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深淵少女クリスタル 作者:雨宮ヤスミ

[十九]六人の深淵少女

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19-7

「あたしが、倒す……!」
 

 光にくらんだ目を瞬かせて、ようやく視界が元に戻ると、「ブラックスター・アンノウン・カダス」の表面には、光に貫かれた穴が無数に空いており、そこから白い煙が上がっていました。

「何て威力だよ、今のは……」

 アキナさんが頭を振り振りつぶやきました。

「すっごーい……」

 スミレは目をぱちくりさせ、キミちゃんは呆れたように肩をすくめました。水島はというと、自分の活躍が薄まってしまったせいか、落ち込んでいるように見えました。

「まだ形をとどめているとは」

 呟きながら、トウコさんが降りてきました。

「でも、これなら後は簡単に……」

 気を取り直した水島が楽観論を述べようとして、不意に口をつぐみました。

 気付いたのでしょう。それはトウコさんも同じようでした。そして、わたしも……。

「警戒を解くな!」

 トウコさんにしては珍しい、焦ったような口調でした。

「まだ、こいつは終わってない!」
「終わってないって……!?」

 問いかけるアキナさんの言葉の途中で、ピシリと何かにひびが入るような大きな音が聞こえました。ボコボコの「カダス」の表面に、ひび割れが蜘蛛の巣のように広がっていきます。

「中に、何かいるよ!」

 スミレの言葉通り、ひび割れた破片をまき散らしながら、「カダス」の中から何かが頭をもたげてきていました。

 それは、一本の巨大な柱でした。円柱形の、太くて長い、見上げるような高さの柱でした。表面に無数の「ディスト」特有の白い目玉が張り付いています。

 柱の上には、祈るように手を組んだ女神像が鎮座しています。ただし、ベールの奥の顔は髑髏で、その眼窩からは黒い液体が血か涙のようにとどめなく流れているのです。

「これは……『カダス』のコア……?」

 円柱の中に渦巻いている力を、わたしは感じていました。

「う、撃ってくる……!」

 水島はぶるりと身震いしました。

 わたしの脳裏に、はっきりとした映像が浮かびました。

 円柱を中心に黒い波紋のようなものが広がり、街をすべて破壊してしまう光景が。

 それは多分正しいのです。円柱の目玉がほのかに光り始めているのですから。

「ミリカ!」

 たまらず、わたしは動き出していました。逃げる? いいえ、違います。

 防ぐのです、阻むのです、 守るのです。靴のかかとを鳴らして空に舞い上がり、わたしは「カダス・コア」の下へ向かいました。

(遂に到ったわね……)

 トウコさんの言葉が耳の奥に蘇ってきます。

(その盾は、アリの一咬みでも壊れるが、弾道ミサイルの直撃にも耐える。一見矛盾したその真の性質は、攻撃に対する完全防御)

 どんな攻撃でも一撃を受ければ壊れてしまうが、必ず無効化する。そういう盾を風から作り出すのが、わたしの力。自分でも、よく理解できています。

(それがあなたの『最終深点(プログレスフォーム)』、『西の緑相の魔女ウェストウィッチ・エメラルド……!』)

 名付けてから、「ただし」とトウコさんは続けます。

(攻撃に対して、同等の広さの面積の盾を作り出さないと、無効化はできない)

 あくまで、盾に当たった攻撃のみが無効化できるのだ、とトウコさんは言います。

 さっきまでの黒い光線と比べるまでもなく、この「カダス・コア」の攻撃できる面積は圧倒的に広いのです。

 大きな盾を作って四方八方を囲む? いえ、それでは間に合いません。「カダス・コア」全てを、この高い円柱を包み込むような風が必要でした。

 「カダス・コア」は今にも破裂しそうなくらいに、その力を高めています。わたしは集められるだけありったけの風を送り込みました。

 風は円柱を中心に下から渦を巻くように取り巻いて、竜巻のような形を形成していきます。盾の形をとっていなくとも、この風は攻撃を飲み下して漏らさない檻と同じでした。

「攻撃が、来る!」

 トウコさんが叫ぶのと同時でした。「カダス・コア」がその張り裂けんばかりの力を放出したのは。無数の白い目から闇がほとばしり、髑髏の流す雫が飛び散りました。

 天地のすべてが揺すぶられるような感覚でした。無効にしたはずの風の壁の向こうから、衝撃が伝わってくるかのようでした。

 放たれたこの力は、まさしくブラックスターという存在の証明でした。「無効化」という理屈を超えて突き立てられる刃でした。

 「カダス・コア」の髑髏が吼えました。溢れ出るエネルギーは、尽きていくに従って、逆に一層その破壊力を増していくように思えます。痺れのようなものがわたしのこめかみから脳を貫いて、意識が朦朧として――。



 闇の津波のような「コア」の攻撃の前に飛び出し、それを天を衝くような竜巻で抑え込み、しかしミリカは風の制御を失って上空から落下した。

 履帯を走らせ、キミヨがその身体を受け止める。

「今!」
「分かってる!」

 キミヨはミリカを抱え、アキナに叫んだ。そのまま射線から移動したのを見て、アキナは祈るように組み合わせた拳を「カダス・コア」へ向けた。

 「カダス・コア」は低く唸りを上げている。ミリカが止めたのが最大の攻撃だったらしく、巨大な円柱はこれまでに比べればハリボテ、抜け殻のようですらある。

 ミリカが前に出た時、追いかけようとしたアキナとキミヨを、トウコが止めたのだ。

(あれがどんな攻撃だろうと、ミリカは必ず防ぐ)

 手を出した方がむしろ危険なのだ、と首を横に振る。

(やるべきは、備えること。あれがきっと、最大最後の攻撃……)

 だから、とトウコはアキナの手に触れた。そうだな、とアキナは手を握り返した。ランもスミレも、トウコも大技を放った直後だ。キミヨは戦線をずっと維持してくれていた。

 それに、ミリカに言ったはずだ。攻めるのは自分に任せろ、と。

「あたしが、倒す……!」

 アキナは両手の中に圧縮した輝く火球を生み出し、解き放った。「レディアント・ルビー・ノヴァ」は、夜闇を焦がす太陽となり、「カダス・コア」を飲み込んで弾けた。
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