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ほぼ恋愛なし系

勇者とか勇者とかあと勇者とかの冒険っぽい何かアレ


 石造りの部屋。大きな魔法陣。それを取り囲む人々。

 魔王の手により滅亡の危機に瀕した人類は、あるひとつの伝説に最後の希望を託した。


 どこからか鐘の音が鳴り響くと、十数人のローブの男たちが一斉に呪文を唱え出す。

 すると、たちまち魔法陣は目を開けていられぬほどの青白く鋭い光に包まれた。

 

 ようやく光が収まった時、陣の中には3人の年若い男たちが立っていた。

 伝説の通りの黒髪黒目を持った男たちは、何が起こったのか分からずに呆然としている。

 そんな彼らに、ローブを羽織った高貴なオーラ漂う老人が歩み寄り、厳かに口を開いた。


「よくぞ、参られた。異界の勇者たちよ。

 さぁ、魔王を倒してくるのだ。」

「うおぉい!召喚直後!召喚直後!単刀直入にも程があるだろ!?」

「お任せ下さい!魔王は必ずやこのオレが打ち倒してご覧に入れましょう!」

「そっちも何ですぐ了承しちゃってんの!?っつーか、どこの騎士だよ!?

 キミ、日本人だよね!?学ランってことは学生だよね!?一般人だよね!?」

「………勇者か。…いいだろう。」

「うわぁぁ!こっちの全身真っ黒いナリの人もオッケー出しちゃってるーっ!?

 一気に少数派だよ、俺!めっちゃピンチなんですけど!?危ない!危険が危ない!」

「うむ、それでこそ伝説の勇者というもの。

 世界の命運はそなたら3人の肩にかかっておる。くれぐれも頼んだぞ。」

「はいっ!」

「………応。」

「えええ!何この流れ!?俺、行くって言ってなくね!?何この強制イベント的な流れ!?

 っつーか、もう旅立ち!?装備は!?お金は!?説明は!?

 ちょっ!俺がオカシイの!?ねぇ、俺がオカシイの!?

 ついさっきまで部屋でDVD見てたんだけど!?めっちゃスウェット装備なんだけど!?

 特殊能力とか何もないただのフリーターなんだけど!?何の力にも目覚めてませんけどぉ!?

 それが、勇者って魔王って、ええええ!?ちょっ、まっ、えええええ!?」


 こうして、唯一のツッコミ系ツッチーと、熱血野郎ヨッシーと、クール気取りユッキーの長い長い旅が始まった。


「いやいやいや!全員装備普段着、水食糧なし、お金0、知識0でどうやって旅をしろと!?死ねと!?

 ていうか、そもそも魔王はどっちだよ!終わったらちゃんと元の世界に帰れるのかよ!

 いろいろ無視しすぎだろ!」


 長い長い旅が始まった。


「始まるなぁぁぁぁぁあああああ!!」




 ~召喚一日目~


 荒野を突き進む三人は早くも第一の困難に遭遇していた。


「ぎぃやあああ!モノホンのモンスタぁーーーー!

 しょっぱなからサイクロプス系とかありえねぇ死ぬ!死ぬぅぅぅ!」


 騒ぎ立てるツッチーとは対照的に落ち着いた様子のヨッシーとユッキー。


「遅いっ!雷光十字拳!」

「………来たれ。煉獄の炎。」


 ドカーン!ヨッシーが目にも止まらぬ速さで駆け出し、謎の技でモンスター2体を遥か地平へふっ飛ばす!

 ボカーン!ユッキーがパチリと指を鳴らすと、地面から謎の炎が噴出してモンスター3体が塵も残さず燃え尽きる!

 ポカーン。ツッチーがそんな二人の謎の行動を見て、呆然と立ち尽くす!


「あっるぇぇえ!?何ソレ!?二人とも何ソレぇ!?

 俺、知らないよ!?何その特殊能力的なアレ!?

