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転職編
樹里ちゃん、幽霊と会う
 御徒町(おかちまち)樹里(じゅり)はメイドに戻りました。

 しかし、G県M署の副署長である杉下左京が彼女と妹達を助けるために重傷を負ってしまいました。

 その事でとても驚いた樹里は、事件があった田町氏の邸を出る事になりました。

 田町氏は樹里を必死に止めましたが、樹里の決意は変わらず、彼女は田町邸を去りました。



 そして今、樹里は東京の世田谷にある大富豪の家にメイドとして入りました。

 今度は妹達を母親に預け、樹里は一人で住み込みです。

 その屋敷は以前殺人事件が三回起こったところでした。

 持ち主は変わりましたが、建物はその当時のままで、噂だと幽霊が出るという事です。

 そのため、メイドがたびたび辞めてしまっているのでした。

 屋敷の持ち主の名前は、五反田六郎氏です。

 彼は超現実主義者で、心霊現象など全く信じていません。

 家族は幽霊を何度も目撃していて、あまりの怖さに家を出てしまいました。

 奥さんも子供達も去ってしまったので、五反田氏はメイドを雇って身の回りの世話をさせていたのですが、幽霊騒動で次々に辞められてしまったのです。

 そんな中、樹里はメイドの面接に来ました。

 そして、五反田氏は樹里がすぐに辞めてしまうのは困るので、真相を打ち明けました。

「実はね、この屋敷には幽霊がいるのだよ」

「ユウ・レイ様ですか? 中国の方でしょうか?」

 樹里は大真面目な顔で尋ねました。五反田氏は、

「いや、人ではないのだ。心霊現象が起こるのだよ。私は信じていないのだがね」

「新郎新婦ですか? ご結婚された方ですか?」

 樹里のボケに、五反田氏はイラッとしました。

「違うよ。君は私をからかっているのかね?」

「とんでもないです」

 樹里は笑顔全開で答えました。

 五反田氏は、この娘なら大丈夫だろうと判断し、樹里を採用しました。

 こうして樹里は五反田邸で働く事になりました。

 

 ある日の夜です。

 樹里は五反田氏の夕食を給仕し、後片付けを終えて、自分の部屋に戻りました。

 すると、部屋のドアの前に大柄の女の人が立っています。

「あの、どちら様でしょうか?」

 樹里はその女性に声をかけました。

「私よォ」

 女性は頭から血を流し、白目を剥いていました。

 樹里は、

「まあ、大変です。お怪我をなさっているのですね。今手当て致します」

と全く動じる事なく部屋に入り、救急箱を持って来ました。

「あら?」

 何故か女性はいなくなっていました。

「どこへ行かれたのでしょうか?」

 樹里はしばらく付近を探しましたが、どこにもその女性はいませんでした。

 そしてまたある日の夜です。

 樹里はキッチンで洗い物をしていました。

 すると今度はメイド服の女性が頭に包丁を突き立てたままで現れました。

「痛い……。痛いわ。助けて」

 樹里はそれを見て驚き、

「大変です。今救急車を呼びますね」

とキッチンの隅にある電話に駆け寄りました。

 ところが、電話は通じません。

「痛い。痛いわ。早く助けて」

 女性は喚き散らしながら、樹里に近づいて来ました。

「痛いのですか? 大丈夫ですか?」

 樹里は喚き散らす女性を宥めようと声をかけました。

 するとその女性はスーッと霧のようになって消えてしまいました。

「?」

 樹里には何が起こったのかわかりませんでした。

「手品だったのでしょうか?」

 結局その女性も姿を消したままでした。

 そして更にある日の深夜です。

 樹里は屋敷に知らない人がいるのを不思議に思い、戸締まりをし忘れたのだと考えました。

 彼女は屋敷中の窓やドアを点検して回りました。

 でもどこも鍵が開いているところはありません。

 樹里は安心して部屋に戻りました。

 すると今度は、階段のところに、首にロープを巻き付けられたおばあさんが立っていました。

「く、苦しい……。助けて。助けて……」

 おばあさんは絞り出すような声で樹里に言いました。

「まあ、大変です」

 樹里は階段を駆け上がり、おばあさんのそばに行きました。

「大丈夫ですか?」

 樹里はおばあさんの首に巻き付けられたロープを解きました。

「……」

 おばあさんもまた、スーッと霧のように消えてしまいました。

「?」

 樹里はまた人が消えてしまったので、ビックリしてしまいました。



 そして翌朝、樹里は五反田氏に今まであった三人の女性の話をしました。

「そうか。わかった」

 五反田氏は、全く怖がらず、そして大袈裟でもなく話をした樹里を信用し、知り合いを通じて高名な霊能者を呼びました。

 その霊能者は、確かに腕はいいのですが、とにかくお金に汚い事で有名でした。

「おう、来たで。おっさん、どこに幽霊がおるんや?」

 その女性は、以前樹里がキャバクラで働いていた時に着ていた衣装より際どい服を着ていて、酷く下品な言動でした。

「どこにもおれへんがな。ウチをからかっとるんか、おっさん?」

 その霊能者は五反田氏に抗議しました。そこへ樹里がお茶を持って現れました。

「御徒町さん、先生にあの時の話をしてくれたまえ」

 五反田氏は、霊能者の迫力に困り果てて、樹里に救いを求めました。

「はい、旦那様」

 樹里は霊能者に近づき、話をしようとしました。

「ああ、もうええ。この姉ちゃんがみんな祓ってくれとるがな。どういうことやねん、おっさん?」

 霊能者の目には、三人の霊達が、樹里の後ろで微笑んでいるのが見えたのです。

 樹里が彼女達を怖がらず、心の底から心配し、助けようとしてくれた事で、彼女達のこの世への未練が消え、怨嗟と憎悪が解消されたのです。

「あんた、どこで修行したんや、メイドさん? ウチも知りたいんやけどな」

 その下品な霊能者は、ガハハと大口を開けて笑い、五反田邸を去りました。

 それ以降、五反田邸に心霊現象は起きなくなったそうです。
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