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孤高の捨て犬
作者:


俺は孤高のシベリアンハスキー。誇り高き一匹狼。名前はまだ無い。


今日も俺はこの街にそびえ立つ電柱の下で、人限共を睨みつける。
フフフ…人限共め、俺がそんなに恐ろしいのか、俺の姿を食い入るように見詰めてやがる。
俺はこの世に生を受けて…丁度二ヶ月がたったが、人間なんてちょろいもんだ。

俺が電柱の下で、睨みつければ、俺の元に貢物エサを置いていきやがる。
それを俺は、この電柱の下に堂々と建てられたみかんの空き箱(マイホーム)で悠々と食すんだ。

ハムやらソーセージやら給食で残ったらしき食パンやら。
それを、ようやく生え揃ってきた犬歯で、全身を使って噛み千切る。
…どうだ、雄々しいだろう。

俺は孤高のシベリアンハスキー。0才、二ヶ月のオス。


…………断じて捨て犬ではないッ!!



◇◇◇◇


俺は孤高のシベリアンハスキー。若き猛獣。名前はまだない。


今日も俺は人間共を睨みつけ、貢物(エサ)を献上させる。

ん? なんだ貴様は、歳若き人間の幼女よ。この俺に貢物か?
それとも俺に惚れたのか? やめときなお譲ちゃん。俺に惚れたら火傷するぜ。
種族を超えた愛と言うのもなかなか渋いが、貴様はまだ若すぎる。十年たったらまたおいで。

「お母さん。ワンちゃんがいるよ~」

俺はワンちゃんじゃないッ!! 孤高のシベリアンハスキーだッ!!
貴様、俺が優しくしてやったら調子に乗りやがって。あまり舐めた口を聞いたら俺の最近生え揃った犬歯が、その柔らかそうな咽笛を噛み千切るぞ。
止めろ。この俺を抱き上げるんじゃない。貴様殺されたいのか。

「ダメよ千佳。ワンちゃんを戻してやりなさい」

「え~」

フンッ。そうだ。貴様のような幼女が抱き上げていい俺ではない。
なぜなら俺は孤高のシベリアンハスキー。人間の手など借りはしない。

「ウチはペット禁止のマンションだから、ワンちゃん飼えないわよ」

「ちぇ~」

そうだ。俺を飼おうなんて百年早い。
どうしても飼いたければ、最高級ジャーキーを一年分持ってこい。
フン。そっちの女は話がわかるようだな。しかし…

「ワンちゃん離してあげなさい」


………だからワンちゃんって言うなッ!!


◇◇◇◇


俺は孤高のシベリアンハスキー。稀代の雄。名前はまだ無い。


今日も俺のみかんの空き箱(マイホーム)は雨にぬれてジメジメしながら君臨する。

今日は貢物が少ないな…人間共め、この強固な肉球で踏み潰してやろうか。
ん? なんだ人間の老人よ。この俺を拝みに来たか?
それも致し方のないことだ。この俺の荘厳で上品な姿は仏様よりも手を合わせるのに値するからな。
そら、恭しく拝むがいい。

「バアさん。おったぞ」

ん? なんだ。人間の老人がもう一人いたのか。
構わん。何人だろうと。しかしちゃんと貢物は置いていくのだぞ。

「探したぞ…タマ」

俺は猫じゃないッ!! 孤高のシベリアンハスキーだッ!!
コラ。俺を抱き上げるんじゃない。皺だらけの頬を摺り寄せるんじゃない。
この距離で、犬と猫を間違えるってどんだけ視力弱いんだ。老眼鏡かけろ。

「あらあら、違いますよおじいさん」

「ん? そうだったかなバアさん」

そうだ。さっさと下ろせ。
そして貢物と清潔でフワフワしたタオルを置いてゆけ。
さり気無く肉球をプニプニするんじゃない。


「タマは三毛猫ですよ。その猫は黒猫でしょう?」


…………お前も老眼鏡かけろッ!!


◇◇◇◇


俺は孤高のシベリアンハスキー。都会に潜む牙。名前はまだない。


今日の夜は冷えるな…。夜は人通りが少ないから寂し…もとい、つまらん。
こんな夜を歩いているのは人間の男ぐらいしかいないな。

なんだ、なんだ。
この俺に何か用か、人間の男よ。なにやら顔が赤く、本来首元を締める紐が頭を締め付けているぞ。
足どりもフラフラとしやがって、そんなに無防備なら俺の狩猟本能に火がつくぞ。

「ヒック。うぃ~。なんだぁ? 犬っころ…一人かぁ?」

貴様馴れ馴れしいぞ。俺は犬っころじゃない。孤高のシベリアンハスキーだ。
当然俺は孤高だから、一人だ。しかし寂しくなどないぞ。俺には忠実なる人間共が貢物をしてくれるからな。
しかし、今日の俺は穏やかだ。どれ、貴様の話を聞いてやろう。

