森の賢者様。
※性格が悪いキャラがいます。気分を害す恐れがあります。続編も含めてそういう節があります。
アウグスヌスの森には白い賢者が住まう。
白銀の輝きを放つ髪を持つ、彼女は誇り高き賢者。古くからこの世界に存在している彼女は、膨大な魔力を持ち合わせており、豊富な知識を所持しているという。
あるときはドラゴンを退治し、ある時は我が王国の王家に助言をし、この国を導いてくださる偉大な方である。
森の白賢者は、心優しい方であり王国に貢献してくれている。彼女は新たな知識を求めてアウグスヌスの森に住居を構えているという。
『カタラーツ文庫刊/偉大なる賢者より出典』
はじめまして。私はちまたで賢者なんて呼ばれるようになった、セイナという者です。
この世界では魔力が多ければ多いほど寿命が長いという特徴があり、髪の色も魔力が多いほど美しく輝くと言う特徴がある。
私は既に200年近く生きていますが、強大な魔力のおかげで未だに見た目は20代前半です。髪はすっかり白銀に輝いていて、私の姿を見るだけで、私が魔術師として優秀であると周りの人間はすぐにわかることだろう。
そんな私は森の中に住んでいる。
木々が茂り、魔物が住まう深い森の中でのんびりと一人暮らしを満喫しているの。ふふ、一人暮らしは素晴らしいわ。お友達の精霊達と人に関わらず過ごす日常は楽しくて仕方がない。
それにしても…と思いながら私は丸い木の椅子に腰かけてちらりっと変装して街に買い物に行った時に買ってきた私について書かれている本を見る。
赤い表紙のその本は『偉大なる賢者』という本で出版されている。いや、それは別にいいんだけれどもやっぱり歴史って都合よく解釈されるのよねーって呆れたわ。
ドラゴンは退治したわよ? でもそれは、王子を信用してたからよ。当時の。結果として裏切られてしまったわけだけど。
王国への助言っていうか、聞いてきたから確かに速く帰ってほしくて答えたけどさ。結局もっともっとて知識を求めて、私を服従させようと『服従』の魔法なんてかけようとしてきて、ばっかじゃないの? って感じ。
そう、私はもうわかっているのよ! 私が膨大な魔力とかを備えてるせいで利用される恐れがあって、狙われたりするって事。裏切りとか、利用しようとしたりとか、私の血が欲しいだけが理由で口説いてきたりとか…、ふん、もう人間なんて信用できないのよ。
そもそも私は普通じゃないから脅えられたり、寿命が長いから仲良くなってもその人の死を見なきゃだからもう、やってられないわ。
この歳で彼氏出来たこともなく、現在友達は精霊だけっていう寂しい人間だけど、何か文句ある? って感じ。
全く、人と会いたくないから精霊と一緒に魔物が溢れて人がほとんど来ないこの場所に引きこもってるていうのに。まぁ、時々変装して買い物だけはしてるけど。それなのに知識を求めてとか何捏造してるのかしら。心優しいとか、はっ、って鼻で笑いたくなるわよ。大体、王国になんて貢献なんてしたくないわ。
『賢者様ぁ。機嫌悪いー?』
『だいじょーぶ?』
「ふふ、大丈夫よ」
人間に比べて精霊って何て可愛いんだろう! もう大好き。可愛いわ、ラブリーよ! 私の事慕ってくれているし、ほとんど寿命がないも同然な存在だからって無垢だし。喋り方も可愛いし。
ああ、精霊だけが私の癒しよ。
本当と精霊に好かれる体質でよかったわ。
人間なんかと仲良くしなくてもいいもんね。私は可愛い精霊が傍にいてくれればそれだけでいいの!
なーんて、思っていたのにだよ?
『賢者様ー、お客さん』
『森の中入ってきたよー』
『どうするのぉー?』
あるとき、精霊達が森の中に人間が入ってきたという事を教えてくれた。しかも白賢者である私へのお客さんらしいわ。いらないわ。帰ってほしい。寧ろ無様に魔物に殺されればいいのにとさえ思う。私は人間なんかに会いたくないもんね。
本当こんな思考回路の私を優しいなんて何でかけるのかしら? 心優しい白賢者の方が受けがいいからかしら? はいはい、捏造お疲れお疲れ。現実の私見て幻滅してでもいいから去っていけばいいのに。
大体、ひきこもってたら賢者とか呼ばれるし。意味わかんない助言求める連中とか、他力本願にもほどがあるわよ。自分の力で勝手にやればいいじゃない。できても人助けなんて好き好んで誰がするのよ。力があるなら人のために使わなきゃって? そんな風に言う人間もいたけど、生憎私そーいうの嫌いなの。ふん、綺麗事ばかり言う子もむかつくから嫌いだもんね!
