第23話「ステンシア発進」
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「ステンシア発進」
「それでは皆さん、私達は明日、ステンシアを立ちアティナ王城を目指します、第一陣は私とネシアさん、ヴィスパー君でいきます、カナミさんとプリエルは第ニ陣として私達に続いて下さい」
メリエルの言葉に全員がうなづく。
ステンシア城攻略から5日が経っていた。
一刻も早くアティナ王城に侵攻したいのは山々であったが、あまりにも兵力が貧弱すぎたのである。
ステンシアにメリエルが入った時点で1000にも満たない数では、約1万は配置されているアティナ王城の兵にはとても敵うものでは無い。
しかし、その心配は凄まじい早さで解決された。
ステンシア陥落を聞き付けた帝国の圧政に虐げられてきた近隣の村の農民や街に住む人々が、メリエルの率いる反乱軍に参加を申し込んできた。
三日経つと、その数は8000にまでになった。
ヴィスパーはローゼンフェリアとの賭けをしなかった事に安堵したが、カナミと苦慮しつつの部隊編成が待ち受けていた。
だが、幸いにも反乱参加者には元アティナ王国軍の兵士で職を追われて、いわゆる浪人となっていた者も多くいた為に、全てが素人という状態は回避でき、編成も手助けを受けて、考えていたよりもスムーズに進んだ。
そして、メリエルはカナミやネシアと相談の上、結局は5日目までに集まった参加者1万6000のうち選抜した約1万を率いて、アティナ王城攻略を始める事に決めたのである。
夜の城壁に立つと、冷たい風がメリエルの頬を撫でてた。
「いい風だな・・・」
城下の街はもう少しで日にちを変えるというにも関わらず明かりの見える店などもあった。
「あの辺りが歓楽街なんだね、街には色々な人達がいるね」
ステンシアに到着してからは、メリエルは目のまわる忙しさであった。
メセア補給庫を占領した時も近隣の村から駆け付けてきた村人達がメリエルに会う為に沢山やってきて、忙しくなったが、今度はそんな規模ではなかった。
とにかく、昼夜問わずにやってくる反乱参加希望者を百人単位だったり、十数人の集団だったりと会っていたので、三日目には流石のメリエルもグロッキー状態になり、カナミやネシア、ヴィスパー等が代理で代わる代わる会い、メリエルを休ませてくれたので、何とか持ち直したのである。
「メリエルさん」
後ろから誰かが、メリエルに声をかけてきた。
「ヴィスパー君」
声だけで判断がついた、メリエルは笑顔で振り返ると、思った通りヴィスパーも笑顔で立っていた。
「元気になったみたいでよかった」
月明かりに照らされるヴィスパーの笑顔は、メリエルの体調の快復に本当に安心した様子だ。
「みんなのおかげで何とかね、いつまでも倒れてられないから」
「プリエルさんが村では知らない人に何人も会うなんて無かったから、余計に疲れたんじゃないかって」
そう言いながら、ヴィスパーはメリエルの隣に立って、城下を見た。
「そうかも、村ではいつも知ってる人同士ばっかりだったからね、知らない人に会うのはやっぱり疲れるかな」
苦笑して、ヴィスパーに首を傾げるメリエル。
「でも、みんながメリエルさんを頼って会っているから・・・」
「そうだね、頑張らなくちゃ・・・それに」
「それに?」
「人に頼られるのは嬉しい事だからね」
メリエルの言葉には正直な強さがあった。
「よかった」
ヴィスパーはメリエルを見つめた。
「え?!」
「罪人にしたてあげられて、逃げた先にメリエルさんがいてくれて、本当によかった」
「あ・・・」
ヴィスパーの言葉に、思わず赤面するメリエル。
「メリエルさん?」
不思議がるヴィスパーに首を振って、
「私もだよ、ヴィスパー君が来てくれてよかったよ」
メリエルは自分ではとびっきりだと思う笑顔をヴィスパーに送ってみせた。
翌日の早朝、反乱軍は約8500の兵力でもって、アルザード帝国領アティナの主城であるアティナ城を目指しステンシア城を発進した。
2
「アティナ王城攻略」
「奴らを捜せ! 何故、3日も経って見つけられないのだ!」
バーネットは肥満した身体で激しく地団駄を踏んでリオスを叱咤した。
「ハッ、全力を挙げ捜索中ですが、ベルクタイ少佐とリキュエール少尉はどうやら地下に潜った模様で、難航しております」
「言い訳は聞きたくない、地下に潜ったのなら、軍で大捜索しろ!」
「お言葉ですが、バーネット様、反乱軍が約1万の兵でステンシア城から、この城を目指して進発しているという情報があり、軍は警戒体制に入っております故に・・・」
「だまれっ!」
伏しながら話すリオスの言葉が終わらないうちに、バーネットは怒鳴った。
「わしは右腕を失ったのだぞ! あの小娘を八つ裂きにしてやらんと気が済まんのだ!」
あの小娘とはリキュエールの事だ。
謀反を宣言して、暴れ出したリキュエールはまさに豪傑と呼ぶに相応しく、警備兵達も全く歯が立たないで蹴散らされ、バーネットの手前、逃げる訳にはいかずに、リキュエールにかかっていった幕僚達も数合として、刃を合わせられる者もおらず、4人が瞬時に討ち取られてしまった。
それでも数を頼みにリキュエールを討ち取るのは時間の問題とバーネットは高を括っていたが、予想外の事が起きた。
何とリキュエール逮捕を命じたベルクタイが数名の部下を引き連れて、リキュエールに加勢したのだ。
