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 ドラマ「ちりとてちん」に似た名前、設定ですが、全く別のもので。
 真面目なファンは決して読まないでください。
 やおいありなので得にお気をつけください。
 本気で純粋に純情にお好きな方は決して決して読まないでくださいね。
 念は押しましたので、興味だけでお読みになって気分を害されたということのないよう、決して同人きらいなかた、フジョシでない方は決して読まないでくださいね。
 本当に本当にお願いします。
 信じていただけないかもしれないけれどね彼らを愛する気持ちは本物。
 でもたとえば好きな人があまり興味のないドラマに出ていてもおつかけて見るような気持ちと云いますか……。
 では、選ばれたフジョシの方、自分は腐っている、不幸おやおい全然大丈夫、という方のみ、先へお進み下さいね。
 くれぐれも不幸、おやおい(さらに解説、物語の都合上登場人物をボーダー、AC設定等にしていますので、……この言葉の意味を各五十文字以上で説明できない方もお読みにならないでくださいね。本当にお願いします。つまりはカウンセリングに多少詳しい(皿にたとえて云うと、サイコ犯罪者と対峙して話を聞く、という場面を設定された場合でねも、静かに冷静に話しを聞ける自信のある方です。……狐狩りの狐を殺した犬の持ち主である少年を、犬の檻に閉じこめ、母親の目の前で食い殺させた領主を「銃殺にすべきです」と云った心優しいアリョーシャのような方はお読みにならないでください。いや私も心では思いますけどね。いとけない子どもを楽しみのために殺す大人なんて認められないですよ)でもこれは創作ですから。現実ではありませんから。実話をもとにしドストエフスキーとも違いますから。そういうことを奨励するためではなく、そういうことについて考えてみたいという気持ちで書いたものですから。としつこくしつこく言い訳してすみません。でも望んで人をいやな気持ちにさせるつもりは一歳ございませんので、……ホラー嫌いな方とか、暴力嫌いな方は「リング」や「感染」や「殴り者」や「隣人13号」を避けるように、そういう大作ではないけど、暴力と不愉快の存在するであろうこれは避けてくださいね、本当に本当にお願いします)嫌いな方は読まないでください。
この世の果て
作:野原みどり