 いつの間に覚えたの!?ねぇ、何なの!?何なのソレぇえ!?」

「何か、やってみたらできた!」

「………右に同じ。」

「え、ま、マジで。なら、俺も何かできるようになってるのか?全然、実感ないけど…。

 よ、よし、じゃあ…。」


 ごくり、と唾を飲み込みながら、ツッチーは真剣な表情で両手を前方に突き出した。


「ファイナル・カオスティック・ボンバぁーーーッ!!」


 かおすてぃっくぼんばぁーーー

 ぼんばぁーー

 ばぁー


 静寂の中にツッチーの叫びが虚しくコダマした!

 パーティーは気まずい沈黙に包まれている!

 ツッチーは精神に9643のダメージを負った!


「う、うわあああああああああ!!」


 ツッチーの黒歴史ノートにまた新たな一ページが追加された。

 頭を抱えて悲痛な叫びを上げる彼の肩に左右からポンと手がかかる。


「ドンマイ!!」

「………生きろ。」

「やめろ慰めるなぁぁあああっ!!」


 ほんの少し、三人の距離が近づいた瞬間だった。


「マジで!?」




 ~召喚五日目~


 とある森の中。

 野宿の準備を終えた三人は、焚火を囲んで他愛ない会話に興じていた。

 今日こんにちまでに幾度となくモンスターを相手にしてきた彼らは、すでに勇者として申し分ない貫録を身につけている。

 しかし、ツッチーの唐突な告白により場の空気は一変した。


「…なぁ、ハッキリ言って俺この旅に必要なくね。

 ヨッシーは武術最強で、おまけに意志ひとつで属性付加なんてやってのけるし。

 ユッキーは魔法最強、攻撃防御補助回復なんでもござれのオールラウンダー。

 でも、俺はただいつもお前らの周りで騒いでいるだけ。なぜか、敵の攻撃対象から必ずと言っていいほど外れてて戦闘の邪魔にはなってないけど、それだけだろ。

 きっと召喚されたのも何かの間違いだったんだよ。

 いい加減、お前らに守られてるだけで何の役にも立たない寄生虫でいるのはイヤなんだ。」

「何を言うんだ、ツッチー!オレたちは仲間じゃないか!助け合って当然じゃないか!

 それに、ツッチーは役立たずなんかじゃない!」

「………ヨッシーに同意する。」


 真面目な顔で自身の言葉を否定してくる二人に、ツッチーはここに来て初めて好感を抱いた。


「ヨッシー…。ユッキー…。

 で、でも、役立たずじゃないって。一体どこが…。」

「ツッチーにはツッコミがあるじゃないか!」

「………ツッコミがある。」

「え、お前らにとっての俺の価値ってソコだけなの!?

 ツッコミだけが俺の価値の全てなの!?マジで!?ソレ、逆に凹むんだけど!」

「…。」

「…。」

「ハイ、沈黙キタぁーーッ!そこは否定して欲しかったよ!コンチクショオォォ!」

「でも、ホラ!アレだよ!

 ツッチーがいるから、オレたちは安心して自分らしくいられるんだよ!

 ツッチーはこの旅に必要だよ!」

「………違いない。」

「お…、お前ら、そんなにも俺の事…って、言うかバカヤロー!

 そういうセリフはせめて目を見て言えぇぇえええ!」


 ツッチーが勇者としての能力に目覚める日が来るのか…それは誰にも分からない。

 だが、彼は必死に自分の離脱を引き留める二人に、最後までついて行く事をこっそりと決心したのだった。


「いや、してねぇけど!?」




 ~召喚十三日目~


 とある村の宿屋の一室でまたもやツッチーが何の益にもならない愚痴をこぼしていた。


「もう嫌だ!こんな野郎だらけの旅は嫌だ!色んな意味でクサいよ!しょっぱいよ!

 普通、勇者の冒険には可愛いヒロインが出てくるもんじゃないの!?

 俺はもっと、こう!キャッキャウフフな感じの旅がしたい!」

「キャッキャ!!」

「…ウフフ。」

「やめろ!口で言うな、気色悪い!ていうか、男って時点でアウトだから!

 あと、ヨッシー!なんでそんな力強く言うの!?楽しそうな雰囲気のカケラもねぇじゃん!

 ユッキーはユッキーで無表情に棒読みとか不気味だから!むしろ何で言ったし!

