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文フリ短編小説賞2

Have a nice ERA!

作者:ひかり
 「次の方。行き先は?」
「明治……いや、大正時代だよ」
「画面に表示が出たら行き先をタッチして、枠内に目的をどうぞ」

 男はそう案内して、透明なガラスの向こうからカウンターに備え付けられた液晶画面を指差した。紫色のケバケバしいファッションに身を包んだ旅行者が、半ば呆れたように窓口の男に愚痴った。
「ハァ? 今時、液晶?」
「時間旅行では、色んな時代の方がお見えになりますので。タッチをどうぞ」
「チッ……わざわざ指を動かすなんて、かったりいなぁ。何時代だよ……」

 ぶつくさと文句を垂れながらも、若い旅行者は何とか残っていた親指で画面にタッチした。ガラスの向こうで、窓口の男が手元のコンピュータを覗き込み興味深かそうに頷いた。

「なるほど。お金を燃やして灯りにしてみたい……ですか」
「早くしてくれ」
3045年(いま)はもう、そんな時代じゃないですもんね」

 男は納得したように頷いた。そして、二人を隔てるガラスの、小さな円の形に切り取られた穴から、大正時代行きの切符を差し出した。紫色の旅行者は黙って切符をもぎ取ると、振り向きもせずにゲートの中へと小走りに消えていった。



「次の方。行き先は?」
「縄文時代です」
「画面に表示が出たら行き先をタッチして、枠内に目的をどうぞ」

 紫色のお客が終わると、次に窓口に並んでいたのはスーツに身を包んだ大柄の男だった。スーツの男は慣れた手つきで画面にタッチしていった。

「誰もが平等に成功のチャンスを与えられる時代……ね。フゥン……」
「到着は何時頃になりますか?」
「お客様の4237年(いま)はもう、そんな時代じゃないですもんね。縄文なら、約2時間で着きますよ。機内でごゆっくり、当時の映像でもご覧になって楽しんでください」
「ありがとう」

 軽く会釈すると、背中に黒い翼を生やしたスーツ姿の中年は、ゲートの中へと消えていった。窓口の男は彼を見送り、顔に微笑みを貼り付けたまま旅行者の列に視線を戻した。



「次の方」
「すいません……私、時間旅行は初めてなんですけど……」
「ええ、当店をご利用いただき、ありがとうございます。何時代の方ですか?」
「5654年から来ました……」

 次に現れたのは、半ば戸惑った様子の三毛猫だった。流暢な日本語を操る三毛猫に、男は柔らかな口調でタッチを促した。
「なるほど……努力が努力として、報われる世界に行きたいということですか」
「ええ……昔に、そんな時代があるのか、分かりませんが……」
「貴女の生まれた5654年(いま)はもう、残念ながらそんな時代じゃありませんもんね。だったら平成より前の昭和とか、それよりちょっと後の時代もおすすめですよ。料金は変わらないんで、そっちに変更しておきましょうか」
「あ……ありがとうございます、助かります」
「いえいえ。平成(いま)はもう、そんな時代じゃありませんから」

 男が手元のキーボードを叩くと、奥の機械からゆっくりと紙製の切符が発券され始めた。
「では、良いご旅行を」
「あ、ありがとうございました!!」

 三毛猫は手渡された切符を大切そうに咥えると、弾かれたようにゲートの中へと消えていった。


「次の方、どうぞ」

 人を殺したい。音楽でお金を稼ぎたい。お腹いっぱいご飯が食べたい。神を信じたい。週休2日が取りたい。モテたい。早く人間になりたい。好きな人に逢いたい。純粋に良い映画が撮りたい。自分を見失うほど、ロックンロールに浸りたい。有名になりたい。人を裁きたい。病気を治したい。生まれ変わりたい……それぞれの時代の、それぞれの時代(いま)はもう、そんな時代じゃなくなった人たちが、男の見守る前で次々とゲートの中へと消えていく。



「次の方……おや?」
 やがて客の数が引いたころ、男は思わず首をかしげた。本日最後のお客が、どうも今までとは勝手が違っていたのだ。やって来たのは、小柄な少年だった。窓口の前までおずおずと歩いて来た少年は、おっかなびっくりといった様子で男に声をかけた。
「あの……すいません。ここでタイム・トラベルが出来るって聞いて来たんですけど……」
「おいおい君ぃ、ダメじゃないか。どこの誰に、ここのことを教えてもらったのか知らないが……」
「お願いです! 僕、時間旅行がしたいんです! パパとママに……」

 何やら必死な様子の少年に、男は肩をすくめてみせた。そしてどこからともなくペンライトを取り出すと、有無を言わさず少年に光を浴びせた。「うわっ!?」まともに光を直視した少年は、その場に眠るように倒れこんでしまった。男が重たい腰を上げ、倒れた少年を担ぎながら小さくため息をついた。


「ダメダメ。君の2017年(いま)はまだ、そんな時代じゃないんだから……」

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