ドラゴンの始祖・Unknown①
ドラゴンと共に生きたいと願った。
それは許されざる願いだったのだろうか。
人ならば人と、ドラゴンならばドラゴンと
分相応に生きる事をモラルと呼ぶのだろうか。
この望みを人に話すと必ず奇異の目を向けられた。
下卑た笑いを浮かべる者すらいた。
口汚く罵られる事もあった。
狂っているとしか言い様が無い、そう言われ続けたとしても
私はその話を口に出さずにはいられなかった。
ドラゴンの事を思い浮かべると心の中が真っ白に光る。
白い光りに心の中の雑多なものは塗りつぶされて、とても幸せな気分になる。
優しいドラゴン、美しいドラゴン
誰かにこの気持ちを話してしまわないと気が狂いそうになってしまう。
心の中が喜びで溢れ返り、他の何もかもを考えられなくなってしまう。
誰か聞いて
私のドラゴンの話を
誰か理解して
私のドラゴンの美しさを
誰か救ってあげて
愚かな私が救えない
私の可愛いドラゴンを
―――私は、ドラゴンを殺した。
―――私が、ドラゴンを殺した。
「始祖様!?わぉ!お帰りなさいませ!」
そう言いながら息を弾ませて駆け寄ってくるクルトに、私も微笑みながら手を振った。
「今回は早いお帰りでしたのね!みんな始祖様のお帰りを心待ちにしておりましたわ。」
「あら、私がいない方がのんびり出来るんじゃないの?クルトも少し見ない間に随分肌の艶が良くなった気がするわ。」
笑いながらそう言うと、クルトは頬をプクッと膨らませて上目遣いに睨んで「冗談はやめてください。」と言い返してきた。
「始祖様がいた方が皆嬉しいに決まってるじゃないですか。それに肌の艶が良く見えるのは・・・・・・えーっと・・・。」
「良く見えるのは、怠けてご飯食べてばっかりいたからでしょう?」
「~~~っ!?」
ボンと音のしそうな勢いで顔を赤くしたクルトは「え・・・え!?そ、そんなに!?」と自分の顔やお腹、二の腕を次々とさする。
その様子が可笑しくて思わず噴き出すと、湯気でもでそうな程に首まで真っ赤になったクルトは、顔を泣き出す寸前のようにクシャクシャにした。
「か、からかわないで下さい始祖様!肌の調子が良いのは・・・その・・・そう、栄養をしっかりとる様に気をつけて生活を送っていたからです!無茶な修行も控えて夜も早く寝るようにしましたし!」
「・・・言い方を変えただけって気もするけど。」
「そ、そそそんなことありません!」
「ふーん・・・。」
「何で私のお腹を見るんですか!?や、やめてください!」
「暫くはブッチに生の野菜だけ出して貰う事にしようかしらね?」
「そ、そんな・・・。」
意地悪く口の端を吊り上げて笑うとクルトはガックリ方を落としてうなだれた。
「も、もう、いっその事しばらく断食します・・・。」
「あら、下手に断食なんかするとリバウンドも怖いわよ?美容にも最悪。」
「~~~っ!ど、どうしろって言うんですか!」
う”ああああ、とクルトが頭を掻き毟って絶叫した。私はその様子にまた声をあげて笑いながらクルト抱きしめた。
「冗談よ冗談。・・・ただいまクルト。寂しい思いさせたわね。あなたが想っていてくれたのと同じ位、私もあなたに会いたかったわ。」
「・・・お帰りなさいませ始祖様。・・・たかだか帰還のご挨拶をされる程度の事の前に、余計な事を言い過ぎですよ。」
そう唇を尖らせるクルトに微笑みかけると、クルトは照れたように下を俯いてモジモジと身をよじった。
「お帰りになられるなら、水呼びでもして教えてくだされば良かったのに。きっと皆驚きますわ。ヴァンスだってきっと部屋をぐちゃぐちゃにしているでしょうし、ブッチも腕によりをかけた料理でお出迎えが出来なくてがっかりしてしまうわ。ノワールは課題の呪文すらまだ覚えていないし、ヨーンは馬を洗ってやるのをサボっているからきっと真っ青になるでしょうね。」
