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短編小説

騙されたカラス






カラスはとても素直な性格をしていました。疑うという事を知りませんでした。
カラスは光るものが大好きで、青いガラスの欠片、金のコイン、銀のピン、パールのブローチなどたくさんの宝物を持っていました。
一匹の強欲でずる賢いネズミがいました。ひん曲がった性格な上、酷い妬み屋でもありました。
カラスの宝物の事は、動物たちの間で有名な話でした。それを聞いたネズミは羨ましくて妬ましくてたまらなくなりました。
その綺麗な宝物を自分の物にしたい!
強い強いそんな欲求に駆られて、ネズミはカラスの住処を訪れました。

ドンドンドン!

ネズミは性急にカラスの家のドアをノックしました。

「カラスさん、カラスさん、どうか入れてくださいな!」
「これはこれはネズミさん、ようこそわが家へ。どうぞ入ってくださいな」

のんびりと突然の客を招き入れて、カラスはネズミをテーブルへ招きました。
ネズミは、いてもたってもいられずにカラスへまくし立てます。

「ねえねえカラスさん。あなたはとても綺麗な宝物を持っているそうですね!」

その言葉に、カラスは自慢げに胸を膨らませます。

「えぇそうですよ。ワタシの自慢の宝物です」

ネズミはカラスの様子に、増々嫉妬の心を募らせ、内心でひどくカラスを憎く思いました。
しかし、それをこれっぽちも表には出さないで、いかにも憧れている、というように目を輝かせます。

「なんてすごいんでしょう! あぁ、そんなに綺麗な宝物、たった一度でいいから見てみたいなぁ……!」

たまらずため息をついたように見えたネズミに、

「そこまで言われては、見せないわけにはいきませんね! さあ、どうぞこちらへ」

カラスは言葉とは裏腹に得意げな顔でネズミを奥の部屋へと案内しました。
そうしてネズミが見たものは、部屋いっぱいにつまれたキラキラと光る宝物の山。
これではカラスが自慢するのも仕方がありません。
ネズミはたまらず足元に落ちていたパールのブローチを拾い上げ、上から下から右から左から、言葉もなく熱心に観察しました。
乳白色の丸い宝石はキズ一つなく、その台座はプラチナで造られています。
プラチナの台座が葉っぱの形になっていて、雫に見立てたパールがいまにもしたたりそうな、素敵なブローチでした。

「そのブローチは、ある人間の女の子の部屋に遊びに行った時もらったものなんですよ。金の髪に、まるでサファイアのような瞳のかわいい女の子でした。ワタシはその子に歌を歌ってあげたんです」
「へぇ」

カラスは上機嫌に語ります。
ぴくり、とネズミの耳が動きました。
ネズミはブローチを握ったまま、次は金のコインを手にとりました。
片側には誰か人間の男性の横顔、もう片側には何かの建物が精巧な技術で刻印されています。

「それは灰色の石畳の町で拾ったものなんです。小さな人間の男の子が町の泉に願い事をしていて、後ろ向きに投げたものが、ちょうどあくびしていたワタシのくちばしの中へポン、とね」
「ふぅん」

カラスはその時のことを思い出したのか、クスクスと笑います。
ネズミのヒゲがせわしなく上下に動きました。
聞いているのかいないのか、ブローチとコインを握りしめ、ネズミが次に手を伸ばしたのは青いガラスの欠片です。
欠片といっても、それはまるで元からそう造られたかのような、少し歪な星形をしていました。
光に透かしてみれば、向こう側が青く染まって見え、とても綺麗です。

「それは南の砂浜で見つけました。人間の子供たちが星の砂というのを探して遊んでいたのですが、私がマネしても見つけられませんでした。それで落ち込んで帰ろうとしたら、ちょっと歪んでますが綺麗な星の形のガラスを見つけたので、これは運が良い! と持ち帰ったんです」
「それはそれは」