 怖ぇよ、お前ら!なんなの!?実は俺の貞操でも狙ってんの!?必死なの!?」

「…。」

「…。」

「おぉい!何でそこで黙るんだよ!怖い怖い怖い!本気っぽくて怖い!

 くそぉ!こんなヤバい奴らと同じ部屋になんかいられるか!俺は出ていくからなッ!!」


 宣言した途端、勢いよく部屋から走り去っていくツッチー。

 遠ざかる足音を聞きながら、残された二人は冷静に会話を続ける。


「………三分後に五百。」

「いやぁ、さすがにそれは早すぎだろ。オレは二十分後に四百だな!」


 戻って来るまでの時間を賭けにされていた。

 だが、そんな予想をあっさり裏切ってくれるのがツッチーである。


「…ぉぉぉぉおおおい!追ってこいよ!仲間が出て行っちゃったんですよ!?

 何!?実はお前ら、俺キライなの!?いなくなって清々しちゃってたりするの!?」

「…。」

「…。」

「なんでそこでまたダンマリなんだよぉーーッ!

 チクショー!ドチクショー!今度こそ本当に出ていくからな!本当だからなぁーっ!」


 召喚されたあの日。全く見知らぬ他人であったはずの三人は、明日をも知れぬ生死を賭けた日々を共にすることで、いつしか固い信頼の絆に結ばれていた。


「今の展開のどこにそんな流れがありました!?」




 ~召喚二ケ月目~


 偶然訪れたとある神殿にて、勇者一行は神の御使いなる最高神官に魔王討伐に関わる重大な話を聞かされていた。

 神官の長い説明が終わると、その場は重苦しい沈黙に包まれる。

 しばらくして、その空気を破ったのは意外にもユッキーだった。


「………そうか。(以下、読み飛ばし可)

 つまり、魔王により魔界とこの世界を繋ぐ道のようなものを作られてしまったという事だな。そこからあふれ出る魔界の瘴気により動物や植物がモンスターへと変貌し、さらに魔界から魔族がやって来ては遊び半分で殺戮を繰り返している、と。俺たちはやって来た魔族を排除しつつ、最終的にそこから魔界へ赴き、諸悪の根源である魔王を倒すことでこの世界と魔界を断絶することが必要となるわけだ。瘴気に耐えうる力はこの世界の住人には無いもので、だからこそ伝説に縋る以外に選択肢は無かった。そして、魔王を倒し繋がれし道が無くなった時、我々は魔界に取り残される。当然、その後の帰還についてこの世界の住人は関知しない、という形になるな。ところで、そろそろ長文に飽きて読み飛ばす人間がいると思うので好きに語らせてもらうが、ジャパン昔話の坊や良い子だカネ出しな、カネが無いならケツ出しなという替え歌はどの辺の地域まで知られているのだろうか。まぁ、心底どうでもいい事だが。

 さて、ここまで何か相違あるか?」

「いいえ、ございません。さすがは神に選ばれし伝説の勇者様。

 類まれなる理解力をお持ちでいらっしゃる。」

「ちょ、おまっ!ユッキー、キャラ違くね!?

 なに!?口数少なくて空気になりがちだから!?実は危機感でも覚えてたの!?」

「…。」

「そこは無視かよ!最近、やたら冷たくないですか!?

 ねぇ、なんなの?イジメなの?俺そろそろ泣くよ!?」


 それまでニコニコとしていた神官が、急に痛みをこらえる様な表情に変わる。

 そして、そのままイスから勢いよく降りて地べたへ膝をつき、祈るように手を組んで頭を下げた。


「こんな縁もゆかりもない地に突然召喚され、勇者様方のお腹立ち重々承知の上の厚かましいお願いにございますが、どうかどうか魔王を倒し我々の世界をお救いいただけぬでしょうか。この通りです!」

「やっほー!神官様までスルーと来た!

 ねぇ、ツッコミってこんなに孤独な存在だったっけ!?マジ挫けそうなんだけど!

 俺やっぱりいらない子なんじゃね!?」

「頭をお上げ下さい神官殿!我々はけして怒ってなどおりませぬ!

