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探偵編
樹里ちゃん、またしてもドロントと対決する
 御徒町樹里は軸足を居酒屋に戻したメイドです。

 普段は居酒屋と喫茶店で働き、探偵事務所にいる夫の杉下左京と合流して、二人の愛の巣であるアパートに帰ります。

 ところが今日は予定が狂いそうです。

 左京の事務所に警視庁ドロント特捜班の班長である神戸かんべらんがやって来たのです。

「また貧乳か」

 左京がうんざり顔で言います。

「そんな顔しないでよ。私だってできればあんたなんかに頼みたくないんだから」

 蘭はいつになくイラついています。

「どうしたんだよ、蘭? 機嫌が悪いな? ひょっとして……」

 左京がニヤついて言うと、

「違うわよ! 嫌らしいわね!」

と蘭はいきなり切れました。

(何で嫌らしいになるんだ?)

 左京は唖然とします。するとぐうたら所員の宮部ありさが、

「左京ったら、私にもセクハラ発言ばっかりなのよ、蘭」

「そうなの?」

 二人が左京を睨みます。

(どうにでもしてくれ……)

 左京は自棄やけになっています。

「刑事部長が処分なしで戻って来たのよ」

 蘭は苦々しそうな顔で言いました。

「何だって!?」

 根性悪の刑事部長が復権したようです。左京は本当に殺しに行こうかと思っています。

「それで、今度ドロントを取り逃がしたら、左遷だって言われたの」

 蘭は急に悲しそうな目で左京を見ます。

「ダメよ、蘭。もう当事務所は人員は足りているから、クビになっても当てにしないで」

 ありさが意味不明の先回り発言です。

「お前が言うな!」

 左京と蘭のダブル突っ込みを受けるありさです。

「だから、今回はしくじれないのよ。わかって」

 蘭は悔しそうです。左京は、

「だったらどうして俺に頼みに来るんだ?」

「刑事部長の差し金よ。総監を通じて私に圧力をかけて来たの」

 蘭の説明に左京は疑問だらけになります。

「どういう事だよ?」

「気を悪くしないで聞いて」

 蘭が真剣な顔で言います。左京はギクッとしました。

「刑事部長は、私の追い落としを企んでいるの。貴方を関わらせれば、必ずしくじるって思っているのよ」

「何ィッ!?」

 左京は激怒しました。

 要するに無能な探偵を利用して、邪魔な蘭を追い出そうとしているのです。

「ふざけやがって、あのジジイが!」

 左京は歯軋りしました。

「警視庁に妙な勢力があるのよ。刑事部長が復権したのもそいつらの仕業らしいわ」

「そうか」

 蘭がすがるような目で言います。

「私一人の力じゃ、どうする事もできないのよ。戻って来て、左京」

「しかし、あの部長がいる限り、俺の復職はないだろう?」

 左京の言葉に蘭は項垂れます。

「そうなんだけど……」

 すると二人の「いい感じ」に嫉妬したありさが、

「それよりさ、ドロントの方はどうなのよ、無駄に巨乳さん?」

「誰が!?」

 蘭はムッとしましたが、

「ドロントはまた樹里宛に予告状を送って来たの。今度は、多摩サファリパークのホワイトタイガーを盗むと書いてあるわ」

と予告状のコピーを左京に渡します。

「多摩サファリパークか」

 何だか嬉しそうな左京です。

「何よ、ニヤけちゃって、スケベ!」

 ありさが突っ込みます。すると左京は、

「そ、そんなんじゃねえよ!」

と否定します。

 実は左京は女子大生探偵なかつのりこの隠れファンで、彼女の住んでいるアパートがサファリパーク付近だと知っているのです。

 もはやストーカーです。

「誰がストーカーだ!」

 地の文に突っ込む左京は、周囲から見ると完全に可哀想な子です。

 

「蘭さんがピンチなのか」

 ドロントの手下の亀島馨が、その会話全てを事務所の天井裏で聞いていました。

 

