ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
 ロールというのは男の子の名前です。自分がお母さんの本当の子ではないということを、なぜかロールは小さなころから知っていました。そしてあるとき質問してみたのです。

 お母さんが答えるには、赤ちゃんを生み、それは本当にかわいらしい女の子だったのですが、あまりにも愛らしすぎたせいか生後二ヵ月たったある夜、何者かの手でさらわれてしまったのだということでした。現場はロールが今も住んでいるこの家の内部で、暑いので風通しのよい屋根裏部屋に寝かせておいたのですが、気がつくと赤ちゃんはいなくなっていたのです。

 状況から考えて、とても人間にできる誘拐ではありませんでした。町の人々の意見も聞いて、きっと妖精の仕業だろうということになりました。昔話にあるとおり、妖精が美しい赤ん坊をさらい、代わりに別の醜い赤ん坊を残していくのはそう珍しいことではなかったのです。替え子というやつで、昔からよくあったことなのです。その替え子というのがロールだったのでした。

 ただ昔話と異なるのは、ロールは醜い不細工な子供では決してなかったということです。ロールは愛らしく、誰からも好まれる男の子でした。

 そのせいなのかどうなのか、自分の赤ちゃんを失って腹を立てて、お母さんはロールを窓からほうり出したり、火のついた暖炉の中に放り込んだりはしなかったのです。そのまま自分の子供として育ててくれました。しかしロールもなんとなくわかっていたことですが、お母さんが自分を育ててくれているのは慈悲でも何でもなく、「いつかグレースと出会えたときに、再び取り替えて自分の手に取り戻すことができるように」という理由からだったのかもしれません。要するにロールは、グレースを取り戻すために必要な『引換券』だったのです。だけどそのことも、ロールの人生を不幸にはしませんでした。それなりに愛し、お母さんはロールをかわいがってくれたのです。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。