ああ、馬鹿だ。俺は馬鹿だ。だから、俺は君を・・・
「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
彼女はそう言うと、三つ指立ててぺこりとお辞儀した。
俺はそれに倣って、正座する。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
お辞儀した二人はそのままの状態で、しばらくいた。
それからどちらともなく吹き出す。
新しい年の始まりを俺達はこうして迎えた。
「寒いねぇ」
「うん。寒い。でも、だからこうやってくっつける訳で」
と言いながら、彼女をカイロ代わりに抱きしめる。
確かに冬なので寒いのだが、くっつきたいのは俺の願望だけである。
「でも、こうやってずっといる訳にもいかないでしょ」
「なんで?」
「だって動けないでしょ」
「そっか。こんなに温かくて柔らかいカイロなのに」
「ちょ、馬鹿!お腹つまむなぁ!」
俺は彼女の服の隙間から手を突っ込んで、お腹の贅肉をつまんでみる。
顔を真っ赤にして怒る彼女の拳は容赦がない。
「じゃあ、胸ならいい?」
「馬鹿!オヤジ!」
「別にオヤジでも良いもん。だって触りたいんだもん」
「もう、そんな馬鹿なことばかりやってると嫌いになるからね!」
俺は調子に乗り過ぎたのか、彼女は拗ねてしまった。
何を言っても無視だし、触ろうとすると振りはらわれる。
彼女は俺に背を向け、その表情は分からない。
俺は彼女の背に手を置き、話す。
「なぁ、本当に俺のこと嫌いになった?」
返答は間を置いて、
「・・・嫌いにはなって無い」
「そっか、良かった・・・いつかさ、お前に俺よりも良い奴が現れて、別れちゃうんだろうけど、それまでは一時でも精一杯愛そうって思ってたから」
「何それ?何で私達別れること決定済みなの?変な未来予想しないでくれる」
「けど、このまま付き合うとしてもいつかは死に分かれる訳だし、別れは決まっていることだろ?」
「私、貴方のそういうところ嫌い」
「だって・・・」
「だってじゃない。貴方の目は何を見ているの?貴方の耳は何を聞いているの?・・・ほら、私はここにいる」
彼女は俺の目をじっと見つめてくる。
俺はその瞳から目を外せなくて、胸が高鳴るだけだった。
俺は彼女を力の入らない体で抱きしめ、混ざり合った同じような体温を感じていた。
そして、お互いの頬をすりあい、唇を吸いあう。
ぼんやりした眼で俺は問う。
「どうする?本当にこのまま姫初めにしてしまおうか?」
「別に・・・好きにしたらいい」
そう言うと彼女は俺に身を預けた。
心地よさと。
いつか失ってしまうのだという空虚な気持ち。
愛しさと。
二人の間の魂を隔たるこの肉体を感じ。
そして、俺は、
「私はここにいるよ。だから、泣かないで」
彼女が俺の頬に手を当て、涙を拭っていく。
いつの間に俺は泣いていたのだろうか。
俺は彼女の胸に顔をうずめ、大丈夫と呟いた。
そっと頭を抱きしめる彼女。
その温かな彼女の温もりに包まれて。
女はずるい、俺はそんな事を思った。