「一人は寂しいだろう? えらいぞ~犬っころ」

犬っころじゃない。孤高のシベリアンハスキーだ。
寂しくなどないぞ。なぜなら俺は孤高のシベリアンハスキーだからだ。

「我慢してんだな~偉いぞ~それでこそ男だ」

確かに俺は稀代の雄だ。貴様中々分かる奴だな。
思わず俺の美しい尻尾が勢い良く左右に振れてしまうほどだ。

「けどな、偶には吐き出さないと、我慢ばっかりじゃ折れちまうんだよ。適度に鬱憤を吐き出せる奴が本当にいい男なんだぞ」

…なるほど、一理ある。この世に生を受けて丁度二ヶ月と三日だが、中々新鮮なことを言ってくれる。
この俺の肉球をプニプニさせてやっても構わんぞ。


「ホレ、コレやるよ。達者でくらせよ」

む。何だコレは。米の塊の上に生の魚が乗っているぞ。
まぁ俺は孤高のシベリアンハスキーだから、生魚は大好物だ。受け取ってやろう。喜べ。


しかし、偶には吐き出さなければならんとは、覚えておいてやろう。



「うぇ気持ち悪い……オェボロロロロロロロ」



…………だからってここで吐くなッ!!



◇◇◇◇


俺は孤高のシベリアンハスキー。未来の王者。名前はまだ無い。


クソっ…なんだか眼がかすむな…体が重い…
この前振った雨をまともに浴びたからな…みかんの空き箱(マイホーム)には屋根がない。


俺は孤高のシベリアンハスキー。
なんだかとっても眠い…もうとっても眠いんだよパトラッシュ…。



…………誰がパトラッシュだッ!!



◇◇◇◇


俺は孤高のシベリアンハスキー。猛獣界のプリンス。名前はまだ無い。


ムゥ。打って変わって調子がいい。
この前の体調からは考えられないほど元気だぞ。

しかも、寝ている間にみかんの空き箱(マイホーム)の中には、栄養のありそうな食い物が沢山あるではないか。
遂に、この俺の中に眠る狩猟本能が、生存本能と共鳴して、人間共から食い物を奪い取ったようだ。
やればできるじゃないか俺。

ふと、みかんの空き箱(マイホーム)を見てみると、人間の文字が書かれた紙がある。
野生の本能を露にした俺に恐れをなして、命乞いの手紙でも置いていったのか。
朝の人間共も俺のことを尊敬の眼差しで見詰めている。


「ワンちゃん元気になったんだね~」

「そうね。風邪治ったみたいね」



…………人間共よ。復活した俺が恐怖を与えてやる!! ハハハハハ!!



◇◇◇◇


俺は孤高のシベリアンハスキー。魅惑の毛並。名前はまだ無い。


大分、この街に君臨する生活にも慣れてきた。
最近では安定して貢物を献上する者が増えてきた。俺の威光が利いてきたんだろう。

ん? なんだ人間の娘よ。この俺に貢物か?
なにやら上品そうな乗り物から降りてきたが、貴様は何者だ。

「わぁ!! この子可愛い!!」

可愛い?

「や~ん。もぅ、かわいい~~!!」


か、可愛いって言うな!! 俺は孤高のシベリアンハスキーだぞ。
俺のこの発達してきた牙で、その肌に、一生の傷をつけてやろうか。
あ、コラ。勝手に俺を抱き上げるな!! 首の下をグリグリするな!!


「お父様!!」

ええい話せ。俺は孤高のシベリアンハスキー。人間に抱き上げられる俺じゃない。
あ、コラ。肉球をプニプニするんじゃない。



「この子飼っていい!?」

…………は?


「ねぇ飼っていいでしょ?」


ふ、ふざけるんじゃない! 俺は孤高のシベリアンハスキー。人間が飼おうなんて百年早い。
さっさと俺を離して、どっかに行け。

「あ、コラ。暴れないの!!」

ギュッと、俺の顔が力強く娘の胸の中にうずまる。


「決めた!! 今日からアナタは私の家族よ!!」


家族?


「よろしくね!!」


娘の肌に、俺の鼻がくっつく。
人間の何億倍も鋭い嗅覚を持つ俺の鼻に、人間の若い女特有の甘い香りが香る。
自然と俺の美しい尻尾が、左右に振れてしまう。



…………フン。人間ってのも…悪く…ない。


……いいだろう。この俺を養わせてやろう。


正し、最高級ジャーキー、一年分だッ!!



◇◇◇◇


俺は…孤高じゃないシベリアンハスキー。コイツの家族。

名前をもらった。


「おいで! 信繁のぶしげ!!」



俺は孤高じゃないシベリアンハスキー。コイツの家族。信繁。





…………何で戦国武将風ッ!!?





fin.




犬の気持ちになって書きました。ほのぼのしてもらったら幸いです。
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