じゅうろく。
「健ちゃん頑張れー。」
「その名前で呼ぶなっての。」
ただいま健太改め健ちゃんが、幸宗と稽古の真っ最中。勿論お互い木刀でだ。
「なかなかやるなっ!!」
「お前もな、幸宗。」
必死な幸宗に対し、健ちゃんはまだ余裕がありそうだ。
「肩の傷は、いかがですか?」
「先生。」
座って見てるあたしの横に先生は立つ。
「痛みはもうないんですけど……静さんが暴れたら傷が開くからしばらくはじっとしてろと。」
だから稽古も見学なんだよなぁ。つまんないよ。
「たまには休息も必要ですからね。」
やんわりと微笑む先生。
「……先生。」
あたしは重々しく口を開いた。
「何です?」
「健ちゃんのお父さんのこと、ホントに知らないんですよね?」
「……もしかして、疑ってます?」
先生の眉がへの字になった。心なしか笑顔が悲しそうに見える。
「違っ、違います!!ただ……信じたいだけです。」
先生はあたしの恩人だから。疑うなんて出来ない。でも、信じるための事実を聞きたい。
「……すみません。」
「え?」
「私はいつも、困らせてばかりですね。」
「あ……」
そういう意味か。嘘つかれたのかと思ったから気が抜けた。
「彼の両親とは面識ありませんよ。名前も先日初めて聞きました。」
「そう、ですか……。」
先生の言葉を聞いても、どこかスッキリしなかった。
「今日はここまでにしましょう。」
「ありがとうございました!!」
いつものように先生は最後の子供まで見送っている。その後ろ姿を見つめるのは、もうあたしだけじゃなくなった。
「幸宗結構強いな。」
「健ちゃん余裕そうだったけど?」
そう、健ちゃんは今あたしと同様に先生の家で居候中。
「そりゃあ年季の違いだ。アイツ絶対強くなるよ。」
健ちゃんの言葉にあたしは大きく頷いた。
「お待たせしました。帰りますか?」
「はい。」
「あ……あたしちょっと買い出しに行ってきます。」
ヤバイ、静さんに頼まれてたの忘れてた。怒らせると怖いからなぁ……。
「一緒に行きましょうか?」
「や、一人で大丈夫ですよ。すぐ近くですから。」
先に帰るよう促し、あたしは足早に店へ向かった。
「味噌って……これで良いんだよね?」
風呂敷包みに抱えて歩きながらあたしは呟く。
静さんから『いつもの』って言えばわかるって言われてたけど……ホントにわかるなんてやっぱり商売って凄い。でも静さんの名前聞いて慌ててたから脅したりしたんだろうな……。
「……はぁ。」
ため息出た。疲れてなんかないのに……、逆に疲れないから疲れたのか?
「ダメだ……わかんなくなってきた。」
「何が?」
視線を前に向ければ、健ちゃんが柱によりかかってこちらを見ている。
「健ちゃん、どうしたの?」
「別に……。」
何でかあたしから視線を反らす。
「あ、もしかして迷ったの?」
「ばっ、馬鹿にするな!!」
ちぇー、そんな怒らなくても良いのにぃ。
「じゃあ何さ。」
「……荷物。」
「は?」
「荷物を持ちにきたんだよ!!」
そう言って健ちゃんはあたしの手にあった包みを自分の方へやった。
「……傷が開いたら面倒だろ。」
「……。」
気にしてんだね、まだ。でもあたし――
「かゆい。」
「……あ?」
「女扱いとか慣れてないもん!!なんか無茶苦茶恥ずかしい!!」
叫びながらあたしは軽く走った。
「あ、馬鹿!!傷が開くって言われて……」
「大丈夫だって。あんまり心配すると禿げるよ?」
「うちの家系は禿げないから!!」
健ちゃんと騒ぎながら家に帰る。歳より子供っぽいけど、今はこれで満足かも。なんて思った矢先――
「こんばんは。」
「……雄吉さん……。」
またこの男に振り回されそうだ。
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