ろく。
「何で急に稽古やるって言い出したんだ。」
「幸宗。」
稽古の休憩中、あたしの横に音をたてて座った彼。稽古開始から一週間が経ち、あたしは少しずつ以前の感覚を取り戻していた。そのため今は先生か、子供で一番強い幸宗と稽古をしている。
「別に?ただなんとなく。」
雄吉さんに勧められたなんて言えるはずもなく、そんなことしか言えなかった。
「あたしが稽古やるの、不満?」
「別にっ!!」
幸宗はあたしの顔を見ずに勢いよく立ち上がった。
「強いヤツと戦えるなら、俺は何も言わない。」
「……そう。」
彼のこういうところは好きだ。戦いに迷いがない、真っ直ぐに強さを求めている気がする。剣を交えてあたしはそう感じた。
「もしかして先生も怪しんでる?」
あたしは小さな不安にかられた。雄吉さんとの会話を聞かれたかもしれない。
「さぁ。たまに稽古中に違うこと考えてるっぽいけど。」
「そっか。」
「何かあるのか?」
「何もないよ。ほら、稽古しよ?」
先生は勿論幸宗にも言えない。これはあたしと雄吉さんの秘密だ。
「今日はここまでにしましょうか。」
「ありがとうございましたっ!!」
先生の一声で子供達はそれぞれの帰路につく。あたしは先生が子供達を見送る姿をいつも眺めて待っていた。
「さて寿々さん。」
「あ……、帰りますか?」
「いいえ。」
先生は静かに首を横に振る。
「寿々さん。少しだけ私と手合わせ願えませんか?」
「……え?」
突然の言葉にあたしは戸惑った。手合わせは戦うということ。あたしが剣術の経験者とはいっても、力の差は歴然だ。
「あたしは……」
「大丈夫ですよ。いつもの稽古ですから。」
なんて、柔らかい笑顔を見せられれば、断ることも出来なくて。
「どこからでもどうぞ。」
「……。」
結局、剣を交えることになってしまった。
「……行きます。」
あたしはぐっと木刀を構える。手は汗で湿っていた。
「すみません、少々本気になってしまいました。」
「はぁっ……はぁっ……。」
ほんの三分程度で手合わせは終わった。勿論あたしの負けだ。
息を必死に整えるあたしに対して、先生は汗一つかかず、涼しげな顔をしていた。
「何か隠していませんか?」
「何かって……?」
「私の仕事が、気になるんでしょう?」
「……なります。」
「その話は忘れなさい。詮索は無用ですよ。」
「先生……」
先生は家まで何も言うことはなかった。
そして翌日、先生は忽然と姿を消した。
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