきた。

事前に植える樹の話をしていたのでアドバイスを貰う、そして樹が十分育つ範囲に梅の苗木を植えた。


 楽しそうに苗木に水をあげるドワーフ・・・、樹を愛するのはエルフじゃないのかと思ったけど、某童話の七人の小人はドワーフだからイメージとしてはありと言えばありかな?あんなに可愛い存在ではないけどね。

とても嬉しそうに水をあげていたので、仕事を奪ってはいけない。


 ぐるっと見学していた王子とセレーネが一緒に見に来て、どんな実が成るか質問を受けた。

説明をすると新種の植物に感動した王子と、ジャムにもなると言った所で喜んだセレーネが思い出したように、届けられたイチゴジャムのお礼を言ってきた。とても喜んでいたようで、自分だけではなく特待生組を含めて、力になれることがあったら何でも言って欲しいと言われた。


 丁度良かったので、王子にお酒の製作についても質問してみることにした。

家で消費する分には自己責任で良く、販売するには商業ギルドと王国でのチェックが必要になるそうだ。

作業が終わったので、王子とセレーネと一緒に皆がいる場所へ合流した。


 両肘をついて発酵具合をじっと見ているローラ。

待ち時間の間にパンに合うつけ合わせや小鉢・スープを作ると責任者が言うと、興味津々な様子で料理班がぞろぞろと後をついていく。

責任者は初めてでも作れるように指示をしていく、一度でも協力して料理を作ったことがある寮の料理長と姉コンビは阿吽の呼吸で作業を進めていた。


 少し大きめのソーセージを人数分用意し、すぐ炙れる準備をして大量のキャベツの千切りをした。

責任者は事前に準備してあったチリソースとチリビーンズを、味見と称して各料理人に小皿で渡している。

キャベツの千切りの半分はザワークラフトと化していた。

芋と卵は常備してあるので、適当にマヨネーズを使って何時ものサンドイッチの具材を作っていく。


「リュージ君、今日は私も招いてもらってありがとう」

「レイクさんは粉の件もありますからね。折角美味しいパンが作れるのに、このままお蔵入りじゃ悲しいですから」

「そうそう、それでさっき作っている時に困ったんだけど、この粉の名前どうしようか?」

「ああ、さっきは何て説明したんですか?」

「魔法の粉だよ」

「それはまずいですね」


 今残っているメンバーに候補の単語や用語を伝えてみるた。

『イースト菌・ふくらまし粉・ラース・芋・ドライ』とキーワードを出してみると一旦持ち帰って宿題となった。

ラース村に関わりがある事を前面に押し出すかどうかもあり、生芋はしばらく王国の一部にしか出荷されないはずだ。

あまりにも有用な食物である為に、色々と騒ぎ立てるのは得策ではないらしい。


 調理場へ行くと勉強会の様相を呈していた。

浅い油で揚げ焼きのコートレットのように、鳥でチキンカツを作っていた。

本当はウスターソースのような物が作れるようになってから披露したい料理だった。


 ウスターソースが出来たら醤油とか味噌とか、白米とかも絶対欲しくなると思う。

そうなると問題は麹であり、米の本格導入が必要になってくる。

いくらなんでもあれもこれも導入するには時期尚早だ、最終的には炊飯器まで欲しくなってしまうだろう。

そんな訳でこの農場内で出来る範囲以内で、出来る事しかやらないように自制していた。


「欲しいものは、いっぱいあるよなぁ・・・」

そう呟くと後ろからレイクさんが、「何が欲しいんだい?大抵の物ならギルドで融通できるけど」と言ってくる。

今のところは問題ないけど、昆布・若芽・天草などの海藻類に魚介類・カツオブシや海苔などの乾物屋で売ってそうなものが欲しいと伝えると、物がわからないけど乾物屋は紹介してくれるらしい。

もし目当ての物が手に入るなら、益々和食への道に進みたいと思った。


 パン教室は発酵も終わり最終段階だった。

今回作るのは形的に丸パン・コッペパン・食パン・ちぎりパンだった。

特に食パンは型を事前に発注していて、専用のめちゃくちゃ切れるナイフも併せてお願いしていた。

無駄に備品に拘っても大丈夫なのはガレリアの手腕だと思う、決してナナの手腕ではないはずだ。


 ワイワイ作っているメンバーが半分、真剣に取り組んでいるメンバーが半分。

ただ、指導者が良かったのか料理人の腕が良かったのかは分からないけど、大きなミスもなく焼成に入る事が出来た。焼きあがるまでの時間にお昼の準備で料理の最後の仕上げをすると、少し甘く香ばしい香りが室内にも届いてきた。