 貴公に言われるまでもなく、召喚された時から全員覚悟は決まっておりました!

 ご安心召されよ!諸悪の根源である魔王は必ずや我ら三人が倒してご覧に入れましょう!」

「相変わらずの安請け合いだなオイ!魔界から地球に帰れるかどうか分からないってのに悲壮感とかねぇのかよ!?

 てか、どうしてこういう時いつも口調変わるの!?ヨッシーは本当は何キャラなの!?」

「おぉ!何と奇特な!やはり神の選択は正しかった!勇者様万歳!万歳!」

「いやいや!なんで異世界に万歳文化があるんだよ!オカシイだろ!オカシイよな!?誰かオカシイって言って!」


 こうして、旅の導を得た勇者たちは志も新たに神殿を後にするのだった。

 その背には旅立ち初日にあった迷いや惑いは一切無く、まさに勇者と呼ぶに相応しい覚悟と慈愛を感じさせるものであったと言う。


「で、結局どっちに行けばいいんだ?」

「……………知らん。」

「ですよねー!とりあえず、ナレーション野郎の眼球が腐っている事だけは分かった!」




 ~召喚半年目~


「けきゃきゃきゃきゃきゃ!!」

「いやぁーーー!誰か!誰か助けてぇーーーー!!」


 突如現れたガーゴイル系モンスターにより、たまたま連れ立って歩いていたキャラバンの踊り子見習いの少女が捕まってしまう。

 助けようにも、すでにモンスターはそのコウモリの様な翼で空高く舞い上がっており、手が出せない。


「あぁ、もう!何だアイツ!女の子を攫うなんて、古臭い王道展開だなオイ!」

「くそ!空に逃げられたんじゃあ、攻撃が届かない!」


 いたいけな少女が目の前で攫われていくのを止められない事に苛立つツッチーとヨッシー。

 そんな二人の間を割り、ユッキーが静かに身を乗り出してきた。


「………舞え、悠久の風。」


 次の瞬間、人質のように前方に突き出されていた少女を通り抜け、彼女の背後にいたモンスターが風に切り刻まれて数秒で細切れの肉片へと変わり果てた。

 モンスターだったものがボトボトと地面へ落下していく。


「って、ユッキー!出来るなら、もっと早くやれよ!落ちても大丈夫そうな高さで!!

 つか、グロすぎ!あそこまでバラバラにする意味がどこにあったの!?

 そのせいで女の子血塗れじゃん!スプラッタじゃん!」


 捉えられていた少女が空中に放り出されたのを見て、ユッキーは視線を後方へ飛ばす。


「………ヨッシー。」

「任せろ!」


 弾丸さながらの速さで駆け出したヨッシーは、大きく飛翔して少女を受け止めた。


「おぉ!ナイスキャッチ、ヨッシー!っじゃねぇよ!

 何でだよ!何でタックルかます勢いでぶつかっていっちゃうの!?ねぇ!

 優しく抱きとめてやれよ!か弱い女の子相手に鬼か貴様は!」


 華麗に着地したヨッシーはそのまま走って戻って来た後、少女を地面へと横たわらせた。


「どうやら気絶しているだけみたいだぞ!いやぁ、助かって良かったな!

 やっぱりユッキーの魔法はスゴイぜ!」

「の前に肩に担いで運ぶなよ!荷物かよ!そして、地べたにそのまま転がすなよ!お前、女の子の扱い最低だよ!」

「あぁ!さすがは伝説の勇者様!ありがとうございます!ありがとうございます!」

「あの酷い扱いはスルーか!なんなの、これも勇者補正なの!?」

「勇者様、これはほんのお礼の気持ちです!僅かばかりですが、どうぞお受け取り下さい!」

「…………必要ない。」

「そうそう、勇者として当然の事をしたまでだからな!」

「志は立派だけど、俺らが今無一文なのを忘れないで欲しいんだぜ!

 極限まで飢えて、モンスターの生肉齧って、その後三人仲良く腹を下したあの地獄を忘れたのかよ!