 『この世の果て』

 2001年
 マンションを引き払って転がり込んで来た年下の兄弟子小草若は、師匠でもあり父親でもある草若を亡くしたあと、彼のものである自宅を二番弟子で他人の草々夫婦に明け渡し、彼らの内弟子を住まわせて、自分はそこを出てこの四畳半に戻って来た。
 どこをどう聞いても頭の悪すぎる出来事としか思えず、憮然とするのは四番弟子四草である。
 「というわけで、これかもこちらでお世話になることにしました」
 「というわけでと云われても、僕は全く納得してませんけど」
 「まあまあ、そんなこと云わんと」
 ニコニコ顔の小草若が、斜め合掌の手をして更に可愛く首を傾げた。
 「どうしたんですか、サラ金のテレビCMばりの笑顔で」
 「そんな、人をコアクマみたいに」
 「悪魔にまで子つけんでください。とたんに可愛らしゅうなるやないですか」
 「うーん、四草ちゃんのイケズ」
 「兄さんも色んな芸持ってはりますね。完全に古いですけど」
 「いやーん、きっつーい」
「家賃の話ですけど」
 「わー、お願い、厳しいこと云わんといて」
 「云いませんよ、ただ兄さんは兄さんですから、兄さんを立てて三十万でどないですか」
 「あほかっ、マンションのローンより高いわっ。払えるかっ」
 「こんなに堂々と不払い申告できるんやったら、兄さん、政治家の方が向いてますよ」
 「不払いなんて云うてへん。体で払うがな」
 「スジばっかりで食うとこないですわ」
 「なんでおまえは食うことしか考えんのや。人肉食わんやろ、普通。掃除、洗濯、何でもやらせてもらうよって、これからは住み込みの家政夫や思うて、快適に暮らして貰えるし」
 「鈍くさい兄さんにそないにして貰うたら部屋がよけい気持ち悪うなります」
 「やっぱり、そんなこと云うて、あたしの体が目当てやったんやね、ええわ、うちの借金チャラにしてくれる云うんなら、スキにしてっ」
 「なんで兄さんを好きにせんといかんのですか」
 四草の手を取って、自分の胸に導く手を拒否したら、
「いやっ、四草っ、痛くせんといてっ」
 ノリノリの返事が返って来た。
 「するわけないやないですか、手、離してください」
 「いやいやっ、四草っ。今更うちに恥かかさんといてっ」
 「何のキャラですかそれは」
 「だってだってなんだもん」 
 「キューティハニーですね。もうええですよ。大事な兄さんに、そんなことするわけないやないですか。兄さんは僕のこと淋しゅうさせんといてくれたららそれでええんですから」
 額を合わせて、できる限り心をこめた言葉は小草若を無表情にさせたあと、微笑ませた。
 「やさしい弟弟子もって幸せ者や。彼女呼べんかわりくらいならするでー、」
 失敗に気付いても、もはやどう取り戻せばいいのかわからなくなってしまっていた。
 小草若の焦燥と混乱はそのまま四草にもあって、小草若よりよほど大きい。
 草若が死に、小草若のものになった家に草々夫妻が住んで弟子をとり、無一文の小草若が追いだされる……どう聞いても乗っ取られる側が提案した乗っ取りで、そのことで納得していないのはすでに四草のみだ。
 小草若はどこか、四草を簡単に陥落できると思っている所があって、それに騙されてやらなかった自分を後悔したが遅かったようだ。
 どこかおかしいと思っても、実子で三番弟子の小草若の云うことは実質末っ子扱いで何もかも通してやるしかない。
 そうでないと小草若の挫折感を大きくするだけだ。
 わかっていても黙っていることは難しかった。
 小草若が半ば口封じのつもりもあって、見張りに来たのだということもわかっている。
 草々への不満や不審を消そうと躍起になればなるほど疑わしい思いはつのった。
 更に云えば、一時の勢いが失われたといえ、今でもタニマチ志望は落語家小草若の比ではないもとアイドルタレントだ。
 住むところの世話をしてくれる人間はいくらでもいるだろう。
 それなのに失敗して、保護者のような口を利いた。
 自分の方が心配して、気遣っている知られて、ほぞを噛んだけれど、小草若は完全にアイドルモードだ。
 ニコニコしたり、素っ気なくしたらまわりが何でも言うことを聞いてくれる人間に特有の傲慢さで、四草に向いている。
 今度はシャンプーのCMばりに髪をかきあげた小草若が、顔を斜めに傾けて目を閉じて、四草に口づけた。
 すぐに離して、四草の生え際をなぞり、唇を指でなぞる。
 「レギュラーひとつ」
 「何ですか」
 「1クールでギャラ一千万以上になるやろ。俺にはそれだけの価値があったこともあるんやで」
 「まわりのピンハネ分引いたらその何十倍にもなるでしょうね」
 「そんなら、試す価値くらいあると思うやろ」
 「兄さん、このへんにしときませんか」
 「三つも四つも上のおまえに兄さん云われるのもおかしな話しやけど、俺はなんかおまえが危なっかしゅうて、可愛い弟としか思えんかったわ」
 そっくり同じセリフを返したい気持ちを隠すのは得意だ。
 どんな気持ちも、簡単にしまいこんで、算段して、どんなことでもうまく運んできた。
 いつも、何でも、欲しいものは手に入り続けた。
 たった一つを除いては。
 「もう、やめときましょうよ」
 「逃げんなや。気持ち良うさせたるさかい」
 腰をすり寄せて、舌先が耳をかすめた。
 逃げたら傷つける気がして、憐れみに似た気持ちを悟られるのが怖くて抱き寄せ、唇をむさぼった。
 驚くほど痩せて華奢な体は、わずかに力を込めただけで折れそうで、けれど構わずに締め上げる。
 苦しがって逃れてくれれば、笑いに紛らせることもできる状況だ。
荒い息をついた小草若が壁によりかかり、そのまま崩れて部屋のすみにうずくまった。
 「僕を良うしてくれるんやなかったんですか。僕に気持ち良うしてもらってどうするんです?」
 同じ高さに膝をついた四草が、手の平に簡単に隠れそうな小さい顔に触れると、潤んだ目で見上げた小草若が、何か言いかけて俯いた。
 背筋を駆け上がる衝動を隠して、無理にこちを向かせると、四草の顔を見ないままかじりつく小草若の勢いと不意打ちで二人して倒れ込む。

