さんじゅうご。
「やるだけのことはやりました。」
冷静すぎる医者の声が、あたしの脳味噌をやんわり刺激する。
青白い顔で布団に横たわるあたしの大好きな人は死んだように眠っていた。
「健ちゃん、助かる……?」
無意識のうちにあたしは医者にすがって言った。困惑した表情の医者にあたしは言葉を続ける。
「ねぇ、助けてよ。医者でしょ?」
「寿々、やめな。」
静さんがあたしの肩に触れようと手を伸ばす。それにも気付こうとせずにあたしは再度口を開いた。
「健ちゃんを助けてよぉ……!!」
「寿々!!」
強く肩をつかまれて小さく息を飲んだあたし。
「静さ……」
「少し寝たらどうだい?昨日は寝てなかっただろう?」
「……。」
確かに、昨日は一睡もしてない。でも今だって眠れる状況じゃないのだ。あたしは断ろうとしたが静さんの命令で自室に戻った。
「……健ちゃん……。」
ぽつり、と名前を呼べば涙腺がゆるむ。
お互いの気持ちがわかったのに、こんなことになるなんて思わなかった。
「寿々。」
あたし一人しかいないはずの自室から声がした。
「カミ、サマ……?」
「ああ。」
姿を現さないカミサマは重苦しい声であたしに言い出した。
「健太が怪我したのは俺のミスだ。」
「……え?」
意味がわからなかった。聞き返すあたしをカミサマは何も言わず同じ言葉を告げた。
「伊尾健太が怪我したのは俺のミスだ。」
「どういう、こと?」
だんだん言葉の意味がはっきりしてきて。
「ねぇ、カミサマのミスって何?それがなかったら、健ちゃんは怪我せずに済んだの……?」
姿が見えないのがもどかしくて苛立たしくて、あたしは自分の部屋を歩き回った。
「それは半分当たりで半分違う。」
「じゃあ何、何なの?」
遠回しな口ぶりにあたしは更に苛ついた。
「お前が止めてなかったら……お前がいなかったら、ヤツは烏を殺して自殺してた。」
「は……?」
健ちゃんの運命を変えたのは、あたしってこと?
「まさか烏がああなるとは、俺にもわからなかった。すまない。」
素直すぎる謝罪に、戸惑うしかないあたし。
「健ちゃんは、死ぬの?」
震える唇。あたしに動揺は隠せない。
「本人次第。俺にはそれしか言えない。」
「助けてよ、あたしに貸しがあるんでしょ?」
「無理だ。もう貸しは返した。桜姫と龍の発展を願ったはずだ。」
「……。」
確かに、あたしは貸しをそれにした。
「実際、あの二人が城の建て直しをするようになっただろ?」
そう、健ちゃんのことで頭がいっぱい過ぎて、桜ちゃん達のことを何も気付けなかったんだ。
「烏は捕まった。運命は変わっていくのな。」
「カミサマ、あたしがここにいるのはどうして?何であたしを呼んだの?」
「頼まれた。ある人間に。」
「?」
「寿々。世界は一つじゃない、それだけ覚えておけ。」
その後、何を言ってもカミサマは返事をくれなかった。
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