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摩天楼の上で
作:m論



私が自らの手を血に染めるわけではない。

私はただ『アドバイス』をあげただけ。

貴方が悪いんでしょ?

人を殺した貴方が。



彼女を知ってるかい?

あの子は『残虐な天使』さ

心というものがないんだね

人格を造られていないんだね

愛情を・・・受け取ってないんだね






「つまんないなぁ」



ぽつりと『残虐な天使』こと、フィナ・シュエリアは都心のビルの屋上の縁に座りながら言った

彼女が『残虐な天使』'と呼ばれるのは
慈悲深い、天使のように美しい容姿を持つが、それと裏腹に人の生命を簡単に奪うことからである。

そして、アドバイスをしてもらった人間は


''人を殺めた罪として 地獄逝き''


でも、彼女自身が自分の手を血に染めるわけではない。ただ

''人の殺意を目覚めさせるだけ''




「ハハハハハ」

「やめてくれぇぇぇぇ・・・それが無いと・・・今月は昼飯買えないんだよぉ・・・」


都心に程近い、私立高校の屋上で高橋政輝は同級生である真島左近にカツアゲされていた。

弱々しい身体に黒斑眼鏡、彼はいつも真島に限らず、同級生から理不尽な暴力を受けていた。

「グダグダうるせぇっ!!」

真島は倒れている彼の脇腹に蹴りを入れた。

「ったく、騒ぐからだぞ。財布は親切に返しといてやろう・・・じゃーなー」

真島は彼の財布から一万円札5枚を抜き出すと、空っぽになった財布を投げつけて行ってしまった。


その一部始終を空から見ていたフィナは微笑んだ。

「いいかも・・しれない・・・あの子にしよっかなぁ・・」


「待ってくれよぉ・・・真島君」

政輝は真島を追いかけていった。


惨めな人間だ。

「可哀相だなー。力貸してあげようかな。」


―――放課後―――

政輝はとぼとぼとマンションに向かって歩いていた。ここは都内有数の進学校・・・だったはず。所詮、何処の学校にもこういう奴はいるということか・・・

彼は自分の部屋の鍵を開け、中へ入っていった。

まず冷蔵庫を開ける。もう中身は殆ど無い。両親からの仕送りも真島に取られてしまった。

「はぁー・・・ついてないなぁ・・・」

政輝は溜息をついた。あんな奴いっそ死んでしまえばいいのに・・・。そんな考えが頭を廻っていた。

「ねぇ」

後ろから不意に声がした。政輝は驚いて後ろを向いた。そこには自分より少し小さい、金髪の美しい少女が立っていた。

「お、おまえ・・・誰だ?!何処から入ってきた?!!」

フィナはそんな彼の言葉を完全に無視して言った。

「貴方、どうしてそんなに簡単にお金を渡しちゃうの?」

「そ、そんなの決まってるだろ!!アイツが・・・俺より強いから・・・」

「悔しいと思わない?あんなことするなんてサイテーだよね。ねぇ?私が力になって・・・・―――あげようか?」

彼女はニッコリと微笑んで政輝の正面に立った。

政輝は彼女の笑顔と、『力』という言葉に惹かれたらしい

「アイツを・・・どうにか・・・してくれるのか?・・・」

と聞いた。

「貴方をこんなことにするアイツなんていらない。なら、殺してしまえ。貴方がそれを望むのなら」

『殺』という言葉に少しだが、政輝の瞳孔が開いた。彼はどうやら決心を決めたらしい。『アイツを殺す』という決心を。


「どうすれば・・・いいんだ?」


フィナは政輝のその言葉に、心の中で笑った。

惨め且つ哀れだと。

しかし彼女は表情を変えずに言った。


「そうだね・・・――彼を屋上に呼び出して、後ろから突き落としてみたら?うまくやれば自殺にしか思われないよ」

そう言うと、彼女は何処からともなく何かやたらと書かれた紙を取り出した。真っ黒な便箋に血のように紅い文字。

「これは、契約書です。本当にやるならここにサインをしてっ。」


契約書には、長い長い規約が書かれており

政輝は読む気を失ったのか、ペンを持ち、自らの名前を書いていった。

その様子を、ただじっとフィナはみつめていた。

そして、それが終わると彼女は契約書を受け取り、立ち上がった。

「契約完了・・・。ありがとうございました。これで貴方は完璧に犯罪を犯す・・・―――サヨウナラ・・・」


その『サヨウナラ』には、これから起こる彼の悲惨な運命に捧げた。