 「壁、薄いですから、大声とか、大きい音出さんといてくださいね」
 唇を指先で止めると、神妙に頷く小草若はひどく子どもつぽい。
 「犯罪気分にさせてくれますね。実際、二十歳の時に会ってたら僕、捕まりますね。たぶん兄さん小学生にしか見えんかったと思うし」
 「高校生やっ」
 「見えんかったと思いますよ」
 「あほ、めちゃめちゃ見えたわ。大人びてたわ」
 「何人くらいと付き合てはりました?」
 「人気者は一人と付き合うたらあかんやろ」
 「僕は人気なかったけど、五人と付き合てましたよ」
 「鬼畜の所行やー」
 「つきおうてくれ云われたら、嬉しゅうて断れませんわ」
 「おまえ、おらんところでも女立てて偉いのー」
 「ほんまに、僕、申し込まれるけどふられるんですわ」
 「それはおまえの手法やろ。プレイボーイは上手にふらせるとか云う」
 「僕はみんなと仲良う暮らしていきたかったですよ」
 「ムチャ云うなあ」
 「僕を好きな人に囲まれて暮らしてみたかったですよ。でも僕を好きな人同士はお互いを好きにならんかったし、女同士があかんのかなと思うて男を混ぜたりしましたけど、うもういきませんでしたねー」
 「おまえは、ほんまのあほなんか。そんなハーレム上手いこといくわけないやろ」
 「僕のこと好きやったら一人でもええんでしたけど」
 「それなら上手く行くやないか」
 「たいてい子ども欲しいとか云いだしますから」
 「普通やろ?」
 「僕は親が好きやなかったし、そんな子はいりませんわ」
 「おまえの子はおまえを好きになるかもしれんやないか」
 「なるでしょうね」
 「ほな、なんで、って、おまえ、恐がりやなあ。自分が子どもを愛せんかつたらどうしようとか心配してるんやろ。そんなん、自然に愛するようになると思うで」
 「さすが、愛されて育った子どもは云うことが違いますね」
 「そんなつもりやないけど」
 「負い目感じることあらしません。金持ちに生まれたら貧乏人に対して申し訳ない、そんなこと思うたかてどうにもならんことですよ。上手に分配するなんてできませんから」
 「今俺は、貧乏人に慰められる金持ちってことなんか」
 「いけしゃあしゃあとよう云うな思いますけど、まあそうなりますね」
 「俺金持ちーっ、おまえびんぼーっ」
 「はいはい」
 「俺は恵まれてるもーん」
 「だからそうですって」
 「気持ちの問題なんやろ」
 「はい?」
 「それに満足するかどうか、ほしがるかどうか。おまえ、何でも手に入るけど欲しいと思わんのやからええなあー、俺はまだまだ、欲にまみれてるわ」
 「僕との肉欲にまみれて忘れたらええやないですか」
 「わー、やーらしー」
 ふざけてばかりいる小草若の指を飴のように舐め上げて、全部を飴に見立てて時々噛んだ。
 唇を両手で押さえて声を殺す姿が淫らな欲望を誘って、時間をかけて乱した。
 すぐ震えて、すぐ涙ぐむ小草若の全ては、そそるためにあるとしか思えない所がある。
 ふだんからいつもベッドの中のようなリアクションだ。
 子どものような細い腰でも、あらゆる動きについてくる。
 嬲られ、可愛がられることに慣れた体と、処女めいた表現のギッャプがよけい熱を煽った。
 どんなことでもしてやりたい気持ちにさせられる。
 その反面、軽い気持ちしかないこともわかる、損得ずくの遊びの延長気分を忘れさせない技巧で気持ちだけ拒否されることも否めなかった。


 給料の入った小草若がおごると云って飲んだ帰り道、並んで歩いていると、街頭の下で立ち止まった小草若が四草を見て、しみじみした風に頷いた。
 「何ですか」
「おまえ、綺麗な顔してるな。秀でた額にくっきり二重、賢そうな口の利き方」
「ほんまに賢いですから」
「いやいほんま、女が放っとかんのわかるわ」
 「もしそう思うてくれるなら、僕は兄さんに放っておいてほしゅうないんですけど」
 「うっ、ズキュン」
 胸を押さえた小草若がふらふらとよろめいて街路樹にもたれた。
 「大きいリアクションですね」
 倒れないように手を添えた四草が軽く自分の方に引き寄せて、胸を押さえた手を外させる。
 「この手があると距離ができる、ちゃんと抱きしめさせてください」
 しつこく胸を押さえて苦しげな顔をして見せた小草若が
 「それ以上やめて、殺される。撃ち抜かれるれるわー、撃沈やわ。おまえもう落語家やめてナンパ塾やれ。入れ食いやでー」
 「僕は、誰でもええわけやないですよ。好きな人以外撃ち殺して、好きな人と二人きりにならなりたいですけど。好きな人のことは殺しませんから」
 「おまえ……どこまですごいんや」
 「何がですか」
 「俺相手にそこまで、おまえはほんまもんや。ハニワ相手でもその目力使うんやろな。それとも、俺にナンパレクチャーしてくれてんのか」
 少しだけ怖い目をしたけれど一瞬で手を離して、四草の顔は和らいだ。
 小草若のわずかな震えと、そのことを知られまいとする早口に気付いたから。
 離されたと同時に小鳥の素早さで飛び去った小草若が先へ走る。
 小さい背中があっと言う間に遠ざかるのを悲しい気持ちで見つめても、怯えさせるよりよほどいい。
 期間限定の暇つぶしだと小草若が思っている間は気楽でいれる筈。
 涙がにじみそうになる。
 どんなに緻密に計算して、どんなに優しくしてもどうにもならないことを知っている。
 遠ざかると、細い体は簡単に夜に溶けて、見えなくなる。
 消えてなくなる、雪みたいに。
 大事に閉じこめても、放っておいても、どちらでも消えてしまう。
 儚すぎて、どうにもならない。
 

 大事にされてもそれは全部父親の力だと思っている。
 本気になったことのない、女を食い物にする悪い四草を小草若が好きなら仕方ない。
 寄りかかって欲しいと思ったら、本気や涙を見せたら終わりだ。
 こちらが利用している体でないと気が休まらない。
 せわしなく気遣って、空回りばかりしていると感じては細っていくタイプだ。
 この世に無駄なんてない思う。
 本人が空回りだと感じていたとしても、その気持ちに気付かないだけなんてことはない。
 無駄な方が慕わしい。
 意味のあることの方が虚しいことを、商社をやめる頃には気付いていた。
 エントロビーは決して減少しない。
 虚数に満たされた場は消滅する。
 一番大切にする星も必ずいつか消えて行くことを止めることができないことも知っている。