しみじみと目を閉じるカラスに、ネズミは気のない返事を返します。
その口は曲がり、頬が引きつっていました。
三つの宝物を腕に抱えて、ネズミはさらに宝物を掴み上げます。
それは銀色のピンでした。
純銀のようですが、ただのシンプルなピンにしか見えません。

「それはある人間の老人のものでした。ネクタイを止めるためのピンなのだと語っていました。亡くなった妻の形見だと。もうすぐ自分も妻の元へ行くから、誰かに覚えておいてほしい、と託されました。ワタシの宝物の中でも、大切なもののひとつです」
「……」

真剣な声音で、少し寂しそうにカラスは銀のピンを見つめました。
ネズミは何も言いませんでした。
もうたくさんだ!
ネズミの心の中はこの言葉でいっぱいでした。
嫉妬と怒りのあまりに、口もきけなかったのです。

「おや? ネズミさん、どうしましたか?」

両手いっぱいに宝物を抱えて立ち尽くすネズミに、カラスは不思議そうに首を傾げます。
ネズミはこのカラスをどうにかして痛い目に合わせてやりたいと思いました。
そして、まるで今にも泣きだしそうな顔を作りました。

「あぁ、とても悲しいのです」
「いったいどうしたんですか?」
「これはカラスさんの大事な大事な宝物ですから、きっとお借りする事はできないのですよね」

ネズミは至極残念という風に、腕の中の宝物を元の場所に戻していきます。
そのあまりにもしょんぼりとした雰囲気にカラスは慌てました。

「待ってください! 何かあったのですか?」
「えぇ……それが、私にはとても大切な子供たちが4人いるのですが、その子たちがどうしてもカラスさんの宝物がみたいと我儘を言い出して、私はそれを借りるためにここに来たのです」
「なんと! そういう事だったのですね」

ネズミの話に、カラスは驚いたように頷きました。
もちろん、ネズミの話は大嘘です。
ネズミに子どもなどいません。
しかし、全ての宝物をもとに戻したネズミは、名残惜しいようにゆっくりとした足取りでカラスの家を出ていこうとします。

「ですが、カラスさんのお話を聞いて、お借りするなんてとんでもないと思ったのです。あぁとても残念ですが、子どもたちには私の見た物の説明をするしかないでしょう……」
「ネズミさんネズミさん! どうか気を落とさず、帰るのを待ってください」

ネズミがかわいそうになったカラスは慌ててネズミを引き留めると、宝物の部屋に急いで行って、さっきネズミが手にしたものを抱えて戻ってきました。
そしてそれをネズミに渡します。

「どうぞこれを持っていって、子どもたちに見せてあげてください。そうすればきっととても喜ぶでしょう」

ネズミは信じられない思いで、目を見開きました。

「ほんとうにいいのですか? 大切な宝物なのに」
「ワタシにはまだたくさん宝物があります。少し減っても、また見つかるでしょう」

ぎり、とネズミは強く歯を噛みしめました。
カラスの言葉がとても余裕のある態度に聞こえたからです。
憎さを抑え込んで、ネズミは笑顔を作りました。

「あぁカラスさん、あなたはなんと心優しい動物なんでしょう! ありがとうございます! これで胸を張って子供たちの元に帰ることができます!」

言って、ネズミは走ってカラスの家を去りました。
あまりの悔しさに、一秒でも早くその場を離れたかったのです。
自分の家について、ネズミは宝物を床に叩きつけました。
宝物を自分の物にした満足感はどこにもありません。
それは、カラスがあまりに幸せそうで、宝物を失う悲しさが全くなかったからでしょう。
悔しさにはち切れそうなネズミは、カラスに同じような思いを味わわせるにはどうすればいいか、じっと考えました。
そしてしばらくして、ネズミはとっておきの方法を思いつきました。





