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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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101:事後処理

「ああぁぁぁ、リュージ大変」
「どうしたんですか?緑の精霊さま」
「今、突撃準備が出来たみたい。どうしよう、僕の感情に反応しちゃったんだ」
「え?え?全然状況が理解出来てないんですが・・・」

 水の精霊さまの説明によれば、各精霊には仲良くしている生物がいるらしい。
水の精霊さまは魚と親しく、風の精霊さまは鳥と親しい、そして緑の精霊さまは虫と親しかった。
前回の視察の時にミスディ男爵家夫人は意図して枝垂桜の枝を折ってしまった。
この時緑の精霊さまは激しい怒りに囚われていた、その後のフォローによって事態は収束していると勝手に思ってたのだ。

 ところが、この怒りは本人よりも周囲に感化してしまったのだ。
もっとも激しい報復行動として、遠くにいる者を呼び寄せてしまった。
「それで何が来るんですか?王国は無事なんですか?」
「ええ、王国の危機が迫っているのですか?」
「え・・・、王妃さま。ここで何をしているのですか?」

 大声を出してしまったのは自分のミスだ、作業をしている職員は各所で忙しなく動いている。
でも、何で王妃さまがここにいるんだろう。

「ごめんなさい、リュージさん。ナナさんに話したら『自由に見学や収穫していいですよ、私がリュージさんにちゃんと伝えますから』っとおっしゃったものですから」
「何で大事な事を漏らすかなぁ・・・」
「直接お願いするべきでしたね、私のミスです」
「いえ、大丈夫です。それより、いくら農場が安全対策をしてるとはいえ、一人で収穫はご遠慮ください」
「それは・・・」
「ええ、出来れば収穫したものを持っていって欲しいのですが・・・。たまになら大丈夫ですよ、その際は職員か護衛を最低でも一人はつけてくださいね」
「ありがとうございます」

「それより、先程の王国の危機とは?」
「そうだ、この間の枝垂桜を折ったミスディ男爵家夫人に危機が迫っているそうです」
「危機とは何ですか?」
「今、精霊さまに確認します」

 王妃さまとの会話を見守っていた精霊さま達は続けて説明をしてくれた。
やってくるのは蝗だった。どのくらいやってくるかは分からないけど、精霊さま達もいるし現在の王国は何かの加護があるらしいので男爵夫人宅しか襲わないだろうと言っていた。
直接命の危険はなく、多分家に体当たりをして怒りを伝えるのが目的になるそうだ。
作物に被害を出さないように作業後は速やかに撤収すると言っていた。
通訳のように王妃に説明すると、「では、事の重大さを理解させる為にやってもらいましょう」と意外な答えを出してきた。

「坊や、今回は良いけど、あまりリュージが心配するような事をしちゃだめよ」
「ごめんなさい、あの瞬間樹から悲鳴が聞こえたんだ。人間で言うなら生きたまま手足をもがれたんだよ」
「グロい表現は読者離れが発生するのじゃ」
「おじいちゃん、その表現はよくわからないわ」

 そろそろ抑えが効かないらしく、王妃さまの答えを告げるとGOサインを出した。
この後の処理は王妃さまがしてくれるらしい、確認に行っても良いのだけれどあまり関わらない方が良いと言われた。
収穫も終わり事務所へ戻ると、ナナが「あっ」と声を漏らした。
「ナァナァサァーン・・・」
「ご、ごめんなさい。大事な事を忘れていました」
「じゃあ、さっきお願いした事は覚えていますか?」
「勿論です。王妃さまへ献上するジャムを・・・あっ」
「そうですよ。いらっしゃるなら、この場で渡しても良いかと」

 事務所には侍女が待機していて、イチゴジャムとマーマレードは出来ていた。
いっぱい作ったのでイチゴジャムは王子にも渡して欲しいとお願いをした。
パン教室を開く件も今までの事情を話したら、コロニッド他選定を任せて貰えるなら是非お願いしたいと言ってきた。
こちらの人選には口を出さないようだけど、まだ一般のパン屋へ広めるのは時期が早いだろうとのこと。
早速、今週の土曜日に開催することになった。
参加条件は特別な粉をラース村から購入する事。コロニッド及び他の貴族家からの料理人からは相応の報酬をガレリア基金に出すらしい。あまりお金を取らないのも事業としては良くないので、そこはガレリアがうまくやってくれると思う。

 翌日は朝練から始まった。
ローラも生活の慣れや昨日の戦闘訓練のせいか、今日から朝練に参加するようでやる気に満ち溢れていた。
この時期の一年の差は大きいので無理をさせないように、それでいて少しだけ先を見せるような訓練をしていた。
「いや、ティーナ。絶対鎌は持たないからな」
「今日のリュージは面白くない」朝から無駄な体力を使うつもりもなかった。