  
 「四草、四草」
 揺さぶられて目が醒めた。
 べそをかいた小草若が、必死で四草を起こそうとしている。
 「どうしたんですか、入りますか」
 抱きしめて布団に引き込もうとすると手を振り回して抵抗する。
 「それどころやないて、起きいや」
 「何泣いてはるんですか」
 「俺、どうしたらええんや、何したらええ」
 「今度は何を失敗したんですか兄さん」
 涙を目の端にはりつけた小草若が素早く周囲を見回し、小反る小反るコートの内ポケットから札束を出した。
 「百万ですか。どないしたんですか」
 「おまえの口座に」
 「はい」
 「おまの口座に入っとった、おまえ、何したんやーっ、はよ、戻しに行こっ」
 「なんでですの」
 「なんでて、俺、お金引くことはできるけど、戻し方はわからんもん」
 「いや、だから」
 「おまえが云うたやんか。靴とか入り用あるから十万ひいてきといてって、俺、ひとけた間違えて」
 「わあ、漫画みたい」
 「そしたら、百万どさどさ出てきて、わー、通帳カードキャッシングしてもうたと思うたら、残金見たら、ここここここれは何かの間違いやー。百万ひいたのに、マイナスになるどころか、まだににににに百万も。どこでどう間違えて」
 「そんな、どもらんといてください。それまだ少ない通帳ですよ、こっちはその十倍」
 無造作に荷物をかきまわした四草が別のいくつかの通帳を見せ、それらは更に桁が上だった。
 「四草―」
 「はい」
「おまえ何してんねん。麻薬か、殺しか」
 「人聞き悪い」
 「だって落語はびんぼな職業の代名詞、こんな大金入る筈ないもん。自首するんやったらついてったげるから、もうこんなことやめよー、ちゃんと差し入れするからー」
 「刑務所なんか入ったら兄さんの体を味わえないやないですか」
 「じゃ一緒に入ってやるからー。俺もおまえの金使ったから同罪でええからー」
 「うっ」
 胸を押さえた四草が転がった。
 「どうした、四草」
 「兄さん、撃ち殺されました」
 「どこっ、傷はどこやっ、向こうのビルかってあほ、血出てないやん」 
 「兄さんの口説きに。金目当てでそこまでするんですね」
 「何の話やー、おまえ、悪いことから足洗え。どこのヤクザとつながっとんねん」
 「藤田さんとか、堀江さんとか」
 「どこの組やっ、話し合いで抜けれるんやったら話して」
 「会ったことはないですけど」
 「嘘や、末端でこんなに稼げる筈ない、うわ、この月二百万、この月なんか六百入金……こわ、こっわーっ」
 「それ利子だけですけど」
 「やめてー、聞きたない」
 「つながってるのは、ネットですね」
 「ネット、なんやそれ」
 「そこの」
 デスクトップを指さして、小草若が首を傾げた。
 「おまえ、時々外国語の勉強してる機械やろ」
 「そういうんじゃないですけど。2001年現在、そろそろ普及してきてる筈なんですけど、兄さんずばりアナログですね」
 「人をデジタル難民みたいに云うなーっ」
 「アフェリエイトなんかも始まって、結構威勢がいいんですよ、このジャンル」
 「はー?」
 「とにかく、キイをぽんぽん打ってたら、一打ち平均十万円にはなるってことですわ。割のええパチンコというか」
 「おまえそんなことしてたんか」
 「兄さんが先寝た時、せっせつと稼いでたんですわ。食い扶持増えましたよって」
 「俺もやる、教えて」
 「兄さんがやったら、一打ちマイナス百万円で、僕たちのようなネットエリートを支えるんですわ」
 「云いたい放題やな。おまえ、どこまで運のいいやつ」
 「運というか、僕高機能自閉症のケあるんですわ、計算早いみたいで」
 「こうき……ヤンマーか。それは耕耘機。なんやそれ」
 「まあ云うたら、レインマンのダスティン・ホフマンですね」
 「アングラぶるなやー。なんでいきなりフランス人の名前出して来るんや」
 「明らかにアメリカ人(?)ですから。レインマン、英語ですから」
 「そんなんわかってるが、ははははは」
 「未だに何もわかってないいう目してますよ」
 「あはは」
 「それより、障害保険出してください」
 「なんの?」
 「今僕を撃ち殺した責任とって、介抱してください」
 「おじいちゃん、遺産は俺にくれはるの?」
 「誰が介護を頼みましたか? そんなことばっすかり云うてたら札束で顔叩きますよ」
 「いや、新しいプレイ? 萌えるわー。ぶってぶって」
 「あかん霊ついてるんちゃいますか。追いだしますから脱いで脱いで」
 「宗教プレイか。なんか、釈然とせえへんのやけど。こないだ俺を金持ちって云ってたのはあれは何やねん」
 「もともと暗喩やないですか。僕は親の愛を知らない可哀想な子ですよ」
 「それにしたって、ゆがみすぎや」
 「そういう兄さんは、草々兄さんともこういうおいたをしてたんやないですか」 
動揺したことを悟られまいとする心の動きが簡単にわかるほど小草若の顔色が変わった。
 「あいつは、あんな堅物がそんな」
 「兄さんが勝手に草々兄さんを神聖視してるだけと違いますの? たらしの兄さんにかかったらあんな純情、ひとたまりもなかったでしょうから」
 「俺は何も……」
 「そうしたら、草々兄さんが勝手にケダモノになったいう話ですね」
 「そんな奴やない」
 「話し矛盾しますね。兄さんは誘ってない、けど、草々兄さんが手を出した」
 「してへんて云うてるやろ」
 