ネズミはカラスから騙してもらった宝物を持って、動物たちに自慢して回りました。

「私はカラスさんからこんなに素敵な宝物をもらいました。カラスさんはこれよりもっとすごい宝物をまだまだたくさん持っています。少しくらいなら減っても大丈夫だと言っていました」

そんな事を言って回ったのです。
そうするとどうでしょう。
動物たちはネズミを羨ましがって、次々とカラスの家に押し掛けたのです。
少しくらい減っても大丈夫なら、俺にも僕にもわたくしにも宝物を分けて欲しい、と。
初め優しいカラスは快く渡していました。
しかし、どんどん動物たちがくるものですから、だんだんと宝物は少なくなっていきます。
それでもカラスは宝物をあげ続けました。
そして全ての宝物がなくなってしまうと、至極申し訳なさそうに謝るのです。

「すみません。もう、あげることのできる宝物はないんです」

心の底から謝るカラスに、宝物をもらえなかった動物たちは残念そうに帰るしかありませんでした。
そんな様子をずっと影から観察していたネズミは、いつまで経ってもカラスが辛そうにも悲しそうにもしないので、イライラを募らせていました。
カラスは時折、宝物がなくなったからっぽの部屋で、ひどく幸せそうな笑みを浮かべている事さえありました。
いてもたってもいられなくなったネズミは、ある日またカラスの家を訪ねました。

ドンドンドン!

「カラスさん、カラスさん、どうか入れてくださいな!」
「これはこれはネズミさん、ようこそわが家へ。どうぞ入ってくださいな」

以前と同じように、カラスはのんびりと突然の客を招き入れました。
テーブルに案内しようとしたカラスを遮って、ネズミはまくしたてます。

「どうしてあなたはそんなに幸せそうなんだ! どうして悲しまないんだ! どうして苦しまないんだ!」

ネズミの剣幕に、カラスは驚いて後ずさりました。

「い、いったいどうしたんですか、ネズミさん?」
「宝物はみんな奪われてしまったのに! 大切なものは何一つなくなってしまったのに、どうしてあなたは笑っていられるんだ!」

叫ぶネズミの方が、カラスよりも何倍も辛そうに見えました。
カラスはひどく驚いた様子でしばし目を丸くしていましたが、やがてネズミをテーブルに座らせると、向かいに座って穏やかに話し始めました。

「それは簡単な理由ですよ、ネズミさん」
「簡単ですって?」
「宝物はなくなってなんかないからです」

いったいどういう事でしょう。
ネズミはカラスが何を言っているのか理解できません。

「いや、なくなったじゃないか。あなたはみんな動物たちにあげてしまった」
「はい、そうです。あげること(・・・・・)のできる(・・・・)宝物は、みんなあげてしまいました」
「それなら!」

思わず怒声をあげたネズミに、カラスは微笑をたたえて言いました。

「でも、ワタシの思い出という宝物は、まだ残っていますから」
「……おもい、で?」
「はい」

想像もつかなかった言葉に、ネズミはポカンとしてカラスを見つめました。
カラスはひどく嬉しそうに頷きます。

「目に見える、手で触ることのできる宝物はなくなってしまいましたが、ワタシの心の中に思い出はみんな残っているのです。だから、ワタシは悲しくも苦しくもないんですよ」

カラスはそれはそれは素敵な笑顔を浮かべました。
見たものを幸せにするような、まるで宝物のような笑顔を。
ネズミはそこで気がつきました。
カラスから宝物を奪う事も、その宝物を自分の物にする事も決してできないのだと。
ネズミはバッと立ち上がると、急いで家へと走りだしました。

「あ、ネズミさん!」

背後でカラスが何か言っていましたが、一度も振り返りませんでした。
家について勢いよく中に入ると、床には叩きつけたままの宝物だったものが転がっていました。
それを見たら、もう我慢することはできませんでした。
夜になり、朝が来て、それからまた夜がくるまで、ネズミは空っぽの部屋で泣き続けました。





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