「・・・聞かなかった事にするわ。そうね、ブッチの話以外は。」
クルトはクスクスと笑い声を上げると「あ、そう言えば」と言いながら肩から提げていた鞄の中に手を入れ、ゴソゴソと暫く探った後に固そうな銀色に輝く薄い石のようなものを取り出してみせた。
「あら、鱗?」
「ええ、ホッジスのものです。」
「来てたの?もう帰ってしまったのかしら?」
そう聞くとクルトは少し困ったような顔をして首を左右に振った。
「それが、よくわからないんです。」
「わからない?」
「ええ、二日ほど前に急にいらっしゃって始祖様はいるかって聞いてきたんです。今はダグラスに出掛けていらっしゃるのでいませんとお伝えしたら、また来ると言ってどこかへ行ってしまわれて・・・。」
「ふーん・・・。珍しいわね、いつもは一度来たら必ず何日か居座るのに。」
「ええ、それに事前に何もおっしゃらずにいらっしゃる事なんて今まで一度もありませんでしたし・・・。」
不思議そうに首を捻るクルトを抱擁から開放してやり、淡く光り輝くその鱗を受け取るとすぐさま違和感に気付いた。
「・・・あら?これ成長痕?ホッジスが魔法を使ったの?」
「え?どこです?」
「ほらここ、小さいけど縦に傷が入っているわ。これ成長痕でしょう?」
「・・・あ、本当だ。全然気付きませんでした。」
目を丸くして覗きこんでくるクルトに、鱗の裏側を指で指し示してやる。
鱗の裏側には縦に爪で引っかいたような傷が数本小さく刻まれていた。
ドラゴンが成長した時に、その急激な変化に耐え切れずはがれる鱗に観察される独特の引っかき傷だった。鱗の大部分は魔法の使用時に剥がれ落ちてしまうはずだったが、大方たてがみにでも絡まっていたのだろう。鱗の光り具合からみてもそう古いものには見えない。
「・・・おかしいわね。ホッジスはもうそろそろ魔法を使ったら危険でしょう?」
「うーん、そうですね・・・、鬱傾向も見られませんし、不用意に魔法など使うはずもないと思うんですけど。」
「そうよねぇ。」
「むぅ?」
クルトが傾げていた首をさらに倍近く傾けて、頭をほとんど横倒しにしたまま不思議そうな顔をした。
「何か緊急の場面にでも遭遇したんじゃないんですかね?」
「そうねぇ・・・。想像もつかないけど、あのホッジスが慌てて魔法を使っちゃう場面なんて。」
「むぅ。」
暫くそうして唸った後、クルトは「まぁまたいらっしゃるのを待ちましょうよ。」と言って気持ちを切り替えたように笑顔を見せた。
「それよりもまずは皆に声を掛けてやって下さい。突然のご帰還で慌てるとは思いますけど、皆喜ぶはずです。」
「・・・そうしましょうか。ここで突っ立っていても謎が解けるわけじゃないしね。」
「水呼びで知らせますか?」
クルトが首からかけた、水が僅かに入れられた小瓶を持ち上げてそう聞いてきたが、私は首をふって微笑んだ。
「いいわ。直接顔を見せて驚いた顔でも鑑賞しましょう。」
「あら、弟子いじめが過ぎるとその内しっぺ返しが怖いですよ。」
「それが楽しみでこっそり帰ってきたのよ。仕返しが怖くてやめられますか。」
クルトと二人で笑いあって、私は弟子達が待つ小さな小屋へと足を向けた。
ホッジスが何の用事だったのかは気になるけれど、今はそれよりも弟子達の反応が早く見たくて仕方がなかった。
「それにしても、始祖様も人が悪い。帰ってくるなら先に教えてくだされば良いのに。」
そういって、ヨーンが何度目とも分からないセリフでぼやきながら頭を掻いた。
「たまには私がいない時にあなた達がどんな生活をしているのか見てみたくてね。それにこういう事もあった方が私の留守中にも緊張感があって良いんじゃない?」
ダグラスから帰ってきたその晩、私は久々に会えた弟子達に囲まれながらささやかな宴を開いて貰っていた。
