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アルディアナ・サーガ 作者:yowanep
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特務隊 ~ユクリプス城~ 2

第2章「特務隊 ~ユクリプス城~」の2話目となります。
 そのあまりの美しさにしばらく見とれてしまっていた四人だったが、アミィがはっと気付いて慌てて起立する。他の三人も慌ててそれに続く。
「あら、そんなにかしこまらないで。座ってください、私も座りますから」
 そう言って椅子に優雅に腰掛けるソルフィーシア。四人も倣って椅子に座る。二十人は座れる大きなテーブルの隅に、斜め向かいになるようにソルフィーシアと四人が座る。
「あなた方四人のことは、シルティスエルス、オリゲン、ベガからよく聞いています」
 そう話し始めるソルフィーシア。シルティスエルスはエレアとアミィの師匠、オリゲンはメルの働く酒場のマスター、ベガはグニの集落の族長の名前である。

「お名前を伺っても宜しいかしら?」
 そう言われて、自分達が名乗っていなかったことに気付く四人。
「し、失礼しました! 私はエレスティアです」
 ソルフィーシアに向かって一番近くに座っていたエレアが背筋をピンと伸ばして答える。
「アムネイシアと申します」
 そう答えて一礼をするアミィ。
「ベガが族長、ダグニーの民のグニ・ザッカートと申します」
 右手を左肩に当てた格好でグニが名乗る。ヴァルキュリネスにとっての正式な名乗りの作法である。
「えっと、メリエルです。よろしくお願いしますっ」
 グニの名乗りを見て、特に種族特有の礼儀作法などもなく、人間の礼儀作法もよくわからないピクシーのメルが、とりあえず元気よく挨拶しようとぺこりと上半身全体を折り曲げるようにしてお辞儀をする。
「ありがとう。堅苦しいのは好きではないから、愛称で呼ばせてもらってもいいかしら?エレアとアミィと、グニはそのままでいいかしら、メリエルはメルかしら?」
「はい、その呼び方で結構です、ソルフィーシア様」
 そう答えるアミィに対し、ソルフィーシアが苦笑しながら返す。
「もちろん皆さんも私のことはソルって呼んで。ソルフィーシアじゃ長いでしょう。魔術師ってどうしても略さないと呼びにくいのよね。ねえ、アミィ、エレア」
「え、でも……」
「それに私は貴族の出でも何でもありません。たまたまこのユクリプスの統治と魔術師ギルド長を任されているけど、本来礼儀作法とは無縁の魔術師よ」

 そう言って笑いかけるソルフィーシアに対し、エレアがどういう表情を作って返せばいいのか困っていると、その空気を察したソルフィーシアが話題を変えようと席を立つ。

「何か飲み物でも用意するわね。木苺の果実酒でいいかしら」
 そう言ってソルフィーシアが立ち上がると、手元に音も無くいきなり高級そうなカップと果実酒の入った瓶が現れた。そしてソルフィーシアが触れることもなく、勝手に瓶が空中で斜めになりカップに果実酒が注がれる。
「すごーい!」
 単純に目の前で行われている魔法による出来事に驚くメル。しかしエレアとアミィは同じ魔術師として、別の意味で驚いていた。
「凄い……詠唱も予備動作も一切無い……」
 エレアが感動のあまり思わずつぶやく。
 魔法を唱えるには、難易度の低いものから順に、呪文の詠唱を行う、その魔法を表す単語を唱える、指を鳴らす等のきっかけとなる動作を行う、という詠唱や動作が必要となる。しかし、魔法を極めると、そういった詠唱や動作を一切することなく魔法が使えるようになる。ソルフィーシアは、今の一連の魔法を一切動かずに行っていたのだ。
「あら、『瞬間移動』で食堂のカップと瓶を持ってきて、『液体作成』で果実酒を作って、『念動』で注いだだけよ。シルティスならどれも使えるから初めて見る魔法でもないでしょう?」
 エレアのつぶやきに気付いたソルフィーシアが、師匠のシルティスエルスの名前を出して答える。しかしシルティスエルスも『念動』でも軽い動作は行っているし、全魔法の中でも難易度のかなり高い『瞬間移動』を行うには単語を唱えていたので、それらを無動作で行うということに、あらためてソルフィーシアの魔術師としての凄まじさを感じたエレアだった。

