御徒町樹里はメイドでした。
その後、ボッタクリ喫茶やキャバクラ等を勤め先にし、苦労をしていました。
彼女の母は占い師で、新宿で占いをしています。
忙しい母の代わりに幼い三人の妹達の面倒を見ながら、樹里は仕事を探していました。
そんなある日、突然現れた警視庁の刑事である亀島に、樹里は言われました。
「よ、よろしければ、私と付き合って下さい」
樹里はどういう意味がその言葉に含まれているのか考えずに、
「はい」
と言ってしまいました。
亀島の喜び方は異常でした。
「あ、ありがとうございます」
亀島は何故か泣いていました。樹里は不思議に思って、
「どうされたのですか? 悲しいのですか?」
「と、とんでもない。嬉しいのです」
「そうなんですか」
樹里も亀島が悲しくて泣いているのではない事を知り、ニッコリしました。
「亀島さん、ご相談があるのですが」
「はい」
亀島もニコニコしています。
「私、お仕事を探しています。何かないでしょうか?」
「仕事なんてしなくても大丈夫です。私が全部何とかしますから」
「そうなんですか?」
樹里は、亀島が何を言っているのかわかりませんでした。亀島は急に思い直したように、
「でも、御徒町さんが働きたいのを止めるのは間違いですよね。わかりました。私が探します」
「ありがとうございます」
「携帯の番号を教えて下さい」
「はい」
どうやら亀島は、すでに恋人気分のようです。
「見つけたら連絡します。あ、あと、メールアドレスも教えて下さい」
「はい」
樹里は操作がわからないので、亀島に携帯を渡しました。
「うん?」
亀島は、携帯の待ち受けに杉下左京が写っている事に気づきました。
「あれ? これ、杉下さんですよね?」
「杉下さん? どなたですか?」
樹里は未だに杉下の名前を覚えていないようです。亀島は心の中でガッツポーズしました。
「それは、私が働いていたお店に来た刑事さんです。杉下さんという名前なのかわかりません」
ブラボー! 亀島は心の中だけで叫ぶのが惜しいくらい喜んでいました。
御徒町さんは杉下さんの事を何とも思っていないのだ。
勝った。完全に勝った。
亀島の妄想は暴走していました。
「では、私はこれで。すぐに仕事見つけますからね」
「はい」
亀島はスキップをしながら去って行きました。
「この人、杉下さんなのですね」
樹里は携帯の待ち受けに写る杉下を見て、嬉しそうに微笑みました。
そして翌日。
樹里は杉下に会いに警視庁を訪れました。
「杉下はG県警のM警察に移動になりました」
受付でそう教えられた樹里は、ビックリしてしまいました。
「杉下さん……」
樹里は自分のこの気持ちがわかりませんでした。
そして、彼女は、G県に行く決心をしました。
幼い妹達を残して行けませんから、彼女は母に許しを得て、三人の妹達と共にG県に出発しました。
「G県でお仕事を探さなくてはなりませんね」
樹里はすでに亀島の事をすっかり忘れていました。
杉下がG県に移動(左遷)されたと知った亀島は、狂喜乱舞しました。
そして、樹里のために探した警視庁の近くのコンビニのバイトの事を話そうと、樹里の携帯に連絡しました。
「御徒町さん、亀島です」
「はい」
電波状態が悪いようです。樹里の声がよく聞き取れません。
「今どちらですか?」
「G県です」
「え?」
亀島には、「地獄にいます」の方がまだショックが少なかったでしょう。
亀島はそのまま何も言わずに携帯を切り、昔のボクサーのように真っ白になって椅子に座りました。
「燃えた……。燃え尽きたよ……」
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