 焼き上がりを全員で確認する。

食パンは王子の希望で自ら6枚切りの大きさにスライスし、具材を挟んだら耳を落とし、食べやすく十字にカットする。

コッペパン型は縦に切り込みを入れると千切りキャベツかザワークラフトを入れ、ソーセージを挟みケチャップかチリソースをかける。

丸パンは横に刃を入れると上下に裂き、キャベツを敷いてチキンカツを挟んでタルタルソースかチリソースをかけた。

今にもこの場で齧り付きそうな面々だったけど、さすがに王家の皆様の前で自重したようだ。


 王家の皆さんが真っ先にテーブルに着き、カトラリーが並べられると期待を込めた視線が厨房へ向けられる。

今回はプレーンなパンの他にホットドック・チリドック・チキンカツバーガーと少しジャンクなメニューが並んだ。

農場で取れたサラダとスープと共に、全員が席に着くと試食会という名の昼食がスタートした。


 最初、貴族家の料理人他大多数が、「後で食べます」と王家並びに貴族と一緒のテーブルに着くことは出来ないと固辞をした。ところが王妃が「皆で食べた方が美味しいですよ」と言い、「全員が席に着かないと食事が始まらないわ」と子供を諭すように言ったので、参加者全員慌てて席についていた。


 数名の貴族家の侍女が手伝いに来てくれたので給仕はお願いすることにした。

今日お手伝いに来てくれた侍女にも後で試食をお願いする予定だったし、今日教室で習ったことを戻って出来るかどうかの確認もしないといけない。援助金という名目の授業料はいっぱい頂いているようなので、お土産を含めて頑張って欲しい。


 パン教室で学んだ料理人達はまずプレーンなちぎりパンを手に取った。

あまりのやわらかさに言葉を失っていると、王家の皆さんは真っ先にチキンカツバーガーに齧り付いていた。

ローラは「んぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」っと大きなリアクションを取り、王子は感心していた。

王妃は優雅にフォークとナイフを使っているが、一口がそんなに小さいのに減るスピードが激しいのは何故だろう?

ホットドックは手に持って齧り付いてくださいと言うと、ほぼ同じタイミングで王家の皆さんがホットドックを手に取った。


 唖然としていた料理人達も自分が作ったものを確認しなければいけない。

小麦の他にほのかに甘く香る風味、何もつけずに何時もの調子で噛むと、歯ごたえが階段を踏み外したかのように驚嘆した。

「な・・・、なんだこれは・・・」

一人が呟くと既に経験していた王家と寮の料理長達はにっこり笑った。

「常識ってもんが狂うよな、リュージの料理は最新にして最高なんだ。勿論、素材もだぞ」

二人の見習いに向かって言っているようで、料理長は全員に向けて説明してくれている。


「あ、でも今回の材料は普通の市場やギルドで手に入るものばかりにしましたよ」

全員に話すと料理人達が顔を上げた、素材があり調理法まで開示したなら自分達にも作れるはずだと思ったからだ。

今日はパンメインなので細かいメニューは用意していない、デザートなんかも割愛させてもらった。

フルーツサンドを作っても良かったんだけど、覚える事は極力少ない方が良い。


 レイク経由でやわらかいパンの素が仕入れられる事、新しい調理法に無限のバリエーションがある事を料理人に学んでもらった。

事前に連絡があれば、今日の料理人達はフリーパスで調理場の責任者に教えを請う事が出来るよう手配を取る。

ついでにワインバーの宣伝をするとレイクに商売上手だとからかわれてしまった。


 食事が終わり、料理人達は復習するように今日の料理を再度作っている。

侍女の皆さんには軽食として、さっきの切り落としたパンを揚げて甘く味付けしたものを出すと王家の皆さんがじっと見ていた。

とにかく自分達が移動しないと侍女の皆さんも落ち着いて食べる事が出来ない。

きっと料理人達とつまみながらワイワイやることだろう。


 部屋を移動してお茶を楽しんでいると王家より二つの報告があった。

一つは王子の旅についてだった。

王子がいない間の運営は問題ない体制が整っているので、説得するのに大変だったのはセレーネについてだけだった。

期間は三ヶ月から長くても半年くらいで、婚礼の儀も問題はない。公爵家にもセレーネと一緒に王都で待ってて欲しいとお願いをしたところ、セレーネを直接説得してみて欲しいと言われてしまった。

この間の事件の事や外敵や陰謀などもあり、とてもじゃないけど女性を連れて旅に出られないと告げると、悲しそうな表情をされてしまった。そして「私と離れても平気なのですか・・・」と伏せた目から上目遣いに懇願されてしまったら・・・。


 直接ではないけど、そんなような内容を匂わされてつい受けてしまったらしい。

対面にいた自分達には、王妃とセレーネが目配せをしているのが分かってしまった。




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