私は警視庁特捜班の刑事、亀島馨。
また、あの杉下左京さんと同じ部署になってしまった。
しかも杉下さんは、警部に昇進。捜査一課の加藤さんは、
「絶対に不正があった!」
と息巻いている。
私は、杉下さんは好きではないが、あの人はそんな事をする人ではない。
むしろ、昇進試験を受けた事が驚きだ。
出世とは無縁の人。
尊敬はしていないが、凄い人だとは思う。
考えてみると、私と杉下さんは御徒町樹里さんが現れるまでは、それなりにいいコンビだった。
女が絡むと、事件も悲惨になる事が多いが、まさか私と杉下さんが「女」で仲が悪くなるとは思わなかった。
そんな事を思いながら、休日を利用して、私は神保町の古本屋巡りをした。
掘り出し物がいくつか見つかり、得々として帰路に着いた。
JR水道橋駅の高架をくぐった時、見たことのある後ろ姿の女性二人に気づいた。
私は車を路肩に寄せて停め、助手席の窓を開いた。
「御徒町さん」
そう、樹里さんがお母さんと歩いていたのだ。
「ああ、亀島さん」
「あら、亀ちゃん」
二人は私に気づき、近づいて来た。
「お出かけですか?」
「はい。杉下さんと東京フレンドランドで待ち合わせです」
隠し事ができない樹里さんは、あっさり話してくれた。
「では、そこまでお送りしますよ。乗って下さい」
「ありがとうございます」
私はニンマリして二人を乗せ、フレンドランド近くの駐車場に向かった。
途中、アホ面をして、御徒町さんが来るのを待っている杉下さんに気づいたが、無視した。
そして、水道橋方面に気を取られている杉下さんの後ろから現れた。
杉下さんは可哀相なくらい驚き、樹里さんのお母さんに強引に腕を組まれてフレンドランドに入って行った。
「では、参りましょうか、御徒町さん」
「はい、亀島さん」
私は思い切って樹里さんに腕を出した。すると樹里さんは躊躇う事なく腕を組んでくれた。
おお! まだ希望はあるぞ! 心の中でガッツポーズをした。
前方に、恨みがましい顔で私を睨んでいる杉下さんが見えた。
まず私は、樹里さんのハートをガッチリ掴んでおこうと思い、
「お化け屋敷に入りませんか?」
と提案した。
「おお、入ろう、入ろう!」
お母さんが大乗り気で、杉下さんを引き摺るようにして進んだ。
「御徒町さん、大丈夫ですか?」
「はい」
樹里さんはニッコリ笑って言った。
大丈夫なのは困るが、まあ、ここは日本で三番目に怖いお化け屋敷らしいから心配いらないだろう。
「イヤーッ!!」
お化け屋敷に入り、絶叫しまくるお母さん。その声にうろたえる杉下さん。
私はおかしくて仕方なかった。
そして、私と樹里さんがお化けゾーンに入る。
「ふああああ!」
いきなり上からゾンビがぶら下がった。私は危うく腰を抜かしそうになったが、樹里さんの事を考え、耐えた。
「今日は」
樹里さんは笑顔でゾンビに挨拶している。全く驚いていない。
「大丈夫ですか、御徒町さん?」
私は膝をガクガクさせながら尋ねた。樹里さんは、
「大丈夫ですよ」
と答えた。ふと気づくと、後ろでゾンビが落ち込んでいた。
「俺、向いてないのかな、この仕事……」
涙を誘う一言だった。
そして。
「ヒヤーーーッ!」
今度は物陰から血だらけの幽霊が現れた。私はもう限界に近かったが、なんとか踏ん張った。
「大丈夫ですか、血が出てますよ」
どう見ても普通の女の子なのに、全く驚かない上に怪我の心配までする樹里さんにその幽霊も落ち込んでしまった。
「転職しようかな……」
そんな呟きが聞こえた。私は彼らを哀れんだ。
そんな事で、私達はお化け屋敷を出た。
「御徒町さん、怖くないんですか?」
「怖くないですよ」
笑顔全開で答える樹里さん。失敗だ。
「女の子はみんな怖がるんですけどね……」
「そうなんですか。申し訳ありません」
素直な樹里さんは私に謝った。
「私が怖がった方が良かったのですね、亀島さんは」
「え、あ、いや、決してそういう事では……」
樹里さんの発言に、周囲の女性達が不潔な物を見るような目で私を見た。
「今度は怖がりますので、もう一度入りましょう」
「い、いえ、もう私は……」
樹里さんが怖がってくれるのなら、もう一度入りたいが、多分もう限界を超えてしまう。
「さ、行きましょう」
「は、はい……」
樹里さんの言葉に逆らえないようになってしまった私は、もう一度お化け屋敷に入った。
そして、樹里さんが怖がってくれるのを確認できないまま、気絶した。
樹里さんが本物の幽霊をお祓いした事を杉下さんに聞いたのは、それからしばらくしてからだった。
小説家になろう 勝手にランキング
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。