そういう奴らはカエルに変えてやったわよ。ま、そういう場合はこの森の中で死んだって事に世間ではなってるらしいけど。ま、カエルとして死んでいったんでしょうね。
全く、客なんていらないわ。会いたくないし、結界でも張ろうかしら。
「シールド、展開」
言霊を口にして家の周りに結界を張る。この世界では言葉とイメージが大事なの。魔術を使う中でね。
言霊に魔力を乗せる。あと魔術公式ってのも魔術に関係あるけれどね。
まぁ、それらで生み出されるのが、魔術。
二階建の木製の家の周りを覆うのは、透明な結界。賢者とまで呼ばれるようこの私からすればこんなの楽勝なのよ! 伊達にひきこもりで暇だからって魔術の練習ばかりしてたわけじゃないのよ。
『賢者様、結界凄いねー』
『賢者様会いたくないー? 僕らで話つけに行こうかー?』
「あなたたちがそんな事する必要ないわ。そもそも危険人物だったらどうするのよ? 私は可愛いあなたたちが危険な目に合うのは嫌だわ」
精霊の力って人からすれば強大らしいの。だから、利用しようとして色々やる悪い人間ももちろん居るわ。もちろん、そんなバカはとっちめて精霊を救出したけど。全くこんな可愛い精霊達を無理やり使おうなんて最低だわ。
全く、さっさと諦めて帰りなさいなんておもいながら結界の中でのんびりと過ごす。ベッドに横になって本を読むの。読書は昔から私、好きなの。魔術練習ももちろん楽しいから大好きだけど。
しばらくそうして本を読んでいたんだけど、
『賢者様、結界の外で待ってるよー?』
『開けてくださいっていってるよ。なんかキラキラした人がー』
『んーと、王国の王子? なんだてぇ』
『王子様、賢者様に助言聞きたいって』
「…帰る気は?」
『ないよー。ずっといそう』
『外にテント立ててるー』
え、何それ。私が出てくるまでどけない気かしら。何て迷惑な……。私は人間になんて会いたくないっていうのに。そもそも王族なんて絶対面倒じゃない。
はぁ、とため息を吐いて魔物でもけしかけてやろうかしらなんて我ながら性格悪いことを考えながらも窓からちらりと外を見る。
ああ、確かに居るわね。あのキラキラしたのが王子かしら。それにしてもどうして王族って基本的にいつの時代もキラキラしてるのかしら。服装がっていうより、顔とか全体がなんかそういうオーラ出してるわよね。
私を騙してた王子もそうだったわ。まだ18歳で初な私は口説かれて舞い上がって……ああ、考えただけで殺したくなるわね。あの王子殺せばよかったかしら。なんて、もう居ない王子に対して思う。でも人を殺すのって気分が悪いのよね。自分で手を翳すのはやっぱり何度経験しても気分が悪くなるもの。
そもそも私は元々平和な人生を送っていたっていうのに、今考えれば膨大な魔力があったからってドラゴン退治にけしかけてあの王子最低だわ。
「あら…?」
窓を見ていたら、見なれた顔立ちの人種がいた。見なれたとはいっても、記憶に残るのは200年以上昔の記憶だけれども。
あれは、日本人の顔だ。私の故郷を思わせる顔立ちに、黒い髪。もしかしたら向こうの世界では時間がそんなに経ってないのかもしれないわね。なんて思う。
あの子も、私と同じで世界を渡ったのかしら? ふーん、ちょっと話してみてもいいかもしれないわ。ついでに変えるように言わなきゃね。ま、助ける気は一切ないけれど。
「精霊達、あの人達出迎えていいわ。ただし、家の中に一斉にけしかけられると困るから、用がある人だけね」
『わかったー』
『賢者様、楽しそうだねー』
『賢者様何かたくらんでる? でも賢者様が嬉しいとうれしーよー』
あー、可愛い。癒される。精霊達本当大好きよ。なんて可愛いの、なんて愛らしいの。日本でも子犬飼ってたのよね。あー、ペット欲しい。何か長寿で可愛いペット居ないかしら。
さて、出迎えましょうか。同郷の人を。それと王族とかを。
「白賢者様、私はナシトア王国の第一王子・シャーハ・ルトアと言います。そしてこちらが…」
「皆川有紗って言います。あ、違ったこっちだと、アリサ=ミナガワです」