急な帰還であったにも関わらずブッチはその腕を存分に振るってくれて、6人で囲むには少し狭いテーブルに所狭しと料理が並んでいる。ヨーンにあった時は「げ」と言ったまま固まった様子に笑わせてもらったし、ノワールが「あぁ」といってよろめいたのも面白かった。予想どおり冷静だった小食のヴァンスはというと、今は早々に食事を終えて、ブンパと呼ばれる弦楽器を持ち出して音楽を奏でてくれている。その音楽を聞きながら弟子達と食卓を囲むこの一時が、私にとって何よりも楽しい時間だった。
「たまにはって仰るなら、それこそたまの息抜きは素晴らしい人生のスパイスですよ。」
「ヨーンは私が居たって十分過ぎるほど息抜きしているように思うけど。」
そう言うと私の隣に座ったノワールが「違いねぇ」と言って大きな笑い声を上げた。
「笑うなよノワール。お前だって結局始祖様のお帰りまでに風詠みの呪文を完成させられてないだろう。おあいこだおあいこ。」
「俺はお前と違ってサボったわけじゃないんだがな。人間得意不得意はあるもんだ。怠けてる奴と同じにして貰っちゃ困るぜ。」
笑いながらノワールにそう言われると、ヨーンは憮然とした表情のままブッチお手製のシチューを啜った。どうやら降参したらしい。その様子を微笑みながら見ていたブッチが、丸く愛嬌のある顔を私に向けて口を開いた。
「それにしても今回は本当にお帰りが早かったですね。いつものように一月はまるまる帰っていらっしゃらないものだと思っていましたよ。」
「あぁ、そうね。私も初めはそうなるもんだと思ってたんだけど。今回は用件がいつもと違ったのよ。」
「魔術指南ではなく?」
クルトが不思議そうな顔をして聞いてくる。私はクルトに頷いてみせると、手に持ったグラスをテーブルにおいてダグラスで伝えられた用件について弟子達に話し始めた。
「正直なところあなた達に伝えるべきかどうか迷ったんだけどね。どっちみち事が動き出したらあなた達もすぐに分かる事だから話しておくわ。」
「・・・何か良くない事でも?」
私がそれまでのリラックスした表情を固くして居住まいを正すと、少し不安そうにノワールが真面目な顔をして私に聞いてきた。
「そうね、いい事ではないわ。・・・結論から言っちゃうと、ダグラスに戦力として召集する旨を伝えられたわ。」
「・・・は?」
「そんな馬鹿な!?」
ヨーンが目を大きく見開いてテーブルから立ち上がった。他の弟子達も口をポカンと開いて、一様に驚きを隠せない表情で食事の手を止めた。
「それは話が違う!人殺しの手助けなどに使うために私達は魔法をダグラスに提供してきた訳ではないじゃないですか!」
動揺を隠しもせずに声を荒げるヨーンを目で制すと、納得のいかない表情でヨーンは黙り込み、勢いをつけて腰を下ろした。ヨーンの気持ちはよくわかる。人に危害を加える目的で利用しない約束のもとに、毎年の魔術指南や技術提供を行う事、その代わりに国家からの基本的な干渉を一切免除される事がダグラスとの契約だった。私が資金提供をしている孤児院への税の免除も契約の一部だった。
今回の訪問で言い渡された下知はその契約をまったく無視するものであったし、向こうの態度は脅迫といっても差し支えのないものだった。
「私もすぐにその申し出は拒否したわ。だけど向こうはアイン孤児院への運営許可の取り消しをちらつかせてきた。卑怯な真似されて腹が立ったけど、30人からの兵士に囲まれちゃっててね。部屋に入って不審に思った時点で踵を返しておけば良かったわ。」
そう聞くとノワールは獣のように唸り声をあげ、ブッチは信じられないといったように首をふった。
「ひどい・・・あそこは今やダグラスで一番の・・・、ううん、この大陸一番の大きな孤児院なのに。あそこが閉鎖されちゃったら今以上に街は孤児で溢れ返っちゃうわ。・・・戦時の街なんかに放り出されたら、何人死んでしまうかわからないのに。」
