さんじゅうよん。
「寿々さん……っ!!」
桜ちゃんの声が遠くから聞こえた。頭がぼーっとして何も考えられない。
ただわかったのは、目の前に刀が来ていることだけだった。
「……俺が、寿々を殺れると思う?」
「健、ちゃん。」
喉がヒューヒュー鳴ってて苦しい。それだけあたしは緊迫してた。
「答えは否だ。」
あと一センチ。前に進んでたら確実にあたしは死んでた。
刀を鞘に収めてあたしをじっと見る。
「俺を生かした相手を殺る気はない。烏は警察に突き出すからな。」
「……うんっ。」
このときのあたしは安心しきってて、何も気付いてなかったんだ。健ちゃんの背後に寄る黒い影に。
「ぐ……っ!!」
隣のうめき声に初めて何かを感じとった。
「健、ちゃん?」
真っ赤な渋きが目の前にちらつく。何が起こったかを考える前に健ちゃんは崩れ落ちた。
「け……っ!!」
勢いよく後ろを振り返る。そこには龍君の刀を持った殿様……烏がいた。
「ははは!!俺の邪魔するヤツは皆死ね!!」
狂ったように叫ぶ姿は『醜い』の一言で。あたしは直視することも出来なかった。
「殿!!」
「お父様やめてください!!」
桜ちゃんと龍君の叫びはまったく届かず。高らかに笑う烏をあたしは鞘で殴って気絶させた。
「健ちゃん、健ちゃん!!」
後ろで桜ちゃんが龍君に警察と医者を呼ぶように指示していた。
あたしは無我夢中で、何度も健ちゃんを呼んだら軽く咳こんで薄く目を開けた。
「健ちゃん……!!」
「何……泣いてんの。」
健ちゃんの口端から血が流れるのが見えた。あたしの頬に触れた健ちゃんは弱々しくて、涙が止まらなかった。
「泣くと、可愛くないから泣くなよ。」
「うるさい……泣かさないでよ。」
馬鹿にしてるのに、あんまり優しく笑うから。あたしは健ちゃんの掌を強く握り締めた。
「寿々。」
「何……?」
「好きだ。」
本当にびっくりした。健ちゃんも、あたしと同じだったから。
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