御徒町樹里はメイドです。
今は三人の幼い妹を連れて、G県T市の田町耕造氏の家に住み込みで働いています。
田町氏はボディタッチが過ぎるエロ親父ですが、決して悪い人ではありません。
樹里達が田町邸に来て一週間が過ぎました。
田町氏には一人息子の栄一がいます。まだ高校二年生です。
彼も田町氏と同類で、悪い人ではないのですが、ボディタッチが好きな所謂エロ男子です。
彼は樹里の事を気に入ったらしく、何かにつけて樹里を誘惑して来ます。
「おはようございます、ぼっちゃま」
樹里はいつものように笑顔全開で挨拶しました。
栄一はすかさず樹里に近づき、彼女の肩を抱きます。
「おはよう、樹里さん。今日も綺麗だね」
「ありがとうございます、ぼっちゃま」
樹里は栄一の手を振り解く事もなく、ニコニコしたままで応じます。
「今度デートしない? 東京フレンドランドに行こうよ」
「ありがとうございます。でも、私はお仕事がありますので」
樹里は笑顔で断わりました。栄一はそれでも諦めません。
「大丈夫だよ。親父に言って、休暇を取らせるから。ね?」
「はい……」
さすがに樹里も困ってしまいました。樹里からすれば、栄一は雇い主の息子。それに相手は高校生です。
場合によっては、逆援交です。いえ、樹里はそんな事は思いませんが。
「よし、決まりね。親父に掛け合って来るよ」
栄一は田町氏の書斎に走って行きました。
しかし、田町氏は許しませんでした。
息子に樹里を盗られると思ったのです。
そもそも樹里は田町氏のものでもありませんが。
怒った栄一は、家を飛び出してしまいました。
「あのバカ息子が」
そう毒づく田町氏は、息子より樹里との交際を優先させたろくでなし親父です。
結局栄一はその日は姿を見せませんでした。
田町氏は奥さんを早くに亡くし、肉親は栄一ただ一人だそうです。
本当はとても心配だったのかも知れません。
しかし、彼はその夜もまた、懲りもせずに樹里を書斎に呼びました。
「さ、かけたまえ」
「はい、旦那様」
樹里はソファに腰掛けました。田町氏はまた、ワインを取り出して、
「これも値の張る逸品なんだよ。飲んでみるかね?」
「ありがとうございます」
田町氏はワインをグラスに注ぐ時、今度は自分で買った睡眠薬を流し込みました。
(これなら必ず眠る。そしてこの女は私のものだ)
エロ親父全開です。
「グッと空けてくれたまえ」
「はい」
樹里は並々とワインが注がれたグラスを受け取ると、またしても銭湯の牛乳のように一気に飲み干してしまいました。
「おお」
田町氏は今度こそ成功したと思い、ガッツポーズをしました。
「どうされましたか、旦那様?」
グラスをテーブルに置いて、まるで何事もなかったかのように樹里が尋ねました。
アングリと大口を空けて驚く田町氏。
「大変おいしかったです。でも私は、先日のワインの方が上質で高貴な香りがしていたと思います」
「そ、そう」
「では、失礼致します」
「あ、ああ」
田町氏は樹里が退室した後、睡眠薬の瓶を眺めました。
「くっそう、これも効かないのか?」
この前、そう思って舐めたら、翌朝まで眠ってしまった事を思い出し、熱帯魚の水槽に入れてみました。
すると熱帯魚達はたちまち眠ってしまいました。
「一体どういう事だ?」
田町氏は、樹里の事が怖くなりました。
一方退室した樹里は、栄一の部屋を掃除するために掃除用具を持って彼の部屋に向かっていました。
実は栄一は、こっそり部屋に戻っていて、樹里が部屋の掃除をしに来るのをクローゼットの中に隠れて待っていたのです。
彼女が入って来たら、隙を突いて襲いかかり、あんな事やそんな事をしようと企んでいました。
どうしようもない親子です。
しかし、いつまで経っても樹里は来ません。
栄一は痺れを切らせてクローゼットを出ようとしました。
ところが、悪い事はできません。
クローゼットの前に立てかけてあった栄一のテニスラケットが、何かの拍子に傾き、クローゼットの取っ手に引っかかってしまったのです。
そのため、扉が開かなくなり、栄一は閉じ込められてしまいました。
「助けてくれー!」
しかし、その声は誰にも聞こえませんでした。
さて、狙われていた樹里は、栄一の部屋に行く途中、眠くなってしまいました。
「ぼっちゃまのお部屋のお掃除は、明日しましょう」
彼女はそう考え、また妹達と一緒にグッスリと眠り、清々しい朝を迎えたのでした。
こうして彼女はまたピンチを知らないうちに回避したのです。
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