俺は杉下左京。警視庁の敏腕警部だ。
今日は非番。そして、今日は待ちに待った御徒町樹里とのデート。
前回は、母親の由里さんと、無能な部下の亀島に邪魔されたが、今日は二人きりだ。
樹里にはくどいくらいに一人で来るように言い含め、また東京フレンドランドで待ち合わせた。
「杉下さん」
俺が約束の一時間も前に到着し、手持ちのタバコを全部吸い尽くした時、ようやく樹里が現れた。
正確に約束した時間だ。
「おお、相変わらず、時間に正確だな」
「そうなんですか?」
樹里はニコッとして言った。その相変わらずのずれっぷりもいい。
「どうしたのですか、杉下さん?」
俺は変な付属がついて来ていないか心配で、周囲を見渡した。
「ああ、いや、何でもないよ。さ、入ろうか」
「はい」
どうやら由里さん達はいないようだ。
「あれ?」
期待していたお化け屋敷はなくなっていた。
「都合により閉鎖しました」
と張り紙がある。どうしたのだろう?
「残念でしたね、杉下さん。私に怖がって欲しかったのですよね?」
樹里の満点笑顔のその言葉に、周囲の女性達が俺を変なものを見る目で睨んだ。
何か、俺、悪い奴に思われてる?
「ハハハ、そんな事はないよ、樹里」
俺は慌てて樹里を違うアトラクションに連れて行った。
次は観覧車。行列ができていた。
俺はこういうのが一番苦手だが、樹里と一緒なら我慢できる。
そして俺達の番。
「わーい!」
何故か俺を差し置いて五歳くらいの男の子が樹里と乗ってしまった。
「はい、お父さんもどうぞ」
「……」
俺はそう言った係員を睨みつけてから、観覧車に乗り込んだ。
一周する間、樹里は男の子と楽しそうに話していた。
これじゃ、本当に親子で観覧車みたいだ。
つまらん。
そして俺の企みはガキのせいで見事に潰され、観覧車を降りた。
「バイバーイ!」
そのガキは嬉しそうに樹里に手を振って走り去った。
親はどこにいる!? 腹が立った。
次に俺は、メリーゴーランドに乗る事にした。
またあのガキが現れないか見回し、いないのを確認して乗り込む。
今度は樹里と二人で馬車に乗れた。
狭いので身体が密着する。
「ごめんなさい、杉下さん。きついですよね」
樹里は申し訳なさそうに俺を見た。
「全然。大丈夫だよ」
と言うか、この狭さを待っていた俺。
変態と言われてもいい。
ようやく樹里とのデートという感覚を得られたのだ。
メリーゴーランドを降り、次のアトラクションを目指していると、さっきのガキが一人でベンチに座っていた。
「?」
刑事の勘が働く。これは妙だ。
「おい、どうした?」
俺はそのガキに近づいて声をかけた。
「ああ、さっきのおじさん」
「お兄さんだ!」
ついムキになって言ってしまった。
「一人なんですか?」
樹里が隣に座って尋ねる。ガキは泣きそうな顔をして、
「うん」
「よし、お兄さん達と一緒に遊ぼうか」
「ええ? いいの、おじさん?」
「お兄さんだ!」
俺はその子を連れ、いろいろな乗り物に乗りながら、親らしき人物がいないか、探した。
しかし、見つからなかった。
もうアトラクションも乗りつくし、俺の財布も悲鳴を上げていた。
その時だった。
「貴明!」
一人の女性が走って来た。ガキが反応した。
「ママ!」
二人はしっかりと抱き合い、泣いた。俺ももらい泣きしそうだ。
「おかしな事を考えるな。何もなかったから良かったけどな」
俺は小声で母親に言った。
「すみませんでした。私、もう少しで……」
母親はそこまで言って泣き出した。おいおい、俺が泣かしてるみたいだぞ。
「俺は警視庁の刑事だ。何か困った事があったら、相談くらい乗れるぞ」
俺は名刺を渡し、母親を励ました。
「ありがとうございました」
母親はガキに頭を下げさせながら、自分も何度もお辞儀をした。
「おじさん!」
ガキが駆け寄って来た。
「お兄さんだ!」
「ごめんね、お姉さんとデートだったのに」
ガキめ。子供が変な気を遣うな。ガキは手を振りながら走って行った。
「あ、ああ」
俺は手を振り返した。樹里も手を振った。
「いい子ですね。私もあんな子が欲しいです」
その発言に、俺は心臓が飛び出そうになった。
「お母さんに頼んでみます」
「は?」
俺はマジマジと樹里を見た。
そう言えば、由里さんの元旦那はどうしているのだろう?
そんな事を考えていた俺に、樹里の「天然爆弾」が炸裂した。
「杉下さんとお母さんが結婚すれば、あんな可愛い弟ができるかも知れませんね」
由里さんが幾つなのか知らないが、まだ生ませるつもりなのか、樹里?
それより、俺はまだ「お父さん候補」なのか……。
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