 受け取れよ!精神論で何とかなる問題を超えてるんだよ!」

「じゃ!オレたちこれで!」

「あぁぁ!やっぱりスルーですか!ばかばか!俺もう知らないんだからね!」


 他を救うため、自己を省みず投げ出すその姿。

 旅を行く中で、いつの間にか彼らは勇者として大きく成長を遂げていた…。


「キレイゴトじゃ腹はふくれねぇんだよぉーーーッ!」




 ~召喚一年目~


 幾多の困難を乗り越えて、勇者たちはついに魔界へと足を踏み入れた。

 濃い黄色の空に黒い雲、空気はどんよりと重く、届く風は生温かい。

 血だまりの様な色をした地面を一歩踏み出すと、背後から若本のような低い声がかけられた。


「よくぞ、五体満足で魔界まで辿り着いたな勇者たちよ。だが、貴様らの快進撃もこれまでだ。

 我は魔界四天王が一人、竜殺しのリュウコワイ。己の無力さを嘆きながら恐怖に脅え逝くが良い!」

「名前ツッコミてぇーッ!でも、そこをイジるのは人としてダメだ!あぁ、でもツッコミてぇーッ!!

 とりあえず、四天王って、漫画か!お前は俺らの世界の住人か!意気揚々と二つ名を語る姿も痛々しいよ!

 てか、ずっとここで待機してたの!?埃どころか頭にクモの巣張ってますけど!?」


 オレンジ色の皮膚に赤く輝く鋭い瞳、緑の髪とそこから生える鬼の様な二本の黒い角。

 勇者たちの二倍はあろうかという巨体は、いかにも鍛え上げられているであろうガッツリとした筋肉に包まれている。


「竜殺しとは面白い!相手にとって不足なし!!」

「………真の無力はどちらか、その身体に刻み込んでやる。」

「あーもー!こっちもノリノリだよ!いいトシこいた選ばれし大人たちノリノリだよッ!」

「ぶるぁーっはっはっは!威勢だけは一人前よ!

 魔族と人間の力の差を見せつけてくれるわ!

 喰らえい!ファイナル・カオスティック・ボンバぁーーー!!」

「まさかのマイ・ブラックヒストリぃぃーーーーーッ!?」


 リュウコワイが叫んだ直後、膨大な魔力を内蔵した黒い球体四つが勇者らの四方を取り囲み爆ぜた。

 その威力はすさまじく、爆心地から直径1キロに渡り地面が無残にも抉られている。

 勝ちを確信したリュウコワイはニヤリと顔面に笑みを浮かべた。

 だが、その次の瞬間には、目を大きく見開き懐疑的な表情へと変わる。

 砂煙が去ったそこに、無傷の勇者たちが立っていたのだ。


「なっ!?俺のファイナル・カオスティック・ボンバーが効いていない…だと!?

 バカな!ファイナル・カオスティック・ボンバーは真竜でさえ一撃で倒すことが出来る究極呪文なんだぞ!

 そのファイナル・カオスティック・ボンバーが、たかが人間ごときにっ!」

「うわああ!その名を連呼するな!やめてぇ、やめたげてよぉぉぉおおお!!」


 ツッチーは羞恥で地面を転げ回っている。

 驚きを隠せない様子のリュウコワイにユッキーが嘲る様な笑みを向けた。


「………雑魚だな。ヨッシー。」

「よし来た!後は任せろ、ユッキー!

 リュウコワなんとか!次はこっちから行くぞ!!」

「あと一文字じゃねぇか!そこまで覚えてたら普通忘れねぇだろ!

