二章五節「射撃銃の共演は粗宴開宴の銃声」
佐山君が俺を狙っている。
その言葉を耳にした時、俺の頭の中は白く塗り潰された。
呆然と雨に打たれる俺の脳裏に浮かんだのは、駅前通りの殺傷事件の映像だった。
目前に立つ犯人が故意にではなく、自然と肩が触れただけで被害者の女性の片腕がもげた、あの直後の映像だ。
憶測に過ぎないのだが、犯人の力は『爆発的な肉体強化』だと思う。
ただの肉体強化なら常人でも可能だが、犯人の肉体強化はそれこそ人間離れした領域まで達した、最上級の肉体強化だ。
脱臼ならまだしも、犯人のそれは腕ごともぎ取ったのだから、相当な力があると言えよう。
洋菓子の包み紙を破る。それぐらい簡単に腕をもぎ取れる。
しかし、それは全て犯人の体内に在る『力』が原因のはずだ。
先程の言動を見ている限りでは、犯人は力を制御できていない様子だった。
明らかに、自分の意思で力を行使していない。
いずれにせよ、被害を受けるのは確かなのだが。
仮に佐山君が俺に力を行使するとなっても、危惧すべき程の事態ではない。
佐山君の力は『人の心を読む』だ。犯人のように生命に関わる危害が及ぶ要素はない。
何も心配する必要はない。大丈夫だ。俺自身にそう言い聞かせた。
「何で佐山君が俺を狙ってるか分かる?」
心配するな。と言い聞かせても、完全に払拭できないのは、佐山君に恐怖を感じているからだろうか。
「分かります。ですが、その前に一つ言っておきます」
犯人の真っ直ぐな目を見た時、心がきつく締め付けられた。
どこか楽観的でいた俺も引き締められていた。
「狙われているのは、早乙女さんだけではありません」
「俺だけじゃないってことは……」
「はい。複数が対象とされてます」
犯人が悔しいそうに奥歯を噛み締めていた。
やはり、犯人は故意に殺傷行為をしたわけではないようだ。
犯人からは心底、自分の力を悔んでいる様子が窺える。
俺は息を呑んだ。
「……誰だか分かる?」
犯人は首を横に振った。髪に付いた雨が周囲に飛び散る。
「個人名までは分かりません。ですが……」
犯人は一つ間を空けた。
雨の音が聴覚に直撃する。
「――早乙女さんの知る人達全員なのは確かです」
「俺の知る人達全員って……」
漠然とした頭の中で、俺と佐山君と共通する点を考えていた。
俺の知る人達全員。この言葉の解釈の仕方を変えれば、俺と佐山君が知る人達全員になる。
殺人を犯す者の心理なんて分からない。だけど、無差別殺人で無ければ、その人を殺しはしないと思う。
恨みがあったから殺した。など、その人を殺したくなる感情が無ければ行為に及ばないはずだ。
確証はないが、佐山君が狙う人物は『小中の時のクラスメート』だと思う。
俺と佐山君の中で知る人物を当てはめるとしたら、それぐらいしかいない。
佐山君はクラスメートに省かれていた。イジメられていた。
そういった負の念が、佐山君に殺意を抱かせたのではないだろうか。
殺人で報道される人物の過去にも、佐山君に似た過去を持つ者が多い。
でも、仮に俺の考えが正解だったら――前例のない連続殺人事件が日本で起こる。
言葉にしただけで、体が震えた。
俺が親しくしていた友達が起こすと考えただけで、目頭が熱くなった。
「……止めなきゃ」
俺が佐山君に嘘を吐いたことも、佐山君を孤独にさせた原因の一つなのだ。
俺は犯人の両肩を押さえ付けた。同時に鋭い痛みが全身を襲った。生汗が吹き出る。
「佐山君の居場所は!?」
その日が大雨である事も。
その日が同窓会だった事も。
俺の頭の中から消えつつあった。
佐山君を止める。
目先にあるそれしか、頭の中に思い浮かべられていなかった。
「教えたら、どうするつもりですか?」
「止める」
犯人は薄ら笑いを浮かべていた。一瞬だけ恐怖を感じていた。
「無理です」
突きつけられた言葉は雨よりも冷たかった。心臓が萎縮したような感覚が精神を襲う。
「リーダーの力は私達が持つ力の、全てを使えるんですよ」
一度に色んな情報が流れ込んできたせいか、頭が回らなかった。
冷静に、一つ一つの情報を頭の中で並べる。
力を使える人間が複数いる。
佐山君の力は進化している。
「ちょっと待って……佐山君がリーダーって?」
「――僕が彼女達に指示を与えているんだよ。早乙女君」
大雨に見舞われた視界は薄暗いベールに覆われ、物体を漠然と映す。
だけど、それは漠然とではなくて鮮明に映った。
記憶の中に、鮮明に焼き付けられていたから。
長袖の白いTシャツの下に黒いズボンを履いた、その人物。
皺だらけのその服は、相も変わらず不衛生に見える。
肩まで行き届く長い白髪は顔半分以上が隠れている。死体を連想させるような白さがあった。
アパートの出入口前。そこには友達がいた。
「佐山……君?」
佐山莞爾という、初めての友達が。
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