 午前は隊長による格闘術の講義を受け、昼食をとったらすぐに温室の解除を行った。
必要な物を回収し品種改良グループへ向かうと、やっぱり教室には大勢の生徒がいた。
ローレル教授に言わせるとこれでも絞りに絞ったらしい、今日はみんなで開墾作業に入る事にしたようだ。

 作業前に開墾した温室の場所を返却すると伝えると、とても感激して大声で「リュージがあの開墾場所を返却したぞ、今日の開墾のMVPと何名かに分配を考えるから頑張るように」と宣言した。
すると、隣の教室からザクスを先頭に「うちも参戦します」と鍬を持ってやってきた。
開墾のMVP以外では企画書でも評価されるらしい。
でも、今回の開墾に参加しない人には権利は与えられないようだった。

「こう振り上げて、こう振り下ろす。これって説明いるのかな?」
理想的なフォームの代表としてデモンストレーションで鍬の使い方の説明をした。
「リュージ君は今日、魔法禁止ね」
「はい、ちょこっと作業したら少し相談があるのですが」
「ああ、いいよ。では皆、開墾スタート」

 学園には開墾する場所はかなり広くある。
純粋な開墾だけではなく上級生による実地指導も重要なので、自然とグループっぽいものが出来上がり協力して作業していた。
ローレル教授の手が空きそうなので温室があった場所へ一緒に向かった。

「リュージ君、それで話って何だい?」
「ええ、ちょっと心配になったのですが、ここって何で育ちが良かったんですか」
「今更それを僕に聞くかい?サリアル教授にも聞いたけど、ここって精霊がいたんだよね」
「ええ、色々な精霊さま達が遊びに来てくれました」
「まさにそれが理由だよ。精霊に愛された場所、それだけで価値があるんだ。だから商品としても成り立つし、もし他の貴族や植物に関わる仕事をしている人達がここの存在を知ったら、高額で買い取りたいと申し出るだろうね」
「そんなにですか?」
「そんなにだよ、学園内でそんなことは出来ないけどね」
「じゃあ、冬越しの施設跡地は・・・」
「あ・・・」

「リュ、リュージ君。この事を話したのは僕が初めてかな?」
「ええ、・・・ってもしかして」
「僕が買ってもいいかな?というか是非買いたい」
「王国へ報告はしなくて平気ですか?」
「くっ・・・、勿論ダメだと思う・・・」
「こうなってしまったらガレリア先生に相談するしかないですね」

 あの土地は来年以降も冬越しの施設として使うかもしれない。
ただ、最初に耕した事もあり畑に転用するのは十分ありだった。
王国への報告はガレリアが手配してくれると思うし、多額で売却できるなら冬越しの施設は本物の建物として出来るだろう。
問題はその施設の名目と季節を通した利用方法だった、相談を受けた訳ではないので深く考えない事にした。

 相談が終わると皆の所へ戻る。早々に力尽きた者や、体力に任せて武器の素振りのように鍛錬をしている者もいた。
レンはザクスと競い合い、ローラとソラは仲良く焦らず耕していた。
MVPは両グループのグループ長が痛み分けとなった、頑張った生徒を誰が一番頑張ったと決めるのが難しかったという事もあり、共有財産なら文句も出ないだろうというローレルの苦肉の決断だった。
この後は企画書による申し込みが殺到するだろう。

 翌日も午前は戦闘訓練を受け、午後は金曜だったので魔法科の戦闘訓練に参加する事になった。
新入生にとって初めての魔法科の戦闘訓練という事で自分の出番はなかった。
エントの授業で肉体強化系に目覚めた女性とフレアが組み、騎士科から手伝いに来た男性と土魔法に目覚めた生徒が組んで2対2の模擬戦だった。

 これは補助者がいる時に魔法使いがどう動くかの勉強で、魔法使い側は隙を見ながら魔法を撃てるように。
補助側はいかに魔法使いが気持ちよく動けるかを考える必要があった。
魔法使いはワンドやスタッフを持ち、接敵をした場合の時間の稼ぎ方や武器の受け流し方の勉強もしていた。
自分のような魔法使いは特殊なので、ここでは勿論鎌を出すことはできない。そもそも、鎌を出す気もないんだけどね。

 しばらく見学していると、フレアの様子がおかしいことに気がついた。
最初は手加減しているのかなと思ったけど、どうやら魔法が不安定になっている印象を受けるようになった。
サリアル教授に確認すると、どうやら繊細な魔法操作をしすぎて本来の火属性の使い方と折り合いがつかなくなってしまったようだ。


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