第29章 決断するとき
オリオン大星雲でのスペースジャック事件のとき、高瀬長官は大型宇宙客船の河田船長によってナビゲーション・ブリッジのライフポッドに無理やり乗せられ、無事に地球へ帰ってくることができた。
地球にもどった高瀬長官は、事故の詳細を報告して、緊急対策本部を宇宙科学庁に設置し、すぐに生存者の救助活動を開始したのであった。全部で百機のライフポッドの回収作業は順調に進み、半年以上かけて九十七機を回収した。一機は高瀬長官が乗って帰ってきたので、残り二機のライフポッドを回収すれば終わりであった。しかし、回収した九十七機のライフポッドには、誰一人乗っていなかったので、あとの二機を回収しても無駄だと判断され、大規模な救助活動は打ち切られた。それでも高瀬長官はあきらめ切れず、小規模な救助活動をつづけ、残りのライフポッドの微弱な救難信号をキャッチし、この惑星を発見したのであった。
ダイキは自分が捕まるのを恐れ、ライフポッドの救難信号を壊したが、ミズホが乗ってきたライフポッドが、ずっと救難信号を出しつづけていたのであった。
高瀬長官が救助活動をやめなかった理由の一つは、ミズホの義母であるおばあちゃんが、何度も宇宙科学庁にやってきて、ミズホの安否を確認しに来たからであった。ほかの乗員乗客の家族は、ライフポッドがほとんど回収されても生存者がいないとわかると、多額の賠償金を受け取り、あきらめたが、ミズホのおばあちゃんだけが、いまだに賠償金を受け取らず、宇宙科学庁にやってきて、ライフポッドを全機回収してほしいと懇願していた。
回収されたナビゲート・レコーダーと、ダイキたちの武器を宇宙客船に積み込んだスペースポートの職員の逮捕により、高瀬長官の報告に嘘はないと明らかになったが、高瀬長官は、自分だけが生き残った恥ずかしさと、ミズホのおばあちゃんのこともあって、最後の二機を一年近く捜しつづけたのであった。
惑星プップに高瀬長官たち五人が乗ってきたスペースシップは、乗員三十名が乗れる中型の宇宙探査船であった。たった五人のクルーなのに、小型ではなく中型のスペースシップに乗ってきた理由は、オリオン大星雲でライフポッドを捜す活動をするためには、その規模の宇宙探査船が必要だった。
ミズホたちが神の島で夜を迎えたとき、雷雨はやんでいたが、その雷雨は島から大陸へ移動していた。その雷雨の夜に高瀬長官たちはやってきたので、スペースシップのジェット音に誰も気づかなかった。
高瀬長官たちは、スペースシップを着陸させる前に上空から町などを確認し、地球よりもかなり後れた文明があることを知った。宇宙条約で、地球文明よりも劣る地球外文明の関与は許されていないから、宇宙探査船をミズホが乗ってきたライフポッド付近に着陸させ、この惑星の文明と接触しないように、高瀬長官たちは調査をしていたのであった。
ライフポッドは発見したが、機内には生存者を確認できず、高瀬長官たちはがっかりしたが、非常食やザックなど、いくつかなくなっていることに気づき、もしかしたら誰かが乗っていたかもしれないと希望が湧いた。しかし、この惑星の知的生命体があさった可能性も否定できなかった。
生存者が乗っていた可能性を最初に気づいたのは、一緒に来た宇宙科学庁の青年、伏見であった。五席あるシートのうち、一箇所のシートベルトがはずれていることに気づいたのだ。したがって、高瀬長官たちは、この惑星の不思議な鉱物や動植物を調べながら、生存者がもどってくる可能性を信じて、そこで待っていたのであった。
しかし、生存者がライフポッドにもどってくる様子はなかった。高瀬長官は、望みを懸けて地球外文明との接触を決心した。町へ行くとパニックになる恐れがあったから、山にぽつんとあったコウサクじいさんの家に高瀬長官たちはやってきた。そこでサラと出逢い、彼女の話を聞いて、瀬長官たちは、なぜこの文明は日本語を話すのかを理解し、ミズホとダイキがこの惑星にいることを確信したのであった。
そして、サラに案内してもらい、高瀬長官たちは、コウサクじいさんの家からハービーまで歩いていき、そこからメルカを拾って神殿まで来て、ミズホを見つけることができたのであった。
ミズホがダイキと対決した日の夜、高瀬長官たちは、森に着陸させていたスペースシップを移動し、テッドの海へ着水させ、タラップを浜辺におろし、そこから乗降できるようにした。
ダイキはスペースシップの一室に鍵をかけて閉じこめ、逃げられないように監視された。
ミズホは高瀬長官から呼ばれ、スペースシップ内の部屋で話を聞いていた。
「今日は立派でしたね、ミズホさん。いや、今日だけじゃないようだ。この星で大活躍をしたそうだね。この星の人たちは、ミズホさんが地球へ帰ってしまうと言って、寂しがっていたよ」
高瀬長官がそう話すと、ミズホは照れ笑いをして言った。
「でも、高瀬長官。この星の場所がわかったんだから、また遊びにつれてきてくれますよね?」
「それができなんだ、ミズホさん。ここへは誰も地球人が来ることができないように、この星のデータは一切残さない。だから、二度とこの星に来ることはできなくなる」
「どうして!? たくさん友達ができたのに! それは困るわ。みんなと二度と逢えないなんて、絶対に嫌です」
ミズホがあわてたように言うと、高瀬長官は優しく話した。
「よく考えて、ミズホさん。もし、地球にこの星のデータを持って帰って、ダイキのような人間が知ったら、わかるね。たった一人の地球人でも、この星を支配できる。だから、この星の人たちのために、絶対に地球人へここの場所を教えるわけにはいかないんだ」
