表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

ああ、馬鹿だ。俺は馬鹿だ。だから、俺は君を・・・

作者: 山羊ノ宮

「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」

彼女はそう言うと、三つ指立ててぺこりとお辞儀した。

俺はそれに倣って、正座する。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

お辞儀した二人はそのままの状態で、しばらくいた。

それからどちらともなく吹き出す。

新しい年の始まりを俺達はこうして迎えた。

「寒いねぇ」

「うん。寒い。でも、だからこうやってくっつける訳で」

と言いながら、彼女をカイロ代わりに抱きしめる。

確かに冬なので寒いのだが、くっつきたいのは俺の願望だけである。

「でも、こうやってずっといる訳にもいかないでしょ」

「なんで?」

「だって動けないでしょ」

「そっか。こんなに温かくて柔らかいカイロなのに」

「ちょ、馬鹿!お腹つまむなぁ!」

俺は彼女の服の隙間から手を突っ込んで、お腹の贅肉をつまんでみる。

顔を真っ赤にして怒る彼女の拳は容赦がない。

「じゃあ、胸ならいい?」

「馬鹿!オヤジ!」

「別にオヤジでも良いもん。だって触りたいんだもん」

「もう、そんな馬鹿なことばかりやってると嫌いになるからね!」

俺は調子に乗り過ぎたのか、彼女は拗ねてしまった。

何を言っても無視だし、触ろうとすると振りはらわれる。

彼女は俺に背を向け、その表情は分からない。

俺は彼女の背に手を置き、話す。

「なぁ、本当に俺のこと嫌いになった?」

返答は間を置いて、

「・・・嫌いにはなって無い」

「そっか、良かった・・・いつかさ、お前に俺よりも良い奴が現れて、別れちゃうんだろうけど、それまでは一時でも精一杯愛そうって思ってたから」

「何それ?何で私達別れること決定済みなの?変な未来予想しないでくれる」

「けど、このまま付き合うとしてもいつかは死に分かれる訳だし、別れは決まっていることだろ?」

「私、貴方のそういうところ嫌い」

「だって・・・」

「だってじゃない。貴方の目は何を見ているの?貴方の耳は何を聞いているの?・・・ほら、私はここにいる」

彼女は俺の目をじっと見つめてくる。

俺はその瞳から目を外せなくて、胸が高鳴るだけだった。

俺は彼女を力の入らない体で抱きしめ、混ざり合った同じような体温を感じていた。

そして、お互いの頬をすりあい、唇を吸いあう。

ぼんやりした眼で俺は問う。

「どうする?本当にこのまま姫初めにしてしまおうか?」

「別に・・・好きにしたらいい」

そう言うと彼女は俺に身を預けた。

心地よさと。

いつか失ってしまうのだという空虚な気持ち。

愛しさと。

二人の間の魂を隔たるこの肉体を感じ。

そして、俺は、

「私はここにいるよ。だから、泣かないで」

彼女が俺の頬に手を当て、涙を拭っていく。

いつの間に俺は泣いていたのだろうか。

俺は彼女の胸に顔をうずめ、大丈夫と呟いた。

そっと頭を抱きしめる彼女。

その温かな彼女の温もりに包まれて。

女はずるい、俺はそんな事を思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何と言いますか、これは男ならではという感じがしました。言葉にすると女々しいということになりそうなんですが、男って不安に弱い生き物であるような気がします。だからこそ未来を予測して、出来る限り早…
[一言] うはっ♪ ロマンチック・エロ ごちそうさまでした♪♪♪ 主人公が泣くとこが好き。 繊細な男心の描写がよくできているなと思いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