 何故だろう。
 草々は何故あんなにも無防備に、全部をさらけ出すみたいに人を抱きしめるんだろう。
 魅力全開に、誰彼の区別なく自分の中へ抱き込もうとする。
 損ばかりしているように見えていた頃の草々は好感が持てたし、小草若をかばって破門された時は片思いを気の毒に思ったこともあった。
 ただ、その気持ちの良さは誰に対してもまんべんで、……結局彼は死んだ父母と養父母、二組の親しか愛せない片輪な心をそうとも知らず生きていける異形だ。


 「おまえも、草々の方が好きなんやな」
 意外な言葉に声を失ったのを肯定と受け取ったらしい小草若の肩が見る間に落ちた。
 「草々は無理やけど、俺やったら簡単やって思うたんやろ」
 「やめてくださいよ」
 測りすぎて、距離感がどんどん失われる。
 草々をすでに憎んでいるとか、どちらかというと軽蔑しているといったことで貶めるのが良くないことはわかっていて、この誤解をさせた方が小草若のためになるまのかどうか。
 おまえもと云われたもはあなたの気持ちでしょうなどとは云わない方が……。
 簡単に見失う。
 バランスを崩して奈落へ落ちるみたいに。
 「器用で、綺麗で、何でも手に入る。何でもよりどりみどりなんやったら、俺なんて本当はいらんやないか」
 「いりますよ、本当にいりますよ、兄さん」
 柔らかく抱きしめたのに、小草若はその手をふりほどいた。
 「俺のことなんて誰もいらん」
 「兄さん」
 「おらんでも何も変わらん、わかってたんや」
 「誰やってそうですよ」
 「え……」
 「誰やって、どんな人やって、おらんなったらいらんなる。実際、師匠とあおいだ兄さんのお父さん、おらんでもみんなちゃんと生活していけてるやないですか。誰やて、どんなに好かれて、慕われて、立派でも、大統領でも、マザー・テレサでも同じです。誰やて、どうしても必要な人なんておりませんよ。それは草々兄さんも僕も、あなたも同じようにいらん人間と云えばそうなるんです」
 怒った顔で泣いていた小草若がふいに笑った。
 「おまえ、すごいな」
 「すごいでしょ」
 「いらんのは俺だけやないって?」
 「兄さんがいらんのやったら、みんないりませんよ」
 「おまえ、慰め方もうまいな。いっつも口うもうて、……うまいだけやのに、優しいてわかってた」
 「僕は好きな人には特に優しいんですよ。兄さんが一番好きです。草々兄さんより好きですよ」
 「今、そないなこと云うてくれるんはおまえだけやろな」
 「不満ですか」
 顔を寄せて真面目に聞いた。
 「何が不満か云うてください。もっと大きい家で住みたいですか? ポール・スミスのスーツでも買うてあげましょうか? 一日中僕が一緒におってええならそうしますし、兄さんの望みは何でもかなえてあげますよ」
 「ありがと、ほんま、ありがと」
 聞く者の胸に染み入るようでも、心はない言葉を唇で吸い取って、四草は小草若の髪を撫でた。
 小さい顔に配置されたパーツは目だけ大きいいびつさが人間離れした雰囲気を醸し出す。
 「兄さん、頭、握り拳くらいしかあらしませんね」
 「そんなわけないやろ」
 「目だけ大きい、妖精みたいな顔してはりますね。妖精か、天使は、兄さんみたいな顔してはるんでしょうね」
 小草若がよけい笑って、震える肩や、手の平に収まる顔ごと全部自分のものであるような万能感や独占欲がいっしょくたになっていく。
 「ここ、笑うところちゃいますよ。撃ち抜かれて欲しかったんですけど」
 「ファンタジー用語まで駆使して、おまえはほんまに王子様キャラ頑張るなあ」
 「頑張ったくらいでここまでくさいこと言える思いますか」
 「わかっとるよ、おまえは俺を好き」
 四草の頭を抱きしめた小草若が、その髪や頬に口づけて顔を間近に寄せて
 「俺はおまえが好き」
 と微笑んだ。
 「兄さんも、ものすごい勢いで人たらしますね」
 「俺はそんな器用やないよ」
 「それ、知ってますけど、ええと思いますよ、兄さんはそれで」
 じゃれるみたいに抱き合うと、ようやく通じ合えた満足と、やはり消えてしまう不安で心は乱された。
 いくら心配してもし足りないのは、母親も父親も短命で、その子の小草若もそうじゃないかと思うせいだろうか。
 しんだらもう終わってしまう。
 約束も優しさも、みんななかったことにされて、思い出だけに浸るのはまさしく虚数を増やすことだ。
 計算してもわからないことだらけだ。
 いつも本気で好きになって、いつまでも一緒にいたかった女たちも男たちも誰一人
そばに残らなかった。
 全部を賭けて愛したつもりでどこかずれて、決めぜりふはいつも
「あなたがわからない」
「あなたは私をどうしても必要なわけじゃない」
「わたしが何をしても平気なのね」
 と。
 愛する相手が何をして許せないことがあるだろう。
 愛していれば、愛してくれさえすれば、その相手が何をしてもかまわないのが愛の不在だと云われると四草にはどうすることもできなかった。
 力で支配することも、自由を奪うこともしたくない。
 それを女達は愛していない証拠だと責め立てた。
今まで決してわかってもらうことがなかったから
 「おまえは俺を好き」
 と云われてとても嬉しかった。
 不安で……、淋しくて……、それでも好きだった。


