その日、俺が家に帰ると奥さんがテーブルに座って本を読んでいた。
どうやら俺が帰ってきたことにはまだ気づいてないらしい。
奥さんがこんなにも集中してたのは新聞のクロスワードと間違え探しをやってたとき以来だ。
しばらく背後に立っていた。
うぅっ?あ、あぁ。はぁ、あなた帰ってたの?ごめんなさい気がつかなくて。
でも急に後ろに立ってたからびっくりしちゃった。
本に戻る。
良いよ別に。ところで奥さんさぁ何読んでたの?
向かいに座り奥さんの顔を見る。実に綺麗だ。
本を読んでる女ってのは良いもんだねえ。
うん。スティーブンキングぅ。
眠たそうな声だが決して眠たい訳じゃない。
目が上下し呼吸しページをめくり繰り返している。
へぇ。奥さんミステリー小説なんて読むんだ。
俺は頬杖をついた。
んー?何言ってるの元はあなたのでしょこれ。
ボク?持ってたっけそんなもの。どこから引っ張って出してきたの?
押し入れの奥だけど……まさか忘れたの?
そうだ付き合い始めの頃俺読んでたわ。
ああ。覚えてる覚えてる。そういえば、あの時のボクも奥さんみたいだったのかもしれないね。
うふ。やっと思い出した?
微笑みのあとキングに戻った。
そうだ。ねぇ。
今日はボクが晩ご飯を作ろうか?
たまには良いだろ。いつも作ってくれてんだしと俺は思う。
えー?いいのー?
吐息で笑う上の空。
ため息の俺。
いいよ別に。スパゲッティくらいならボクでも作れるから。奥さんはそのまま読んでて。
うーん。
奥さんは完全に別世界に行ってしまっている。
確か、台所に結束のスパゲッティとカルボナーラソースがあったな。
俺が台所に立つと、向こうで奥さんはスタンドバイミーを歌い出した。
俺は奥さんのこういうところが好きだ。
アウトローを聞きながらパスタを茹でて。
日が暮れ始め、やがて月が昇る。
奥さんは食べながらも読んでいた。
ねぇ奥さん食べるときくらい読むのやめたら?
うーん。
唸りたいのはこっちだっつの。
|