クルトが目に涙を浮かべてそうつぶやくと、ヴァンスも眉をひそめて頷いた。
「始祖様、10年前に貴女がたちあげた院を潰させるわけにはいきませんが・・・、ダグラスの申し出、お受けになったのですか?」
そう聞いてくるヴァンスに首を振って答えると、ヴァンスは複雑な表情で俯いた。
「今の所すぐに院をどうにかしようって訳じゃ無さそうだったから。とにかく急に言われても困るって突っぱねて急いで帰って来たの。でもいつまでも保留にしておける問題でもないでしょうね・・・。戦況はかなり悪いみたいだし。富裕層には移動の準備を始めている者もいた。下手するとゴランに市街戦にまで持ち込まれるんじゃないかって噂で街は持ちきりだったわ。いよいよ追い込まれた上層部の誰かが私達の事を思い出したんじゃないかしらね。」
「ダグラスには、いつまでにお返事を?」
「三日後。」
「たった三日・・・。」
「ええ、騎士団が大勢で返答を迫りに来る予定になっているの。」
「急すぎる・・・。こんな事じゃ別の案を考える暇もない・・・。」
私の言葉を聞いて弟子達は口々に嘆いた。
その中で、黙って考え込んでいたノワールがおもむろに声をあげた。
「始祖様。」
「なに・・・?ノワール。」
「私は・・・招集に応じるべきだと思います。」
真剣な顔で私にノワールがそう言うのを聞くと、ヨーンが信じられないといった表情で大声を上げた。
「ふざけるなノワール!そんな簡単に決めていい事か!下手に魔法など戦に持ち込めばどれだけ余計な死者が増えるかわかったもんじゃない!」
恐ろしい剣幕で怒鳴り立てるヨーンを見つめ、ノワールも表情を悔しそうにゆがめた。
「では、どうしろと言うんだ。俺達が召集に応じなくとも、どうせ多くの人が死ぬ。ましてや孤児院の子供達を人質に取られているんだぞ?あそこで暮らす子ども達は今や1000人を越えている。見捨てろって言うのか。」
「違う!何のために今迄修行を積んできたんだ!誰もが幸せになれる方法を探さずしてどうする!」
「綺麗ごとをいうなヨーン。魔法は万能じゃない。魅了をかけるにしても、あれは一度に大勢には無理だ。それに敵国への対応はどうする。のこのこと出掛けて行って魔法をかけるつもりか?無駄死にするのがオチだ。お前こそ固い考えに縛られているその頭を少しは回して考えて見たらどうだ。」
「てめぇ!好き勝手言わせておけば!!」
「なんだよ、やるのかこの野郎。」
「やめてよヨーン!ノワールも!」
「やめなさい二人とも!」
ヨーンがテーブル越しにノワールに掴みかかろうとした瞬間、クルトと私が同時に声をあげた。
派手な音を立てて食器が床におちて割れる。
私とクルトの制止になんとか踏みとどまったヨーンはノワールを睨みつけたまま立ち尽くした。
ノワールも暫く無言でヨーンを睨むと、いらいらした様子で黙ったまま床に落ちた皿を拾い始めた。
「・・・二人の考えはどちらもよくわかるわ。私も道中ずっと考えていた。」
そういって一つため息をつき、私は組んだ両手に額をあてて俯いた。
弟子達は黙って私に顔を向け、私の言葉を聞き漏らすまいとするように身を固くしていた。
「でも、決められないの。どうすれば一番良いのかわからない。私が術を系統立てて完成させてから、まだ20年とたっていない。もしここで魔法を戦争に用いる前例をつくってしまえば、これからも魔法は人を殺し続けるものになってしまうかもしれない。魔法で人を殺すのは簡単よね。風を細く糸のようにして叩きつければ、私一人でも上手くやれば一個大隊くらいなら半刻とせずに斬り飛ばせるでしょう。ダグラスは私達がどの程度の戦力になるかは測りかねているみたいだけど、魔法の応用の仕方を示してしまえば確実に味をしめてしまうでしょうね。」