 ディスクを入れて起動させと、PC画面に映る映像は、見るにたえない暴力と淫らさで四草の胸を刺した。
 画面の中の細い人影は、殴られるたびに弱って血にまみれて、ひどい有様になって行く。
 そのできあがりが隣にいて、四草にその映像を見せていた。
 「出演料や、宿代もかねてとっときや」
 押しつけられた封筒が足下に落ちて、数枚の札が覗いた。
 「しっかりしいや、震えとるで」
 へらへら笑う小草若の前をふあけると、無数の傷がまだ生々しい。
 「兄さん……」
 「大丈夫や、向こうはプロや。見えるところにまで傷は作らへん。これでももう手当もすんどる、見た目が派手なだけでたいしたことない」
 「とてもそうは見えません」
 「けど、そうなんや。これで、おまえの前とった動画とか写真な、消せへん所に保存した云うてたけど、……、もし警察沙汰になっても、こっちが出てくるっちゅうこっちゃ。……泣いて喜ぶ、ほんまもんのマゾフィルムや。……これ見たら、誰やって、俺が頼んで殴ってもろうた思うやろうな」
 「そんなことのために」
 「堀江さんやら藤田さんと違うて、天狗芸能お抱えのほんまもんのやーさんや。フィルムの管理も流通も完璧や」
 「…………どこへも、出しません」
 俯いた四草が、涙をどうにかこらえて、ディスクを出すとまっぷたつにした。
 「そんなことしたかて、複製なんぼでもあるで」
 「僕の撮ったデータ、オリジナルもコピーも、絶対どこへも出しません。廃棄します。せやから、このフィルムを回収させてください。いくらでも出しますから」
 「そんなことできん世界やいうくらいわかるやろ」
 「兄さん、こんなのに関わったら一生ゆすられることくらいわからなんわけやないでしょう?なんでこんなことしはったんですか」
 「なんでって、……こういうことが好きやから」
 「違う……」
 それ以上続けられずに、ぽろぽろと涙をこぼした四草がうずくまった。
 「かあいそうなことして悪かったな。……俺もおまえも、金持ちの家に育つというんは、打たれ弱い人間になるなあ」
 「そんなことまでして、僕を……」
 「おまえを裏切って、打たれ弱いおまえのこと傷つけても、それでも草々の方が大事やいうことや。悪い人間ですまんかった思うで。けどきっと、報いは受けるから」
 「兄さんが受けることなんかないやないですか。……僕は、恨んでへん。騙されたなんて思うてへん」
 「俺は、騙すつもりやったよ。最初から、おまえが甘いのはわかっとったから。同族はわかる。おまえは甘い人間や。せやから、おまえにもわかるようにやってのけたんや。俺が本気で捨ててくれいうて説得したらおまえは捨ててくれた思う。けど、おまえに何の相談もなくおまえの好きな人間を傷つけるほうがおまえが辛い思うて、おまえの一番嫌がる方法を考えたんや。おまえは今まで通り、申し込んで迫ってきた相手にふられるんや」
 「ほんま、何回繰り返しても失敗する」
 涙を拭って、四草は小草若を見上げた。
 「いつっも今度こそ、今回だけはって期待して。……兄さんだけは違うって信じてたし、今も信じてます」
 「おまえは、呼吸するよに口説ける男やな。やりすぎは身滅ぼすで」
 「本気ですで」
 「おまえのこと、ちゃんとわかってくれる相手は絶対おるよ。おまえは本当にええ故から」
 「それは、兄さんやと思いますよ」
 「もうええって云うてるやろ」
 手の平をひらひら振って、小草若はコートを着て、ドアに手をかけた。
 「どこへ行かはるんですか」
 「焼かれるしかない云うたやろ。四草、なんでおまえ、……なんで俺のことを魔女やないなんて思うたんや」
 「僕は、兄さんが悪魔でも天使でもかましませんから。戻ってきてください」
 四草に向けて、小草若はにっこり微笑んだ。
 「俺にとっては四草、おまえが天使やったよ」
 ドアが閉まって、四草は一人取り残された。
 笑顔の残像がまだそこかしこに漂って甘い。
 実体のない笑顔を抱きしめるように自分の方を抱いて、四草はうずくまった。