笑顔で頭を下げる姿にふーんと思いながらも紅茶を飲む。
可愛らしい子ね。いわゆる美少女って奴かしら。それにしても完璧トリップしたみたいね。黒髪を腰まで靡かせて、くりくりとした目が愛らしいわ。
王子なんてなんか愛しそうにこの子見てるし。逆ハーで昼ドラ的な展開にでもかき乱してやろうかしら。面白そうだわ。
見ている限り魔力は皆無ね。本当に少ししかないみたい。ああ。羨ましい限りだわ。せめて私の魔力が一般的だったらおいていかれることも少なく、利用させることもなく生きていけたでしょうに。
「それで、何の用かしら?」
そういって、目の前に座る二人に視線を送る。
「本日は白賢者様に助言を頂きにきました。心優しいあなたならきっとこの哀れな少女を救ってくれると思いまして」
哀れ、ねぇ? 助けてくれる人が居るだけで幸せなのに何をほざいてるのかしら。ああ、カエルに変えたいわ。いえ、Gでもいいかもしれないわね。ああ、いけないいけない思考がブラックな方面に行くわ。
「ふぅん、それで?」
一応、顔には愛想笑いを張りつけておく。助ける気も助言をする気も全くないけど。実は私ってもう世界を繋ぐこともできるのよね。
だって賢者様だし? とはいっても髪なんて銀よ、銀。寿命もおかしくなっちゃったし、帰ってもどれだけの月日が向こうでたっているかもわからないし、もう18歳の高校生だった私は居ないもの。世界を渡れるようになったのは50年近く前。もう150年以上生きてるおばあさんよ。そんなんで帰れるわけもないじゃない。
「白賢者様は、『迷い人』とよばれる稀なる存在を知っているでしょうか。アリサはそれなのです」
「知っているわ。それで、その子が『迷い人』だから何をしてほしいの?」
ええ、よく知ってるわ。私も『迷い人』だったから。日本から迷い込んで早200年。もうすっかり日本にいた頃の18年間より、こっちにいるのが随分長くなってしまったわ。
「白賢者と呼ばれるあなた様なら、世界を渡ることも可能なのではと思ったのと、無理だとしてもアリサを助けてほしいと思ったのです」
「あ、あの、私……、こ、この誰も知らない世界に来て心細くて、家に帰りたいんです。できれば……」
うわー、何泣きそうな顔してるの? 家に帰りたいって気持ちはわかるけどさ。あんた裏切られてもないし、寧ろ本気で惚れられてんのにさ、悲劇のヒロイン? っていうか、イライラしてきたわ。
「まぁ、世界を渡る魔術がないこともないけれど…」
「本当、ですか。よかったな、アリサ。白賢者様が帰してくれるぞ」
「ほ、本当ですか…。ああ、家族のもとに帰れるんだ。帰れる…んだ。…ありがとうっ」
えー、何この子ら。帰すこと前提なの? どんだけ私優しいって認識されてんの。いやー、おかしいって絶対。寧ろ現在頭ん中どす黒い思いに染まってるけど。
王子も王子でさ。頼みこみもせずにそんな大魔術無償でやるとでも思ってるのって感じ。無償でやらなきゃおかしいみたいな雰囲気って大嫌いなのよね。あー、カエルに変えましょうか。いや、それより生かしたまま帰れない苦しみを味わってもらった方がいいかしら。
「白賢者様、できるだけ早くその魔術を…」
「い・や」
「へ?」
「え?」
きょとんとした間抜け面に何だか内心笑う。
信じられないものを見るかのように私を見ているなんて、ああ、捏造お疲れお疲れとしか言えないわよね。トリップ少女なんてすっかりさっきまで泣いてたのに涙ひっこめてるし、さっさと帰ってくれないかしら。
「……白賢者様、今、なんと?」
「だから、いやと言ったの。わかったらさっさと出て行きなさい。家の前にたまられても迷惑なの」
「え、な、何で…世界を渡る、魔術あるんですよね…?」
「あるわよ。だから何かしら。ああ、あとちょっとそこの悲劇のヒロインぶったトリップ少女。日本って今何年?」
「え、え? えっと、2070年ですけど…」
「……そう、じゃあ、もう用はないわ。帰りなさい」
