第31章 英雄神話
時は流れ、およそ五十億年の歳月がすぎ、地球の恒星である太陽は、赤色巨星に進化する兆候を見せはじめた。凍てつく地球では、核融合システムによりわずかに生き残っている人類が、新天地を求めて宇宙への脱出を試みようとしていた。しかし、五十億年間で地球人類の科学的進歩は右肩あがりで成長したわけではない。小惑星の地球衝突などの大規模な災害で、人類は何度も絶滅の危機にさらされ、そのたびに地球文明は振り出しにもどされた。現在の地球は、ミズホが生きた時代より科学は後れていて、光速に近いスピードで飛行することが可能な、反物質エンジンの長距離型宇宙船の試作機が、やっと完成した程度だった。
ミズホの生きていた時代は、大規模な災害もなく、ダイキの起こしたスペースジャック以上の大事件もなく、比較的平和な時代だった。地球に帰ったあとのミズホは、いろんなことに挑戦して、貴重な体験をたくさんした。彼女は勉強や運動も大好きになった――もちろん、人よりできるようになったわけではない。しかし、知らなかったことを知るよろこび、できなかったことができるようになる楽しさがわかり、誰のためでもない、何かのためでもない、自分のペースでやる、楽しいからやる勉強や運動が、彼女は大好きになった。そして、とても充実した幸せな素晴らしい一生を、ミズホは送ることができた。
惑星プップの太陽は、若い恒星だったので、五十億年経ったいまでも健在だ。高瀬長官が、惑星プップのデータを消去したため、ミズホたち以来五十億年間、地球人は誰もこの星には来なかった。
現在の惑星プップは、およそ三十億年前に起こった陸地と海底の逆転現象で、地形はまったく変わり、人間以外の生態系も大きく変わった。五十億年前にいた怪物類は、いまの惑星プップでは確認されていない。
五十億年間で起こった自然災害により、惑星プップも地球と同じように、人類絶滅の危機を何度も経験した。現在の惑星プップの文明は、ジャンボジェット機が空を飛び、世界旅行ができるまでになっている。
惑星プップの現代文明の自然人類学によると、人類の誕生はいまから六百万年前で、ポクルスという哺乳類から進化したと考えられている。つまり、五十億年前に文明を持った人類が存在していたとは思われていないし、まして、宇宙から知的生命体が惑星プップにやってきたなどと考える学者は少ない。超古代文明があったのでは? と主張する学者もいるのだが、誰にも相手にされず、物笑いになっている。
しかし、ミズホの英雄伝説は五十億年経ったいまでも、惑星プップに語り継がれ、有名な本になっている。それは五十億年前の話だとは思われてなく、数千年前の人間が考えた、作り話だと思われている。その本の題名は『英雄神話 救世主ミズホ様』であった。
予言された救世主は、地球という星からやってきた。
その救世主は、十四歳の少女で、名前はミズホである。
ネナという幼い少女が、ミズホ様と最初に出逢い、
そして、町につれてきた。
ミズホ様は、神の鎧を身につけ、
人々を苦しめた悪の集団を、たった一人で倒し、
大勢の人々を苦しみから救った。
ミズホ様は、神の力で、巨大な怪物を投げ飛ばし、
簡単に退治して、人々を怪物の恐怖から救った。
ミズホ様は、神の力で、薬草を手に入れ、
その薬で、大勢の人々を病から救った。
ミズホ様は、決して削ることができない剛岩石を、
神の道具で簡単に削ってしまい、
我々に素晴らしい石像を作ってくれた。
ミズホ様は、隕石の直撃により、破損した民家を、
宇宙の責任は、私の責任と言って、
修理代を弁償してくれるほど、寛大な心の持ち主でもあった。
ミズホ様は、この星を『惑星プップ』と名づけた。
この『惑星プップ』という素敵な星の名前に、
我々は感動して、感謝し、たいへんよろこんだ。
救世主ミズホ様のおかげで、幸福な日々がつづいていたが、
地球から救世主以上の力を持つ恐ろしき支配者、
ダイキという男がやってきた。
ミズホ様は、ダイキによって倒され、人々は希望をなくした。
しかし、ミズホ様は、人々のために復活し、八人の弟子をつれ、
試練の冒険へ旅立ち、神の武器を手に入れてきた。
その旅で、ミズホ様は二人の弟子を失った。
ミズホ様は、激しい爆発音がする神の武器を手に持ち、
最後の対決に臨み、ダイキを倒し、勝利した。
ミズホ様は、恐ろしき支配者から人々を救い、
完全な幸福を惑星プップにもたらした。
そして、ミズホ様を、地球の神々が迎えにやってきた。
大勢の人々が寂しがったが、笑顔で見送ることにした。
ミズホ様は、火を噴く巨大な神の船に乗って、
轟音とともに宇宙へ飛び去り、地球に帰っていった。
偉大な力を持ち、この星を救ったミズホ様は、
楽しく生きることを教え、決して威張ることはなく、
星を支配することもなく、すべての人々から愛され、尊敬された。
我々プップ星人は、何があっても、
我々の英雄、救世主ミズホ様を忘れてはならない。
この英雄神話を、後世に語り伝えよう。
およそ五十億年経った現代でも、この星の名前は惑星プップと呼ばれている。それは、この有名な英雄神話に書かれているから、現代文明の人もそう呼んでいるのであった。
しかし、ミズホの英雄伝説を実話だと信じている人はほとんどいない。もし、本気で信じていたら、きっとバカにされ、笑われてしまうだろう。
バカにされ、笑われても信じつづける、それは難しい――たとえ真実でも。
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