いち。
葛西寿々、十七歳。あたしは今――
「ぎゃぁぁぁっ!!」
落ちています。深い暗闇の中に。
「ちょっと待って!!いやホント意味わかんないからぁぁっ!!」
叫びは暗闇に吸い込まれるように小さく聞こえる。せっかくセットした自慢のロングヘアは逆立っており、着地したらきっと悲惨なことになっていると思う。
「っていうか何処まで落ちんの!?」
落ち続けること約五分。……落下時間長くないですか?
いつも通り授業を受けて、いつも通り部活をサボって帰ってたらここにいた。何でか全くわかんないけど落ちたみたい。
「いやぁぁぁっ!!」
我ながらこれだけ叫べるのはすごいと思う。
そんな馬鹿げたことを考えていると、下の方から光が見えてきた。
「日本の真下に落ちてるから、日本の裏側……ブラジル!?えっ、ブラジルに落ちるの!?ブラジルって何語だっけ……」
落下しているせいか頭はパニック状態。その間にあたしは暗闇の穴の出口を抜けた。
「痛ぁ……っ!!」
落下先は何もない、ただ真っ白な世界。うつ伏せに着地したあたしの目にビーチサンダルを履いた足が入ってきた。
「……?」
徐々に視線を上げていくと、ブラジル人らしからぬ白い足。薄く白い布を纏った中年男がいた。
「は……?」
「こんちはー、葛西寿々さん。」
無精髭の生えた男はニッと笑う。
「ブラジル人じゃなくて日本人!?」
「何言ってんの君。」
冷静な中年男の突っ込みに、あたしの頭は冷やされたようだ。
「……貴方は誰?」
「落ち着いたみたいだな。俺は……カミサマだ!!」
自分を親指で指差し、偉そうな口調で言う。後ろには眩しい光を背負っている。
「……はあ?」
目の前の人が頭打っておかしくなったのかと思った。
「いいんだ……どうせ俺はカミサマになんか見えないよ……」
『の』の字を書いて落ち込む自称カミサマ。このままじゃ謎が解けず話が進まないので――
「カミサマ。信じてあげるからさっさと立ち直れ。」
「……ようやく俺がカミサマだとわかったか。じゃあ俺を敬え!!」
「……殴るよ?」
「ごめん、ホント申し訳ない。」
変わり身の早い、小心者なカミサマにあたしは小さくため息を吐いた。
「で、ここはどこ?」
「天国……っていうのは嘘!!嘘です!!」
拳を作ればカミサマは怯む。妙なことを知ってしまった。
「ここは時の狭間。」
「時の……狭間?」
「現代と過去の間って奴だ。」
「何であたしがそんな場所にいるの?」
普通に考えて凡人のあたしがカミサマに選ばれるなんて有り得ないでしょ。
「面白そうだから。」
「……は?」
「江戸に行ってこい、葛西寿々。」
カミサマが指をパチンと鳴らす。
その瞬間、床が消えた。
「嘘ぉぉーっ!?」
再び転落。暗闇に真っ逆さまだ。
「せいぜい新しい生活を楽しめ。」
「ふざけんな馬鹿ぁー!!」
不敵に笑うカミサマに、あたしの叫びは届かなかった。
「駄目だって!!ホントに無理だって!!」
叫んでも叫んでも、聞いているのはあたしだけ。それもそのはず、今は空から地面に急降下中なのだ。
青い空が霞んで見える。気圧で耳がおかしくなりそうだ。
「助けてくださーい!!」
結局あたしは落ちた。ただ良かったのは、海に落ちたこと。
「ぐえっ……!!」
勢いよく海に落ちたせいか、体がムチ打ちに遭ったように痛む。制服が海水を吸い込み、どんどん重さを増していく。
落ちる……
落ちる……
堕ちる……
最後に見たのは金色の髪の男だった。
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