私が異世界にトリップしたのは、2009年だった。向こうではもう60年近く経っているのか。両親が居た。友人がいた。弟がいた。そんな場所には私はもう帰れない。
進む時間が違いすぎる。もう、あの頃の私は居ない。
懐かしい記憶は既にかすんでしまってる。あの場所にもう、私の居場所はない。私の居場所はもうこの世界だ。精霊達の居るこの場所が私の居場所だ。
この森に、他の人間なんていらない。精霊と私…そして住まう魔物たちだけが居ればいい。だから目の前の奴らは要らない。
「白賢者様…? どうして、世界を渡る魔術があるのに…」
「そ、そうですよ。何で……。それに何で日本を知って…」
「はぁ、呆れるわ。何で私があなたたちのためにそんな大魔術を使わなければならないの? あるとは言ったわ。でもそれはそこのトリップ少女のために作ったものじゃないもの。自分のために作ったの。もう、使う事はないけど」
絶対に使ってくれるなんて思ってる事に虫唾が走る。
長い間生きてれば人の嫌な部分だって沢山見てしまうし、無垢で善人な人間として生きていくなんて普通に無理だと思う。
「自分のためって…」
「ああ。私も200年前に此処に迷いこんだのよ。今は魔力のせいで銀髪だけど、昔は黒かったわ。で、いつ帰るの? 今すぐ帰ってよ」
疑問に満ちた目を浮かべてくる少女に、さらっとそう答えてさっさと帰れと視線で促す。
それでも彼らは動かない。
「…ま、迷い人なら、帰れない辛さわかるでしょう? だからこそ……アリサを」
「そ、そうですよ! お、同じ同郷なんですから」
「は? 何いってんの。というか、泣きそうな顔しないでよ。気持ち悪い」
ばっさりと思わず口からそんな言葉が出た。いや、すぐ泣く子って嫌いなのよね。
「な、ひ、ひどい……。賢者様は優しいって…」
「トリップ少女黙りなさい。私が優しい何て捏造よ。ただの間違った解釈よ。ばっかじゃないの?」
「え、で、でも、ど、ドラゴン退治とか」
「はっ。その話はしないでくれるかしら? ドラゴン退治の後そこの王子の先祖にこっぴどく裏切られたのよ。本当あのキラキラ王子の甘いマスクに騙された当時の私死ねばいいのに」
「え、えっと、王族に助言とかは…?」
「はっ。しつこいからやったまでよ。その後国に仕えろとかバカなこと言ってきて本当にふざけてるわよね。『服従』の魔法使おうなんてばっかじゃないのって感じ。この私にそんなものきくわけないでしょーが」
全く、質問はいいから出て行きなさいよ。精霊と私の住居に長居しないでほしいものだわ。本当に邪魔よ、邪魔なのよ。
ふん、何を唖然とした顔をしてるのかしら。
「さっさと出て行きなさい」
「え、ちょ――」
「あ、あの――…」
王子とトリップ少女が何かいってるけどさっと魔術を使って彼らの体を浮かす。そして、追い出そうとする中で、
「あ、家の前でたまってたらカエルに変えるわよ? 魔物けしかけてもいいわよ? だから、大人しく帰りなさい」
って笑顔でいっておいた。
しかし、唖然とした顔は滑稽だわね。少しだけど。不快感の方が多いけれど。
さて、
「シールド、展開」
風の魔術で追い出して、バタンッとドアを閉めて、さっと結界を張る。
『賢者様、いいのー?』
「ええ。いいのよ」
私は問いかけてくる精霊ににっこりと笑って、気分を晴らすために読書でもしますか。ってわけでのんびり過ごすことにした。
え、その後の王子とトリップ少女? 知らないわよ、興味ないもの。
――――心優しい白賢者? はっ、何よ、その冗談は。
(白賢者様はひねくれものです)
セイナ。
本名田辺静菜 タナベセイナ
やさぐれ賢者/200歳超え。
異世界トリップ当初18歳。膨大な魔力所持者。
人間不信?てか、人嫌い。何度か裏切られてすっかり性格が歪んでる。精霊大好き、精霊可愛いよーと思ってる。性格は悪い。
有紗
トリップ少女。無垢で可愛い?美少女。
戸惑ってた所を王子に発見される。テンプレ逆ハー少女。
王子
有紗に惚れる。キラキラ王子様。
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