 そのまま『念動』によって四人の前にコップが運ばれたところで、ソルフィーシアが席に座る。
「どうぞ、召し上がれ。魔法で造った飲み物だと自分が飲んだことのある味でしか作り出せないから本当に発酵させた果実酒の美味しさは出せないと思うけど」
「いえ、全っ然! うちのマスターが作る調合酒よりも美味しいですこの木苺酒!」
「あらあら、こんなこと言われちゃうようじゃオリゲンもまだまだね」
 メルの言葉に笑って答えるソルフィーシア。四人が一通り果実酒を口にしたところで、真顔になって話し始める。
「本当はこんな可愛い女の子達とはいろいろお喋りをしたいのだけど、私も色々と忙しいので、早速本題に入るわね」
 その言葉にごくりと唾を飲むエレア。ここまでは気さくにもてなしてくれていたが、実際どのような用件で呼ばれたのか見当も付いていなかった。

「あなたたち四人には、私ソルフィーシア直轄の特務隊に入ってもらいたいと考えています」

「とくむたい?」
 一瞬意味がわからず、鸚鵡返しに聞き返すメル。
「特務隊とはなんでしょうか、ソルフィー、……ソル様。特別な任務を行うという意味でしょうか?」
「ええ、文字通りの意味よ」
 エレアの質問に答えるソルフィーシア。
「そうね、具体的な例を挙げるなら、ユクリプス市内で起きる誘拐や盗難等の事件の解決や、ユクリプス周辺での魔物退治など、本当になんでも屋さんね」
 そう話して右手の人差し指を口元に当てるソルフィーシア。わざとなのかどうがはわからないが、こうした細かい仕草で威厳の割に可愛らしさというか親しみやすさを受けるのかなとエレアは思った。
「何でも屋さんだからこそ、どのような事態にも対処できる能力が求められるわ。だから、あなたたちの師匠から特に優秀な人材を推薦してもらうようにお願いしていたの。そうして呼ばれたのがあなた方四人よ」
「なぜ族長がソルフィーシア様の特務隊のことを知っていたのですか?」
 他の三人も同様に疑問に思っていたことをグニが訊く。
「それは、あなた方を推薦してくれたシルティス、オリゲン、ベガも特務隊の一員だからよ」
「えー!?」
 驚く四人。
「あのマスターが特務隊~!?」
 メルがそう叫んで羽根をばたつかせる。ピクシーが羽根をばたつかせるのは驚いた時の感情表現である。
「ええ、オリゲンは優秀よ。あなたには全然そんな素振りは見せなかったでしょう? あれで、裏では色々とユクリプス市内の事件を解決しているのよ」
「じゃうちの師匠も工房にいないときは特務隊の任務をこなしてたのかぁ」
 そうつぶやくエレアに対し、アミィはある疑問を口にする。
「ソル様、よろしいでしょうか?」
「何かしら、アミィ」
「このユクリプスは自治都市だと聞いています。ユクリプス市内の事件解決ならともかく、なぜ周辺の魔物退治までを特務隊が行うのでしょうか?」

「そうね、どこから話しましょうか。まずは四人ともあまり詳しくはないでしょうから、この北グラディナダ島の現状から話しましょうか」
 そう話し出しながらソルフィーシアは席を立つ。
「この北グラディナダ島は、領地としてはエイリス王国の領土内となるわ。エイリス王国は、大陸でもここまで昔から存在する国は無いのではないかというくらい長く続いている王国です。大陸とグラディナダ群島全土を治めた古代魔法王国が滅びて、蛮族達の無法地帯と化した暗黒時代と呼ばれた時代に、魔法王国時代の名残りの強大な魔法の力をもってたちまちグラディナダ群島を支配下に治めたと言います。でも、大陸からは遠く離れて大陸の国々と戦争になる可能性が低く、グラディナダ内での地方の領主は自分の領土内の魔物退治に精一杯で反乱を起こすことがないという状況から、エイリス王国そのものの軍事力、戦うための力はどんどん弱くなっていったの」
 ゆったりと扉の方に歩きながら話していたソルフィーシアが、踵を返して今度は四人の方に歩きながら話し続ける。
「そういう状況だから、南グラディナダ島に王都を構えるエイリスは、この北グラディナダ島の都市には税金の徴収には来ても、その見返りとして本来行うはずの魔物退治や山賊退治には全く人手を割いていないというのが現状なの」
「ひどい話ですねそれ」
 そう言って怒った表情を見せるエレア。
「そう、ひどい話よね。でも北グラディナダの諸都市も、魔物退治に精一杯で現状に怒って反乱を起こすほどの余裕はない。だから現状を受け入れるしかなかった。でも」