 寝床寄席の日、小草若は現れなかった。
 寝床に集まった徒然亭とその周辺の人間たちには暗雲たちこめて、皆がしばらく押し黙ったままだ。
 
 
「ほんま、ひとしはしょうもないなあ」
 そう云いながら、緑子はどこか小草若をかばう口振りだ。
 「高座すっぽかすとこだけ師匠に似てどないすんねん」
 草原の口調に悔しさが滲む。
 みなが生ぬるく小草若を追いつめていくのは聞くにたえなかった。
 「もうええやないですか、小草若兄さんなんかどうなったって」
 吐き捨てるように呟く四草を草々がねめつけた。
 「親が草若師匠や云うだけで、噺家として何の才能もあらへんのやから」
 いきなり伸びた草々の手に胸ぐらを捕まれ、つり上げられそうな腕力で締め上げられたが振り払った。
 「やめてください」
 若狭が止めても目だけは草々を睨みあげる。
 それ以上、何も言わずに寝床を飛び出した。


帰り着いた部屋の隅に布団はきちんと畳まれて、小草若の姿はなかった。
 しばらくその布団を見下ろしていると、
 「ちゃきんさん」
 と声がした。
 小草若の練習を聞き覚えた九官鳥のヘイベイが真似て、小草若の練習を思い出す。
 「あんたえらいひとやなあ」

 「あんた偉い人やなあ。わしが持ってたら傷物の安茶碗。それがあんたの手に入ったんで、あれにそれだけの箔が付いた。仁徳でっせ、ちゃきんさん」

自分には価値がない
 自分の見つけたものにも価値はない……

 あれはまるで、そう云っているような噺だった。
 立ちつくす四草の目に涙が浮かぶ。

 はるばると遠く、一人遠ざかって行く小草若の姿がやがて消え、さえざえと冷たい月の光に浮かび上がる砂漠が広がる。
 彼が井戸を見つけられることを祈るしかできないまま、四草はただ涙を流し続けた。
 

 
3月12日
問題の一つは関西ベンがわからないということ。

 
 ウラタロスー。
 四草はウラちゃんなのね。
 嘘を云うても本当と思われ、本当を言っても信じてもらえない。
 うらちゃーんっ、さめざめ。
 今日(3月12日)の「ちりとて」で
 てっぽうゆうすけ「四草さんはほんまに底意地悪いですね。小草若兄さんが出ていったのも四草兄さんの算段ちゃいますか」
 まで云われてて可哀想―。
 そこまで説明しないといけない認知の進んだ視聴者対象なのか。
 小草若のために
「僕が跡継ぎになる」
とごねて混乱させてるんじゃないですか。
 「(草原)兄さんがなるんやったら文句はありません」
 と。
 草々に取られたらどれだけ小草若が傷つくかわかっているからじゃあーりませんかっ。
 暖かい場所が欲しいだけなのよーっ。
 ああ、ヤク中小草若が目に浮かぶ(なんでそっちの方向のドラマになってんてねん)

 モモ  草々
 金   草原
 小草若 リュウタ  か  ゆうと
 おお、作者は電王ファンか。

 モテ八(ほれ八の間違い)先生もやっちまいましたがなーっ。
 「声も小さい、顔も小さくて、……妖精みたいだ」(こんな先生もてへんわーっ)

金あるエピソード……よくある少女漫画になってしまうー。漫画家さんもよく冒すミス。
 でもミスなんか何なんか。
 必然性あるのかと聞かれるとあるような気もするし、ないような気もするし。
 でももともとの設定が語学に堪能、妾の息子で金持ちで、才色兼備、もと商社。
 ありえへん少女漫画設定やないですかー。
 草原兄さんは爽やか青年誌みたいな設定で。
 いや、みどりさん(草原さんの奥さん)の側から見ると、文通が発展して結婚というド少女漫画か。
 
 ビデオとってない後悔―。
 ここはいろんな人にお見せしたかったー。(いくらなんでも転んでくれるやろ、というのはファンの欲目か。座布団かついで帰って来た頃の草々にも同じ悲哀があったけど、やっぱりギャグに走って見えるのよ、座布団かつぎはっ。本当にかなりの勢いではだかの大将だと思ってましたよ。悪いけど。わーびっくり。はだかの大将に失礼)
 10日以降は消してないですが、DRなのよ。ラムにしかとれんのよ、くくく。
 朝730からBSで見てますよってに。
 なんかで取り忘れてることも未だにありーの。
 
 藤田晋とホリエモン
 ダスティン・ホフマン……アメリカ人でいいの?

