にじゅうなな。
「寿々?」
「幸宗……。」
家に帰れば健ちゃんがいるかもしれない。そう思って稽古場である神社に来たら、幸宗に会った。
相変わらず自主練は怠らないようで、やっぱり偉いと感心してしまう。
「どうした?泣いてんのか?」
背伸びしてあたしの顔を覗き込んだ幸宗。普段は悪戯ばっかの悪ガキの癖に、こういうときは良いヤツなんだよね。
「ちょっと、ね。」
うーん、何て言えば良いんだろ。
あたしは石段に座った。すると幸宗もあたしの横に並ぶ。
「幸宗はさぁ、江戸の人間?」
「……具合悪いのか?」
半ば有り得ない、という目で幸宗はあたしを見た。
「や、あたしはさ、アンタ達とは世界が違うのよ。」
だから、侍の気持ちが理解出来ない。
「世界が違うって……寿々は、どこから来たんだよ。」
「……空から。」
「ふーん。」
「え、それだけ?もっと何かないの?」
ただぐっと伸びをする幸宗。
「別にない。寿々は寿々だから。」
「……。」
意外だった。幸宗がそんな風に思ってるなんて。
「侍の考えが理解出来ない人間なんて江戸にもいっぱいいる。それを見捨てるか、見守るかは、本人が決めることだろ。」
「幸宗って……大人だねぇ。」
あたしは感嘆のため息を漏らす。十歳近く違うのに考え方が全然大人だ。
「まぁ俺もいつかは武士になりたいからな。」
「そっか。」
夢があるから、その辛さもちゃんと理解してるんだね。
口で言うのはなんか恥ずかしかったから、あたしは心の中で小さく『頑張れ』って言ってみた。
「……寿々。」
「ん?」
幸宗を見れば石の階段の一番下を指差していた。
「待ってる。」
視線を徐々に移せば――
「健、ちゃん……。」
鳥居に寄りかかってあたし達を見てる健ちゃんがいた。あたしと目が合って、鳥居から離れる。
「俺また練習するから。早く話して楽になっちゃえよ。」
なんだかお兄ちゃんが出来たみたいだ。小さく笑みを溢して、あたしは大きく頷いた。
「幸宗。」
「?」
「ありがとね。」
「んー。」
幸宗はすぐに顔を反らしたけど、たぶん気持ちは伝わったと思う。
「健ちゃん!」
石段を駆け降りて健ちゃんの前に立つ。
「寿々、さっきは……」
「ごめん。あたし健ちゃんの気持ちわかってなかった。」
直角に近いくらいあたしは頭を下げた。
「や、俺も悪かった。」
お互い謝ったら何か笑えて、顔を見合わせて噴き出してしまった。
「帰るか。」
「うん。」
縦に並んで帰る。健ちゃんの少し広い背中を見て、あたしは小さな決意を持った。
最後まで、健ちゃんを見守るからね。
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