 四人の前まで戻ってきたソルフィーシアは手を後ろに組み直す。
「でも、それでは北グラディナダは領主の土地から一歩でも外に踏み出すと、野盗や魔物の危険に溢れた土地になってしまう。それだと安心して交易を行うこともできない。グラディナダは特に大陸と比べると魔物が多く存在するから領主に雇われた傭兵は領土内の魔物退治に追われて、交易の護衛に付く余裕まで生まれて来ないの。そうなると商人も安心して交易ができない。ユクリプスは自治都市で領土内に農地を持たないから、交易ができなければ住民は食べていくこともできないわ。そこで、エイリスの代わりにユクリプスが北グラディナダ全体で安心して交易を行えるよう、自分自身の手で安全を確保するようにしたかったの。そういう経緯で生まれたのが特務隊というわけ。わかってもらえたかしら?」
 アミィは、行きの馬車での、御者のソルフィーシアがユクリプスに来たおかげで安心して馬車業ができるという話を思い出していた。
「それでは、北グラディナダの統治をユクリプスが行えばいいのではないですか?」
 そう訊くアミィにソルフィーシアが即座に答える。
「それは駄目。それだと領地を奪われた形になるエイリスが黙っていないわ。戦争になってしまうでしょう。私には領土拡張の野心とかは無いの。ただ、ユクリプスと魔術師ギルドが平和に発展していって欲しいだけなの」
 直感的に、その言葉に嘘らしさというか、ソルフィーシアの本当の目的は他にあるように思ったアミィだったが、それを口にはしなかった。
「あと……」
 今度は腕を前に組み直して、ソルフィーシアが続ける。
「今のユクリプスは私個人に権限が集中しすぎているわ。自治都市としての統治機能も魔術師ギルドの管理も、全て重要な案件は私を通さないといけなくなっている。だから、私が多少不在になろうとユクリプスが正常に回るよう、いざという時のために安心して任せることのできる私直轄の特務隊の存在は重要なの」

「ソルフィーシア様は初めて会った我々をそこまで信用できるのですか?」
 そう尋ねるグニ。
「ええ。だって信頼できる人達があなた方を推薦してきたのだもの。だから私はあなた方を信用するわ。『読心』の魔法で心の中を覗くこともできるけど、そんなことをする必要は無いわ、目を見ればわかる。あなた方は信頼に足る人間よ」
 そう答えて四人に対し微笑みかけるソルフィーシア。その後、一呼吸間を空けて真剣な顔付きになって続ける。
「ただし、これはあくまであなた方の師匠と私の要望であって、引き受けるか引き受けないかはあなた方自身で決めて。拒否する権利はあります」

 その言葉に真っ先に反応したのがグニだった。
「この話は、いまだに『試練』を課されていなかった私への、族長ベガからの『試練』であると考えます。全力で引き受けます」
「私は、政治とか平和のために、っていうのはよくわからないけど、事件解決のために飛び回るなんてそんなワクワクする話、絶対にやりたいです!」
 グニに続いて、承諾の意を表すメル。そんな中、メルと同じように真っ先に引き受けそうな性格のエレアが、じっと考え込んでいた。グニとメルの言葉から少し間をおいて、エレアが口を開く。
「私は、自分の行動が人の役に立てる。そのためだったら何だってやりたい、特務隊にはぜひ入りたいと思っています。ただ……」
 そう言ってアミィの方を向く
「多分、特務隊は危険なものでしょうし、肉体的にきつい仕事も多いだろうと思います。アミィには特務隊に入ることを無理強いはできないです……」
 その言葉に、全員の視線がアミィに集中する。アミィは、ゆっくりと深呼吸をして、そして真剣な眼差しで語り始めた。
「私はエレアみたいに剣が使えるわけでもない普通の魔術師です。魔物退治といわれてもどれだけ役に立てるかわかりません。それに、私の本来の仕事は工房で師匠の手伝いをすることです。工房の手伝いができなくなることは不安です。……でも」
 瞬きをして口元を引き締めるアミィ。
「師匠がエレアだけでなく私も推薦してくれたというのなら、私も引き受けるべきなのだと考えます。それに」
 そう言ってエレアの方を向くアミィ。
「エレアと私は物心ついた時からずっと一緒じゃない。エレアだけ引き受けて私が引き受けないなんてありえないわ」
 その言葉に、思わずアミィに抱きつきたくなるエレアだったが、なんとか思い止まり、心の中でアミィに抱きついた。アミィにはこれで十分伝わっているとエレアは信じている。
「ありがとう、みんな。引き受けてくれて、とても嬉しいわ」
 そう言って四人に微笑みかけるソルフィーシア。その微笑みに、先程は話の途中で言葉に嘘っぽさを感じたアミィだったが、この笑顔は信じられると思えるものだった。

「それではあらためて、あなた方にお願いする最初の任務は……」
というわけで次回以降、四人は特務隊として活躍していきます。
今回までが導入部で、次回以降「冒険」タグらしい四人の冒険が中心の物語となっていきますのでご期待ください。
ブックマーク、ご感想等頂けましたら幸いです。
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