ただでさえ混乱していた大広間が大混乱の修羅場と化してしまった。
これは予想外と1人で逃亡しようとしたバーネットをリキュエールは背後から大斧で斬りつけ、バーネットは致命傷は逃れたものの右腕の肩から先を見事に切断された。
そこで警備兵の増援が来なければ、バーネットはリキュエールに間違いなく討たれていたであろう。
駆け付けた警備兵の増援をみるとベルクタイ達はリキュエールを連れて、一気に逃亡を開始した。
増援の警備兵達は、大怪我を負ったバーネットや幕僚達を見過ごす訳にはいかずにベルクタイ達の追跡は一部の者に任せて、看護兵の来るまで応急処置に当たった。
結局、ベルクタイ達は街に逃げ込み、追跡を巻いてしまったが、適切な応急処置により、バーネットや何人かの幕僚は命を取り留めていた。
ちなみに皮肉な事にリキュエールに敗戦の罪をなすりつけようとして、この自体を招いたリオスの部下は1人はリキュエールに首を落とされたが、残り2人も混乱のさなかで致命傷を負って死んでいた。
「とにかく、構わん! 守備兵から2000程引き抜いて、城下街を徹底的に捜索して、疑わしい奴はどんどん処罰せよ!」
バーネットの正気の沙汰とは思えない命令がリオスに下った。
「バーネット様、今は反乱軍の攻略作戦に対応するのが第一だと考えます、どうかご再考下さい」
リオスは土下座して頼み込む、だがバーネットは全く取り合わず、
「この城はアティナ王国の王城として建てられた城だぞ! 反乱軍の1万や2万位防いでみせろっ!」
と、逆に叱咤されてしまう始末である。
「了解しました、では」
仕方が無く退出するリオスだが、廊下に出ると思わずため息をついた。
「今は皆で力を合わせて、城を守らねばいけないのに、味方を疑い、敵をなめきっている・・・頼みはこの王城を攻める手段が反乱軍にない事だけか」
リオスの足は鉛の様に重たかった。
リオスの必死の捜索虚しく、ベルクタイ達の行方は全く知れなかった。
アティナの街の住民達は帝国兵には元々好意的ではなかったが、今までは力の前に嫌々ながらも様々な過酷な命令や徴収に従っていた、だが今回は様子が違った。
住民達はあからさまに帝国兵への嫌悪感をあらわにしたのである。
聞き込みをしても、知らないの一点張りで、全く要領を得ないし、反抗的な態度を取る者もいた。
リオスは部下達に住民とのいざこざは絶対に避ける様に厳命していた為に、帝国兵達はプライドを傷つけられながらも涙を呑んで引いていた。
しかし、そうした2000の兵達の涙ぐましい忍耐も実は結ばなかった。
何故なら、住民達は今までその帝国兵達の数倍もの忍耐を強いられてきたからである。
そして、バーネットやリオスは様々な対応策がとれた筈の反乱軍がアティナ王城に到着するまでの期間を裏切り者の捜索に無為に過ごしてしまったのである。
「あれが・・・アティナ王城、綺麗な城」
メリエルはステンシア城とはまた違う荘厳とも言える美しい城を見て、思わず呟いた。
見た事のない大きさの街を見下ろす様に小高い山肌にそびえ立つ白亜の城。
城自体の規模もステンシア城より遥かに大きい。
「援軍がある可能性が高いですわ、一気に決めましょう!」
ネシアが強い語気でメリエルを促すとメリエルも力強くうなづいた。
「ええ、予定通り先鋒をお願いします、けど城下街では気をつけて下さい」
メリエルは僅かにだが、鋭い視線をネシアに送る。
「わかってますわ、一般市民には危害を決して加えない事ですわね」
「その通りです、破れば、誰であろうと処罰して追放する決まりは変えません」
「まぁ、怖い顔ね、肝に命じますわ」
そう言ってネシアは馬に乗り込むと部隊の先頭に走り出した。
「じゃあ、僕も準備を始めるから・・・」
ネシアを見送ったヴィスパーはメリエルに頭を下げた。
「うん、ヴィスパー君も一般の人に気をつけてね」
「大丈夫、この街は僕の育った街だから」
ヴィスパーが笑う、メリエルは、
「そうだったね」
と微笑み返した。
「じゃあ、メリエルさんは総大将なんだから、狙われない様に気をつけて」
ヴィスパーも自分の部隊の方に走り去る。
「いよいよだね」
黒い瞳の美しい少女はヴィスパーにはついていかずに本陣に残っていた。
「ローゼンフェリアちゃん・・・ヴィスパー君についていかないの?」
メリエルが中腰になってローゼンフェリアに笑いかける。
「今はいいの」
黒い瞳はメリエルを捉えている。
「じゃあ、ここにいましょうね、ベリー!」
メリエルに呼ばれたベリーは、
「はいっ!」
と、戦いの前で緊張した声を上げてメリエルに駆け寄って来た。
「ローゼンフェリアちゃんを見ててあげて」
「わ、わかりました」
ベリーはローゼンフェリアの右手を握った。
しかし、ローゼンフェリアの黒い瞳はメリエルから視線を切らない。
「メリエル、あなたはこの戦いに勝って、この国の王になるんだよ」
ローゼンフェリアの言葉にベリーは目を見開いて驚くが、メリエルは表情を変えずにローゼンフェリアと見合っている。
「ローゼンフェリア・・・私達はあなたに、ここまで連れて来られたみたいね」 そう言ってローゼンフェリアに穏やかに笑いかけたメリエルは、味方部隊全体を見渡してから数秒の間、目を閉じてスウッと息を吸って、大きく透った声で叫んだ。
「全軍攻撃開始! 動ーッッッ!!」
第24話に続く |