ある黒猫の独白
雨は降り続く。
まるでこの世の汚い物を洗い流すかのようなそれは、途切れることなく夜の闇に溶け込んでいく。
私はただ佇んでいた。
黒い毛で覆われた私の身体はしっとりと濡れ、光沢を持つ漆器のようであった。
ただただ、夜の闇の深い街角に、ひっそりと私は佇んでいた。
私は猫だ。
猫である私は、それらしく雨を嫌ってどこかの軒下に居座っていれば良いものを、自らこの泣き空の下へ這い出てきた。どうしてこんなことをしているのか、私自身にも実はよくわからなかった。ただただ無性に、この空の下に、雨に濡れていたかった。
私は目に雨粒が入るのも厭わず空を見上げた。闇の中に吸い込まれるような、落ちてゆくような、不思議な感覚。
──あの向こう側に、行ってみたいものだな
私はそう独白した。
自由が欲しい、そう思うようになったのはいつからであっただろうか。
一見自由に見える猫、しかし空腹や痛み、欲求や絶望と言う鎖から逃れることはできない。この肉体がある限り本当の自由など有り得はしないのだと、最近気が付いた。
肉体と言う鎖に繋がれた己を解放したとき、あの重い闇を含んだ雲の向こう側にも行けそうな気がする。
そんなことを思いながら、私はただ佇んでいた。
目を閉じると、堅い人工の埋め立てられた路を叩く雨音と、その湿った匂いが私の身体を包んだ。
──どうやら私はまだ自由にはなれないらしい。
雨は降り続く…
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