 タイトル「終着駅」奥村チヨ(この歌手勝ち組やー。どハンサム作曲家と結婚して)とどっちにしようかなーと思いつつ砂漠にして「星の王子様」しちゃったわ。 

 マンション女……お門違いだけど、まあこれもないとよけいヒロインがきらいになっちゃうわー。
 お門違いな責任感じることで若狭をかわいく思えるわ。
 マンションに誘った時、若狭が小草若のマンションに住んでたら、草々が通って来て、キャッ「華麗なる一族」よっ。
 鈴木京香が小草若。
 いや奥様か
 「やめてあなた、あいこさんがっ」
 
 見直して年代間違いに気付いた。
 失踪は小草若2001年じゃーん。

アフェリエイト始まったの2002年だから、まあぴったりねと思ったら一年ずれてたのね。
 それにどうしてアフォリエイトになってんだよあたし。





携帯の画像は当然PCに移している四草。
データにしていくつも隠しておくこともできると云う。

ヤクザに自分を売って、SMビデオ出演。
自分だけがデータを持ってるタイプ。
「おまえや草々が俺に何するヒデオがあったとしても、俺の性癖で片づくと思わんか?」
「兄さん」
「おまえがあの画像消さん、警察行く言い続ける以上、俺もいつでもこれを発表したるわ」



解説もどき
 同棲開始
 庭から画像とった……時点。まだ暴力のみとしか思ってない(草々結婚してるし大丈夫と)
 小草若が甘くやさしくなった……自分を好きになったくれたと思っている。
 が、もしかしたら、暴力だけではないのでは、とあやしみはじめている。
 小草若失踪。

 自分を捨てに行ったと思っている。


 

想像年表

73  きよみうまれる    六つ違い設定?

                     24入門
87  おかみさんなくなる  六年以上ブランク      2
94  きよみ結婚    21  24  29
99  師匠なくなる   26  30  35
01  小草若失踪    28  31  36
02  三回忌      29  32  37
02  家売る        


 草々結婚早々に息子誕生。
 小草若にマジ惚れ。
 
 この関西弁づねワールド、えみくりさんがやらはったらぴったりなのにと思うわあ。
 やったりして。
 ねるといたのみみつとりはきくまのりりりりのりねるるりれのにらにらせくまはたちととてまりまもなり

別案デビマン
 人気のない土手で、いつものいじめグループの一人と出くわして、冷たく凍り付いたのもつかの間、相手は回れ右で逃げ出した。
 後ろ姿を茫然と見送って、仁志はひとつため息をついた。
 また一人になった。
 
 グループの中心的人物の二人が怪我で入院していると、そのあとの不穏な噂に耳を塞いでしまいたかった。
 密やかにかわされる囁きはいつも仁志を遠巻きにする。
 声が耳について、仁志は両手で耳を塞いだ。
 
 
  


 周到で、緻密。
 斉藤の呼び出しには、人気があって大人しい女生徒が使われる。
 たおやかで上品で人徳のある、たいていは委員長や副委員長をやってるような女生徒は選択もきっぱりとしているからこその優等生だ。
 優等生は体力もあるし素早い。
 青木一に指示される通り、押さえつけたり、実行してりもする。
 例えば、石を手の甲に叩き付けたり、カッターナイフで目の端に切り込みを入れたり、……
 「あなたとわたしと、まわりのみんなはどちらを信じるかしら」
 最後まで声を聞いていることもできず、気を失う寸前に青木が言う。
 「今度から、仁志にいらんチョッカイかけんようにしいや」
 「なんで、おまえら親友か、なんなんだ」
 「早めに教えてなくて悪かったけど、あいつは俺の弟や」
 「え……」
 「一つ屋根の下で暮らす、同い年の兄弟や。意味わかったやろ」 
 手の甲に当てられた小刀が力をこめて貫通し、ほとばしる絶叫は委員長のたおやかな両手にふさがれる。
 彼女の云うとおり、真実は誰も信じない。
 委員長の品行方正はそんなかげりをみじんも見せないし、青木も学校では内気で無口で真面目な生徒だ。
 委員長と彼が付き合っているという話しすら誰も知らない。
 斉藤が云っても、その時間のアリバイでまで用意されていて、なぜ嘘をつくのかと責められるのは斉藤の方だった。
 警察にも不良同士の小競り合いと片づけられ、いじめ仲間の小山に警告したところで軽くあしらわれ、小山も病院送りになって初めて二人だけが本当のことを知ったけれど、もう遅かった。
 ちなみに小山は障害が残り、委員長は見張るようにクラスからの手紙を届け、車椅子を押して、小山の家族に感謝された。
 車椅子を存分に動かして、何度もちょっとした高さを落とされた。
 体には打撲傷がいくつもできたが、その理由は決して云うことができず、傷ふえ、ノイローゼになった小山は病院の屋上から飛んだ。
 斉藤は完全に口をつぐんだ。
 それが2ヶ月間で起こったことだ。









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