 そして予告の日の夜です。

 ホワイトタイガーの檻の前には、蘭と左京と樹里とありさがいます。

「班長、全員配置につきました!」

 警官隊が報告します。

「了解。予告の時刻まであとわずかだ。気を抜くな」

「は!」

 警官隊は敬礼しました。

「オーホホホ!」

 ドロントの甲高い笑い声が静まり返ったパーク内に響きます。

「出たな、貧乳!」

 左京が辺りを見回します。

「またいつものお間抜けコンビね」

「うるせえ! お前だっていつも失敗してるだろ!」

 左京が言い返します。

「今日は失敗しないわよ。ホワイトタイガーは頂くわ」

「させるか!」

 左京は声のする方へと走ります。

「左京、待ってよ!」

 ありさが慌てて追いかけます。

「貴方達はここで警戒して」

 蘭は警官隊に命じて左京を追います。

 警官隊は急に心細くなりました。

「いやあ、悪い悪い。遅れちまったな」

 そこへ何故か左京が現れます。警官隊は仰天しますが、

「貴様、ドロント一味だな!」

と一斉に飛び掛り、左京を縛ってしまいました。

「バカヤロウ、俺は本物だ!」

「偽物はみんなそう言うんだよ!」

 警官隊は動じません。

「俺の言う事が信じられないのか?」

「信じられないね」

 警官隊はそっぽを向きます。

「ふむ、君らは正しい。でも、残念でした」

 左京の靴の先からガスが吹き出します。

「ぐわ!」

 警官隊はたちまち眠ってしまいました。

「さてと」

 偽左京はロープを解きます。

「手伝いますね」

 誰かが手を貸してくれます。

「ありがとう」

 偽左京はドロントでした。

「え?」

 手伝ってくれたのは樹里でした。

「また貴女なの? どうして睡眠ガスで眠らないのよ!?」

 ドロントはイラついて怒鳴ります。

「眠くないからです」

 樹里は笑顔全開です。

「そういう事を訊いてるんじゃなくてね……」

 脱力している間に左京達が戻って来ました。

「やっぱりそうか、貧乳! 今日こそは逃がさないぞ!」

 左京と蘭がドロントを囲みます。

「さあて、それはどうかしらね」

 ドロントはビュンと空に飛び上がります。

「ホワイトタイガーは、私の忠実な手下の亀ちゃんが頂いたわ。じゃあねえ」

「何!?」

 檻を覗くと、虎だと思っていたのは、大きな赤べこでした。

 首が揺れているので癒されます。

「やられた……」

 蘭はがっくりと膝を着きます。左京は唖然としていました。

(亀島のヤロウ、蘭に引導渡しやがって! 許せねえ)

 左京は今度亀島を見かけたら、如意棒でタコ殴りにするつもりです。

「左京さん、こんなものが落ちていました」

 樹里が大きめの茶封筒を差し出します。

「何だ、これ?」

 左京は中身を確かめました。

「うおお!」

 思わず叫んでしまう内容です。

 

 そして翌日です。ドロントを取り逃がし、ホワイトタイガーまで盗まれた蘭は、刑事部長に呼び出されました。

「神戸君、大失態だな」

 刑事部長は嬉しそうに言います。蘭は茶封筒を差し出します。

「何だ? 辞表ならもう少し小さい封筒にしろ。それに君の辞表は受け取らんよ。懲戒免職処分の予定だからね」

 部長はニヤリとして封筒の中身を見ます。

 そして信号機の青より顔色が悪くなります。

「部長、貴方は警察の面汚しですね」

 蘭がニヤッとして言います。部長は汗を滝のように流します。

「こ、これをどこで……」

「ニュースソースは明かせません。取り敢えず、総監には報告をすませました。今度こそ、塀の向こうに落ちやがれ、悪党!」

「……」

 蘭の暴言に何も言えないほどなのは、茶封筒の中身が刑事部長の数々の犯罪を詳細に記した物だったからです。

「失礼します」

 蘭は悠々と刑事部長室を出ました。

(亀島君、ありがとう)

 その資料は亀島が調べた物でした。蘭が追い詰められている事を知った亀島が、現場に置いて行ったのです。

(これで左京がここに戻って来る事ができる)

 蘭は嬉しそうに廊下を歩きました。
 


 その頃、左京は朝刊を眺めながら剥れています。

「亀島のヤロウ、美味しいとこだけ持って行きやがって」

「そうなんですか」

 樹里がコーヒーを淹れてくれました。

「まあ、よしとするか」

 左京はコーヒーを一口飲んで言いました。
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