それみた事か、というようにヨーンが改めてノワールを睨み付けたが、ノワールは鼻をならして相手にもしなかった。私はヨーンに諭すように目線を向けて、ヨーンが俯くのを確認してから話を続けた。
「私達が参戦すれば魔法によって多くの人が死ぬ。魔法もそういうものとして人々の記憶に刻まれる。きっとこの先、悪用しようとする者は後をたたなくなるでしょう。・・・それでも。・・・それでも私達が見捨てればダグラスは壊滅する。多くの人が殺され、女達は蹂躙される。子どもは奴隷として売り飛ばされ、一人として幸せになる事は叶わなくなるでしょうね。私達はゴランに捕らわれ、処刑されるか研究対象として物のように扱われる。拷問でも受けて魔法について喋ってしまえばどの道悪用されるでしょうし。」
拷問、という言葉を聞いたクルトが顔を真っ青にして震えた。もし、そうなった時に一番むごい目にあうのは若いクルトの可能性が一番高い。安心させるようにクルトに微笑みかけると、私は弟子達に向かって頭を下げた。
「情けない師で、ごめんなさい。少し考える時間を頂戴。そして、もし私の決定があなた達の考えるものと違ったとしても、私を信じて。決して私から離れないで。」
もう一度「ごめんなさい」と謝ると、弟子達は皆悲しそうに呻いて俯いた。
結局その後は誰も口を開かずに、だまだまと料理を食べるだけになってしまった。
誰もが同じように難しい顔をして、食器の音ばかりがいやに鮮明に響く様が静けさを際立たせているようで、私も悲しかった。
どうすれば、皆が幸せになれるのか。
いつまで考えても、私は一向に正解を見つけることが出来なかった。
その晩夜遅く、隣の粗末な寝台に横になっていたクルトが静かに寝息をたて始めたのを確かめると、私は静かに布団から出て小屋の外へ出た。
頭の中ではダグラスの王宮で告げられた召集命令の事がグルグルと巡り、一向に寝られそうになかった。
上着を肩にかけて来たとはいえ、まだまだ寒さの厳しいこの季節に寝巻き姿では、いささか心許ない。しかしわざわざ着替えに行くのも馬鹿らしい気がして、結局カタカタと震えながら我慢する事にした。
「本当に、どうすれば良いのかしらね。」
そう呟くと、冷え込んだ外気に当てられた息が白く彩られてユラユラと宙をただよう。
真っ白に色づくその様子がドラゴンの吐くブレスのようで、なんだかとても綺麗に見えた。
「・・・ホッジスならなんて言うかしら。」
戦ってはいけない!とか言ってくれるかしらね。
そう言って貰えれば、私はこの戦争への参戦を踏みとどまれるのだろうか。
正直まだ自分の心の内がはっきりと決まっていないのでホッジスに意見をされればそちらに傾いてしまうようにも思う。
簡単に決めてはいけない事だからこそ、自分で決断する事を避けているようで情けなく感じた。
「・・・ホッジス。」
私の愛した美しい年老いたドラゴン。
数多のドラゴンの頂点の一角に立つ思慮深い彼に無性に会いたくて仕方がない。
青い瞳、青いタテガミ。
見ているだけで、心が透きとおるような気持ちにさせられる。
人の何倍もの時間を生き抜いてきた彼には、昔から人の世界に絶えない争いを見てどんな感慨が浮かぶのだろう。
馬鹿らしいと嘲笑するだろうか、それとも嘆いてくれるのか。
私も、争いを巻き起こす者の一人と思われているのだろうか。
もしそうだとしたら、それがどんな感情に派生する認識だとしても耐え難い。
愛するものに自分の醜い部分をさらけ出して羞恥を感じぬほど、私は強くない。
出来る事ならば、彼の前くらいでは美しい自分で生きていたい。
けれどそう思う事事態がひどく醜い感情のようにも思えて、やはり自分がドラゴンとは程遠い存在なのだと深く落胆する事しか出来なかった。
・・・いつの頃からだろう?