 ワザとなの!?ねぇワザとなの!?」


 セリフが終わると同時に、目にも止まらぬ速さで駆け出すヨッシー。

 リュウコワイがそれに気がついた時にはもう遅かった。


「極熱双拳撃!」


 伝説の勇者ヨッシーの強力な一撃により、リュウコワイは悲鳴を上げる間もなく力尽きた。

 それから言葉も無くその場を後にした彼らは、ただただ争いの空しさを噛みしめるのだった。


「もう、この話が何目指してんのか分っかんねーよ!」




 ~召喚二年目~


 辛く苦しい旅の果て、勇者らはついに全ての元凶である魔王と対峙していた。


「いやいやいや!時間、飛び過ぎだろ!四天王残り三人、総スルー!?」


 玉座に頬杖をついて座る彼は、透き通るような水色の肌に琥珀色の瞳と銀の髪を持つ端正な美少年の姿をしており、とても魔族を統べる地位にある者のようには思えない。

 だが、その見た目にそぐわない圧倒的な存在感は、間違いなく少年が魔王である事を知らしめていた。


「勇者たちよ。ここまで来た褒美に一つだけ教えてやろう。」

「えぇ!?いきなり何か言い出したよ、この人!?」


 魔王はそれまでの無表情を薄ら笑いに切り替えて、静かに語り出した。


「我は…生まれた時からずっと独りぼっちだった。我に近付く者は誰一人としていなかった。

 だから、悪いことをすれば誰かしら構ってくれると思ったのだ。

 そして、それは正しかった…。」

「魔王ただの寂しん坊だったぁぁーーー!!衝撃だよ!衝撃の事実すぎるよ!」

「くっ!そんな母性本能をくすぐるような事言ったって、俺はお前を許さないからな、魔王!」

「いや、お前それオカシイから!男だから!母性ねぇから!」

「……………ギャップ萌え。」

「お前も何言っちゃってんの!?ねぇ、何言っちゃってんの!?

 薄々感じてたけど、ユッキー実はオタクだろ!真性だろ!

 もうイヤだ!このパーティー本気でイヤだぁぁ!

 帰る!元の世界に帰るぅぅーーーっ!」

「さて、そろそろ惨めに死ぬ覚悟は出来たか?

 言い残す事があるのなら今の内に聞いておいてやらんでもないぞ。」


 そう言って、彼は玉座からゆっくりと立ち上がる。

 途端に、膨大な魔力をその身の内から溢れ出させる魔王。

 それに若干気圧されながらも、勇者たちは果敢な態度を崩さず正面から魔王を捉えていた。


「ふざけるな!オレたちはお前を倒して、世界に平和を取り戻す!」

「…………魔王、そのセリフそっくりそのまま返すぞ。」

「くくく…、良いぞ。そうでなければ面白味が無い。

 さぁ、かかって来るが良い、神の傀儡たちよ!

 そなたらの力が児戯にも等しいものであると、その身を持って教えてくれるわ!」


 ついに世界の運命を賭けた勇者と魔王との長き死闘が始まった!


 実は魔王の心臓は別の場所にあって、こんなトコロにいたら命がいくらあっても足りないといつものスルーされスキルであっけなく部屋を抜け出したツッチーが、偶然その心臓を発見・破壊するに到り、決着がつくという最後の最後でオイシイ役割を持っている事実をまだ誰も知らない。


「ああああ!俺の唯一の活躍シーンをそんな適当にチクショーーーーッ!!」



 完。


※備考


ツッチー(24)…土田正人ツチダマサト。体重57キロ。フリーアルバイター。ツッコミ癖が災いしてか就活にあぶれてバイト生活中。見ていたDVDはタ○バニ。


ヨッシー(18)…吉川友則ヨシカワトモノリ。体重63キロ。高校生。柔道部所属。スポーツ推薦が決まっている程度の実力。頭が悪すぎてリア充になれない男。


ユッキー(21)…新見孝行ニイミタカユキ。体重52キロ。ヒッキーニート。真性オタクで三次元の女が苦手。長い前髪で隠れていて分からないが実はイケメン。

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― 新着の感想 ―
[一言] ツッコミ大事ですねW うんW
[良い点] 布団の上でドングリコロコロ実演しました(^-^ゞ 腹筋も使って、若干ダイエット効果が…… ……得られたら良いのになぁ。 何はともあれ。 つっこみは正義です(゜゜;)\(--;) […
[良い点] うーん…ハジケまくりですね!ツッチーじゃなくてもツッコミたくなる。 [一言] ツッチーにはハリセン持たせたら最強だと思います。隠しスキル「金盥落とし」とか。
2014/03/02 17:56 かえるさん
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