にじゅうろく。
「ほぉ……なかなか強ぇじゃねぇか。」
「お褒めいただき嬉しいかぎりです。」
あたし達がしゃべってる間に、先生と重兵衛は互角に戦っていた。
「お前……何者だ?」
鋭い視線が先生に飛ぶ。
「ただの一般人ですよ。」
睨まれてんのに先生ってば素敵な笑顔でもう……
「それより、黒幕がいるのではないですか?」
「何の話だ?」
重兵衛ははぐらかすように笑う。
「貴方が彼の父親を殺した件です。」
「……。」
「彼の父親は役所に勤めていたそうですが、貴方が彼と接した話は聞きませんでした。」
健ちゃんを見れば驚いた顔をしていた。たぶんホントのことなんだと思う。
「調べたのか?」
「ええ、少しだけ。」
ふんわりと笑みを見せる先生。重兵衛が舌打ちをして再び斬りかかる。
「貴様……」
「真実を話してくれませんか?」
「話すことなどない!!」
轟くような大声にあたしは思わず耳を塞いだ。
「そうですか。」
先生の目付きが変わった。
「ならここまでにしましょう。」
刹那、刀さばきが速くなる。押されてるのは……勿論重兵衛だ。一瞬の隙をついて先生が重兵衛の刀を弾き飛ばす。刀は弧を描いて床に刺さった。
「く……っ。」
先生の刀が真っ直ぐ重兵衛に向いた。笑顔のままだから妙に恐い。
「話しますか?」
「……頼まれたんだ。ある男に。」
悔しそうな表情で重兵衛が口を開いた。
「誰です?」
「俺が知るか。手紙で頼まれたんだからな。」
「名無しで?」
「……烏。」
「カラス?」
あたしは聞き返した。だってカラスって……あの鳥でしょ?
「そう書いてあった。金と一緒に。」
金欲しさの犯行ってわけね。最低。
「心当たりはないのか?」
健ちゃんも聞く。怒りの矛先が『烏』に向かっているのが目に見えてわかった。
「知らん。ただ言えるのは、それなりの権力を持ってるってことだ。」
「……。」
重兵衛は加地さん達に連れていかれた。そしてあたしと健ちゃんの前を通るとき、重兵衛は健ちゃんに頭を下げたんだ。
「悪かった。」
そう一言添えて。
「ねー健ちゃん。」
「……何だよ。」
警察に事情を説明するため、先生は加地さんに付いていった。あたしは健ちゃんと一緒に家に帰るところだ。
「怒ってる?」
「別に。」
でも健ちゃんの機嫌がかなり悪い。歩くのが少し速いからあたしは健ちゃんの後ろ姿に話しかける。
「……怒ってんじゃん。」
「怒ってねぇって。」
「嘘吐き。」
口を尖らせて呟くあたしの前で健ちゃんは足を止めた。
「何で来た。」
「何で、って……歩いてきたけど。」
「そうじゃなくて!!……どうして付いてきたんだって聞いたんだよ。」
あ、そういう意味か。
「助けになりたかったから。」
「お前一応女だぞ?少しは自覚持てよ。」
「一応って何よ。死ににいこうとする馬鹿が心配だったんだからしょうがないじゃない……!!」
怒られる意味がわからないよ。心配しちゃダメなの?何だか泣きたくなって、あたしは下を向いた。
「健ちゃん知らないでしょ。」
「何を?」
「昨日先生と二人で話してたときあたし聞いてたんだから。」
「……。」
あたしの言葉に健ちゃんは少しだけ反応を見せた。
「お願いだから……、死ぬ覚悟なんかしないで。」
頬に涙が流れる。江戸に来てから泣くことが増えた気がする。
「それは――出来ないと思う。」
「何で?」
「俺は武士だから。」
急に、胸が苦しくなった。
「戦いで死ねるのは、武士の本望だから。……ごめん。」
悲しそうに謝らないでよ。
「……いよ。」
「え?」
「武士なんか、侍なんか……大っ嫌い!!」
「寿々……っ!!」
あたしは健ちゃんにぶつかるのも気にとめず、その場を走り去った。
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