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おまけのペットボトル

作者:神森真昼
「パパ!このジュース買って!」

 5歳になる娘が持ってきたのは、人気アニメキャラのノベルティがついたペットボトルのジュースだった。

「いいよ。」
「やったー!」

 嬉しそうにジュースを抱える娘を見ながら、僕の中は苦い記憶でいっぱいになる。それは、小さい頃・・・僕がまだ10歳の時の話だ。





 当時、僕は友達とペットボトルのおまけを夢中になって集めていた。全20種類、期間限定・・・全部揃えたいなら月のお小遣いを注ぎ込む以外に選択肢はなく・・・今思えば、なぜ、あそこまで夢中になって集めようとしたのかと、馬鹿らしくさえ思うが、当時は全部持っていることがステータスみたいなところもあった。

 また、友達の中には、そのおまけを集めるために買ったばかりのジュースを植木にかけ流したり、1本のペットボトルに2個のおまけつけてレジに持って行ったりする連中もいる。

 でも、僕は正直、そういう人の道に外れるようなことは御免だ。見た目こそはやんちゃだが、根は真面目なのだ。

 ある日。父と母がスーパーへ行くと言うので、僕は「一緒に行く!」と言ってついて行った。一人で買いに行けば、お小遣いから捻出しなければならないが、家族で行けば好きな飲み物の一本ぐらい買ってもらえるのだ。

「ちょっとジュース見てくる!」

 僕は、家族の元を離れ、ジュース売り場に向かった。ここのスーパーはちょっとした穴場で、大きい割には人も少ない。そのため、陳列されているジュースの本数も多いのだ。

 僕は、すぐに目的の商品であるおまけがついたペットボトルのジュースの前に行き、どんな種類のおまけがあるかチェックした。すると・・・奥の方に並んでいたもので、レアなおまけがついてるジュースを発見した。持ってないだけではない・・・買ったばかりのジュースを飲まずに捨てたり、1本のペットボトルに2個のおまけをつけてレジに持って行ったりする連中ですら、まだ持っていない、超ウルトラスーパーレアなおまけなのだ!!

 僕は、生唾をごくりと飲み、ドキドキしながら震える手でそのジュースを奥から引き出した。

 やったー!!
 頭の中で、友達たちが僕のおまけを物欲しそうに見つめる妄想が走り出す。

『すっげー!!!どこで手に入れたんだよ!!』
『ずっと欲しかったんだよ、それー!!いいなー!!』

 これで、僕も一躍有名人だ!むふふふっ!!・・・何ともお手軽な有名人の完成だが、この頃の僕にとっては一大事。このおまけを全部持っていることが、当時のステータスなのだ。

 そして、高ぶる鼓動をなんとか落ち着かせ、ジュースの味を確認し・・・思わず「げっ」と声が出た。なんと・・・僕が唯一飲めない味であるレモンだったのだ。僕は、今までレモンを避け、且つ自分の持っていないおまけがついた味を買ってきたが、今回は絶対に欲しいおまけがついている。譲れない・・・いや、譲りたくない!!

 ここから数分間、僕とレモン味との戦いが始まる。

 飲むのか、飲まないのか・・・買うのか、買わないのか・・・!!

 葛藤に葛藤を重ねながら、ふと陳列棚に並んだ他の味のジュースに目が行き・・・ひらめく!

 そうだ・・・付け替えればいいんだ!

 僕は、周囲に人がいないことを確認し、グレープ味についていたおまけとレモン味についていたおまけを付け替えた。罪悪感がないわけじゃない・・・けど、その行為の何が悪いとも思わなかった。

 その後、僕は、何食わぬ顔で母の持っていたカゴにジュースを入れ、レジにもついていったが、店員から何も咎められることはなかった。咎められるわけがない・・・レモン味とグレープ味、どちらにもおまけはついていた。それを入れ替えて購入したことに何の罪があるというのだろう。

 僕は、悪くない悪くない・・・。

 スーパーから帰ってきたが、レアなおまけが手に入ったにも関わらず、僕の心中は罪悪感でいっぱいだった。悪くないと思っているのに、悪いことをした気になるのはなぜだろう・・・。いや、待て・・・もしかして、これって犯罪なのだろうか?万引き?・・・いやいや、僕はちゃんとジュースを買ったじゃないか。

 悪くない悪くない・・・。

 あの日、この嫌疑と正当化の繰り返しを何度したことだろう。でも、学んだこともある。どんなに幸せで、夢叶うような出来事も、その過程に罪悪感を抱く行為があれば霞んでしまうのだ、と。

 それから時が経ち、大学生になった僕は、経済学の講義で、あの頃自分がやった行為が『詐欺罪』にあたることを知る。おまけがついている商品は、ジュースを売るための付加価値なのだ。それを差し替えるという行為は、いちごのショートケーキとマンゴーのチーズケーキの、いちごとマンゴーを入れ替えてるのに等しいと教授は話していた。

 僕の場合は味が違うだけだったが、提供側がレモン味の売れ行きが悪く、付加価値としてレアなおまけをレモン味にのみつけた可能性を否定することはできない。よって、どんな理由であれ、セット商品を無断で分裂させるのはご法度なのだ。

 過去に戻れるなら、あの頃の僕に言いたい。
お前も、飲まずにジュースを捨てた奴と、ペットボトルのおまけを2個にして買おうとした奴と、大差ないんだ、と。





「パパ?どうしたの?悲しいの?」

 さっきまでジュースを抱えて喜んでいた娘が、僕の顔を心配そうにのぞき込んだ。

「なんでもないよ。んじゃ、買って帰ろうか。」
「はーい!」

 僕は、娘の手をひきレジへ向かう。あの頃、罪の意識がなかった僕も、今は一児の父だ。5歳の娘にはまだ難しいだろうが、もう少し大きくなったら、おまけの付け替えはよくない事だと教えよう。





 買い物を終えて、車に乗ると、袋からおまけを取り出して目を輝かせる娘の姿がバックミラー越しに映る。その娘の横で、車内の温度が高いせいか、りんご味のジュースの水滴がシートを濡らしていた。

(終)
ここまで読んでいただきありがとうございました♪

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