・・・3日後、都内の有名私立高校の男子生徒が屋上から転落し、死亡した。

その生徒の名は真島左近。警察は自殺と断定し、捜査を打ち切った。



そのニュースを聞き、フィナはすぐに政輝の仕業だと直感した。彼女は微笑んだ。

サンシャインの屋上から飛び降りると、その翼で彼の住む部屋に向かっていった。


政輝は部屋でせせら笑っていた。もう自分を苦しめる危険因子は消えた。安心してシャバの空気を吸える・・・

「楽しそうですねぇ」

彼の目の前にはあの金髪少女が立っていた。

政輝は彼女が勝手に入ってきても何も言わずに笑った。

「ああ・・・君か・・・この前はありがとう。おかげで俺を苛めていたクズは死んだよ。」

嬉しそうに彼は笑う。


「さて、ではご請求をいただきますね」

少し間を空けて、フィナは言った。彼は驚いたように

「えっ?俺、別に何も買って・・・ませんけど」

と、聞き返した。

「いえ、契約書に書いてありましたよぉ、『私のアドバイス料は貴方の生命と引き換えです』ってね」

彼女はニッコリ微笑んだ。一方で政輝は恐怖で凍りついていた。

「じょっ、ジョーダンじゃねぇ、ふざけんな!!」

「ふざけてないですよぉ、だって貴方は契約書にサインしましたよね。今更見苦しいですよぉ」

「そんな・・・そんな馬鹿な・・・有り得ない・・・いやだ、死にたくない、死にたくない、死にたくない・・・」


政輝はテーブルの上にあった果物ナイフを掴むと、彼女めがけて突き刺した。

しかし彼女は倒れもせず、血も一滴も流さずに笑っていた。


''私は死なないの この時間だけは 貴方の魂をとらなくてはいけないから これが私の使命 そして これが契約書をちゃんと読まなかった貴方の運命''


彼女はそう言うとカウントダウンを始めた。

――そう、地獄までのカウントダウンを・・・


「いーち」

まず1秒目。

政輝は激しく動揺していた。

「お、お・・・お前こんなことして楽しいのか?!!サインだけでし、死ぬわけ無いだろッ?!!!」

何度もナイフで彼女を突き刺した。

フィナは何も感じていない様子でそれを完全に無視した。

「にーぃ♪」

2秒目。

「な・・・な、何でこんなに刺しても・・・し、死なないんだ?・・・お、お前一体何なんだよ・・・」

政輝は玄関のドアを開けて逃げ出そうとした。が、ドアが何故か開かない。

「うあぁぁぁぁああぁぁぁ!!!俺はこんな所で死にたくないぃぃ!!!助けてくれっ!!助けてくれぇぇぇ!!!!!!」

半狂乱になりながらドアに向けて力任せにタックルをする。しかし開かない。

ベランダから逃げるため、窓ガラスに向けて突進しようとしたその時

「さぁーん♪」

3秒目のカウント。


バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


窓ガラスが割れる激しい音がした。

グシャッ!!

何かが潰れた音。もう部屋に政輝はいなかった。



政輝はベランダから飛び降りて自殺したのだ。

そう、別に5秒経っても死なない。

普通にしてれば彼は死なずにすんだのだ。

・・・・・・馬鹿。


みんなこうやって死んでいく

自殺・・・・。

だから自分の手を染めるわけではない。

アドバイスをするだけだから。






私が自らの手を血に染めるわけではない。

私はただ『アドバイス』をあげただけ。

貴方が悪いんでしょ?

人を殺した貴方が。















「つまんない」

つまんない

つまんない

つまんない
つまんない ああああああああああああああああああああああああ


この世界はつまんない

何も無い

つまらなすぎる

死にたい

死ねない

何度も死んだ

死ねない

どうすれば死ねるの

人を殺せば死ねるのかな

でも殺せないや

こんな卑怯なことしか出来ない

なんで

なんで私ってこんなに弱いの

生まれなきゃよかったのに

神様・・・神様・・・




お母さん・・・・お父さん・・・・・








救いの無いことは知っています。でも、でも誰か・・・私を救ってください。














『残虐な天使』を救ってください。

















少女はビルの屋上で、一人頬をぬらしていた。
















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