「でも、高瀬長官と一緒に来た人たちが、この星の場所を教えちゃったら?」
「大丈夫、私がこの星のデータを管理している。ここを出発したら、すぐにデータを消去してしまうよ。そうすれば、この星に地球人は誰も来られないんだ。もちろん、私も来ることはできない」
たとえこの星の話を地球人にしても、データがなければ探し出すことは不可能だ。一度訪れた地球人でも、データがなければ来ることは不可能に近い。『オリオン大星雲のどこかにある』では、とても探し出すことはできないだろう。
考え込んでいたミズホが言った。
「……私、ここに残ります」
「本当に残るのかな?」
高瀬長官が少し驚いて訊くと、ミズホは笑顔で話した。
「はい。この星のほうが、地球よりずっと楽しいんです。毎日がほんとに楽しくて。地球に帰っても、きっとつらいし……。ここなら、幸せに暮らせます」
「ミズホさんがそうしたいなら、私は止めないが、おばあちゃんのことを忘れてはダメだよ。ずっと、ミズホさんが帰ってくるのを待っているんだ。それでも、ほんとにこの星に残るのかな?」
高瀬長官の話しに、ミズホの気持ちは揺れた。地球へ帰るべきか? この星に残るべきか? ミズホが答えを出せないでいると、高瀬長官は微笑んで言った。
「ミズホさん。明日から十日後までに決めればいい。私たちも、もう少しこの星を調べてみたいんだ。変わった生物がいるみたいだし、せっかく地球外文明を発見したんだ、少しはここで遊んでいきたいからね」
スペースシップに泊まらないかと、高瀬長官は言ったが、ミズホは自分の家に帰った。
久しぶりに自分の家のベッドに入ったミズホは、とてもわくわくし、この星で暮らしていきたいという思いが強くなった。地球へ帰るかどうかを決めるのにはまだ十日あるが、ミズホの心はすでに決まっていた。
次の日、ミズホとネナは、ミロのメルカに乗って、コウサクじいさんの家に置きっぱなしの荷物を取りに行った。ネナはミズホに、この星に残ってもらいたいと話したかったが、ミズホの気持ちを考えると、彼女は話すことができなかった。
しかし、コウサクじいさんが話してくれた。
「ミズホさんがここに残ってくれると、ありがたいのですが、どうでしょう? ミズホさんの話を聞いて思ったのですが、地球へ帰るよりも、ここに残ったほうが、ミズホさんは幸せに暮らせるのでは?」
「そうなんです。コウサクおじいさんの言うとおり、私、地球よりこの星で暮らしたほうが楽しく生きられるんです」
ミズホが笑顔でそう言ったので、コウサクじいさんとネナはうれしくなった。そして、ミズホがつづけて話した。
「地球に帰ってしまったら、もう二度とこの星に来ることはできないそうです。でも、地球へ帰ります。どんなにつらいことがあっても、乗り越えていけそうな気がするんです。それも、この星の人たちのおかげです。ありがとうございました。それに、おばあちゃんも待ってるしね」
コウサクじいさんとネナは、しばらく黙ってしまった。
「ミズホさんは、本当に勇気がある人です」コウサクじいさんが微笑んで言った。
「だって、英雄だもんね」ネナが明るく笑って言った。
コウサクじいさんの家を出たあと、二人は帆柱を修理中のバンの中型帆船にミズホの荷物を取りに行った。そこで、ミズホが地球に帰ることを話すと、バンたちは寂しがり、お別れ会をやろうと言ってくれた。
海の怪物フイードは、バンたちが逃がしてやると、自分の海域へうれしそうに帰っていったそうだ。
それからの数日間、高瀬長官たちは、この星をいろいろ調べていた。ほかの大陸には怪物が多く生息していて、人間はいなかった。神の島にあったライフポッドから少し離れた場所に、トオルが住んでいたと思われる石造りの家が一軒見つかった。
地球の科学では解明が困難なことも多くあった。たとえば、この星のものは、地球人にとってすごく軽い、ということは、地球のものはこの惑星の人間には重いはずなのだが、地球人と同じ感覚で普通に持つことができるのだ。そのほかにも、興味深いことが多くあった。
オスターはスペースシップに乗せてもらい、高瀬長官たちと行動をともにし、一緒に怪物などを見に行った。宇宙科学庁の伏見が、写真と映像が撮れるカメラで、いろんな生物を撮影して、写真はプリントし、図鑑の好きなオスターにあげていた。デジタル画像を写真にプリントする機材は、スペースシップに装備されている。
高瀬長官たちが乗ってきた宇宙探査船は、ライフポッドを回収できるようになっていたが、トオル、ミズホ、ダイキが乗ってきた三機のライフポッドは回収しないことにした。ミズホが乗ってきたライフポッドから発信されていた救難信号は、この星の場所がわからないように、高瀬長官が壊して止めた。
ミズホは、いつものようにネナと楽しく過ごしたり、帆柱がなおったバンの中型帆船でブールへつれて行ってもらったりして、みんなで楽しく遊んだ。
ミズホは高瀬長官から借りたカメラで、お世話になった惑星プップの人たちの写真と映像を撮った――写真はプリントしてみんなにあげた。ネナたちは、自分の写真を見て驚き、カメラの画像ディスプレイで自分たちの動く映像を観て、もっと驚き、言葉を失っていた。
カメラの操作は簡単で、惑星プップの人たちにも使うことができたから、ミズホはみんなんと一緒に写っている写真や映像をたくさん撮ってもらうことができた。
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