ドラゴンに憧れを抱くようになったのは。
いつの頃からだろう。
ドラゴンと共に生きたいと願うようになったのは。
物心がつく頃には父様のドラゴンに関する書物を読み漁り、目を輝かせていた。
人から遠くはなれて生き、滅多に姿を見せない彼らに何とか会う方法は無いものかと頭を捻り、彼らが使う魔法に行き着いた。
数少ない、魔法を目の当たりにした人物を何人も訪ね、王立の図書館の書物を片っ端から紐解いた。
決して裕福ではなかった私の家の台所事情ではあったが、優しい父様と母様はいつも私の夢を笑わずに力をつくしてくれた。
齢10にして神童ともてはやされ王立大学校に特待生として招かれてからは、一般の民衆が決して目にする事ができない禁書にも数多く触れ、15にして魔法の基礎を築く事ができた。
あの日、水呼びを初めて成功させてドラゴンを呼び寄せた日の事を今でも鮮明に覚えている。
銀色に光り輝く大きな満月を背に私の家の庭へと舞い降りた美しい銀竜。
柔らかな月の光りを受けて鈍くドラゴンの姿は筆舌に尽くしがたいほど幻想的で、一瞬にして心を奪われるのを感じた。
体中の血が逆流でもしているんではないかと思うほどにざわめき、上昇した体温のせいで頭がぼーっとした。
銀竜は突然呼びつけられた上に、魔法を使ったのが人間だとわかって少なからず戸惑っているように見えたが、その時の私にはそれが余計に誇らしかった。
誰も成し遂げなかった事を、私が成したのだ。
誰も会えないドラゴンに、私は会う事が出来るのだ。
私だけのドラゴン。
そんなおこがましい感情を押さえつける事も出来無いほど、私は舞い上がっていた。
ドラゴンを人の世界に近づけ、彼らの存在を危険に晒しているという自覚も無いままに。
昔の自分と、ドラゴンへと思いを馳せていたその時。
私の耳に『ゴウッ』と空気を切り裂くような低い音が飛び込んできた。
その音を聞いた途端に自分の体温が一気に跳ね上がるのを感じる。
今までの鬱屈とした気持ちが嘘のように晴れ渡り、あの日のように無責任な喜びが私の心の中で跳ね回る。
「ホッジス・・・。」
星の瞬く北の空、今まさに戦場となっているであろう方角に広がっている深い森の上空を、南から射す月の光りを鮮やかに跳ね返しながら飛んでくる銀竜が私の目に飛び込んでくる。
「今、とても貴方に会いたかったのよ。」
そう呟くと、人の耳では到底聞き取れぬであろうその声がまるで届いているかのように、ホッジスは僅かに体を左右に揺らして応えてくれる。
『私もだよ、小さなドラゴン。』
ホッジスがそう言ってくれたような気がして、私は笑顔で子どものようにホッジスに向けて手を振る。
始祖と崇められ、戦争の道具として扱われ、自分の浅はかさに吐き気を起こしそうになるこんな私でも、少しだけ良いでしょうホッジス?
貴方の様に生きてみたい。
静かに、優しい貴方の様に。
随分と間があいてしまいました。久々の投稿です。
リアルが忙しすぎてロクに書く時間が取れずにいるので、合間合間で無理やりかき上げた見苦しい文章になっていると思います。
そのうち直したくなるとは思いますが、とりあえず、今はこれが限界Orz
頑張ってまた書きたいと思います。
さて時間的に大分経った上に良く分からない回なので若干解説を。
今回は時間的にはフリルたちの生きる現在よりも大分過去のお話になっています。
ちょくちょく今までの話にも出てきていた魔法の始祖様のエピソードであります。
正直書きづらい事この上ないのですが、次回も始祖様のエピソードになるかと思います。フリルの秘密などにも色濃く関わって来ますので、盛り上がりにかけるエピソードかとは思いますがどうぞお付き合いください。
+注意+
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