御徒町樹里は、様々な職業を経験して、また元のメイドに戻りました。
今度はG県T市の会社経営者の田町耕造氏の家に、住み込みで働く事になりました。
幼い妹達も一緒に住ませてくれるという好条件で、樹里は田町家に行きました。
それまで居候していた杉下左京には、連絡先と携帯の番号を教えました。
将来、占い師の母と結婚してくれる、樹里達のお父さんになる人だからです。
「今日からお世話になります、御徒町樹里と申します。よろしくお願い致します」
樹里は田町氏に会い、挨拶しました。幼い妹達も頭を下げました。
「ほォ、本当によく似ているね、君達は。まるで四ツ子のようだな」
田町氏はまるで十年来の親友をもてなすかのように樹里と嬉しそうに握手しました。
「そうでございますか」
樹里は笑顔全開で応じました。田町氏は樹里の肩にスッと手を回し、
「後で君だけ私の書斎に来なさい。話がある」
「はい、旦那様」
妙にボディタッチが多い田町氏ですが、樹里は全然気にしていないようです。
樹里は宛てがわれた部屋に妹達を残し、何の不安も抱かずに田町氏の書斎に行きました。
「失礼致します」
樹里はノックをしました。
「どうぞ。入りなさい」
田町氏の声が答えました。樹里はドアを開き、中に入りました。
「さ、掛けたまえ」
田町氏は部屋の中央にある黒革張りのソファに腰を下ろしていました。
「はい」
樹里は田町氏の向かいに座りました。すると田町氏は樹里の隣に移動し、
「ささ、極上のワインだ。飲みたまえ」
「お仕事がありますので」
樹里はにこやかにお断わりしました。しかし田町氏はニッとして、
「かまわんよ。これは君の歓迎会なのだ。飲みたまえ」
「はい、旦那様」
田町氏の顔がエロ親父の顔になりました。実は樹里のグラスには睡眠薬が入っているのです。
「いただきます」
樹里はワインを飲みました。彼女は見かけによらず酒豪らしく、一気にグラスを空けてしまいました。田町氏は心の中でガッツポーズをとりました。
「どうかね、味は?」
田町氏は樹里が眠ってしまうと思い、答えをまたずに彼女の服のボタンを外そうとしました。
「はい、大地の芳醇さがしっかりと根付いていて、まるで天使の涙のように高貴な味です、旦那様」
樹里の答えに、田町氏はビックリして手を止めました。
(どういう事だ、こいつ、何故眠らない?)
「そうかそうか。ではもう一杯」
田町氏は、量が少なかったのかと思い、更に樹里にワインを勧めました。
そして、
「あ、あれは何かな?」
と古めかしい手で樹里の気を逸らせ、睡眠薬をさっきより多く流し込みました。
「何もございませんが、旦那様」
「そ、そうか。私の見間違いだったかな」
田町氏は苦笑いして、
「さ、またグーッと空けてくれ」
「はい、旦那様」
また樹里はまるで牛乳でも飲むようにグラスを空にしてしまいました。
田町氏は目が点になりました。樹里は眠るどころか、欠伸もしません。
「いい飲みっぷりだね。そろそろ休みなさい。明日も早いからね」
「はい、旦那様」
田町氏は睡眠薬を間違えたと思い、計画を断念しました。
「お休みなさいませ、旦那様」
樹里が退室した後、田町氏は睡眠薬を取り出し、眺めました。
「バカ者が、睡眠薬と何かを間違えたのか」
手配をさせた田町氏の配下が薬を間違えたと思ったようです。
「一体何だ、この粉は?」
彼はその粉を一つまみ取り、舐めてみました。
「……」
田町氏は、そのままコテンと倒れ、朝まで目覚めませんでした。
一方樹里は、部屋に戻ると妹達と一緒にベッドでぐっすり眠りました。
そして次の日、とても清々しい朝を迎えたのでした。
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